43 お弁当もってピクニックへ
ある日の晩ご飯の時、もぐもぐと口を動かした千沙が、「あっ!」と何かひらめいたように笑顔になった。
「ママ、せんせー! ちぃちゃん、また、ピクニックいきたいなあ」
どうやら、お出かけしたくなったみたい。
「そうね、明日は何の予定もなかったかな」
カレンダーをチェック。よし、何にもない。・・あ、来月は先生の誕生日だ。
「いいですね。明日は良い天気だそうですし」
私と先生がオッケーを出すと、千沙は飛び上がる勢いで喜んだ。
箸で挟んでた豆がテーブルの上を転がって、慌てて追いかける。かわいい。
「あの公園は景色も綺麗だから、カメラも持ってこうかな。
ちいちゃん、モデルさんやってくれますか?」
「やるやるー!」
「のんちゃんも、いいですか?」
「・・ちょっとなら」
この前、動物園に行った時にもカメラを持ってったんだけど、先生は動物よりも、私ばっかり撮るから恥ずかしかった。可愛い可愛いってベタ褒めしてくるし。
ああこれ、ただのノロケだ。依子さんに聞かれたら超からかわれちゃう。
「ママ、玉子焼きも作ってくれる? あと、ウインナーも!」
「うん。オッケーよ。先生は、なに食べたい?」
「僕は、おにぎりが食べたいです。のんちゃんのお弁当、いつもすごく美味しいから楽しみですね」
先生は目を細めて嬉しそうに言う。そんな、たいしたもの作ってないのに。
私が来てから毎日の食事が楽しみでたまらないってこの前言われた。
その言葉通り、何を出しても目を輝かせて喜んでくれるから、とても作り甲斐がある。特にご飯ものの時は、目のキラキラ度が違うような気がする。
そんなところ、先生はカワイイ。
先生とは今、婚約中って関係にしてもらってる。
一応、籍を入れる日取りもすでに決定済み。互いの両親には簡単に電話で報告を済ませた。先生は実家にはもう何年も帰っていないらしい。うちと一緒で両親との仲はあまりうまくいってないのかな・・なんて想像しちゃう。
私も、前回帰ったのはいつだったかな。思い出せない。千沙、産まれてたっけ。
久しぶりに話した電話越しの姉は「ちょっと一回顔見せに帰ってきなさいよ!」
って怒鳴り散らしていた。
よけい帰る気なくすわー・・・
結婚するってなったら、先生との関係が・・なにか変わっちゃうかなって不安はあったけど、居候させてもらってた時と同じように、一緒にキッチンに立ったり一緒に掃除をしたり、共同作業にしてくれる。その方がお互いに負担が減るし、楽しいでしょうって。
依子さんに報告したら、自分のことみたいに喜んでくれた。
その後もちょくちょく会って、色んな話をし合ってる。初めてできたママ友・・悩みを相談できる友達。大事にしよう。
先生は、千沙のこともすごく可愛がってくれるから、千沙も毎日ゴキゲン。
千沙は、私と先生がくっついたことをバンザイして大喜びしてくれた。
「よかったねー、ママ」って。
なんか・・ホントに良い子。イイコ過ぎて心配になっちゃう。
今は笑ってるけど、いずれ悩みとか出てくるんじゃないかな・・。
さみしい思いをさせないように悲しい思いを我慢させたりしないように、私が気をつけてちゃんと見ててあげないと。改めてそう思った。
変わったところは、・・昼前のお仕事が終わってお昼休憩の時とか、千沙が寝て二人っきりになると、先生がスススーっと私に手を伸ばしてくるようになった、こと。
やわらかーく包まれるように抱きしめられて、とろけるようなあまーい甘いキスをされて、気がつくと、せ、先生の手が私の服の中に入り込んでたりして・・
きゃあー! 思い返すとかなり恥ずかしい。
私が慌てふためいていると先生は楽しそうに笑う。
「のんちゃん、可愛い。大丈夫、誰も見てないから。僕だけに、見せて・・」
って。
いつもの優しい笑顔に、ちょっと意地悪なえっちな表情が加わって。
もう・・・! そんな顔されたら逆らえないよぅ。
*****
車で十五分くらいの大きな公園は、前にも三人でピクニックに来たところ。
芝生広場で、きゃーとはしゃいで駆け回る千沙は、子犬のようでホント可愛い。
持ってきたフリスビーを投げて、追いかけて、三人で遊んだ。
すぐに私がバテちゃって荷物を置いたシートの上に座り込んだ。しばらくしたら先生もシートにやって来た。千沙はまだまだ元気いっぱい走り回っている。
前回と同じパターンだ。笑っちゃう。
「前来た時・・どうやってのんちゃんにアプローチしようか、次はどこにお誘いしようか、そんなことばっかり考えていました。嬉しいです。今こうして一緒にいられることが」
先生は私が差し出したお茶を飲むと、「ありがとう、のんちゃん」と笑う。
「先生、ありがとうは私の方だよ。千沙のことも含めて、私のこと受け止めてくれて」
「のんちゃん・・」
先生は私の手を握り、そっと顔を近づけた。
「こらあ、そこの二人! 公共の場でいちゃついてんじゃねーよ!」
聞き慣れた声に驚いて顔を向けると、トシ君が呆れたような顔をしてやって来た。背の高いトシ君に肩車された千沙がきゃっきゃと喜んでる。
「と、トシ君?」
「俊樹、本当に来たんですか?」
先生も驚いてはいるけど、どうやら連絡を取り合っているのは先生みたい。
「おうよ。来るに決まってんだろ。一人でいたってさみしーじゃん」
「ママ、ちぃちゃん おなかすいた。おべんと、たべたい!」
千沙はひょいとおろしてもらって、カゴからおしぼりを出してみんなに配ってる。まあ、エライ。
「ありがと、ちぃちゃん。お弁当も並べてもらおうかな」
「まかせて!」
せっせとお手伝いしてくれる千沙を微笑ましく見つめる大人三人。
トシ君にお茶を渡すと、「サンキュ」と一気に飲み干した。
トシ君はイケメンだから、こういう仕草がいちいちサマになるんだよね。
「・・・先生とのぞみが結婚したら、千沙の父親は先生になるだろ。
先生はきっと、千沙のこと、すげー可愛がってくれるだろうって思う。
先生になら、任せられるって」
トシ君は真面目な顔で私と先生に向かって言う。
「けど、俺だって千沙のパパなんだ。その事実は変わんねえだろ。俺だって、可愛がりたいっ!」
ぐっと拳を握るトシ君は、そのままもう片方の手で千沙のぷくぷくのほっぺを撫でる。千沙は、ナニ言ってんのかよくわかんないけど、撫でてもらえるのはうれしいみたいでにっこりした。
「ダメ・・か?」
「ううん、ありがとう。トシ君、千沙すっごく嬉しそうよ」
「よおし、そうと決まれば、俺も家族の団欒に混ぜてくれよ。のぞみ、俺にもおにぎり、くれ」
「しょうがないですね。ハイ。のんちゃんが僕のために作ってくれたおにぎりですけど、俊樹も栄養とらないと倒れそうなので一つあげましょう」
「うわ、ヤな言い方!」
先生はラップで包んだおにぎりを一度上に掲げてから差し出し、トシ君は眉をしかめて受け取った。
先生はトシ君といると、私といる時とはちょっと違うので、二人のやり取りは見てて面白い。
次回、最終話です\(^o^)/




