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黒の錬金術師 -黒の称号を冠する者-  作者: 辻ひろのり
第4章 特区構想計画編
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第90話 闇夜の逃避行

 ヴァルカンらの乗る数台の馬車が、月明かりの夜道をひた走る。

 仕事を終え、アジトに帰還する最中である。


「ん……んんん!」


 猿轡さるぐつわをされた婦人が唸る。

 そして、拘束を外そうと暴れている。


 拘束されているのは、婦人とその娘たち二人。

 第7支部の荒事解決のため、貴族から拉致してきた女たちだ。


「む"む"む"ー! んむむ! んむ!!」

「おいおい? レディーが端ないぜ?」

「んむ”ー!! む"む"む"、んむ"む"!!」

「何を言ってるか分かりゃしねえな……。どれ?」


 ヴァルカンは徐ろに動き出し、婦人の猿轡さるぐつわを外しに掛かる。

 それ見て、スピネルが止める。


「ちょっと! 何しようってのよ?」

「何って、猿轡さるぐつわを取るんだよ」

「それはアジトに帰ってからでしょ? 今やる事じゃないわよ?」

「まぁそう言うなって」


 猿轡さるぐつわを取り外すと、婦人は大声で叫ぶ。


「なんて無礼な!! 今すぐ拘束を解きなさい!!」

「構わねえぜ」

「ちょ、ちょっと!? ヴァルカン?」

「物分かりがよろしいようね。さあ! さっさとなさい!」


 しかし、ヴァルカンはすぐには拘束を解こうとしない。


「さっさとなさい! 私の命令が聞けないとでも言うの!?」 

「別にアンタの命令に従ってるつもりはねえが、拘束を解いた後、どうするつもりだ?」

「貴方には関係ない話よ!」

「確かにな……。ここはアンタらのいた領地まで3日は掛かる距離だが、帰ろうと思えば帰れるだろう。だが、無事に帰れるかは別問題だぜ?」

「そのくらい心得ていますわ! さあ、早くおし!」


 ヴァルカンは婦人の拘束を解き始める。


「一応言っておくが、アンタらを甚振いたぶるために拉致した訳じゃねえ。事が済めば、無事に帰してやる予定だ」

「悪党の言う事を信じるほど、私は落ちぶれていませんわ!」

「威勢はいいな。よし! これで開放だ」


 婦人は拘束が解かれると、娘たちの拘束を解き始める。

 ヴァルカンは御者に指示を出し、馬車を止めさせた。

 そして、馬車のドアを開ける。


「さあ、望み通りにしてやった」


 婦人たちは馬車から降りたが、そこは……真っ暗な森の中。

 僅かに遠くに光が点在しているのが見え、それが村である事が分かるが、距離はかなりありそうである。


「気が変わったか?」

「な、何を言うのです! 見逃してあげるから、さっさとお行き!」

「へえへえ。よし、出せ!」


 婦人たちを森に置き去り、馬車は出発した……。



 ◇



 森の中は真っ暗で、月明かりでやっと見える程度である。

 暗闇の奥からは獣の鳴き声が聞こえ、うっそうと生い茂った木々が風に揺れるたびに恐怖を煽る。

 足元の見えぬ暗闇と、泥濘ぬかるんだ地面に足を取られ歩くのもやっとである。

 次女のマリアーヌが泣きながら婦人にすがる。


「お母様……グス。怖い……グス」

「ラーミリア家の者が泣き言を言ってはいけません。堂々となさい」

「でも……」


 長女のケリーヌがマリアーヌに寄り添う。


「大丈夫よマリアーヌ。いざという時は、姉様が守ってあげるわ」

「お姉様……」

「ケリーヌ、マリアーヌ。もう少し頑張りなさい。村に着けば屋敷まですぐよ」

「はい。お母様」


 やっとの思いで村に着くと、婦人は村人相手に馬車を借りる交渉を始めた。

 しかし、なかなか馬車を調達する事ができなかった。


 馬車とは、貴族や金に余裕のある商人が持つ物であり、普通の庶民にはなかなか手が出ない代物である。

 例え馬を所有していたとしても、貴重な馬を貸し出すにはそれなりの技量と信頼が必要になる。

 単純に、金でどうにかできるものではないのだ。


「貴族様。申し訳ねぇが、うちの馬は貸せねえんだ」

「だから言ってるでしょ? 領地に着けば、馬の一頭や二頭差し上げられますわよ」

「そうじゃねえんだが……。帰ってくれ!」

「ちょっと話をお聞きになりなさい!」


 ドアを閉められ、呆然と立ち尽くす婦人。

 婦人を気に掛けケリーヌが声を掛ける。


「お母様。次に参りましょう」

「そうね……」


 婦人たちの馬車探しは続いたが……結局、借りる事はおろか、一晩泊めてくれる家も見付からなかった。

 止む得ず、その晩は野宿となった。



 ◇



 翌朝、再び一軒一軒交渉を試みる。


「水と食べ物を分けて頂けませんか……」

「アンタらに同情はしたいけど……今年は満足に備蓄もできてないんだ。この冬を乗り越えられるかすら分からないんだ」

「ですから、この宝石と交換では駄目でしょうか?」

「宝石ねぇ……。今は宝石より食料の方が価値があるんだよ? いくら頼まれても、うちには無理さ」

「そこをなんとか……」

「うるさい! 帰れ!」


 大きな音を立て、ドアが閉じられてしまった。


「ここも駄目なのね……」

「お母様。次に参りましょう」

「でも……これですべて回ったわ」

「なら、隣の村に向かいましょう。行商の方がいれば、途中まで乗せて頂くお願いをしても良いと思いますわ」

「……そうね」


 婦人たちは隣の村に向かう。

 その道のりは険しく、簡単ではなかった。


「お母様……もう……歩けないです」

「マリアーヌ、頑張りなさい」

「はい……」


 マリアーヌは小さい体で懸命に歩き、ケリーヌがそれを支える。

 が、しかし……マリアーヌはへたり込んでしまった。


「マリアーヌ? 大丈夫?」

「はい……お姉様」

「お母様、少し休憩を取りましょう」

「そうね。ケリーヌは大丈夫?」

「はい。私は平気です。それよりお母様こそご無理をされないでください。昨晩はろくに寝ていらっしゃらなかったようですし……」

「私の事はいいわ。それにしても喉が渇いたわ。何か飲み物を探してくるから待ってなさい」

「私も行きます」

「ケリーヌはマリアーヌを見てて頂戴。私が探してきますわ」

「はい」


 婦人は飲み物を探しに行った。

 しばらくし帰ってくると、小さな小瓶を持って帰ってきた。


「お帰りなさいませ、お母様」

「少しだけど水を汲んできたわ。これを飲みなさい」


 ケリーヌは小瓶を受け取ると、マリアーヌに飲ませた。

 昨日から食事も水も取っていなかったためか、マリアーヌはおかわりを要求した。

 少し元気になった娘を見て安心した婦人は、娘たちを連れ水場に向かう。


「ここよ」


 婦人の指し示す水場は、藻で緑掛かった色をしていた。

 手で掬ってみると、水は透明であり、泥水のように飲めない雰囲気はない。

 皆水辺に腰を降ろし、夢中になって水を飲み始めた……。


「まるで生き返るようです。水がこんなにもおいしいとは思いませんでした」

「そうね。私もこんな目に会うまでは知らなかったわ」

「お姉様。ここなら体を洗う事もできますね」

「そうね……。お母様、ここなら人目にも付きません。身を清めるに丁度いいかもしれませんわ」

「……仕方ないですわね。お父様には秘密にするのですよ」

「はい」


 一時の安堵。

 婦人たちは身を清め始めた……。



 ◇



 もう日暮れ間近である。

 歩けど歩けど、次の村は見えてこない。

 婦人らは疲れきっており、覚悟を決めて野宿をしようと心に決めた時、後方に荷馬車が見えた。


「お母様! 荷馬車ですよ!」

「荷馬車? 良かったわ! 助けを求めましょう!」


 荷馬車が近づいてくると、手を振る。

 御者台に座っていた青年が手を振ってくれた。

 荷馬車は婦人らの前で止まると、青年は御者台から降りた。


「どうされたのです? こんな危険な場所を女性だけでとは?」

「私たちは悪党に拉致され、やっとの思いで逃げ延びてきた所なのです。どうか、どうかお助けください」

「構いませんよ。荷物で狭いと思いますが、荷台で構わないでしょうか?」

「ありがとうございます! このご恩は、必ずやお返し致します!」

「いえいえ。こういうのは助け合いですからね。……もしかして、食事もろくに取られていらっしゃらないのですか?」

「お恥ずかしながら、着の身着のままでございます」

「そうですか……。食料品は僅かにしかございませんが、良かったらお召し上がりください」

「あなた様は商人様でいらっしゃいますか?」

「ええ。行商をしていますロベンと申します。主に食料品の売り買いをしています」

「ご紹介が遅れました。私はセリーヌ・ラーミリアと申します。こちらが娘のケリーヌ。そして末娘のマリアーヌです」

「ラーミリア……。まさか、ラーミリア侯爵家の方々でいらっしゃいますか?」

「事情は先に述べた通りでございます。差し支えなければ、屋敷までお送り願えませんでしょうか?」

「は、はい! お安い御用です! ささ、荷台にお乗りください」


 婦人たちを乗せると、荷馬車は出発した。

 しばらくし隣の村に着いたが、荷馬車は止まらない。

 荷台に乗る婦人が御者台に座るロベンに聞く。


「ロベン様。この村には止まらないのでしょうか?」

「私の住む村はこの村の先なんですよ。この辺には宿はありませんので、今夜は私の家に泊まっていってください」

「お心遣い、ありがとうございます」

「ところで……どこの野盗があなた様方を拉致されたのでしょうか? 私はこの辺の事は大体知っているのですが、貴族様を狙うような輩はいないはずなのですが……」

「分かりませんわ。黒一色の鎧を着込んだ男と、黒いローブを纏った女のようでした。どこぞの者までは……」

「黒の鎧……。噂に聞く、ぬえという輩かもしれません」

ぬえでございますか?」

「ええ。何でも、万を超える兵団を僅か2名で倒したとか? 先に起きたバリスデン伯爵領と、ガトリール男爵領の戦争を止めたという伝説の者たちです。その者たちも黒い鎧を着込んでいたと聞きます」

「噂には聞いていましたが、そのような者たちだったのですか……」

「……まさか、追われてるという事はないでしょうか?」

「それはないですわ。ラーミリア家に恐れをなして、怖ず怖ず開放したのだから」

「さすがはラーミリア侯爵家であります。これで心配事が減りました」


 婦人とロベンが話している時、荷馬車の後ろの方にいたケリーヌは、マリアーヌを膝枕しながら転寝をしていた。

 道のくぼみで荷馬車が大きく揺れ、荷台に置かれた物がガシャガシャと音を立てる。

 ケリーヌは揺れと音で目を覚まし、辺りを見渡すと……荷台に詰まれた木箱から「妙な物」が飛び出しているのが見えた。

 それは、剣。

 箱の中を見ると、剣の他に鎧や壷、貴金属のアクセサリーなどが雑然と詰められていた。


 何処からともなく音? 声のようなものが聞こえてくる。

 不信に思ったケリーヌは、ロベンに気付かれないように他の木箱を開ける。

 すると……見てはならぬ物も見てしまった。


 木箱の中には……小さな女の子が入っていた。

 女の子は縄で拘束され、猿轡さるぐつわをされていた。

 顔や体には殴られた痣があり、目を合わせるとすぐに目を逸らし、小声で小さく泣いている。


 ケリーヌは状況を察すると、木箱を静かに閉めた。

 そして、婦人の元に静かに這っていくと小声で話し掛ける。


「(お母様。この馬車は危険です)」

「どうしたと言うの?」

「何かありましたか?」


 婦人の返しに、ロベンが反応してしまった。

 不信がられないようケリーヌは場を取り繕う。


「申し訳ありません。少し催しそうなので、荷馬車を止めていただけないかと思いまして」

「これは気が利かなくて申し訳ありません。村には間もなく到着致しますので、もう少しご辛抱頂けますでしょうか?」

「申し訳ありません。村まで持ちそうにありません」

「ケリーヌ。淑女としてはしたないですわよ。もう少し我慢なさい」

「いいえ、お母様。私はもう持ちません。お腹が張り裂けそうですわ」

「仕方ないですね……」


 荷馬車は止まった。

 ケリーヌはマリアーヌを起こし、荷馬車を降りる。


「お母様。マリアーヌも一緒に行って参ります。少し暗いので明かりが欲しいのですが……」

「仕方ない娘ね。ロベン様、カンテラを一つお借りしても宜しいでしょうか?」

「はい。でも、あまり遠くに行かないでくださいね。この辺には魔獣も出ますので」


 ロベンからカンテラを借り、婦人が足元を照らしながら森の奥へと移動する。

 馬車に付けられたカンテラの光がやっと見える位置に来ると、婦人も用をたそうとし始めた。


「お母様。今はそんな事をしてる場合ではありません」

「どうしたと言うの? さっきから変よ?」

「違います。あのロベンという男、「人身販売」をしてる不貞の輩です。荷台の木箱には小さな女の子が入っていました。女の子は全身を殴られ縄で拘束されてました。他にも武器や貴金属といった物ばかりで、食料品の行商をしてるような者には見えません。ここは逃げる時です」

「ま、まさか……」

「お母様、すぐに移動しましょう。今なら気付かれません」


 婦人たちの逃走劇が始まった。


 カンテラの僅かな光での逃走は、壮絶を極めた。

 森の奥に行けば行くほど闇は強まり、人の通らぬ場所を移動していため枝や岩などで服は破け、泥濘んだ足場に何度も転んだ。

 遠吠えのような獣の声は次第に大きくなり、遠くからは篝火を持った男たちの声が聞こえてくる。


 捕まればタダでは済まない。

 だが、森の奥に進めば進むほど魔獣に遭遇する確立は高まる。

 生き延びるための選択とはいえ、どちらに転んでも危険という絶体絶命の逃走となった。


 山を一つ越えると、遠くに灯かりが見えた。

 婦人たちは最後の望みを掛け、その光に向かって進む。

 やっとの思いで灯かりの近くまで来ると、婦人は体を屈めた。


「ケリーヌ。マリアーヌ。体を低くなさい」

「お母様、追っ手ですか?」

「違うわ。あれは……」


 ケリーヌは木陰からゆっくり顔を出し、灯かりの方を見ると……見た事のある馬車が見えた。

 それは、前日まで捕まっていたヴァルカンという男のいた馬車だった。


「もう……終わりね……」

「いいえ、お母様。ここは恥を忍んで、あの方々に助けを求めましょう」

「何を言うの? あの輩は私たちを拉致し、ラーミリア家を辱める存在よ」

「いいえ。後ろの追っ手こそ私たちを辱める存在です。しかし、あの方々はお母様の要求に素直に応えました。危険な道のりである事も伝えていました。もし、あの方々が私たちの訴えを無視して捕まえに来るのであれば、あの方々も信じるに価しないだけです」

「……分かったわ。私が行って問い質します」

「いいえ。お母様はマリアーヌと居てください。私が行って参ります」

「いけません! あなたは私たちの大事な娘! ラーミリア家を背負う使命があるわ!」

「お母様。それは適わぬ夢だとお忘れですか? 爵位は代々男性が引き継ぐ物であり、私にはその権利はありません。ラーミリア家の血筋を残す事はできても、ラーミリア家を存続させるためにはお母様が必要なのです。だから私が行き、もし駄目ならマリアーヌに使命を託します」

「いいえ。私が――」

「お母様! お願いです! ここは私を行かせてください!」


 婦人はケリーヌの見た事もない顔付きに気圧され、渋々答えを出した。


「……分かったわ。でも、どんな事があっても生きなさい。必ず私が救ってみせるわ」

「はい」


 マリアーヌが疲れた体を引きずり、よろめきながらケリーヌに抱き付く。


「お姉様……行かないで」

「大丈夫よ。きっとうまくいく。もし駄目でも、あなたがお母様を支えて差し上げるのよ」

「嫌よ! 私も行く!」


 ケリーヌは優しくマリアーヌを抱き締めた。


「マリアーヌ安心して。これでお別れではないのよ」

「でも……」

「大丈夫。私の勘は当たるの。きっとうまくいくわ」

「うん……」


 マリアーヌが離れたのを見計らい、ケリーヌはゆっくりと前に進み始めた。



 ◇



「今夜は冷えるな」

「そうね……。あの人たち、どうなったかしら? 予想ならそろそろここに着く頃だけど……」

「運が良ければ行商に拾ってもらえるだろうが、運が悪ければ死んでるかもな」

「それって、マズくない? 話がややこしくなるし、交渉が成立しないでしょ?」

「まぁ、ぬえは「任せる」って言うし、当人が望んだ結果だ。仕方ねえよ」

「私は伸びきった鼻をヘシ折ってやって気分がいいけどね。でも、それとこれは別の話じゃなくて?」

「そう言うなって。たった2日飲み食いしないだけで人は死なねえよ。この辺には魔獣は少ねえし、野盗が幅を利かせて危ねえ程度だ。運悪く捕まったとしても、すぐに情報が入るはずだしな」

「いっつも思うけど……ヴァルカンは悠長に構え過ぎよ!」

「うっせ!」


 団員の一人が指笛を鳴らす。

 指笛は「突発的な何かが起きた」事を示す合図だ。

 団員の合図で、休憩を取っていた他の団員たちも警戒を強める。


 すると、森の奥から女性が出てきた。

 どうやら……一人のようだ。


「あの……お話があります!」


 女性は叫び、それにヴァルカンは応じた。


「一人か?」

「はい」

「話ってのは、何だ?」

「助けてください」

「アンタらを拉致した俺たちにか? 言ってる意味は分かってるのか?」

「はい。覚悟の上です」

「覚悟か……。いい目をしてるな」

「私もラーミリア家の端くれです。覚悟なら疾うに出来ています」

「分かった。だが、アンタ一人じゃねえんだろ?」

「いえ。私一人です」

「じゃあ、他の二人は野盗に捕まったってか?」

「いいえ。はぐれてしまいました。お伺いしたいのですが、私はどうなるのでしょうか?」

「どうもしないさ。アンタらを拉致したのは、アンタの親父さんが商人と拗れたのが原因だ。親父さんが権力と兵力を盾に、強引に話を進めようとした。だから、アンタらを拉致し、事を丸く治めようって話だ。アンタらの屋敷に潜入した時だって誰一人殺してねえし、アンタらに危害を加える気もねえ」

「では……なぜ、お母様の頼みを素直に聞いたのでしょうか?」

「そうだなぁ……気まぐれだな」

「気まぐれですか……。気まぐれで貴方方の計画を台無しにされるのですか?」

「そこを突っ込まれると……痛いぜ。だが、決めたのは俺だし、放置したのも俺の責任だ。計画がうまくいかねえのは仕方ねえと割り切るぜ」

「やはり……貴方様はお優しいお方ですね」

「よせよ! 俺たちは悪党だぜ?」

「いいえ。私の問い掛けに包み隠さず応えてくださいました。十分信用に足りると思います」

「なら、あとの二人も探しにいくか。どの辺ではぐれたんだ?」

「……申し訳ありません。それは嘘です。母も妹も近くに――」


 その時、森の奥から叫び声が聞こえた。


「あの声は……マリアーヌ?」

「どっちだ?」

「あっちの方です!」

「よし! スピネルは付いて来い! 他の奴はこの女を護衛してろ!」


 ヴァルカンとスピネルは森の奥へと駆け出した。


次回、水曜日2015/4/8/7:00です。

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