【1】
皆さんもさ、
既読無視って知ってますよね。
あれって、されるとわかるんですが、結構虚しいものですよ。
はい。
じゃあ、今回はちょっとそれについての怖い話を一つ。
あ、別にこうはならないですからね。ご安心下さい。マジで。
まあ黙って最後まで読んでくださいな。
お?何やらグループ招待が…
これにて失礼。
暗い、暗い廊下。
狭い、狭い病室。
ひとり、ひとり。
きょうもぼくはひとり。
「…またあいつ既読無視とか」
「ウソ、またやってんの?もう何なのあいつー…」
女子高生の他愛ない会話が耳に入る。電車の中だろうとお構い無しに笑い声を上げる彼女たちを、特に咎めるつもりもなく、ただ会話に聞き耳を立てるわけでもなく、とにかく関わらないようにしていた。
あの年頃の女子にはいい思い出がない。
「あ、そうだエミ、知ってる?」
「え?」
「最近さ、ずっとクラスの女子に既読無視してた高島、いたじゃん?」
「うん、最近見ないけど」
「死んじゃったんだって」
閑散としているとはいえ、ここは電車内。クラスメートの死を人目も憚ることなく、ひそひそと話すわけでもなく言い放つ。
隣で新聞を広げていたサラリーマンのおっちゃんに睨まれたのを察知してか、少し嫌悪を抱いた顔でひそひそと話し始める。
新聞に目を戻し、ぶつくさと不平を漏らすサラリーマン。
新聞の一面の無駄に大きな文字が目に入る。
[「既読無視」の少年ら、変死]
ここにもあった。
彼女たちが話していたことだろうか。
ここから覗き見したところでどうなる訳ではないし、彼女たちの会話の方が気になる。手近にいた老人に席を譲るふりをして声が聞こえる範囲まで近づく。
「エミ、知ってる?既読無視の怖い話」
「えっ、知らなーい、何?」
「都市伝説なんだけどね。ある一定の規定を満たした時に既読無視すると、変なグループに招待されちゃうんだって…それでさ、そのグループで色んな指令が出されて、やらないと殺されちゃうんだって」
「ウソー!?誰に?」
「わかんない…多分グループ立てた人…あ、次降りるよね」
女子高生二人は都市伝説の話に夢中になりつつ降りていった。
手元のスマホが振動する。
LINEだ。
―――――――――――
赤潮@非リア{疲れた)
―――――――――――
知ったことか。
どうでもいい話だ。
うちのクラスの奴だが、クラスメートからもかなり嫌われている。現に自分も嫌っている。
(まあ…別にいいか)
既読は付いたが、
返信はしなかった。
履歴を削除する。
ついでだ、とばかりにブロックする。
先程の話が頭の中に現れる。
目の前の窓に映った自分が、
にやりと笑った気がした。
「ただいまー…」
不快なほどの静けさに挨拶する。ドアを閉じ、明るい廊下を何の気なしに歩いていく。今日も誰もいない。少し安心する。
椅子に股がり、テレビを点ける。つまらないニュースの山。あの政治家のセクハラ発言だ、どっかの国の領土問題だ、芸能人同士の結婚だ、全て直接的には自分と関係ない。聞き流す。
《続いてのニュースです。先日から続いている怪奇殺人事件のカギは、なんとSNSである可能性が浮上しました》
キャスターが深刻そうな顔をして言ったそれは、おそらく今日ずっと自分の心を掴んでいた話題。見出しを聞いただけでわかった。女子高生の会話が脳裏を駆ける。
その事件についての全容を聞かされ、背筋が凍るようだった。
特にテーブルの上のスマホがバイブ音を立てた瞬間は。
ビクッとしながら、やや落ち着いてから一言「馬鹿らしい…」とだけ呟いて手を伸ばした。
【****さんから[†≫∵£]に招待されました。】
何だこれは。
まず第一、このグループ名なんて読むんだ。そして「****」って誰だ。誰が改名したんだ?
「また気味の悪い名前にして…」
LINEを起動し、犯人を探そうとした。
しかし、グループの画面を出した瞬間に気づいた。こいつは友達登録していない。
不気味な悪戯だと思った。
とりあえず拒否する。
すぐに通知が来て、また招待された。
しつこい悪戯だと思った。
今度はブロックする。通報もした。こういうのには徹底的にやる人間だ。
が、しかし。
【****さんから[†≫∵£]に招待されました。】
さて、事態がますます不可解になってきた。
これはおそらく参加するまで続くだろう。それも鬱陶しい。入ってすぐ退会しよう。そうしよう。
とりあえず参加。なぜか操作を誤ってトークに入ってしまった。挨拶も何もない。とにかく退会しようとオプションを開き、「退会」を押す。
【退会できません】
目を疑った。退会できないグループに入ってしまった。そんな話聞いたことがない。これは取り返しのつかないことをしてしまったようだ。
ノートに一件追加される。
―――――――――――
****{「読め」]
―――――――――――
とりあえず命令に従う。
ノートの内容は不可解そのものだった。
―――――――――――
いらく、いらく、いらく
よいしみさ、よいしるく
よてけつみをくぼかれだ
よだいがねお
かぬしかるきい
いならかわもにくぼ
ばれけつみをくぼにょしいさ
らかいなしもにな
ようぼそあけだしこす、もで
てっやとこたっいがくぼ
いれいめはれこ
いないけんかはしいのみき
らほ
「うしろにきをつけて。」
―――――――――――
その瞬間、全ての状況判断思考が危険を察知した。なぜもっと早く気づけなかった!?
家に帰ってきた時点で、
電気をつけた記憶がない。
右に転がるように回避する。
椅子が倒れ、態勢を崩す。
隣を金属製の反射光が掠める。
ナイフだ。それを持つ手を辿ると、無表情の生気の無い目でこちらを見る影。
これまでにない音量で絶叫し、もたつく身体に鞭打ってよろめきながら玄関へ向かう。鍵を閉めた数分前の自分を呪う。
何度も手を滑らせながら鍵を回すが、後ろを振り向くとすでにそこに「奴」がいた。
ナイフを小脇に抱えるように持ち、そのままゾンビのような動きで近づいてくる。
何かの液が垂れる音がする。
目の焦点が合っていない。
幾つか歯が抜けた口から緑の液が流れる。
心臓の動きが服の上からもわかる。
全身の毛が逆立ち、全身から冷や汗が噴出する。
目眩がひどいが、「奴」の姿だけがはっきりと見えている。
腐臭を放つその身体が近づくにつれ、意識だけが後ろに下がっていく。
そしてナイフが腹をめがけて迫った瞬間。すぐ隣の倉庫の奥に入った。長い棒状の物を探す。
暗い部屋の中を手探りで捜索し、やっと何かを掴んだ。
古い蛍光灯だ。切れた物を捨てるのを忘れていたらしい。
過去の自分と神に感謝し、その中身の固さを確認する。武器としては使えそうだ。一撃限りになりそうだが。
「ほら…来なよバケモノォァ!!」
半分狂気じみた様子で奴を挑発し、自分に近づけさせる。
頭、脳天に向けて全力で蛍光灯を打ち付ける。凄まじい音を立てて粉砕し、バケモノがよろめく。腐蝕した頭から緑色の飛沫が飛び散り、床が染まる。
血飛沫のようなそれと同じ色の液を頭から垂れ流しつつ、バケモノは倒れ込んで微動だにしなくなった。手に握られたナイフを奪い、柄に付いた皮膚を取り除く。汚ならしいナイフの刃にはグループ名と同じ文字が。
(何て読むのこれ…ってか何で記号…?)
はっとした。
注意が完全にナイフだけに向いていた。背後には一切の注意が向けられていなかった。
先程のトラウマに取り憑かれたらしい。
ナイフを戻そうとしたが、遺体は既に溶解してしまっていて戻す気にもならなかったし、ナイフ自体が腐蝕し始めていたのでとりあえずゴミ箱の中に入れておいた。
家の中に誰もいないことを確認し、窓と扉に施錠したことを確認した。家の中にいたくなかった(というよりあの遺体と同じ空間にいたくなかった)が、外に出るのも怖くなってしまい結局自室に鍵を厳重にかけて閉じ籠った。部屋にあったラックの部品である金属製の棒を握り締めて震えていたが、知らない間に眠ってしまった。
通知音で目が覚める。
かなり本格的に寝てしまった。
(危なかった…また何かいたら終わってたな全く…)
とりあえず眠気に苛まれつつ髪を左手でいじりながら部屋を出た。
(あ、今日ゴミ出し…)
超眠い状態で頭が半分働いていないままに全ての部屋のゴミ箱を集める。どうせ紙くずしか入ってないが、今日もコンビニの袋を真っ白にしながら肩で押すように家を出た。
ゴミ袋を集積場に投棄し、満足げに帰ってきた。やや軽い感じもしたが、気にはしなかった。
そういえば、通知が来ていた。
【LINE:通知4件】
―――――――――――
****{「1日目 開始」]
****がノートに投稿しました。
****{「読め」]
―――――――――――
ノートに新しい投稿がある。
―――――――――――
いわこ、いわこ
だやいはびんぞ
たっかたげに
たっだめだもで
たっなくなゃじとひはくぼ
ゃしかんさはみきらかうょき
くごうでいれいめのくぼ
めつとひ
「みんなともだち」
―――――――――――
…つまりは、このグループ全員友達登録しろ、と。
指示通りに全員登録する。
従わなければ何をされるかわからないような気がした。昨夜のこともあり、かなり憔悴しているのがわかった。
上から順に登録する。
タカ。
ド派手なギターのプロフィール画像が目を引く。
かなちゃん。
ピンクっぽい何かのキャラクターがいる。興味が無いために知らない。
ナミィ。
ベンゼン環…だったか、特徴的な六角形が映し出されている。
アステカ。
太陽の石、と言われるマヤの古代遺跡のプロフィール画像。
片岡。
おそらく本名。プロフィール画像がない。
haze。
プロフィール画像が完全に病んでる。「私なんていなくてもいいよね」といった内容の書かれたネガの画像だ。
カイト(兄)。
弟がいるのだろうか。大学生くらいの青年二人が肩を組んでいる。
ハピー。
パステルカラーで大きく「HAPPY」と書かれたプロフィール画像。一言もかなりハイテンション。
はるっち。
自作のイラストだろうか。鉛筆で描いたようなプロフィール画像だ。
TPG-1。
銃には少し知識がある。プロフィール画像は明らかにTPG-1スナイパーライフルだった。いい友達になれそうだ。
KAZ。
読みはカズ、でいいのだろうか。有名マンガの一コマがプロフィール画像。
アルトカ。
画像と一言から察するに、名前はアルマジロトカゲの略。
そして13番目が私、川嶋絢香。
LINE名あやち。
―――――――――――
あやち{こ、こんちはー…]
タカ{あ、はい、初めまして]
TPG-1{何なんですかねこれ]
カイト(兄){まあ犯罪臭はすごいッスよねw]
アステカ{皆さんも既読無視のせいで?]
カイト(兄){僕は多分そう]
ナミィ{既読無視してここに来た方全員挙手ノシ]
アルトカ{ノシ]
アステカ{ノシ]
タカ{ノシ]
TPG-1{ノシ]
KAZ{ノシ]
片岡{ノシ]
かなちゃん{はーい]
ハピー{うーっす]
はるっち{ノシ]
あやち{はい]
haze{ノシ]
ナミィ{みんなそうか]
haze{もうマジ何これ…気味悪すぎだと思いません?]
タカ{確かに]
アルトカ{もはや悪戯の域じゃなさそうですよね]
片岡{とりあえず今は]
片岡{指示に従ってりゃいいのでは?]
タカ{そうですね]
KAZ{確かに]
―――――――――――
みんな既読無視が原因で来たと言う。私がやった奴はクラスの人しか友達登録していない。みんな多分違う人に対して行ったはずなので、まだ****の正体はわからない。
―――――――――――
****{「終了」]
****がノートに投稿しました
****{「読め」]
―――――――――――
新しい指令が来た。
―――――――――――
たっのいにまさみか
いないもれだ
いなれくてけつみもれだうも
いしほてけつみくやは
んばんほがらかここ
みかなのびそあのこ
よるめじは
「いきのこれ、ちてん「イ」へ」
―――――――――――
部屋のドアを乱暴にノックする音が聞こえ、何かが落ちる音がした。
恐る恐るドアに近づく。
心臓が昨日を思い出す。
警戒が高まる。
いまになって気付いた。
間違いなく奴らはこの家に侵入できる状態にある。
現に、あのナイフがもう既に持ち去られているのだから。
家の前に何が落ちているのかを確認する。足下には小さな木箱が放置されている。
辺りを確認しつつそれを部屋に迎え入れる。
中身は布にくるまれた何か。
布を解く。
「うわっ」
鎮座していたのは、拳銃。
私自身銃には少し知識があったので、どの銃かの判定に移る。
オートマチックだ。全体が黒い。銃身の一部が淡く黄緑色に光を放つ。大きさや重さにはあまり特徴がない。
銃身には刻印もなく、どこの会社の物かも判定できなかった。
―――――――――――
ハピー{拳銃キター!?]
ハピーが画像を送信しました
あやち{あ、私のとこも同じ]
あやちが画像を送信しました
アステカ{こっちも同じ物が]
タカ{誰かこれ何て銃なのか教えてくれ]
ナミィ{誰かミリオタ求む]
TPG-1{呼んだか]
ナミィ{おお、ちょうどいいところに]
ナミィ{届いた?]
TPG-1{さっきからずっと鑑定してる。全然わからない。ゲームの銃みたいな感じだなこれ]
タカ{流通してない銃ってことか?]
TPG-1{まあそういうことになるな]
アルトカ{マジかよ…]
あやち{じゃあ、これの反動の大きさとかもわからないんですよね]
TPG-1{やってみよう]
タカ{ああ、頼みます]
TPG-1{反動がかなり小さい。夢みたいな銃だな]
アステカ{おお]
TPG-1{片手でも撃てるなこれ]
タカ{他には何かわからんか]
TPG-1{リロードとかは普通のオートマと同じ。まあ機構も多分普通の拳銃と大して変わらないと思う]
はるっち{ありがとーです]
KAZ{とりあえずパンピーにも使えるってことで大丈夫か?]
TPG-1{大丈夫]
かなちゃん{よかったー]
カイト(兄){少し安心しました]
タカ{とにかく、こいつをどこで使うのかは知らないが奴が指定したとこまでは行こう]
haze{私行きたくない]
アステカ{どした]
haze{行かなければここで死ねるんでしょ?]
アステカ{まあその可能性ってか死ねるというより死ぬよな]
haze{もうヤダ。殺してくれるならここにいる]
アステカ{君さあ…]
片岡{放っておけ]
アステカ{お前もかよ]
片岡{死にたがってんのはこいつだ。好きにさせておこう]
タカ{…]
―――――――――――
結局「haze」だけを現在地に取り残して指定地に向かうことになった。満場一致で銃は持参することが決定した。
地点「イ」を探す。
先程の箱の中に地図が内包されていることがわかり、地図を広げてみる。現在のこの近辺の地図が複数枚。[1]と赤で書かれた物を取り出し、地点イを探す。家からそれほど遠いわけではなかった。電車で15分ほどの駅の構内に点がある。
「行くか…」
銃と地図と財布をいつものカバンに放り込み、黒い帽子を深くかぶり直す。コートの襟を正し、家の中に向き直って小さな声で「いってき…」と言いかけた。しかしその言葉を飲み込んでから一言「…さよなら」とだけ言い残して歩き出した。
家から出る。もう帰ってこられないかもしれない恐怖と不安から、出てきたことを後悔する。
あの人と同じように引きこもってても大丈夫なんじゃないか?
そんな考えも頭を過る。
しかしこれも自分で選んだ道。玄関で鍵を閉めずに家を出た。
9:15 AM 近江谷駅
本当に15分で着いた。
大体の予測で来たが、本当に当たるとは思っていなかった。
さて、構内のどの辺りだっただろうか。
地図を見つつ歩き回り、やっと指定の場所に辿り着いた。まだ誰も来ない。銃に手をあて、そこにあることを確認する。
先程から誰かが見ているような気がしてならない。
周囲を見回しても物陰はほとんどない。あるのは天井の監視カメラのみ。
最悪ここに誘き出されて襲われたとしてもこの銃があれば何とかなる気がした。
「あっ、あの」
背後から聞こえた可愛らしい声に驚き、軽く声を上げる。向こうもまた声を上げて驚く。
「あっ、ご、ごめん。ちょっとびっくりしちゃって」
「あ、いえ、こちらこそすみません…」
少女は女の子らしいかわいらしい服を着ており、身長は低め。不安げな表情を浮かべている。
(かわいいなぁこの子…きっとモテるんだろうなぁ…)
「あの、あなたもここに呼ばれたんですか?」
「あ、うん。そうそう」
「ってことは、あのグループの人で間違いない…ですよね?」
「そうだね。あれ、LINEで名前が"あやち"になってる人」
「ああ!あやちさんでしたか!」
彼女は軽く頭を下げる。
「はじめまして、新井加奈子といいます。LINEだと"かなちゃん"になってます」
「あー、はいわかったーこの子ね?」
LINEを起動し、「かなちゃん」の情報を開く。
「はい、これですー」
「私は川嶋絢香。よろしく」
「よろしくですー」
同じ女子同士、話が弾む。
軽く他愛もない話をする。
そうやっていても全く人が来ない。
―――――――――――
****{「2人組完成。6グループ」]
―――――――――――
「これ…2人ずつに区切られたみたいですね」
「そうみたいだね…え、でも待って」
「はい?」
「これの参加者って13人だったはずだし…引きこもった人はどうしたんだろ」
「あ、確かに…」
―――――――――――
****{「人数的問題は無い」]
****が画像を送信しました
****{「No.6 haze 死亡」]
カイト(兄){うおっ!?]
アルトカ{これは…]
タカ{何て物載っけてくれてんだよ貴様]
あやち{ヤバイ…気持ち悪くなってきた…]
ハピー{これはないわ…]
TPG-1{ヘッドショットっつったってこれ…]
****{「指示に従わなければこうなる」]
****{「お前たちと同じ銃でやった」]
アステカ{何!?]
タカ{こんな威力あったのか…]
はるっち{これもう…頭って言えるんですか?これ…]
かなちゃん{あやちさんが吐きかけてるので見られないんですが…ほんとに死んじゃったんですか?]
タカ{結構な惨殺だ]
―――――――――――
彼女が殺された可能性は高い。
ここまで死んだと決定されて、しかも姿を現さない。彼女はもう死んだのだろう。
これが見せしめか。
従わなくばこうなる。
かなり効き目のある脅迫だ。
しかもそれを、自分たちがいま持っている銃でやったというのだ。尚更自分の状態が怖くなる。
「だっ…大丈夫ですか?」
「ああ、うん…ギリ…」
「ほんと、大丈夫じゃなさそうなんですけど…」
「う…うん…結構ヤバイ…」
小声で「見なくてよかった…」と聞こえた気がしたが、今はこの襲い来る吐き気を処理しなくてはならない。必死で心を落ち着かせる。
「はあ…随分落ち着いてきた…」
「よかった…」
ずっと彼女が手を握っていてくれたおかげで癒された。かなり心理的に楽になった感覚があった。
とにかく、ここからどうしろと言うのか。
「いきのこれ」と言っていたが、まだ敵にも合わない。別に敵が出るようなものではなかったのか、もしくはここにたどり着けただけでも「いきのこった」事になるのだろうか。彼女の件を聞くとそう感じる。
―――――――――――
****がノートに投稿しました
****{「読め」]
―――――――――――
「来ましたね…」
かなちゃんがノートを開く。
―――――――――――
りとひはくぼ
てれらてすみとっず
つたもんねんなうも
いならかわかたいなけだれど
たっだきてなんみ
たっかなはでんぐきてもで
はきべるもまのくぼ
みがとひらあのくこうこがわ
たっだみのれそ
るくがのもんほろそろそ
つやいわこ
つやいかで
「やつをころして」
―――――――――――
またよくわからない文が来た。
「奴」とは誰だ?
参加者だろうか、それとも向こうのクリーチャーだろうか。
少なくとも、この討伐クエストで銃を使用するのは間違いないだろう。
「…!!」
かなちゃんの表情が変わる。
私の背後を指差す。
「あやちさん!後ろ!」
振り向くと、奴はそこにいた。
その目に命はない。
ぼろ切れを纏って歩く。
割れたヘルメットで頭を覆い、
口から何かを垂らしている。
それは死体とも、貧民とも、
怪物ともとれる姿を晒す。
ただ、両手にもった回転刃が、
鈍く唸りを上げるのみ。
―――――――――――
****{「第一:霧飛沫」]
―――――――――――
チェーンソーの唸りは最高潮に達する。
「やるしかない…!」
私は怖がるかなちゃんを少し後ろに下げ、銃を向けて対峙。
奴が動き出した。
「やめろ!やめろ!」
「黙って座れ!」
「国の為だ!」
「っ…」
「分析開始」
「…うっ」
「いい、続けろ…」