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21 千沙と三人で

「初めまして、千沙ちゃん」

膝を折って目線を合わせて話してくれてる先生に、娘は目を輝かせ飛びついた。


「はじめまして! あたし、しってる! ママのせんせー、でしょ?」


先生は目をパチパチ。

私も驚いて、注意するのが一瞬遅れた。

千沙は得意顔で口を開いた。


「ママがいつもおはなし、してくれるの。せんせーのこと。すっごーいステキだって。あのね・・」

「ち、千沙。レストランに行くのよ。ほら、行きましょ」

「はーい!」


子どもってコワイ。何でも喋っちゃうんだもの。


千沙には先生のこと、けっこう話しちゃってるんだよね。

だって、こんな風に会う機会があるなんて思わなかったから。


「先生はね、すごい人なの。ママの尊敬する人」

「塾の先生でね、何でもできて、やさしくて、ステキなひと」

「教え方が上手で、高校生のママは勉強がんばったのよ」

「今、先生はお医者さんをしているの。ママはそこで働いてるのよ」

「毎日とっても楽しいの。先生は優しいから人気者なの」

とかって。

一気に話したわけじゃなくて、聞かれる度にポツポツと答えていくうちに、色々しゃべってしまっている。

ああ、お願いだから、バラさないで、千沙。あまり変なこと言わないでよー。



私がヤキモキしている間に千沙は車に乗り込んでいた。

のんちゃん、と先生に呼ばれて、慌てて私も後部座席の千沙の隣に座る。

「千沙ちゃん、これ、おみやげです」

先生はさっそく大きな包みを差し出した。

「マ、ママ! せんせーがおみやげくれた! すっごくおおきい! あけていい?

おうちじゃないとダメ?」

貰った物は家に帰ってから包みを開けるようにいつも言っているから、千沙はうるうるした目でお願いしてくる。ワガママ言わない子だから珍しい。


「いいわよ。先生にありがとうってお礼言ってね」

「うんっ! せんせー、ありがとうっ! ・・・わああ、いるかさん!」

破らないように丁寧に、大急ぎで包み紙をめくって、中から現れたぬいぐるみに千沙はきゃあきゃあ喜んだ。その動きの一つ一つが可愛い。


顔を上げると、運転席から覗き込むように先生もこちらを見ていた。笑顔で。


「喜んでもらえて僕もうれしいですよ。さあ、のんちゃんも、千沙ちゃんもシートベルトをしてね。出発しますよ」

千沙は「はーい!」と元気に返事をして、シートベルトをすると急いでイルカを抱きかかえた。




よく行くファミリーレストランでそれぞれ好きなものを頼んで、にぎやかに食事をした。

千沙が幼稚園での活躍話を次から次へと聞かせてくれるので、私も先生も笑いながら聞いた。

先生は相変わらず聞き上手。

千沙はあっという間に先生が好きになったみたいで、レストランから出た後駐車場で先生に手を繋いでもらって大はしゃぎしてた。




家に帰っても千沙のテンションは下がることなく、お風呂を済ませてお布団に入っても、ずっと先生のことを話してた。

次はいつ会えるの?って何度も聞いてくるから、困ってしまう。




***


次の日、医院で先生にそれを話したら、先生はにっこり笑った。


「じゃあ、また夕飯を食べに行きましょう。今夜・・・は急ですか。土曜は昼前の診察だけだし、日曜は休診なので、一緒にお出掛けするのもいいですね」

「え、ちょ、ちょ、先生」

世間話程度の気持ちで「娘がまた会いたいって」って話したつもりだったのに、そんなことになるなんて。




*****


結局、日曜日、千沙と三人でピクニックに行くことになった。

だってお食事に行くと、先生は毎回当たり前みたいにお金を払ってくれるからなんか悪いし。


お弁当を作っていきますって言ったら先生の目がキラリと輝いた。

「それは、すごく楽しみです」って。


家から車で十分くらいのところに、大きな芝生広場が人気の公園があるので、そこに行くことにした。

千沙は昨日の夜から大興奮。

「あしたは、ママとおそろいで、このふくをきていくの!

リボンはこれで、ぼうしはこれ。あー、こっちのがカワイイかなあ」

とクローゼットの前でファッションショーを始めた。

千沙の女子力、私より高いんじゃないかしら・・。


「おべんとう、たまごやきでハートつくろう、ママ」

とリクエストも忘れない。


ホント、しっかりした子だわあ。本当に年少さんかしら。




*****


翌朝、千沙にお手伝いしてもらって、お弁当を詰め、着替えをして、支度を済ませると先生が車で迎えにきてくれた。

「おはようございます。のんちゃん、千沙ちゃん」

今日も爽やかな先生に、やっぱり千沙は元気に突進してく。

「おっはよー、せんせー!」



週末の公園はほどよく混んでいて、子ども達の賑やかな声がピクニック気分を盛り上げた。

千沙はきゃっきゃと笑って芝生を走り、転がり、跳ね回る。

最初は私と先生も付いて走ってたけど、私はすぐにバテてリタイアした。

先生もその数十分後には荷物を置いたシートのところに戻って来た。


「子どもって元気ですねえ。体力には自信がありましたけど、あんな細かい動きをされるとついていけません」


はい、とお茶を渡すと、先生はゴクゴクと一気に飲み干す。

「本当に、可愛い子ですね、千沙ちゃん。のんちゃんにそっくりです。

のんちゃんもあんなに活発な子どもだったんですか?」

「私は・・・どうだったかな。大人しい性格だったと思うけど。勉強も運動も万能な姉がいたから日陰の子だったし・・」


いつの間に仲良くなったのか、同じ年頃の子と走り回る千沙を見て、自分の幼少時代を思い浮かべる。

よくできる姉の後ろにそっといるだけの存在だった。同じ習い事しても姉と同じようにはできなくて、すぐにやめてしまったし。

うん、絶対あんなスゴい子じゃなかった。


「僕は一人でいることが多くて、母を心配させたらしいですよ。

こういうところに遠足で来ても、一人で隅の方で蟻の行列を観察してるみたいな暗いお子様だったそうです」

「あら、まあ」

確かに集団に入ってこない子っている。そういうのもその子の性格なんだけど、先生や親は心配するよね。うちの子大丈夫かしらって。


「小学一年の時ひらがなの授業で、すでに書ける人も同じように練習をするのは合理的じゃないとか理屈をこねて担任を困らせたそうです」

「なに、それ!」ぷぷっと吹き出してしまう。


だって、そんな子どもの先生、想像できちゃうんだもん。

子どもの頃から、先生は先生だったんだなあ。



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