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第8話 美女2人による夜這

 まだ、日は昇っていない明け方。

 木窓は閉め切っているが、雨粒が激しくぶつかり大きな音を出している。

 そんな薄明かりと大きな音の中、俺は深い眠りについていた。


 もぞもぞ……


 何かが体に触れる。

 柔らかく、温かく、心地いい感触だ。

 体を擦り付けたくなるような衝動さえ感じる。


 綺麗な女性が俺の体をやさしく撫でる。

 ああ……あの服に隠された優美な砦に飛び込みたい……。

 吸い寄せられるように夢の中の女性に手を突き出そうとするが、体は動かない。


「もっとこっちに……」


 うわ言をボソボソ呟きながら、夢の中の女性を抱きしめる。

 とても温かい……。


「坊ちゃま。お呼びになりましたか?」


 その小さな呼び掛けにハッとした!

 目を開けると……髪を解いてネグリジェのような薄手の服装のメルディがいた。

 彼女は俺の首元に手を当て、指で耳や頬をやさしく撫でている。

 その手は細く柔らかく、とても温かくくて気持ちがいい。

 このまま二度寝してしまいそうだ……。


 あ……れ? 何か変だ……。

 メルディは薄手とはいえ、服を着ている。

 ベットの脇に腰掛け、体を乗り出し、触れているのは首元……だけだ。

 何だ? この体にピタリと張り付くような温かな存在は……。


 恐る恐る布団をめくる。


 ――ふあああああああああああああああ!!


 声にならない声で叫び、驚愕する!!

 一糸纏いっしまとわぬミイティアだ!

 ミイティアは俺の腕を枕にし、抱きつくように寝ている。

 足は俺の脚に絡まり、熱く脈打つ突起物が彼女のお腹に張り付いている。


 俺は……ゆっくり布団を戻した。

 突然の出来事に動揺してしまったが……、冷静を装うように心に鉄仮面を纏い、疑惑たっぷりに半目でメルディの顔を見る。

 メルディは気味悪いくらいニコニコしている。


「昨晩はお嬢様と如何でございましたか?」


 やはり、貴様が黒幕か!?


 ニヤニヤしつつも、メルディの目はギラついている。

 メルディは俺の動揺を楽しむかのように、俺の首元や胸元をさわさわと撫で回す。

 俺の鉄仮面は……2つの強烈な攻撃に何とか耐えている状態だ。


「メルディさん……。これはどういった趣向なのでしょうか?」


 怪訝な顔をしながら問い掛ける。

 メルディはクスクス笑いながら、ねっとりと手を動かし続ける。


「昨日は随分お疲れのようでしたので……。お嬢様かわたくしめが坊ちゃまを慰めて差し上げようかと相談致しまして」


 なるほど。

 ミイティアを焚き付けてこんな事態になっているのか。

 いや、待て!

 2人で共謀してやったかは別にして、ミイティアがこんなに大胆になるものなのか?

 いやいや、どうしてこうなった?

 本能と理性がぶつかり合う状況ではまともな思考ができない。

 とりあえず、状況を回避!


 メルディの手を下げさせ、絡められた足をゆっくり解く。

 手探りで布団の中のミイティアの手を外す。

 腕枕にされた腕を慎重に抜き、枕に優しく頭を寝かせる。

 体を起こし、布団を整える。


 俺への直接攻撃をなんとか収束させ、破裂しそうな心臓を落ち着かせるように壁にもたれ掛かる。

 もちろん、隠すべき場所は布団で覆っている。


 作業が終わるのを見計らって、メルディがベットの足先の方から擦り寄ってきた。

 体を押しつけるように抱き付き。耳元まで顔を寄せ。指で筋肉の輪郭をなぞる様に艶めかしい動きで触ってくる。


「あの……メルディ……さん?」


 息が少し荒く、耳元や首元に当たる吐息が心地よい。

 薄手の服のせいか、密着した部分からは彼女のくっきりとした体の輪郭が伝わってくる。

 俺の鉄仮面に大きく亀裂が入り、形を変えていく……。


「坊ちゃま……。こんなに立派になって……」


 メルディの手が俺の胸元から腹辺り。腹辺りから股間に向けて這うようにゆっくり手が伸びる。


 ――ダメだ!


 もし触れられてしまったら戻れない! 濁流に飲まれてしまう!

 理性を振り絞り、その手を捕らえる!

 荒い息をしながら、間一髪のところで防げた。


 猛烈に襲い狂う本能を押さえつけ、なんとかメルディを引き離す。

 目線を合わせないように下の方に視点を移す。

 そこには美しい曲線美が!

 イカンイカン! っと目線を上の方にずらすと、メルディと目が合ってしまった!

 体を寄せ、再び襲い掛かって来ようとする。


「メルディさん! 待ってください! お願いだから待って!」


 やっとメルディの激しい攻撃が止んだ。

 メルディの目はうっとりとし、顔は高揚して少し赤く、口元がなんとも艶めかしい。

 理性を振り絞って語り掛ける。


「冷静になってください! 今この場でことに及んでしまったら……ミイティアが泣きます。……誰も納得しないと思います。お願いですから冷静になってください!」


 俺は懸命にさとす。

 しかし、メルディは余裕そうな顔をしながら、顔を寄せてくる。


「大丈夫ですわ……。旦那様も奥様もご承知のことです」

「ふぁ!?」


 おいっ! ダエルさんリーアさん! アンタらが真の黒幕か!?

 勝手に縁談か何か知らないけど……知らないところですごいことを計画してるなよ!

 メルディは俺の体をいじりながら、話を続ける。


「別に今でなくても構いませんわ。好きな時に好きな場所で、坊ちゃまの欲求を満たして差し上げますわ」


 強烈な殺し文句である!

 メルディは年上のお姉さんではあるが、16歳くらいの女性だ。

 とても働き屋で、気が利いて、教養が高い。

 それでいて男を上げてくれるような器量を持ち合わせている。

 しかも、かなりの美人だ!

 俺はパーツにはあまり拘らないようにしているが……服の上からでも分かる美しい曲線は生唾物……だ。


 いや、イカンイカン!

 どうであれ、この場に流されたらミイティアは泣く。……ような気がする。

 ……ミイティアが悲しむ姿は見たくない。それに俺は……。


 と、とにかく、メルディの本心が分からない!

 たまに思わせぶりな発言はするが、さっさとどっかに行ってしまう。

 今回も悪ふざけの一環なのかもしれない。いや、暴走?


 メルディは考察中も執拗に攻めてくる。

 彼女の襲い来る手を掴み、もう片方の手で肩の辺りを押すように少し距離を取る。


「メルディさん。これは何かの悪ふざけですか? それとも本気ですか?」


 その言葉にメルディは瞳を潤ませ、一層高揚した顔で小さく囁く。


「本気でございます。どうか私めにお情けを……」


 その言葉を聞いて、力が抜けてしまった。

 メルディは掴まれていた手を振りほどき、俺の首に腕を回す。

 スラっとした綺麗な足が露わになり、馬乗りにされ体を押し付けられる。

 俺の固いものがスカートの奥で圧迫されるのを感じる。


 俺の鉄仮面は――勢いよく飛散した!




 たけり狂う本能を剥き出しにして、彼女に抱きついた。

 形が良く、程良い大きさの胸が服越しに伝わってくる。

 背中に回した腕からはしなやかな背筋と骨格。そして細く綺麗な髪の感触が伝わる。

 彼女の体からは干し草のような香ばしさ。花の香りのような甘い香り。そしてわずかに汗の匂いがする。

 理性のたがが外れた熱い男の象徴を押し付け、彼女の体を強引に貪り始める。


 彼女をベットに押し倒し。服を捲し上げ。脱がせた服を投げ捨てる。

 露わになった胸や首筋をしゃぶり付くように舐めまわす。

 彼女は時折熱い吐息のような声を上げ、細かく反応しながらも俺の髪を優しく撫でまわす。


 彼女の体を舌で蹂躙しながら、下着を剥ぎ取り。臨界に達した塊を彼女の腰に押し当てるように擦りつける。

 あとは、流れに乗せて繋がるだけ……。


 その瞬間――

 俺は硬直した。


 理性が完全に崩壊し、あとは本能のままに突っ走るだけなのだが……。俺は……動きを止めた。

 メルディは俺の異変に気付きつつも、俺をいざなうように強く抱きしめる。


 俺は……しばらくそのままの状態で停止し続けた。

 そして小さな声で……



「ごめんなさい……」



 そう言うと、彼女から無理やり離れる。

 ベットを飛び降り、メルディが用意してくれた服と靴を持ち、顔も合わさず無言で部屋を出る。

 ドアを閉め、閉めたドアに寄り掛かかった。

 そして……自らの過ちをなじる。


「もう、こんなやり方はしないと決めたのに……」


 ドア越しにかすかに泣き声が漏れる。

 俺はパンツだけを素早く穿き、後悔と後ろめたさを感じながら1階に駆け降り、そのまま外に出た。



 ◇



 外は大雨だった。

 日がやっと昇り始め、厚い雲が小さな光を帯び始めている。

 俺は持っていた服と靴を軒下の床に投げ捨て――大雨の中を駆け出した!


 俺の体は雨で体はあっという間に濡れ、ボタボタと勢いよく雨粒が流れ落ちる……。

 火照った体がみるみる冷え上がる……。

 しかし、頭の中はモヤモヤとし、一向に冷める様子がない。


 家から少し離れた場所で足を止め、叫んだ!

 自分でも何を叫んでいるのか解らない!

 叫んで! 叫んで! 叫んで!


 ……気が済むまで叫んだあと、体を後ろに投げ出すように地面に倒れた。

 地面は泥と濡れた草でぐちゃぐちゃで、とても冷たい。

 雨は容赦なく降り注ぎ、雨水が目や鼻や口に飛び込んでくる。

 周りは雨音だけしか聞こえない……。




 冷静になってきた頭を持ち上げ、周りを見回す。

 近くに木材の山が見える。

 おもむろに動き出し……近くまで行く。

 それは俺が湯船を作るために用意した木材だった。


 雨でずぶ濡れとなった木材はもう使えないだろう。

 いや、もう必要ない物だ。

 その中から試しに作った木刀を手に取る。

 木刀は泥にまみれ、持ち手も所々ささくれた酷い物だ。


 木刀を両手で握りしめ正眼に構え。振り被り。勢いよく――振り抜く!

 雨を切り裂き「バッ!」 という音とともに泥と雨水が飛び散る。

 悩みことをした時、いつもこうやって頭を切り替えている。

 自分の中のモヤモヤを切り裂くように、黙々とその作業を繰り返した……。



 ◇



 素振りをし頭も体も冷え切った頃。

 家の方に目を向けると……軒下にダエルさんが立っていた。

 俺は覚悟を決め、家に戻る。


 軒下に来るとダエルさんは……無言で俺を見ていた。

 いつものダエルさんの顔じゃない。

 ダエルさんはきっと知ってる。

 俺は顔を下に向け、ダエルさんに叱られるのを覚悟した……。

 無言の時間が心に突き刺さる。


 ダエルさんが重い口を開けた。


「マサユキ。風邪を引くぞ。中に入れ」


 そう言って、ダエルさんは中に入って行った。

 ……俺も後に続く。

 家の中は暖炉に火が灯り、温かい。

 だが、同時にこれから言われるだろう言葉に足が竦んで、うまく歩けない……。

 部屋の奥に進むのが……怖い。


 リーアさんが駆け寄ってきて、何も言わずに大きな布で俺の体を拭き始めた。

 リーアさんの手が熱い。

 そう感じるほど、俺の体は冷えきっていた。


 リーアさんが俺の手から、木刀をゆっくり取る……。

 何かに気づいたように手のひらを優しく拭う。

 俺の手はあちこち擦り切れ、血が滲んでいる。

 小さな棘がいくつも刺さって、棘で皮膚が黒ずんでいる。

 リーアさんは俺を暖炉の前に座らせ、何も言わずに針を使って丁寧に棘抜きを始めた。



 ◇



 棘抜きと手の治療が済んだ時、俺の冷え切った体は少しだけ元の温かみを取り戻していた。

 痛! 手が痛い!

 今頃になって、手のひらがズキズキと痛み出す。

 だが、そんな痛みより……メルディを傷つけてしまったことの方が胸を締め付けるように痛い。


 ダエルさんが近くのソファーに座って、ジッとこちらを見ている。

 リーアさんも側に立って心配そうに見守っている。

 俺は……何を話せばいいのか分からなかった。

 しばらく沈黙が続いた後、俺から話を切り出す。


「ダエルさん、リーアさん……。俺は……酷い男です。メルディに酷いことをして、傷つけてしまいました……。ごめんなさい」


 静かな部屋に声が響く。

 外は大雨でうるさいはずなのに、部屋は静まり返っていた。


「何があった?」


 ダエルさんは一言だけ返した。

 どう言えばいいのか分からない。

 だが……在りのまま話そう。すべては俺の責任だ。


「メルディを……あの……。いえ、欲望のままに襲いました」


 ダエルさんとリーアさんは少し驚きつつも、厳しめの言葉で問い掛ける。


「無理やり襲ったのか?」

「……いえ。違うと思います……。朝起きたらベットにミイティアがいて、側にはメルディがいました。ミイティアは……裸で抱きついていて……そのまま寝かせました。メルディとはその後……俺が欲望に負けて襲いました」


 ダエルさんは話を聞いて、しばらく考え込んだ。

 そして難しそうな顔をしながら、俺に問い掛ける。


「なんとなく事情はわかったんだが、なぜメルディは泣いていたんだ?」

「それは……」


 言葉が詰まる。


「俺が途中で……その……行為を途中で投げ出して……。メルディの気持ちを裏切ってしまったからだと思います……」


 ダエルさんはまだ状況が掴めず、突っ込んだ質問をする。


「それはつまり……最後までしないで逃げた訳だな?」

「……はい」

「何でだ?」

「えっと……。その……」


 その質問には困る。

 現世の俺は、女性の気持ちがよく分からなかった。

 相思相愛で付き合ってたかと思っても、すぐにフラれた。

 周りの友達に意見を聞いても、原因がよく分からなかった。

 無い頭を振り絞って出した憶測だが……。

 お互いの信頼関係を十分築けてなかったことが原因だと思っている。


 俺はよく一人で突っ走る。

 行き当たりばったりの情動任せで突き進んでしまうことも多かった。

 嘘や誤魔化しなど、隠し事もあった。

 友達に対してはズバズバ本音で切り込むくせに、彼女に対しては傷つけないよう本音を押し黙ることが多かった……。


 これらが本当に原因なのかは解らない。

 だけど、これからは情動に流されず。相手を気遣い。うまく行かないかもしれないが、本音で話し合って信頼関係を築こうと思っていた。


 そして、今回も……俺は一人で突っ走ってしまった。

 俺の考えをメルディに押しつけ、訳も語らず部屋を飛び出した。

 この時点で俺は……前世から何も学んでいないことになる。


 そんな理由があったのだが、問題はこの理由をダエルさんらに話し辛いことだ。

 前世について話しても、信じて貰えるだろうか?


 いや。初めてダエルさん、リーアさん、メルディ、ミイティアと出会った日。俺は不信極まりなかった! にも関わらず……快く受け入れくれた。

 そうだ! 俺はあの日、本当の家族を得たんだった!

 この場ですべてを打ち明け、結果的に家を出る羽目になっても構わない!

 約3ヶ月という短い間だったけど……結果がどうであれ、ここで誤魔化していたら俺は何一つ成長できない!

 覚悟を決めよう!

 もうここに居られないかもしれないが……元から俺には何もないのだ!


 俺は目を閉じ、大きく深呼吸する。

 そして、ダエルさんとリーアさんにすべてをぶつける。


「ダエルさん。リーアさん。その理由を語る前に……俺の隠し事を伝えなければなりません!

 話を聞いた後、俺はどうなっても構いません!

 信じられない話が飛び出てくるかもしれません!

 それでも俺は……責任を取るためにも、語らなければならないと思っています。

 ……聞いてもらえますか?」


 ダエルさんとリーアさんは顔を見合わせた後、2人とも「分かった」と言ってくれた。

 そして俺は、前世からこの世界に来た経緯。前世の世界についてや出来事。メルディへの態度の理由を丁寧に説明した。



 ◇



 話を終え、俺はこの世の終わりのような心境になっていた。

 なぜなら、命を投げ出す覚悟で話したからだ!


 顔を落とし、2人の裁決を待つ……。

 どういう結果になっても後悔はしない。

 だが、胸の内は軋むような不安で溢れていた。


「マサユキ!」


 リーアさんが抱きついてきた。

 顔は見えないが、泣いているようだ。

 一頻ひとしきり泣いた後、俺の目を見ながら、


「あなたは私たちの家族よ! 何も心配しないで! あなたは一人じゃないのよ!」


 ダエルさんも話に続く。


「その通りだ! お前は俺の息子だ! 自慢の息子だ!」


 ダエルさんはいつものような豪快な笑いではなく、俺の覚悟を称えてくれるような笑顔と少し涙を流している。

 俺はリーアさんにしがみ付き、年甲斐もなく大声で泣きじゃくった。

 そして、小さな声で感謝を述べる。


「ありがとうございます。お父さん。お母さん」


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