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23 引っ越し

先生は素早い人でした。

私が頷くのを見た後、どこかに電話したと思ったら、数分後にはなんと引っ越し業者がたくさんのタンボールを持ってやって来た。

気を遣ってくれて女性の業者さんだった。


「ここの女性物の服と子ども服をお願いします。紳士物はそのまま置いといてください」

という先生の指示のもと、テキパキと梱包が行われる。


「家具や電化製品は、のんちゃんの持って行きたい物とかあれば、指示してくださいね。あ、千沙ちゃんの椅子とかは持って行きましょう」


ソファに眠る千沙と私がぼんやりしている間にどんどん進んで行く。


「のんちゃん。台所の物が分からないので、指示してもらえますか?」

「は、はい!」

呼ばれて慌てて立ち上がる。

キッチンは、私のお気に入りの家事グッズだらけなので、是非持って行きたい。

用意してもらったダンボールにあれもこれもと詰めていくとすぐにいっぱいになり、引き出しは空っぽになった。

先生のうちでお昼を作っていて、あー家ならもっとスムーズに作れるのにって思ってたから、これからは楽になるな、なんて呑気に考える。


流石に専門の業者さんは手際が良くて仕事が早い。

二時間も立たないうちに作業は終わり、引越し先の医院の場所を教えて、先に行ってしまった。




ガランとした我が家。

千沙が生まれて、四年以上過ごした、この家。

なのに、空っぽになった姿を見て、どこかホッとしてるのはやっぱりあの出来事のせいだろうか。千沙との思い出以外、この家にはなにもない。


いちおうあのヒトに置き手紙を書いておく。

離婚届は、一昨日片方の署名が埋められたものを渡されていたから、私も署名して、昨日正式に出してきた。

結婚する時ってあんなに大々的なのに、離婚の時ってあっけない。

裁判にでもなってたら長引いたのかもしれないけど。

別れることになって決まったのは、養育費として月に決まった金額を娘名義の通帳に振り込むこと、それぐらい。

あとは夫婦の共通の財産であるこの家の物は適当にしてくれって。俺は出て行くから、このまま住んでて構わないって、無表情で言われた。

適当ねえ・・自分はもう住むところがあるからそんなことが言えるんだろうな。

こっちはあってもなくてもどうだっていいんだ。



ざっと部屋を見回って、忘れ物もないと思うので、手紙にここの部屋の鍵をポストに落としておくことも書いた。あ、車の鍵も置いておこう。

チャイルドシートはもうすでに先生の車につけてあるし。

もう、ここに戻ることもないだろう。

ここは売るなり、新しい彼女と住むなり、好きにしたらいい。



ふうっと息を吐く。

「のんちゃん、行きましょう」

眠った千沙を抱っこした先生が私に声を掛けた。

「・・うん」


先生の家にだって、いつまでもお世話にはなれない。

いずれ千沙と二人、どこかに安いアパートでも借りよう。

でも今は、この家に、もう居たくない。


先生に続いて玄関を出る時、「さよなら」という言葉が口からこぼれた。

誰もいない部屋からは、なにも返事はない。


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