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32 幼稚園での噂

そして授業参観の朝。

お気に入りの靴下と、とっておきのリボンをしてあげると千沙は嬉しそうに笑う。

でもどことなく元気がない。・・ような気がする。気のせいではないはず。

でも朝から話し合ってる時間はない。

本人も明るくふるまおうとしているのが見てとれるので、あえて今問い詰めることはないかな。

今日は祭日で医院も休診日なので、千沙が先生におねだりして一緒に来てくれることになった。



今日は幼稚園バスはお休み。園児は親と一緒に登園する。

千沙と手を繋いで歩き出すと千沙は空いた手を先生に差し出した。

「せんせーも、いっしょ!」

「ちょ、千沙・・」「ちぃちゃん、三人で行きましょうか」

私が慌てるのもお構いなしに二人はルンルン腕を降って歩き出す。千沙の手が揺れるので繋がってる私の手も揺れる。

右も左もブンブン手を振って千沙は楽しそう。

まあ、元気が無いよりはいいか、と思うことにした。


でも、幼稚園に着くと、さすがに人目が気になって手を離した。

もちろんさりげなく。靴を脱いだりスリッパを履いたり、今日のお知らせのプリントを見てみたり、カメラを出してみたり。

その時、私のスマホが震えた。

仲良くしてもらってるママ友からのメールだった。


『おはよ、ちさママ! 超目立ってるよー! 隣の人は新しいパパ候補?

優しそうな人だね。いい男じゃん。

・・・ただ、ウワサ好きなオバサン連中が、あることないことおしゃべりしてるから、要注意!

ちさママが聞いたらイヤな思いしちゃうような内容もあるっぽいから・・・』


しまった。

今日、先生も一緒に来たのは失敗だった。ただでさえ離婚したってことで噂されてるのに、すぐに新しい男を連れてるなんて、そりゃ悪い噂も立つよね。


ありがとう気をつけるねってとりあえずメールを返す。

気をつけるったって何に?どうやって?

まあ無難に今日を乗り切ろうと思った。噂は飛び交っていても本人を目の前に話しかけては来ないだろう。




授業が始まって、狭い教室の壁際に親達がズラリと並ぶ。遅く来た人達は教室に入り切れずに廊下に溢れてる。カメラを構える親、ビデオを回す親・・・いつも思うけど、幼稚園のイベントってすごい。

千沙は先生の話を聞いて元気良く手を上げたり歌ったりしながら、ちらちらと私たちの方を見て目が合うたびににこっと笑う。

一人一人の作品発表が始まって、それそれ子どもが書いた絵を自分の親達にプレゼントしていく。


千沙はぷくぷくのほっぺを赤くして、私たちの方に走って来た。

「ママとーせんせーに! はいっ、プレゼント!」


手渡された絵には、三人の人物。千沙を真ん中に私と先生が手をつないでいる。

黒板に書かれたテーマは『家族』なのに。

あのヒトじゃなくて、メガネをかけてニコニコ顔の先生を描いてる。

ちらりと横を見れば、先生は照れ臭そうに笑っている。

「・・ありがとう、ちいちゃん、上手にかいたわね」

「僕まで描いてくれて嬉しいです。そっくりですね」

二人で褒めると、千沙はへへっと嬉しそうに笑う。スキップしながら自分の席に戻って行った。


みんなが渡し終えると、歌と踊りを披露してくれた。小さな手足をめいっぱい動かして、すごく可愛い。

最後にぺこりと頭を下げて、親達みんなで拍手した。

こっちを見た千沙が、ぶんぶんと手を振る。私達も小さく手を振り返した。

その時、千沙の隣にいた子が首を傾げてこう言った。


「ねえ、ちさちゃんはパパがかわったの?」

けっこう大きな声で。

他の子も次々と口にする。「パパじゃないよね」「あたらしいパパ?」

「あのひと、だあれ?」「リコンってママゆってた。なあに、それ?」


私は、サアっと自分の顔が青くなったのを感じた。ひゅっと息が詰まる。



子どもの騒ぐ声に混じって、大人のママ達の囁きも聞こえる。

「ねえ。まだ離婚して半年も経たないうちに次の男を連れてるなんて・・」

こちらをチラチラ伺う目。思わず俯く。

「千沙ちゃんカワイソウ・・」

「子どものこと考えたらあんなことできないわよねえ」


聞きたくない言葉がどんどん耳に入ってくる。

千沙は? ハッとして千沙に目を向けると、みんなに次々と質問されて、なんて答えればいいのか分からず困った顔をしている。

助けないと。千沙を・・

そう思うのに、身体が動かない。声が出ない。

「みなさん、静かにしてください」という先生の声が聞こえる。

でもざわめきは収まらない。



「のんちゃん、だいじょうぶですよ」

先生が私の耳元でそっと囁いた。

「ちぃちゃん、おいで」

みんなに囲まれて困り果ててた千沙は、先生が両手を広げると何の迷いもなく走って飛びついた。先生は軽々と千沙を抱きしめ、そして私に寄り添う。


「みなさん、授業を中断させてしまって申し訳ありません。

しかし、僕から少し話したいので、聞いていただけますか?」


先生の声はいつもと同じ、静かで優しくて穏やかな声。

先生の一言で、みんながシンとなり、私たちに注目した。



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