鳥籠壊したけど自由は遠い?
ふと思いついた纏まりのないおはなし。
かるーく流すように読んでいただければよいかと…
いろいろと突っ込んだら負けです(笑)
前半と後半で視点が変わります。
(;-_-) =3 フゥ
神様…加減にして欲しいわ。
生まれた時から持ち合わせている魔力は無限大
加えて、滅多に付かない精霊の加護
しかも四精霊(火・水・風・土)の加護
それに加えて今度は光と闇の加護ですって!?
いい加減にしてくださいな。
私は平々凡々の普通の女の子として暮らしたいの!
いつも誰かに纏わり付かれたり、監視される生活はイヤなの!
生後1か月の私の願いを神様は一部だけ聞き届けてくれた。
魔力と精霊の加護はよほどの力がない限りわからないようにしてしてもらった。
脅してはいませんよ?
ただ、夢の中で神様に会った時に、にっこり笑って
「私に過剰な力を与えて鳥籠生活を送れと仰るのですか?それが私の幸せだと?あなた方の下さらない喧嘩に巻き込まれて殺された補償が次世代での鳥籠生活…フフ♪なんて素敵なお詫びなのかしら…フフ♪」
と言っただけです。
ええ、各世界(異なる世界)を統治している神様方のくっだらない痴話喧嘩に巻き込まれて殺されたんですよ。
前世の私は!
手元が狂っちゃって死ぬはずじゃなかった君を殺しちゃったテヘヘッ(*゜ー゜)>
なんて言われて「はいそうですか」って納得する人はいないでしょ…
こちらから何か言う前に、私を殺した神様たちが土下座しながら幸せな人生が送れる世界に転生させてくれるというのでその話に乗っただけです。
過剰な能力を付けられて…
あ、容姿は普通にしてもらいましたよ。
絶世の美女とか…私にとっては拷問でしかないですからね。
美形は眺めるモノ……鑑賞するモノです。
自分がなるモノではありません。
平々凡々・・・地味子が一番ですから!
前世の記憶持ちだけでも平凡ではないという突っ込みは受け付けませんわ!
***
生まれ変わって早16年。
月日が流れるのは早いですね。
両親と幼馴染以外に魔力や精霊の加護の事がばれることなく平穏な日常を送っておりました。
幼馴染には精霊と遊んでいるところをうっかり見られるという失態を犯してしまいましたが、まあ秘密にしてもらえているので大丈夫でしょう。
もし、精霊の加護持ちだって大勢にバレたら俗世とおさらばしなければいけませんからね。
精霊の加護を受けた人は神殿に入って巫女修行をさせられるんですよ…精霊の花嫁として…
この世界は神と精霊を崇めている世界ですからね……
精霊の加護を受けている者は王族よりも偉いとされているんですよ。
権力争いなどにも駆り出されるので、それを防ぐために加護持ちだとわかると神殿に強制的に入れられてしまうんです。
表向きは保護ですけど……実質は精霊の力を悪用されないための監視ですね。
あ、私の精霊の加護については神殿の長である神官長様と国王陛下もご存知です。
お二人とも魔力が半端なく強いですから私が生まれた時点で知られております。
ですが、神様からの神託(?)で自由にさせよというお言葉を頂いたとかで自由にさせていただいております。
極稀に神託が下りて普通に生活を送れる加護持ちもいることは文献にも残っているので問題ないです(たぶん)
月に一度の礼拝をさぼらなければという条件付きですが自由を確保できたのは嬉しいですね。
月に一度精霊の長に神殿で報告しなければいけないのが面倒ですが……
私に常にくっついている精霊たち(一応私の守護精霊)についての報告です。
まあ、楽しくやっていることと、精霊の力が日々強化されていると毎月お決まりの報告をしているくらいですね。
16歳を迎えた私は王立魔法学院高等部に入学しました。
そして、気づきました。
この世界……前世で私が好きだったラノベ(ライトノベル)の世界にそっくりだってことに!
時々聞き覚えのある名前やら国名やらがあったからまさかね~っと思っていたら……
マジでラノベの世界でした……
確かに前世で好きだったよ。
シリーズ全巻そろえて何度も読み返していたよ。
こんな世界に生きてみたいって思ったこともあったよ。
でもね、それは二次元だから思った事であって、本当に生きたいって思うわけないでしょうが!
まあ、いまさらしょうがないですね。
別に主人公になったわけでも、メインキャラになったわけでもないわけですし……
そう!
私はモブ!
その他大勢なのだから関係ないわ~!
なんて思っていたのは1月ほど前でした。
私、しっかりちゃっかりメインキャラだったみたいです。
なんで?
私、地味子よ?
なのになんでメインキャラなの?
キラッキラでハイスペックな幼馴染(男)がいるから?
爵位持ちで美形で意外とハイスペックな両親と王都で敵う者がいないほどの実力を持っている兄(魔法騎士)と出世街道まっしぐらな姉(宮廷魔導士)がいるから?
どうやら私は、神様たちの喧嘩に巻き込まれて、死ぬ直前に購入したシリーズ最新刊のメインキャラに転生していたみたいです。
地味子の私はキラッキラの兄や姉、幼馴染の傍にいてはいけないそうです。
お約束の展開ですよね。
でもこのシリーズ、魔法ファンタジー中心で乙女的な要素(恋愛要素)はなかったような気がするんだけど…
作者様が方向転換したのかしら…
魔力が中の上(魔具で強制的に魔力を抑え込んでいる)、筆記試験は中の下(もちろんわざと落している)の私は、騎士として活躍されている兄や、宮廷魔導士として確実に地位を上げている姉の足を引っ張る存在らしいのです。
加えて、キラッキラのパーフェクト人間(容姿・学術・運動etcが完璧)である幼馴染(男)が私と親しいのが気に食わないそうです。
将来有望な人物の傍に地味子は不要ってことらしいです。
簡潔に言えば、高貴なお嬢様方の陰湿なイジメにあっています。
しかしね~
高貴なお嬢様方がお近づきになりという彼らの方が私に構う場合はどうしたらいいのよ。
兄と姉は血のつながった家族だから致し方ないけど…
キラッキラの幼馴染は近づくなって言えば言うほど近づくんだよ?
意図的に遠ざけても瞬時に距離を詰めるんだよ?
親切丁寧に説明しても高貴なお嬢様方にはお話が通じないので困ってしまいます。
同じ国の言葉を使っているのにお話が通じないのはなぜでしょう……
私が違う国の言葉を無意識に話してしまっているのかしら……
何度話しても通じない場合は兄達を通訳に立たせることにしましょう。
余計に拗れるかもしれませんけどね……
平穏な生活を得る為にはやむを得ないでしょう。
***
「うーん、どうしよう」
自室の机に試験要項の用紙を広げて唸っていると、ちびっこ姿の精霊たちがちょこんと机の上に座って私を見上げている。
「お父様に相談した方がいいかな?」
試験要項の備考欄に書かれている注意書きを指差すと精霊たちはコクコクとうなずいた。
「だよね……あとお兄様とお姉様にも相談しないとね」
椅子から立ち上がった私の肩や頭に精霊たちが飛び乗るのを待ってから試験要項の用紙を持って父の執務室に向かった。
父の執事に取り次ぎを頼むと即座に入室の許可が下りた。
兄と姉にも相談があると伝言を使い魔に託してからきっかり5分後、父の執務室に全員集まった。
兄も姉も王宮にいたはず……
王宮から我が家まで早馬を使っても10分はかかる…
きっと転移魔法を使ったのだろう。
ちなみに母は王宮にて王妃様のお話し相手をしていて抜け出せないらしい。
今回はあとで父経由で結果のみ報告してもらうつもりだ。
「…で、ミリアム。相談したい事とは?」
「はい、実は今度の学院の試験の事なのですが…」
試験要項の用紙をテーブルの上に置き、備考欄の所を指すと3人の視線がその部分に集まった。
「『魔力制御の魔具を身に着けて試験を受けてはならない』…って今までこんな項目なかったはずですわ」
姉の言葉に兄も頷き、父も首をかしげる。
「不正行為を阻止するために制御魔具を使うことは今までもあったが…今回はその逆?……ちょっくら国王に問いただしてみるか」
父はそういうなり、執務机の上に置いてある通信機に手をかざして国王陛下へのホットラインをつないだ。
実は、父と陛下は兄弟だったりする。
ちなみにこのホットラインは陛下と私たち一家しか知らないことである。
しばし、父と国王陛下との間でやりとりをしていたが父の表情がどんどん険しくなっていった。
「ああ!?そんな事でミリアムの魔力や精霊加護のことを公にしろというのか!?ふざけんな!」
突然怒鳴り出した父に兄と姉はびっくりして父の方を見た。
私は父の傍に立ち、通信機をマイク状態にした。
マイク状態にすれば父の執務室内ならだれでも会話に参加できるのだ。
ちなみにこの通信機は私が数年前に作ったもの。
精霊たちにこんな感じの作れないかな~と相談しながらいろいろやっていたら作れちゃったのだ。
欠点は特定の人物にしか繋がらないってことと魔力を大量に消費するってことかな。
まだまだ改良の余地はあるので現在試行錯誤しながらいろいろと研究をしていたりする。
「父上、どうしたのですか?」
恐る恐ると言った感じで声を掛けた兄に父はムスッとした表情で
「ミリアムを正式な王太子妃として公表したいから今回の試験でミリアムの本当の実力を周りに示したいんだと」
父の言葉に兄と姉はそれはそれは美しい笑顔を浮かべた。
「私達のミリアムちゃんの縁談を勝手に進めないでいただきたいですわね。アル」
「そうだね、ミリーのお婿さんは僕達を倒せるほどの人物じゃないとね~。サフィ」
兄と姉の不敬罪とも取れる言葉がしっかり届いたのか国王は慌てているようだ。
完全に私の事は無視状態だ。
「……試験放棄すればいいだけじゃない?」
私の言葉に父、兄、姉、国王は絶句した。
「制御魔具の使用を禁止するのは本試験の時だけ、追試の時は制御魔具を付けて受けれるんでしょ?陛下」
『あ、ああ……』
ちなみに王立魔法学院の最高責任者は国王陛下だ。
今回の試験要項に魔具の使用禁止を言い出したのもきっと陛下だろう。
『でもいいの?ミリちゃんを貶している子達を見返すチャンスだよ?』
「言いたい子達には言わせておけばいいんです」
そっけなく答えると陛下は落ち込んでしまったようだ。
本試験放棄で話を進めていたが、私の事を貶している意地の悪い侯爵令嬢様達(幼馴染の熱狂的な信者)のせいで本試験を本気モードで受ける羽目になってしまった。
そのことを知った陛下は狂喜乱舞していたと幼馴染が苦笑いをながら報告してきたが、私はしばらく陛下とは口を利かないことにした。
ちなみに、魔具装着の件は書類の書き間違いということで処理された。
不正防止のために魔力制御の魔具を付けることが義務付けられたのだった。
試験は私がぶっちぎりで実技も筆記も1位を獲得したがカンニングしたのだと騒がれた。
私は別にそれでも構わなかったのだが、兄と姉がそれはそれは美しい笑顔を浮かべて
『そんなに疑うのなら公開試験を行えばいい。まあ、僕(私)達の優秀な妹が不正をするはずありませんけどね』
と各々の職場で声高らかに愚痴っていたという。
全校生徒の前で正規の魔法騎士(一応入団間もない下っ端)相手に魔法騎士の特訓並に激しい魔法実技を披露し見学者の度肝を抜き、全校生徒の前で…しかも国王陛下が直々に口頭試験を行い不正行為がなかった事が証明された。
なぜ私だけ2回も試験を受けなければならないんだ!
不公平だ!!
絶対に後で抗議してやる!
結果
実技試験の時の魔法騎士団団長(魔法騎士団の最高司令官)直々の指名(兄曰くものすごい名誉な事らしい)にも関わらず、やる気のない、人を見下したような魔法騎士(入団間もない下っ端)の態度にカチンときて魔具が壊れる直前まで魔力を最大限に放出して全力で相手を潰してしまい(その後その騎士は団長自ら死んだ方がマシと思える程の特訓を受けているらしい)、無限大の魔力の事もすべての精霊の加護を受けていることも公になってしまった。
私の平穏な学園生活が終えた瞬間だった。
今迄仲の良かった友人達から距離を取られ、学院内でボッチ生活を送る羽目になった。
もう、田舎(領地)に引き籠ろうかな~
******
【ミリアムの兄・アルフォード視点】
「さ~て、次は誰かな?(僕の可愛い妹を無能だと貶してくれたのは)」
公開試験後しばらくしてからミリアムが学院に行きたくないと言い出し学院を休むようになった数日後、僕と双子の妹のサファイアは魔法学院を訪れた。
国王からの許可を貰って一日だけ僕達が特別授業を行う事にした。
一応、国一の魔法剣士と言われている僕と宮廷筆頭魔導士候補であるサファイア。
僕たちはその地位を利用することにした。
現在の魔法学院では現役の魔法騎士と宮廷魔導士が学生を指導することはほとんどない。
卒業後、それぞれの部署に配属されて初めて指導を受けるのが普通だ。
「まったく、この程度で私達の妹を貶していたかと思うと片腹痛いですわね」
地面とキスをしている複数の生徒を見下しながらサファイアが微笑む。
あちゃー、サファイアがキレてる。
大方、ミリアムの事で何か言われたのだろう。
サファイアは普段は温和だなんだと言われているが妹のミリアムの事が絡むと豹変する。
きっと彼らはミリアムを貶すようなことを言ったんだろうな。
僕とサファイアが究極のシスコン(溺愛者)であることは社交界に出ている人ならだれもが知っていることだ。
ミリアムは3歳の誕生日を迎えるまでベッドから出ることがほとんどなかった。
父や陛下、神官長様が仰るには強すぎる魔力を自分の体に取り込むのに時間がかかるからだという事だった。
僕たちは平均よりちょっと多いくらいの魔力だけど、ミリアムの場合は未知数・・・限界がないという。
それを小さな体に抑え込むのはほとんど無謀というものだった。
魔力に耐えられない者にあるのは『死』のみ。
だが、ミリアムは生まれながらに精霊の加護を受けている。
あまり知られていないが精霊は神様の御使いでもある。
人間の良し悪しを判断し、定期的に神様に報告しているという。
神の御使いである精霊の加護がある限り天寿以外の『死』はありえないという。
ミリアムの守護精霊の一人が教えてくれた。
ミリアムは小さな体に成人男性でも受け入れるのが不可能と言われる魔力を取り込み自分のモノとした。
精霊が時々、ミリアムから魔力を貰い調整しているけどほぼ自分のモノにしていると言っていいだろう。
一度は神殿預かりになるはずだったミリアムだが、度々の神託でごく普通の女の子として生きていくことになった。
未知数の魔力と複数の精霊の加護と不思議な知識を持ち合わせているミリアムだが僕にとってはかわいい妹だ。
一度両親に問われたことがある。
「ミリアムはお前たちよりも大きな魔力を持っている。他人から見たら化け物並みの力だ。それでも、お前たちはミリアムを愛せるか?」
両親の問いは僕とサファイアにとっては愚問だった。
「ミリアム…ミリーは僕の可愛い妹だよ。化け物?そんなことを言うやつらは僕が退治するから大丈夫だよ」
「お父様、お母様それは愚問というモノです。私たちがミリアムちゃんを怖がるとでも思っているんです?私とアルはミリアムちゃんがお母様のお腹の中にいる時からその巨大な力を知っていたのに?」
そう、僕とサファイアはミリアムが母のお腹の中にいる時から知っていた。
とてつもなく巨大な力をもって生まれてくることを。
最初は二人してどうしようかと相談していたけど、生まれたばかりのミリアムを見た瞬間僕たちは即決した。
何が何でもこの可愛い妹を大切にしよう!
たとえ世間から疎まれようとも僕達だけはミリアムを守ると…
ミリアムが5歳の時、幼馴染の王太子が我が家の中庭で精霊と遊んでいたミリアムに一目ぼれしたのはある意味誤算だったけどね。
5歳年下のミリアムを可愛がる王太子。
国王は嬉しそうに見つめているが王妃は違った。
王妃は自分の実家の一族の娘を王太子に与えたがっているのは誰の目にも明らかだった。
また、その娘も王太子妃という『地位』を貪欲に求めている。
事あるごとにミリアムをいじめていたのだ。
周りの大人には分からない様に……
「おいおい、全員潰しちゃったのかよ」
実技室という名の競技場の観客席の後方からのんびりと降りてきたのは王太子殿下。
見学をしていた者達からざわめきが広がる。
しかし殿下はそんな周りをまるっと無視をして競技場に降り立った。
「俺の分を残しておけって言っていただろうが」
「来るのが遅いのが悪い」
虫の居所が悪いサファイアに王太子は肩を竦めた。
「大丈夫ですよ殿下。殿下の分はしっかり残してあります。今頃、隣の部屋でどう逃げ出そうか画策していることでしょうから…ここに呼び出しましょう」
指を鳴らすと床にへばりついている者達の上に数名の男女が落ちてきた。
彼らはいきなりの事で目を白黒させているが目の前に王太子がいることに気付くとすぐに姿勢を正した。
「この者達が殿下のお相手をいたします」
僕の言葉に彼らは顔を真っ青にさせる。
「ほう、この者達が先頃行われた公開試験を行った者より実力が上だという者たちか…楽しみだな」
そういうと殿下はゆっくりと腰に下げていた剣を抜いた。
数分後
「ふん、肩慣らしにもならないではないか。アルフォード、俺の相手をしろ」
「御意」
殿下の言葉に競技場に倒れている者達は教師たちによって救護室に運ばれた。
サファイアはいつの間にか観客席に移動してた。
「殿下、今日は全力で行っていいですか?」
「構わん。もとより俺は全力を出すつもりだ」
にやりと笑う殿下に僕の自然と笑みが浮かぶ。
審判役の教師に視線を向けると震えながら開始の合図を出した。
「ミリアムには悪いが、平穏な生活は送れなくなったな」
「仕方ないですよ。何時かはバレることです」
「せめて、学院を卒業してからにしたかったんだけどな。父を止められなくてスマン」
「陛下には十分罰を与えておりますから気にしないでください」
剣を交えながら交わす言葉に殿下は苦笑いだ。
僕と殿下の打ち合いはなかなか決着が付かず、授業終了まで行われたのだった。
僕と殿下の試合を見て、ミリアムの同級生たちは顔を真っ青にさせていたけど…まあいいか。
先日行われたミリアムの公開試験以上の迫力をわざと醸し出して、ミリアムの力はまだまだだと思わせるためだ。
魔法騎士を目指している者、魔導士を目指している者の顔つきが変わったのはちょっとした収穫かもしれない。
彼らが卒業して入団試験に合格後、それぞれの部署に配属されたらさぞかし使い勝手のいい駒に成長していることだろう。
「まったく、全力で戦って倒れるなんて情けない。戦場だったら死んでいるわよ」
僕の執務室で僕と殿下がソファでくたばっているとサファイアがため息を付きながら回復薬を紅茶に混ぜた。
「そうそう、ミリアムちゃんだけど学院に退学届を出したそうよ」
「「はぁ!?」」
サファイアの言葉に僕と殿下は素っ頓狂な声を上げてしまった。
「しばらくは領地で研究に没頭するそうよ。お父様もあっさりと許可したみたい」
くすくすと笑うサファイアに僕と殿下は顔を見合わせて盛大に息を吐いた。
「それと、社交界デビューは無期延期。社交界には出さないそうよ」
「は?それは困る!冬に行われる大舞踏会では俺の相手を……」
「無理です」
「だが…」
「無理なモノは無理です。ミリアムちゃんが全力で拒否っております」
「…………」
「まあ、大舞踏会までは半年以上ありますから殿下の努力次第では……ね」
にやりと笑うサファイアに気付かず殿下はものすごい勢いで僕の執務室を後にした。
きっと事細かな計画を練るために自分の執務室に戻ったのだろう。
明日には辞典並に分厚い計画書が僕の机の上にあるんだろうな~
「サフィ……ギルを煽ってどうするんだよ。ただでさえ王妃派の侯爵令嬢達がうるさいのに…」
「侯爵令嬢が何よ!私たちは貴族の中で最高位の大公の子よ?表向きには知られていないけど王位継承権だって持っているのよ?私たちに逆らえるわけないじゃない。それに陛下も王妃様や侯爵令嬢たちの行いを苦く思っているみたいだからね。そろそろ動くわ」
「はあ、僕はミリーは領地で大好きな研究をさせてあげたいよ」
「私もそうさせてあげたいけど……」
「魔力が大きいのも考え物だね」
「まあ、すべては殿下の努力次第ね。あの子は簡単には落ちないだろうけど……わからない程度には妨害しても構わないわよね」
意地の悪い笑みを浮かべるサファイアに僕はもう何も言うまいと思った。
ミリアムはその巨大な魔力を有しているということで王家と神殿が認めた唯一の王太子妃候補。
ただし、神様からの忠告でミリアムが王太子を気に入らなければ無理に嫁がせないことが誓約書として神殿に保管されている。
その後のミリアムについてちょこっと教えておこう。
『憧れの人が帰ってきた!』と諸国を旅歩いて見聞を広げていた先代の筆頭宮廷魔導士(母方の大叔父)に押しかけ弟子入りし、我が家に寄り付かなくなった。
王太子は必死にミリアムを振り向かせようと努力中とだけ言っておこう…
【補足】
ミリアム達の父親は先代国王で現宰相です。
幼い頃に王位に就き、息苦しい生活を送っている時に出会った後の妻(ミリアム達の母親)に一目惚れして、妃に望むものの周りから反対された。
そこで、弟(現国王)を後継者に決め、容赦なく帝王学をたたき込み、弟の成人と共に譲位。
大公の位を弟から貰って最愛の妻を誰にも文句を言わせずに娶って穏やかに暮らしていた。
兄弟仲は悪くはないが弟の妻(王妃)との折り合いは悪い。
だが、ミリアム達の母親と王妃は仲が良い。