35 レストランでの告白
ここのレストランは、お値打ちだけどピザもパスタも本格的で美味しくて、ママ友の間でも人気のお店。
先生とも三人で先月行った。デザートメニューも豊富で千沙も喜んだ。
この前来たときとは打って変わって、元旦那がいるってだけで空気が重い。
千沙が「パパ、おとなりどうぞ」と隣に座ってくれたので、私は先生と並んで座る。それだけで少しホッとした。
ランチメニューを頼むとすぐテーブルに運ばれた。
千沙と先生は気を遣ってくれてるのか、積極的におしゃべりしてくれている。
デザートが運ばれて、食事もあと少しという時、携帯が鳴った。すみません、と断ってお手洗いに入る。
かけてきたのは、さっき忠告メールをくれた仲の良いママ友。
「はい、もしもし」
「ちさママ? 大丈夫? なんか修羅場ってない? 今、家でご飯食べてたらさあ、うちの旦那がね、ちさママ、元旦那と今カレと挟まれて連れてかれてたぞって言うの。
早く言えよって感じなんだけど」
「あ、う、うん。今、四人でランチしてるの。修羅場ではないけど、気まずい、かな」
「うっわあ。ねえ、ちさちゃんいたら、大人の話もできないでしょ。
夕方まで預かろっか? どうせお昼から一緒に遊ぼうって誘うつもりだったのよ」
陽気に話す彼女は普段からすごく明るくて、娘のカナちゃんは大人しいけど、優しくてとってもとってもいい子で、千沙と一番の仲良しのお友達。
休日も誘い合って一緒に遊んでる。
「それは、助かるけど・・、いいの?」
「いいよ、いいよ。うちは、ちさちゃんなら大歓迎。カナも喜ぶし。
ちゃんと三人で話し合いなよ」
「う、うん」
話し合うって言っても、何を話せばいいんだか。気が重いなあ。
食事が終わったら、近くの駅に待ち合わせて、千沙を遊びに連れて行ってくれることになった。
千沙は仲良しのカナちゃんと遊べることになって、駅に着くと大喜びで走って行く。
カナちゃんのママは、私のそばに来てそっと耳打ちした。
「元旦那もイイ男だったけど先生とやらもステキね。ちさママ美人だもんねえ。
モテるオンナは大変ねえ」
何を納得してるのか、うんうんと頷き、私の肩をポンポン叩く。
「のぞみさん、がーんば! 何かあったら相談してよ」
「・・・あ、ありがとう」
名前を呼ばれて驚いた。いつも「ちさママ」って呼ばれてたから。
相談してって言う言葉にも。
じゃあねーと笑ってカナちゃんのママは行ってしまった。
*****
三人で落ち着いて話そうと向かったのは、昼間だけどやってる落ち着いたバー。
徒歩で来たので、三人とも軽いお酒を頼む。
「・・・それで、今頃、何のご用があって来たんですか?」
先に口を開いたのは、私の隣にいる先生だった。
テーブルの向かいに座った元旦那は少し目を伏せてモゴモゴと話し出した。
「・・俺が部屋に戻ったら、もぬけの殻で・・驚いた。お前も千沙も、他に行くところはないと思っていたからさ。あそこはずっとお前と千沙の為に借りてやるつもりだったんだから、あそこを出てくこと、なかったのにさぁ・・」
今になって何を言うんだろう。
って言うかこの男、出て行ったことに今頃気づいたの?
もうけっこう経ってるのに。
「先生のところで住み込み・・みたいな感じで働かせてもらってるから、心配いらないわ。千沙も先生に懐いてるし」
「それは、見ててわかった。
・・・お前は? こいつと一緒になるつもり、なのか?」
ちらりと横目で見て眉を寄せる。
失礼な態度にカチンときた。
「あなたとは別れたんだから、関係ないでしょう。結局、話ってなんなの?
生活を心配をしてくれてるんだったら、問題ないから。こんなとこに来て、お相手の方が嫌がるんじゃないの?」
「相手・・なんて、いていないようなもんだから関係ねえよ。のぞみ、俺はまだお前のこと・・」
いきなり身を乗り出すようにして迫ってきたので驚いた。
すぐに先生の手が私の前に出た。
「・・・あなたは、自分が何を言っているのか分かっているんですか?
あんな風に痕が残るほど乱暴しておいて、よくもそんなことが言えますね」
「なっ、お前っ、こいつに身体、見せたのかよ!」
ガタッと椅子を鳴らして動揺する元旦那に対して、先生はあくまで静かに続ける。
「・・・最初に出る言葉がそれですか」
静かだけど、怒りを含んでいるような、始めて聞く声。
「呆れてものも言えませんね。見せてもらったのは手のアザですよ。あなたは、自分が彼女に酷いことをしたという認識が無いんですか?」
「うるせえなあ! お前に関係無いだろ!」
ダンっとテーブルを叩く音にビクンと肩が震える。
「関係ない訳ないでしょう。僕はのぞみさんのことが好きなんです」
先生の腕が私の肩を抱き寄せた。
「お、俺だって! 俺だってのぞみが、す、好きだ!」
は?
目が点になった。
何を言ってるの? このヒトは。




