42 プロポーズ
いつも通りワイワイと食事をして、食後のデザートも食べた。
『リボン』のイチゴのタルトはとろけるような美味しさだった。
食事の後は、千沙が見たがってた今話題のアニメのDVDをみんなで観た。
半分観たところで千沙が寝てしまって、先生が抱き上げてベッドに運んでくれた。
電気を消していたので、私たちの周りだけ間接照明でうっすらと光っている。
急にトシ君と二人きりでいるのが気まずく感じて、お茶でもいれようと立ち上がろうとしたら、腕を握って引きとめられた。
「・・・のぞみの好きなのって、イチゴのタルト、だったんだ?」
「あ、えっと、タルトに限らずに、イチゴが好きなのよ。昔から」
「先生は知ってたんだな。あーんしてたもんな・・・」
「それは・・・うん。子どもの頃から、好きなの。イチゴ系ならなんでも。
先生には、高校生の時にそういう話をしたことがあったから、覚えててくれたみたいで・・」
私がそう答えると、トシ君は大袈裟なくらい深く溜息を吐いた。
「ああ、もう・・。もう、降参。俺の負け。負けたよ、先生」
トシ君が、私の後ろに向かって拗ねたような声でそう。振り向いたら、私たちが座ってるソファすぐそばに先生がいたからびっくりした。
「のぞみは、あんたといる時が可愛い。たぶん、高校生の時のままの素直な自分でいられるんだろうな。あんたのそばだと。
・・俺じゃ駄目だ。顔が全然違うんだもんな。口調まで違うしさあ。
ここで一緒にメシ食うようになって、ホント思い知らされたぜ。なあ、先生。
ワザと?」
トシ君にジト目で言われた先生は、悪びれた顔もせずににっこり笑う。
「そうですね。否定はしませんけど。
でも、純粋に、お互いを知るために、共に過ごす時間が必要だと思ったんです。
どういう選択をするにしろ、のんちゃんには後悔して欲しくないですし」
「はいはい。おかげで俺は、毎回毎回、打ちのめされたよ。ったく、俺の前でも平気でいちゃつきやがってよー。やってらんないぜ」
ええ!? そんなこと、してたっけ?
私が内心焦っていると、トシ君がまたしても大きな溜息を吐いた。
「自覚ねえって顔だな、のぞみ。メシの片付けの時だって、二人でくっついてキャッキャしてるじゃんか。メシの最中だって、ボードゲームしてる時だって。
お前、先生のこと、見つめ過ぎなんだよ!」
きゃあ! そんなに見てた!? 恥ずかしい・・
トシ君は勢い良く立ち上がると、私の頭をぐしゃぐしゃと撫で回して、にっと笑った。
「先生に、幸せにしてもらえ、のぞみ」
今まで見た中で、一番優しい笑顔だった。
胸がぎゅうっと痛んで、目頭が熱くなった。でも、泣いちゃいけないと思ってぐっとそれを飲み込む。
じゃあな、ともう一度私の頭をポンと撫でて、トシ君は出て行った。
バタンとリビングのドアが閉まると、先生に抱きしめられた。
「・・・のんちゃん、もう一度、プロポーズさせて下さい」
耳元で囁かれる先生の声は、いつもより、甘い。
先生は少し体を離すと、私の両手を包み込むように握った。
「愛しています。ずっと、ずっと。
のんちゃんと、・・家族になりたい、です」
先生の言葉は一つ一つ、噛みしめるように紡がれていく。
私は、こくこくと頷いた。息が詰まって、上手く言葉にできない。
さっきは我慢できた涙が、ぽろりとこぼれる。
先生はもう一度私を抱き寄せて、ポンポンポンポン軽く背中を撫でてくれた。
「のんちゃん」
顔を上げたら、ちゅ、っと優しいキス。驚いて固まると、ちゅ、ちゅ、と何度も先生の唇が落ちてくる。
「・・・はあ、夢のようです」
先生がそんなことを言うので笑ってしまった。
「夢だったら、やだな、先生・・」ぎゅうっとしがみつく。思ったより先生の身体ががっちりしてて驚いた。もっと薄っぺらいと思ってたから。
「のんちゃん、もう少し、触れてもいいですか?」
「・・う、うん」
そんなこと聞かれたの、初めてだ。なにこれ、すごい、恥ずかしい。緊張する。
ハジメテでもないのに。
先生の唇がまたちゅ、っと触れて、何度も重なり、どんどん深くなった。
「っ、・・せんせ・・」
「愛してます、のんちゃん。もうちょっと、だけ」
「ん、・・っ」
先生の熱い舌が私の中に入り込んで動き回る。私のカラダも、どんどん熱くなっていく。
「のんちゃん、・・のんちゃん」
先生は、優しくて、丁寧で、でもすごく、情熱的なひとでした。




