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19 嘘つきな私

目を覚ましたら、やわらかい布団の中だった。

でも、うちの冷たい布団じゃなくて、なんだかふかふかしててあったかい。

もう、一生この布団で寝ていたいって思っちゃうくらいのクオリティ。


「のんちゃん、そろそろお腹がすきませんか? ピザが来たので一緒に食べましょう」

ああ、先生の声。

先生の声で目覚めるなんて、なんてしあわせ。

おはようって起こして欲しい。

いつもの、やさしい声で、おはようございます、のんちゃんって。


「せんせー、今度わたしのケータイのアラームの声、ろくおんさせて・・・」


眠い目を擦って開けると、驚いた顔で目をパチパチさせている先生がいた。

あ、その顔、かわいい。

「ん? あ、いい匂いー。おいしそう」

鼻をクンクンさせてると、ぷっと笑われた。

「のんちゃん、寝ぼけてますね? ほら、起きないとお腹が見えてるから、くすぐっちゃいますよー」

そう言って、近づいてくる先生。

「やだ、起きる起きる」

めくれ上がってた服を直してがばっと起き上がると、先生はにっこり笑ってぽんぽんっと頭を撫でた。

「あ・・」

手首に巻かれた包帯。

「・・・こんなの大げさだよ。別にもう痛くないんだから」呆れて言うと先生は困った顔をする。

「ごめんね。でも、僕が、見たくないので。隠させて下さい。早く痕が消えるように、気休めですが塗り薬もつけておきました」

「ありがとう、ございます」


「お腹が空きましたね、食べましょう」

テーブルに乗せられた、二人で食べるには大きすぎるピザが二つ。

「わあ、すっごーい! ピザなんて、久しぶりかも」

さっそく二人でかぶりついた。

「あっつー、おいしー」「うん、おいしいですね」

テレビのコマーシャルみたいにチーズがびろーんと伸びる。

「先生、トマト嫌いだけどトマトソース系は好きだもんね」

くすくす笑って言ってやると、先生はツンと横を向く。

「生のトマトは別物です。火を入れれば美味しいのにあえて生で食べる必要はないでしょう」

急に理屈っぽく語り出すから余計に笑ってしまった。




食後には先生がコーヒーをいれてくれた。といってもすごい立派なコーヒーのマシンがあるので、ボタン一つでブラックもカプチーノもあっという間。泡が美味しい。こんなのおうちで飲めちゃうなんてすごすぎ。

甘いカプチーノのマグカップを口元に寄せて、ふうっと息を吐く。

「・・・先生、どうもありがとう。なんか、色々すっきりしちゃった」


「のんちゃん、今度の定休日の日、どこかにパアッとお出掛けしましょう。

それで、夕方になったら、娘さんも一緒に、ディナーを食べにレストランへ行きませんか?」

やけに明るい口調の先生。

私を励ましてくれようとそう言ってくれてるんだ。その心遣いが嬉しい。

「ありがとう、先生」

普通に笑えていると思う。先生のおかげだ。




*****


そして水曜日。

「のんちゃん、明日どこか行きたい場所のリクエストはありますか?

何にもないと僕の行きたい場所になっちゃいますけど・・・」

「へ?」「えって、どうしました?」ハテナマークを出してる私の顔を見て、先生も不思議そうな顔をする。

「だって、明日ですよ。定休日。この前言ったじゃないですか」

「あれ、ホンキだったの? 先生。あの場で私を慰める為のヤツだとばかり・・」

「もちろん本気ですよ。嘘は言いません」

あ。

そのセリフ、懐かしい。





「嘘は言いません」って先生はよく言う。口癖ってほどではないけど。

真面目で真っ直ぐな先生らしいセリフだと思う。


先生は嘘をつくのはキライなんだそうだ。

高校生の時、なんでだかそんな話題になって、先生がきっぱり言うのを聞いて、へー、なんて相槌をうちながら、内心、ヤバイヤバイって焦ったのを覚えてる。


私は・・・小さい頃からよくウソをつく子どもだった。

今から思うと、くだらない、しょうもないような、そんな嘘。

それはクセみたいになってて、高校生になっても日常的に小さな嘘をついていた。


あるグループの友達とカラオケ行ったことを他の友達にはバイトに行ってたってウソついて。

塾を寝坊して遅刻したから風邪引いたってことにしてウソの連絡いれたり。

友達との恋バナはいつもウソで、誰が好きとか、やっぱりもうやめたとか、ただ、おしゃべりのネタみたいに恋愛を語ってたこととか。



うちのお母さんは優秀なお姉ちゃんの教育には熱心で、出来損ないの私には普段、会話もなかった。けど、私の行動に関してはやたら干渉してくる人だった。


誰と何をするの? どこへ行くの? 何時に帰ってくるの?


学校から帰ってからの予定とか、高校生になってからでも詳細に聞きたがった。

聞いて何になるの、どうするのって思ったけど、聞いておかないと安心できない性分なんだって分かって、適当に作り話でゴマかすようになった。

今日は友達の誰々とおしゃべりしてきたとか、図書館に寄って来たとか、当たり障りのないウソを。

本当のことを話すのが嫌ってほどじゃないのに、ウソをついた。


だってアレコレ詮索されるのがうっとおしくて。

友達も、母親もみんな疑うことなく私の嘘を信じてくれた。

たまにバレた時には、言い訳用の嘘も用意してあったりして、完璧だった。




でもまあ、先生にはバレて何度か注意されたことがある。


「のんちゃん。嘘は、嘘を呼ぶんですよ」

先生は静かに私にそう言った。

「一つ嘘をつくと、その嘘の辻褄を合わせる為に、また一つ、また一つと、どんどん嘘を重ねることになる。そしてそれは、自分に返ってきます。

自分自身がツラくなるんですよ、のんちゃん」

先生は、だから止めなさいとは言わなかった。ただ、私のことが心配だとそう言ってくれた。少し、悲しそうな顔で。



他の誰に嘘をついても何も感じないのに、先生に嘘をついた時にはやたら罪悪感に悩まされた。それが不思議で、なぜだろうってずっと思ってたんだ。


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