【2】
遅れましたァ!
EBウイルスっていう謎のウイルスに感染したり成績不振だったりで書けてなくて申し訳ございませんでしたァ!
はぁ、はぁ。
さて、二巻です。
早くも飽きてきました?
だよね、知ってた(すっとぼけ)
まあ気を抜かずに最後まで読みましょ。短いから。
そういえばこの前のグループでノートに投稿が((貴様何をするやめrmadjwpgj
チェーンソーは錆びているもののなかなかの回転数を誇り、内心では「いいエンジンだ」と感心した。おそらくまだそこは錆びていないのだろう、と素人の考えをしてみる。
とにかく距離を詰められたらそこで終了だ。錆び付いているとはいえ殺傷能力は高いはず。
かなちゃんは銃を持って怯えている。戦うのは無理そうだ。銃を構え、試しにチェーンソーを持つ手を狙う。
「…ッ!!」
反動に耐える体勢をとりつつ、爆音を立てて銃弾が飛ぶのを見た。ほとんど反動がない。この時代のものではない技術を使っているに違いない。
敵の腕が飛沫と共に吹き飛び、チェーンソーが大破する。気味の悪い呻き声を上げながら両腕のない身体で走ってきた。
「…馬鹿め」
片手に持ち換え、奴の頭を吹き飛ばす。膝から崩れ落ち、力なく左に倒れ込んだ。とりあえずもう死んだだろう。
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****{「一人じゃない。敵は複数」]
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「なっ…!?」
かなちゃんに向き直る。
「銃、使える?」
「む…無理そうです…」
「私に任せて」
銃を受け取り、彼女に微笑みかける。
「ほら…来いよ化け物」
そこかしこから現れる敵の姿。
皆同じ姿をしている。気味が悪いほど同じ動きでこちらへ向かう。唸りを上げながらこちらへ走り込むそいつらを、両手に構えた銃で次々と倒していく。
連続する発砲音が鳴り響く度に頭の中に何かが流れ込んでくる感覚。
洗脳を受けているかのようだ。
脳はその役割を果たさない。
思考が止まる。
意識が遠のいていく。
もはや、その腕は、
無慈悲な砲台と化していた。
敵が倒れる。何も感じない。
銃声は自分の声。
そこに自分の意思などない。
騒音が行方を眩ます。
ただ殺す事だけが愉悦だった。
「…さ…さん…」
「あやち…ん…」
「あやちさん!」
意識が戻った時には、目の前に敵はもういなかった。
ただ、少女が私の腕にすがりついているのみだった。
「大丈夫…ですか…?」
涙目になっている。もうどうすればいいかわからない、といった表情だった。
「え…ああ、うん…」
ふと、自分が怖くなった。
「私…どうなってた…?」
「なんかもう…怖かったです…」
彼女によると、私の姿はさながら虐殺犯のようだったという。
あまりに不気味な笑顔で狂気じみたまでの笑い声を上げ、通常の一般人にはありえない速さで二丁拳銃を扱っていた、と。
その技能はもはや軍人級を超えたものだった、と。
「従軍経験…あるんですか?」
「ない…」
手が痛い。完全に限界以上のことをしたようだ。
ひとまずこの場での戦闘は終結し、その場で待機した。
数分が経っただろうか。
極度の警戒のせいか時間が経つのが遅く感じられる。
大丈夫、大丈夫とは言い聞かせたが、根拠もない確信が自分を落ち着かせてくれるわけもなく、結局かえって警戒を強める結果となった。
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****{「終了、結果発表」]
****がノートに投稿しました
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通知の音に少々ビビりつつ、ノートを開く。
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結果
死者
・アステカ
・はるっち
・アルトカ
斬死
残り9人
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さっきのと同じ事が起きたらしく、これだけで3人も死んだ。
冥福を祈るような文言もなく、無慈悲なほど業務的な投稿がある。怒りが込み上げる。
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KAZ{…ごめん]
タカ{え?どうした?]
KAZ{俺…彼女を守れなかった]
カイト(兄){あっ…]
TPG-1{大丈夫、お前のせいだけじゃないだろ]
KAZ{駄目だ…いま彼女の遺体が目の前に…]
あやち{あなたが直接手を下したわけじゃありませんし…]
あやち{彼女の分まで生きればきっと]
KAZ{でも彼女はもういない]
KAZ{俺は彼女じゃない]
タカ{いや、そういうことじゃなくってな…]
KAZ{あいつと俺、前から友達だった]
TPG-1{そういう話か]
KAZ{守れなかった。自分は守ったのに]
KAZ{責任とる]
ナミィ{死ぬとか言わないよな]
タカ{おい逃げんなお前!]
タカ{おい]
タカ{聞こえてんのかよ]
ナミィ{既読…付かねえな]
****{「No.11 KAZ 死亡」]
カイト(兄){てめえ…!!]
かなちゃん{また一人死んじゃった…?]
あやち{これ…全員死ぬまで続くんですかね]
ハピー{そんなにか!?]
カイト(兄){可能性は否定できないよな]
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「あ、あの」
「うん?」
「さっき戦ってる時、向こうからも銃声が聞こえたんですけど」
かなちゃんはもう一つのルートを示す。明るい。
「行ってみよっか」
「はい…」
二人はその方向に向かう。
「でもよくわかったね…」
「昔から耳だけはいいんです、まさかこんな形で役に立つなんて…」
「いいなーそういう、何て言うか、アビリティ的なやつ」
「アビリティだなんて、そんな…」
軽く彼女を褒め称え、慎重に角を曲がる。
「…うわっ」
暗がりを進んだ時、何かを踏んだ感触があった。柔らかい何かがあるようだ。足元を見ると、そこには人間の腕があった。
敵のものではない。
間違いなく人間だ。
近くには、また別の死体。頭の無い死体が、その服を深紅に染めて力なく壁にもたれている。
「かなちゃんは…これ見ない方がいいかも」
「あっ、はい…」
自分も十分吐きそうだった。
手首に傷がある死体の左腕は何か黒いものを抱えている。人の頭だった。眼鏡の残骸がある。
「これはダメだわ…離れよ」
「は、はい…」
誰かの視線を感じた気がしたが、そのまま歩き去る。
ひとまず指令も来ないので、外に出ることにした。幸いそれほど曲がった道ではなかったはずだから迷うことはないだろう、と思っていた。
一度迷いかけた辺りで自分の無能を呪ったが、通りすぎようとした箇所から光が漏れているのに気づいて脱出した。
そこまではよかった。
人がいない。
人が一人もいない町。
明らかな異常性を持ってその風景は現れた。
近くの壁の広告から、かなり昔から人が住んでいないようだった。それも数十年単位で。
「嘘だ…」
LINEの通知音が静寂を破った。
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****がノートに投稿しました
****{「読め」]
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ろそろそうも
うそよはしなばだむ
うこおてしにけだくらんれ
もててしなはでここ
ねんもいならなもにうど
あさ
だりまじは
「そとはあぶない」
「はやくなかへ」
―――――――――――
「早く中へ…って言われても」
「どこでも開いてるわけじゃないですもんね…」
「とにかく当たってみるしかないかな…」
手近な建物は電気がついていない。奥に歩かなくてはいけないらしい。夕闇が迫っている。
街がみるみる暗くなっていく。
神様がこれほど残酷に思えたことはない。
「灯り…無いですね」
「うん…しょうがないか、どっか暗いとこでも入ろっか」
「不気味ですけど…そうするしかないですよね」
二人で手近な館に入る。
大きな家だった。富豪がいたのだろうか?
ごめんください、と言ってもどうせ誰もいないと思ったのでそのまま入った。
鍵もかかっていない。
長い蝋燭がそのまま置かれて火が灯り、玄関ホールの中央の綺麗なテーブルには染み一つない極彩色の布が敷いてあった。
それ以外の光源がない。
赤い絨毯を辿るように奥へ歩みを進める。扉が辛うじて見えた。手探りでドアノブを探し、扉を押す。
そこから何度か曲がったと思う。今回はちゃんとルートを覚えた。途中何か大きな音がしたが、敵が現れる音ではなかったらしいのであまり気にせずに進んだ。
「行き止まりか…」
「…この壁…」
「え?」
「この壁、なんか不自然じゃないですか?」
かなちゃんが壁に手を当て、周りを指差す。
「ほら…壁の染みが不連続です」
乾いた血のような壁の染みに僅かながら隙間がある。しかも突き当たりの壁の血の方が古い染みに見える。
さらに、その壁の方には縦方向に擦れたような痕がある。
「まさか…」
急いで来た道を駆け戻り、さっきの扉を押し開けて玄関ホールへ戻る。
窓の外には何もない。
金属板が景色を埋めている。扉も窓も開かない。完全に閉じ込められた。
―――――――――――
あやち{閉じ込められた]
ハピー{どこに!?]
かなちゃん{邸宅に入ったら建物が地下に移動したみたいで…]
タカ{邸宅ごと埋め込んだ…のか…]
TPG-1{いま半分の家の前]
カイト(兄){半分の家?]
TPG-1{家が半分だけある]
あやち{その下にいると思います、何かありませんか?]
TPG-1{見た感じ芝生しかない]
あやち{断面に廊下ありませんか?壁に血が付いた感じの]
TPG-1{ああ、あるわ]
TPG-1{いま片岡が一緒にいるんだが、二人で入ってみるわ]
ナミィ{気い付けてー]
TPG-1{おー]
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邸宅の中を一通り見て回った。
ホールからの廊下は3つ、各部屋数は10部屋ずつ。不自然な行き止まりがあるのは真ん中の廊下だけらしい。
恐らく手分けして何かを探した方が効率はいいんだろうが彼女は何かあった時に戦えない。彼女を守る為にも二人で行動した方がいい。
部屋の扉を見て回ったところ鍵がかかっていない部屋は30のうち5つのみ。全て右の廊下にある部屋だった。手前から順に見ていくことにする。
一つ目の部屋は小部屋。
5歩で奥についてしまうほどの小さな部屋の左右の壁に本がぎっしりと入っている。どれも歴史の本で、出来事や物一つについて詳細に述べられた評論文が多い。
目についた本を述べていく。
左の棚
[バビロン捕囚]
[アウシュビッツ]
右の棚
[イープル]
[ヒロシマと終戦]
どの壁にも一冊だけガラスケース入りの本が置いてある。
左の棚のケース
[アメリカ独立戦争]
右の棚のケース
[ツァーリ・ボンバ]
そして目の前には擦りきれた大日本帝国の旗がある。
「なんか不気味な部屋ですね…」
「とりあえず次の部屋行こっか」
二つ目の部屋には美術品が置かれていた。猫柄の壺が中心に置かれ、三方向の壁に書道の作品のようなものが飾られている。
「北」「東」「南」
猫は東を向いている。
三つ目の部屋は空き部屋。
長方形の部屋の中央に赤い円があるのみ。
円が少し低い位置にある。
床だけではない。壁や天井も全て同じような構図で描かれている。すべて赤い円が窪みになっているようだ。
四つ目の部屋に向かおうとした時、妙な物音を聞いた。
床の軋む音。何か大きなものが近づいてきている。
「隠れよう」
「はいっ…」
部屋の奥にかなちゃんを隠し、自分はドアの隙間から様子を伺う。暗闇の中を足を引き摺るようにゆっくりと歩き去る影が見える。暗闇のせいでなかなかよく見えないが、間違いなく人型ではあった。
LINEの通知が鳴る。
ノートに投稿があった。
――さびしい。