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15 お昼ごはん

休診日の次の日だったからか、今日は人が多かったみたい。

やっと最後の人が帰ってドアに鍵をかけると、お昼ごはんの時間が過ぎていた。

さっきまでは特に感じなかったのに途端に空腹を感じる。

ぐうって音が鳴りそう。


「お腹が空きましたね。のんちゃん、リブリブにランチを食べに行きましょう。

片付けや掃除は後でいいです。僕はもう、お腹がペコペコなので」

先生は白衣を脱いでもう玄関のところにいる。

私も急いで奥に行きエプロンを脱いでバッグを持って戻った。



先生と食事をするのは楽しい。

そう言えば、昔、先生とご飯を食べたことがあったっけ。

先生の食べるのが遅くて驚いたんだ。

うちは家族はみんな早食いで、いつも私だけ遅くて怒られてたから。

そう言ったら先生は笑った。

「人と食事をする時は、せっかく一緒に食べてるんだから、いろんな話をしてゆっくり食べるのが好きですね」って。

「でも、一人の食事はただの栄養補給になるので、手間も費用も時間も最低限で済ましますけど」なんて続けて言うからおかしくて。

先生らしい考え方だなあって思った。



二人でリブリブのカフェレストランでランチを食べた。

私はパスタ、先生はカレー。メインの他にサラダとスープ、ミニパフェ付き。

ミニパフェは五種類から選べて、けっこう大きい。大満足。

先生が自分のを口を付ける前に「一口食べます?」って言ってくれて、つい誘惑に負けて一口すくわせてもらった。おいしいー。


前回オゴってもらったから出そうとしたら、先生に伝票を奪われた。

「のんちゃん、今は勤務時間内ですよ。これは社員食堂のようなものです」

「なにそれ。豪華すぎるよ」

「いいからいいから。さあ、行きますよ」

いいから、と言われても。

これから毎日ランチなんて食べに来たら高くついちゃうよ。作った方が断然安くつくのに。

あ、そうだ!

「先生、私、作ろうか? 先生、医院の上に住んでるんでしょ?

キッチンがあるなら作れるじゃん。うん、そうしようよ。もったいないよ」

私の提案に、先生は驚いたようで目をパチパチさせた。


「・・・作って、くれるんですか?」

「? 先生がいいなら」「いいに決まってます! すごい、嬉しいです。

のんちゃんの料理、すごく美味しかったので」

先生がぎゅっと私の手を取った。


「え?」今度は私が驚く番。

え? 美味しかったって・・・? いつ、作ったっけ。

うーんと思い出してみる。


ああ、確かに作ってる!

先生の食事事情を知って、その次の週、お弁当を作って持って行ったんだ。

そうそう、思い出したよ。

受験勉強もそっちのけで、お母さんとメニューを考えて、手伝ってもらいながらかなりの時間をかけてお弁当を作った。初めて、誰かの為に作ったお弁当。


「先生、よくそんなの覚えてたね」

「忘れませんよ。初めてでしたから」

まあ、あんな風に塾に手作り弁当押し付けてくる生徒はそうそういないよね。

うわあ、なんかすごい恥ずかしい・・。


「そうと決まれば、明日のお昼の分の買い物をして行きませんか?

うちの冷蔵庫には、その、あまり食材が豊富ではないので」

「パンとお肉しかないものね」

「はは・・」


リブリブでのお買い物は慣れたもの。

もう何年もここで買い物してるから、どこに何があるかもだいたい知ってる。

先生と食料品売り場で並んでカートを引くのが、なんだか不思議。

そう言えば、旦那とは一緒にお買い物なんてほとんど行ったことない。

早くしろとか急かしてくるし、お菓子なんか買うなよとか文句言うし、すごく買いづらかったイヤな記憶がある。


「先生、なに食べたい?」

キャベツ、人参、玉ねぎなど、長持ちして何にでも使えそうな野菜はとりあえず買っておこう。ポイポイカゴに放おりこんで、ちらりと先生に顔を向けると、先生は顔を赤くして口に手を当てていた。

「? どうしたの?」

「い、いえっ」なんだか慌てた様子の先生。珍しい。


「そんな風に聞いてもらうと、新婚さんみたいで・・」

「へ!?」

し、新婚さんって! なにを言うのよ、もう。

「そ、そんなの、私、旦那に聞いたことないよ。うちの旦那、冷めた人だし」


食に興味のない旦那は昔から「なに食べたい?」って聞いても「なんでもいい」って返してくるので、すぐに聞かなくなった。

今では家で食事するのも稀なくらい。いつも食べて来るし。あれ? ホント、もう一ヶ月くらい一緒に食べてない。

娘も私と二人で食べるのが当たり前になってきてて、パパはたまに会える人って認識なのかも。


「ふうん。もったいないですね。僕なら毎日聞いて欲しいですけど」

旦那のことを考えてたら、先生がそう言ってにっこり笑う。

「笑わないでくださいね。・・・憧れてるんです。そういう夫婦っぽい会話に」

「そう・・」

はにかんで笑う先生の顔を見ていられなくて、私は手元のピーマンに視線を落とした。



「夫婦なんて、そんないいもんじゃないよ」って言いたくなる。

最近、特に思う。なんであの人と結婚したんだろうって。

先生がやさしいから。

優しくもない、私を見てもいないあの人と、どうして夫婦でいるのかなって疑問に思う。

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