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既読蟲  作者: 如月 星月
3/5

【3】

さあ、ここでクライマックスに向けて走りましょう。


凄い勢いで展開が動くようになったかもしれません。


でも、よーく色んなものを見ていってくださいね。


いつ死んでしまうかわかりませんからね。

―――――――――――

だれだはくぼ

いならしもとこのみき

いならしをみきもれか

ぬしなんみぐすうも




つとひはじしはらかここ


「ぼくをみつけて」


―――――――――――


あの影が何なのかはよくわからないが、敵であることは間違いない。

ゆっくりと蠢くそれがこちらを向き、目の前の廊下を歩き始める。


身長は2mほど。

人間にも見える。

顔には無数の傷と痣があり、

以前の犠牲だろうか、

死体を人形のように引き摺る。

「遊ぼうよ…遊ぼう…誰か…」

退行した中年の男の声は、

私を恐怖させるには十分だった。


―――――――――――

****{「第二:幼剛力」]

―――――――――――


銃を向けた時、銃身の光が消えていることに気づいた。

引き金を引いても虚しくカチカチと音がするのみ。


「嘘っ…」


交戦手段がない。

奴から逃げろ、ということだろうか。逃走しつつ「ぼく」を探すことになるらしい。

とりあえず部屋の中に戻り、かなちゃんと共に部屋の奥に入り込む。姿勢を低くし、できるだけ暗がりに紛れる。この全面日の丸の部屋にはそれ以外に隠れる術が残されていない。


ドアを乱暴に蹴破り、男が入ってくる。不気味な鼻歌と足音が響く。敵が奥に入ってくると同時に少しずつ慎重に部屋のドアへと移動する。

ドアまであと少し。

あと一歩…


かなちゃんが先に出る。

少し急ぎ足で部屋を脱出した。

続いて私も外へ。

敵が壁にぶつかる音に少し驚かされてしまったが、なんとか気づかれることなく脱出に成功した。

次の部屋に急ぐ。


私は机が並べられた部屋に出た。高校時代を思い出すような懐かしさを感じる。

机の上にはそれぞれ一つずつ教科書が置いてある。全て「日本史B」の教科書だった。全ての教科書は太平洋戦争のページに付箋が挟まれ、日本軍兵士の写真の下には「万歳」と殴り書いてある。そのページだけは異常なほどに線や書き込みがなされていて、この教科書の持ち主は太平洋戦争期以外のところには一切興味を示していないようにも見えた。もしかするとこの範囲だけを狂的に好んでいたのかもしれないが。


「あ…あ…」


突如、教室に呻き声が響いた。


「誰…か……いる…の?」


「なっ…!?」


「たす…けて……掃除…用…具…入れ……中に…」


「あやちさん!そこの中に誰かが…」


かなちゃんが恐れをなした顔で掃除用具入れのロッカーを指差す。とりあえず近寄り、中身を確認する。暗くてよく見えないが、右に傾いた人の顔のようなものがこちらを見ているのはわかった。

思わず後退り、心を落ち着かせる。

なぜこんなところに人が?


「え…えっと、大丈夫ですか?どうしました?」


口を突いて出た言葉。恐らくこの場には似つかわしくない。


「俺の…手足……」


「…えっ?何ですか?」


「…返して……俺の手足…返して…!!」


私の手足返して。

文意がよく読み取れなかったが、すぐに混乱は収まった。

いまこの中にいる誰だかわからない「彼」は、手足を切断された状態で生きているのではないか…?


開ける気が一瞬にして失せた。

底知れない恐怖が押し寄せると共に吐き気がひどくなる。


「どうしよう…」


「開け…て……よ…」


かなちゃんも事情を知り、表情が固くなる。

ここはもう勇気を出して取り出そうか。


「じゃあ…開けます…よ?」


目をぎゅっと瞑って一気にドアを開けた。かなちゃんの短い悲鳴が聞こえ、ゆっくりと目を開ける。

手足は根元からなく、身体の4点に槍が刺されて壁に磔になっている。

それ以外には一つも傷がない。


足元には血に濡れた紙。

「No.3 ナミィ」

この男こそナミィだという。


「いいか…よく聞け……」


ナミィは口から血を流しながら話し始めた。


「あいつ…ぃ…捕まる……と……必ず…殺さ…ぇ…る…」


「殺され…!?」


「逃げ……ろ…果て……まで………でも…」


彼は目を閉じた。

動かない。

最期の警告の声が、まだ頭の中で響く。


―――――――――――


****{「No.3 ナミィ 死亡」]


―――――――――――


また死んだ。

惨殺だ。


この数時間の間に三回も惨殺死体を見てしまった。トラウマとして心にこびりつくことは間違いないが、それ以上に主催者の残虐さに怒りを感じた。


「なん…でよ…」


私の目からは涙が溢れた。

間違いなく悲しみによるものではないことはわかった。


「…なんでこんなに…死んじゃうんだよ…」


頭の中の整理がつかない。


「なんで…なんで…こんな簡単に人って…」


「あやちさん…」


かなちゃんも泣いていた。

黙って私を見ていた。


「…うん、逃げないとね…」


彼の亡骸を眺め、涙を拭った。


「彼の分まで…絶対生き残ってやる…!!」


部屋を後にする。


廊下に出ると、奴がそこを歩いていた。相変わらず死体を引き摺っている。

あいつに捕まったら、死ぬ。

かといって、逃げるあてもない。とにかくここが地下である限り、


とりあえず奥に進むことにした。何かが変わったかもしれない。これまで日常的にフリーのホラゲをやっていた関係で、探索の心得は少なからず会得している。当然、これまでにやってきたどのホラゲよりもずっと怖いゲームなのだが。


さあ、館を出なくてはならない。銃はポケットに入れ、二人で常に後ろを確認しつつ廊下を進む。心臓が止まりそうな恐怖を抱きつつ、先ほど確認した行き止まりに着く。途中のドアはやはり開かなかった。


「あやちさん、これ」


壁の前に明らかに違和感がある床がある。踏むのも躊躇われるが、とりあえず調べてみる。少し沈んでいるようだ。覚悟を決めて全体重をかけて踏みつける。

轟音と共に前の壁が開いた。斜め上方向へ通路が延びている。

出られる、助かった!と思ったのも束の間だった。

凄まじい勢いで奴の足音が迫る。呻き声と激突音が響く。二人は全速力で坂を駆け上がった。

光が見えてくる。


出た場所は、無機質な白に閉鎖的に囲まれていた。空気すら死ぬような閉鎖空間に、5つの台がある。

そして、3人の人間。


「君たちもプレイヤーなのか?」


成人男性が語りかける。


いつの間にか、背後に道はなくなっていた。


LINEを開く。

既にTPG-1が死んでいた。


「片岡が裏切った」


男性が怒りを露にしてため息のような声で言った。


「あいつが…TPG-1を殺した」


彼は「タカ」だった。

他にいたのは「カイト(兄)」「ハピー」だった。

とにかく、この5人が台座に乗らなければ何も始まらないようだった。ここで5人になることを予見したかのようだった。


私はかなちゃんの右隣。

そのとなりから時計回りにハピー、カイト(兄)、タカと並ぶ。

以後カイト(兄)のことをカイト、と略式で呼ぶことにする。

LINEが鳴る。


―――――――――――


****{「オマエタチハミツケタ」]


****{「ワタシハオマエタチノシタニイル」]


―――――――――――


足元を見る。


「うわっ」


カイトが軽い叫び声を上げる。


「どうした」


「頭蓋骨がある…」


どうやら足場の下に頭蓋骨が見えるらしい。

そして、並んだ彼らの円の中心にもう一つの台が現れる。

「身」と書かれている。


―――――――――――


****{「最終関門:設問」]


****{「銃を持て」]


―――――――――――


銃の光源が再び点灯した。

ただの殺し合いではなさそうだ。「設問」とはどういうことなのか。

「身」に文字が写し出される。


「左足」ニ命ズ。日本古来ノ太陽神ノ名ヲ答ヘヨ


左足?

誰のことだろう。


「頭蓋骨がここってことは…」


カイトの背後の壁に「此処ニ伏ス」とある。


「かなちゃんだ」


「私?ですか?」


「伏した人間の左足、頭をカイトの下とすると左足にあたる位置はかなちゃんだと思う」


「あの壁からか」


「はい、わかりました」


かなちゃんは可能な限り大声で言った。


「天照大御神!!」


かなちゃんの足元のガラスの下に、左足が浮かび上がる。



「右手」ニ命ズ。皇国恥トスル終戦ノ年ヲ答ヘヨ。


「…1945年!」


右手が現れた。



「左手」ニ命ズ。我ガ皇国旗ノ別称ヲ述ベヨ。


「なんだっけ…あっ、旭日旗!」



「頭蓋」ニ命ズ。我ラ大日本帝国ノ太平洋戦争ニ於ケル奇襲地ヲ述ベヨ。


「真珠湾…!」



最後、「右足」ニ命ズ。

此ノ者ノ中デ過チヲ犯シタ者ヲ銃殺セヨ。


「過ち…銃殺!?」


「おい…誰か間違えたか?」


「わかりません…天照様じゃなかったの…?」


「…誰も間違ってないはずだ。じゃあ誰を撃てばいいんだ…?」


「あやちさん自身…とか言わねえよな」


私にはわかってしまった。

でも、それを言い出すのが憚られた。何せ自分の手で一人の人を殺すわけだから。


「あやちさん…」


「…わかった」


「お、おい、誰を撃つんだ?」


「まさか俺じゃ…」




「…タカさん、死んで貰います」




「えぇっ!?」


「なんで!?」


「ち、ちょっと待て!なぜ俺なんだ!?終戦は1945年8月15日のはず…」


「出題者は大日本帝国の人です」


私の手が震えるのがわかった。


「あなたは1945と答えましたが、この人は自国を皇国と言うように日本の人です…よって敵国の暦である西暦では不正解…昭和20年と答えるのが正解です」


「あ…!!」


「そうか…確かに」


「まっ…待て…やめろ…!!」


「殺さなくてはいけないんです」


「やめろ!!そんなんじゃ片岡と同じだぞ!!」


タカの怒りが頂点に達した。

彼も銃を取り出す。


「ちょっ…やめっ…!?」


「うるせぇガキがァ!!黙ってろ!!」


「…あなたは死ぬんです。銃をおろして下さい」


「嫌だ!!誰がお前のような女に…!!」


「…」


「大体、そんなの屁理屈みたいなものじゃないか…年号も西暦も表してるのは同じ年だ!本当はそう…お前が死ななきゃならないのが怖いんだろ!いまこうして過ちを犯した!お前が死ね!!」


タカはもう歯止めが聞かなくなっていた。危険人物と化していた。


「…黙って受け入れて下さい」


「嫌だ!!まだ俺は生きるんだ!!こんな下らないゲーム遊びで死ぬつもりなどさらさら無い!!」


他のプレイヤーたちは顔を下に向けている。男は我関せず、といったところか。かなちゃんは本当に見たくない、というのがわかる。泣きそうになっている。


「お前が…お前が死ねばいい!それで全て済むんだ!死ねェ…死ねェ!!」


彼が引き金に指を掛けた。歪んだ笑顔で私の頭に銃を向ける。


「ほら…終わりだ!」


「…黙って死ね」


私は静かに引き金を引いた。

肉体が爆発する音がした。肉片と血が飛び散る。かなちゃんの悲鳴が上がる。


―――――――――――


****{「正解」]


―――――――――――


何が正解だ。

これのどこが正しいんだ。

全ての台座の下に該当部位が現れた。「身」の上に4人が乗らされる。「身」は上昇していく。

どんどん上昇し、さらに広い部屋に出た。長方形の壁は全て日の丸の模様になっている。

矢印がある。そちらへ向かえ、ということだろう。かなちゃんを介抱しつつ、前へ進む。

日の丸の所に通路があるのがわかった。丸い通路を4人で歩いていく。他の3人からの視線が変わったのがわかる。


次の部屋に着いた。


―――――――――――


****{「これまでの二人組に」]


―――――――――――


無論、男性と女性で分かれた。赤と青の檻の中に入る。亀の置物があるようだ。


―――――――――――


****{「青には赤の見たもの、赤には青の見たもの」]


****{「正しくずらせ」]


****{「両者同じ方は向けぬ」]


****{「但し助かっていいのは片方。両方正解なら全滅する」]


―――――――――――


「心理戦…?とも言わないか」


「そっちには何がいる?」


「亀が」


「西を向けな」


「…良いんですか?」


「ああ、俺たちは別に。とりあえずさ、ほら、猫ちゃんがどっち向いてたのか教えてくれよ」


私はその笑顔から何かを察知した。それを悟られないようにしつつ、


「東です」


と伝えた。


「西、ですね」


「いや、違うね」


「ふぇ?」


「あいつ、カイト、だっけ?ハメようとしてるのが見え見え」


「えっ…そんな…」


「と、言ってもさ」


私は向こうをちらりと見た。


「亀って時点でわかるけど」


「うーん…?」


「玄武、だよ。日本では北を表すの」


「へ、へぇー…」


亀の頭が北を向くように設置する。


「で、でも、さっきほんとのこと教えちゃいましたよね…?」


「大丈夫だよ、あいつらも疑心暗鬼だから。東には向けない」


案の定、二つの檻の回答が出揃った瞬間にこちらの戸が開き、向こうの檻が落ちた。


「狡猾な奴は始末するに限る」


「え…えっと…」


「ほら、先行くよ」


「あ、はい…」




最後の部屋には、本棚。


―――――――――――


****{「最終問題」]


****{「抜け出せ」]


―――――――――――


奥にはエレベーター。

大きさ的に一人しか乗れない。

とにかくやることは一つ。如何にして二人脱出するかだ。


「かなちゃん、行って」


「えっ、でも…」


「いいから行って。私ならなんとかできるから」


「…」


「後から追いかけるからさ、ほら行った行った」


かなちゃんをエレベーターに押し込む。戸惑う彼女の顔を見ないようにして、その扉を閉じた。


これでいい。銃はある。

きっと、ここに奴は来る。


予想通り、別のドアを突き破って「奴」は現れた。



「みぃつけた」



退行した中年の男が、次の「玩具」を捕らえるべくこちらに向けて走り込んだ。







さて、次で終わりにしましょうか。次は割と短くするつもりですから、最後まで読んで頂けると助かります。


…ハッピーエンド…?

知らない子ですねぇ…

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