10 苺パフェ
先生はテーブルの横のメニューを手に取る。
「のんちゃんはお昼食べました? 僕はまだだから何か頼んでもいいですか?」
「あ、じゃあお店変わります? ここだと軽食しか・・」
「あ、大丈夫。ここのピラフがお気に入りなんです。あ、でもカレーもいいな」
先生はメニューを見ながら顎を指でさする。
あ、これはどれにしようかなって時の癖。
おかしくなって笑ってしまう。
伊達に高校の頃、恋する乙女の目で先生のこと見てたわけじゃない。
先生の癖、いっぱい知ってるんだよね、私。
嬉しい時、悩んだ時、ビックリした時の仕草とか。
家では食パン生活だから、外食では麺類かご飯ものを頼むこととか。
本当はご飯が一番好き、とか。
「のんちゃん、パフェ食べますか? 僕も食べたいから付き合って下さい。
いいオッサンが一人でパフェはちょっと。でも女のコと一緒ならいいですよね」
ハイ、とにこにこ顔で渡されたメニュー。
端から端までスイーツでいっぱい。
・・・そう言えば、最後にパフェ食べたのっていつだっけ。
外食に行くと、娘の食べるお手伝いに追われて慌ただしくって、全然食べた気がしないからあまり好きじゃない。だから家での食事がほとんど。
安いし、気が楽だし、時間も自由だし。
最近はようやくまともに食べてくれるようになった。幼稚園のおかげかな。
三歳になる前が一番やっかいだった。
一人でやりたがるけど上手くできなくてべったべた。手を出せば怒るし、掃除も洗濯も大変だった。
そうそう、ソフトクリームを食べさせたら大喜びで一つペロリと食べちゃって、お腹を壊したこともあったっけ・・・。
「のんちゃん? 何にします?苺?」
「あ、うん。イチゴイチゴ」
反射的に大好物を答えると、先生は何時の間にか来ていた店員さんに注文する。
そして十分後、運ばれてきた大きなパフェに目が点になった。
こんな表現、あんまり使うことないけど。ホント驚いたから、私の目は点だったと思う。
「せ、せんせいっ! なに、このでっかいパフェ!
普通ミニパフェくらいでしょ! でかすぎ!」
思わず抗議しても、先生はにこにこ笑うばかり。
「うん。写真で見たやつより大きくて、僕もびっくりしてます。
でも大丈夫だよ。食べれるだけ食べたらいいんですから。食べ切れなかったら僕がもらってあげますし」
いただきまーす、と先生はスプーンでピラフを食べ始めた。ピラフの横には私のよりもずっと小さいチョコレートのミ二パフェ。
私は実は、甘いものは大好き。
それこそ大学の時にはバケツみたいなグラスの巨大なパフェを友達と何人かで挑戦したこともあるし、ケーキバイキングもよく行ってた。
高校の時は、先生に「この前こんなすごいの食べたのよー」って写メを見せて、パフェ自慢をしてたような気がする。
気分が落ち込んだ時には甘いものだー!って、失恋した友達を連れてヤケパフェしたっていう馬鹿な思い出も蘇る。
まさか、そんなこと覚えてたの? 先生。
「あ、大きすぎて嫌でした? でもほら、食べやすいようにアイスばっかりとかじゃなくて、苺がたっぷりだし、ムースも入ってるって・・」
黙ってしまった私を見て、先生はちょっと慌ててパフェのフォローをし始めた。
お店の人じゃないんだから。
「ふふ。大丈夫だよ、先生。私パフェならどれだけでも・・・ってわけじゃないけど、このくらいはペロリだから。
久しぶりのパフェに言葉も出ないくらい感動しちゃったの」
へへっと笑うと、先生もほっとした顔で「よかった」と笑った。
「こんなの、久しぶり。・・・うれしいな。ありがとう、先生」
いただきますとスプーンを手にして、生クリームのたっぷり乗った苺をパクリ。
「おいしーい」
『パフェは女のコをハッピーにする魔法をもってる』って高校の時行った、どっかのカフェのメニューに書いてあった。
もう女のコっていうには気が引ける歳になっちゃったけど、今の私にもパフェの魔法は通用するみたい。
でっかく見えたパフェはグラスが細長いのでそんなにボリュームはなくて本当にペロリと食べてしまった。




