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黒の錬金術師 -黒の称号を冠する者-  作者: 辻ひろのり
第4章 特区構想計画編
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第85話 危機の元凶

「旦那! 積み込むのはこれだけか?」


 ジールさんが荷台の上から大声を張り上げている。

 馬車には水や食料などが積み込まれているが、大きくスペースが出来てしまうほど積荷は少ない。

 というのも、必要な物資は現地調達すればいいからだ。

 それに、連れて行く者は少ないので、積荷が少ないのも当然なのだ。


 『連れて行く者が少ない』の理由はこうだ。

 まず、ジールさんら護送隊は俺たちを目的地まで送り届けた後、「護送任務」に戻ってもらう。

 これは「彼らを危険に巻き込まない」という意味でなく、計画遂行のための必須条件なのだ。


 ただ、すぐにではない。

 色々な許可や交渉を経た後、「ある物」を護送してもらう。

 その護送は「命懸けの物」であり、護送の安全性を確保するためには力を割く事ができないのだ。



 そして、リトーネさんら鈴蘭の者たちは「情報収集と情報展開」に徹してもらう。

 世の中が混乱する時、混乱を引き起こす最大の理由は「不正確な情報」だ。

 情報が正しく伝わらない事で、場は混乱の一途を辿る。

 独自の情報網を持つ商人ですら、その情報の正確さを疑ってしまうだろう。

 ならば、それを逆手に取り、「正しい情報」を提供してやればいい。

 

 各地に点在する鈴蘭の店舗には、既に顧客が付いている。

 場が混乱すれば利用者は増えるだろうし、鈴蘭の情報の信用性を引き上げる事もできる。

 情報を展開するにも、押し掛ける人を捌くにも、情報を守るにも多くの人員が必要だ。

 となると、鈴蘭の者たちもぬえとは別行動を取らざるを得ない。


 そんな訳で、俺と共をするのは……

 ともかく準備は整った。

 黒い鎧を着込んだマサユキは、仮面越しに返事をする。


「ええ。それだけで大丈夫です」

「……分かった。みんな乗り込んでくれ!」


 ジールさんの合図で、鈴蘭の者たちが荷馬車に乗り込み始めた。

 地面に座り、プカプカとタバコをふかしていたサーヴェントさんが、ぼーっと遠くを眺めながら言う。


「結局……ミイティアちゃん来なかったな?」

「んーまぁ……ぬえの考え方は極端ですからね。割り切るのが難しいんだと思いますよ」

「でもいいのか? ただでさえ少ない戦力が更に下がるぜ?」

「問題ありません。元々一人でやろうと思ってましたし」

「俺もいらねえってか?」

「必要だと思って声を掛けましたけど……無理強いはしませんよ?」

「……悪かった。冗談だよ冗談!」

「フフフ。頼りにしてますよ」


 工房の奥から大きな足音が聞こえ、親方さんが現れた。

 その肩には、黒い大きな斧を背負っている。

 それを見て、サーヴェントさんはいつもの調子で問い掛ける。


「親方も行くの――」


 しかし、その問い掛けはぬえによって遮られた。

 サーヴェントさんは一瞬呆気に取られたが、「その意味」を瞬時に察する。


 ぬえは親方さんの前に立ち、堂々と話を切り出す。


「ゼア様。『俺』を殺すなら、今しかありませんよ?」

「ワシに勝てると思っているのか?」

「さあ? やってみなければ分かりませんね」


 見送りに出ていた工房員たちは、二人の会話の意味を飲み込めずうろたえている。

 馬車に乗り込んだ鈴蘭の者たちも同様だ。

 一緒に見送りに出ていたオルラさんが事態の説明を求めてきた。


「マサユキさん何を……言っているの? それに親方様も……」 

「目の前に「国家の危機の元凶」がいるからです。「英雄」であり「黒の称号」を持つゼア様は、これを見逃す訳にはいかないんですよ」

「ちょっと待って! マサユキさんの話は大体聞いたけど、なぜそうなるの!? みんなのために頑張ったのに……なんで命を狙われなきゃならないのよ!?」

「オルラさん……あなたには好きな人はいますか?」


 急に変な話を振られ、オルラさんは顔を赤くしモジモジとする。

 そして、無言で小さく頷いた。

 

「あなたを守るため、その人が誰かを殺したとします。そんな人を好きでいられますか?」

「……いられると思うわ」

「では、その人を殺さねば世界が破滅する。ならば、あなたはどうします?」

「……どういう事? なんでそういう話になるの?」

「言ったでしょ? 俺は家族と村を救うため、たくさん人を殺しました。そして、共に戦う仲間さえ裏切った。そんな極悪人を野放しにしてるのが異常なんです」

「……でも、それは正しい事に力を振るっただけでしょ? 裁判でも決着は付いている。なら、問題にすべき事じゃないでしょ?」

「それは正規軍の話です。裏切りが発覚した時点で「その理屈」は無効です。今までは辛うじてゼア様の威厳で延命してきましたが、今その手を離れるのです。つまり、現時点を持って俺は「大犯罪者」なんですよ」

「それは「国の理屈」でしょ!? マサユキさんと親方様が啀み合う理由にはならないわ!」

「いいえ。俺は「国家にとって邪魔者」です。だから、国家の代名詞である「炎斧の黒き牙」ゼア様の敵なのです」

「無茶苦茶だわ!! 親方様も止めて!!」


 親方さんは返事をせず、ジッと、仮面を付けたぬえを見詰めている。


「では、少し移動しましょうか」


 ぬえと親方さんは、工房から離れるように移動を始めた。

 


 ◇



 適当な広さのある場所まで来ると、ぬえは立ち止まった。

 親方さんは「待ってた」と言わんばかりに、斧を振り下ろした!


 ――ドッ、ドドドーン!!

 物凄い轟音と共に大きな火柱が立ち上がり、一瞬で一面火の海となる。

 炎と熱気が渦巻く中、ぬえは辛うじてその一撃を回避していた。


 素早く剣を抜き、親方さんの手首を狙うが……親方さんは器用に斧を振り回し、柄で攻撃を防ぐ。

 ぬえは続けて攻撃を仕掛けるが……ことごとく防がれる。

 まるで、子供と剣術に付き合うかのような余裕の斧捌きだ。


 ぬえは攻撃の手を緩めない。

 なぜなら、親方さんの斧の威力は半端ではないからだ。


 重量にして1.5トン。

 普通乗用車一台分の重量の斧を平然と振り回す攻撃力は、言わずとも凶悪である。

 まともに斧を受けてしまえば、剣ごと体を真っ二つにされてしまう。

 更に、火系統魔法が込められた斧は範囲攻撃の要素を持ち、直撃を躱したとしても無傷ではいられない。

 だからこそ、攻撃に転じさせないよう手を出し続けているのだ。


 ただ……状況は一方的に不利だ。

 斧で防がれた剣は刃が欠け、次第に脆さを露呈していく。

 攻撃の手を緩めないという事は、それだけ疲労も加速していく。

 このまま状況が推移すれば……数分で決着が付くだろう。


 親方さんがぬえの剣撃の隙を突き、豪快な「なぎ払い」をする。

 下方から上方に向け、斜めに襲い掛かる「なぎ払い」だ。

 

 ぬえは体を屈めてそれを避けたが、続けて、上方から真下に振り下ろす「切り落とし」が襲い掛かる。

 回避が間に合わず、振り下ろされる斧に合わせて剣を傾け、斧をいなすよう防いだ……が、剣がポッキリと折れてしまった……。

 そして、武器を失ったぬえに向かって、再び「なぎ払い」を――


 突然、目の前に「何か」が飛び込んできた!

 ぬえはそれに押し倒され、辛うじて「なぎ払い」をかわす……。

 懐に飛び込んで来たのは……オルラさんだ。


「お願い!! もう止めて!!」


 オルラさんはぬえに抱き着きながらも、親方さんに向かって叫ぶ!

 しかし親方さんは……

 構わず、斧を振り下ろす!


 ――ズッ、ズズーン……。

 斧が轟音を響かせ地面に突き刺さり、土煙が上がる……。


 ポト、ポトトト……。

 オルラさんの額に何か温かな物が滴る……。

 ふと顔を見上げると、頭から血を流すぬえがいた。


 ぬえはオルラさんを庇いながらも、強烈な一撃を避けていた。

 だが、オルラさんは……表情を一変させる。


「えっ……あっ……。う、腕が……」


 ぬえの右腕は……地面に転がっていた。

 斬られた肩からは血をダバダバと流し、辺り一面血の海となっている……。

 オルラさんは転がる腕と血の海を見て……失神してしまった。


 親方さんは再び斧を振り上げ、オルラさんごと構わず斧を振り下ろ――

 その時、1本の矢が親方さんの肩に突き刺さった。

 射線の先を見ると……黒いマントにフードを被った者と、黒いローブで同じくフードを被った者がいた。

 そして二射目を撃つべく弓を引き、魔法を撃つべく杖をかざしている。

 ぬえは……血を垂れ流しながらも小さく囁く。


「(では……後を頼みます)」


 ぬえは左手で鞄から煙幕玉を取り出すと、その場に投げた。

 そして、煙幕の中を逃げるように駆け出す。


 親方さんは煙幕を「なぎ払い」で振り払ったが……その場にぬえは居なかった。

 黒マントの者も、黒ローブの者も居なくなっていた……。

 親方さんは「斬り落とした腕」を拾うと、オルラさんを抱え工房に足を向ける……。



 ◇



「オルラ!! オルラ起きるんだ!!」


 ディグラさんに頬を叩かれ、オルラさんはやっと起きた。

 オルラさんは痛む頬を抑えながら少しぼーっとしていたが、血相を変えて辺りを見渡す。

 そこは、オルラさんらに割り当てられた部屋だった。


「良かったオルラ! 一時はどうなるかと思ったぞ!」

「お父さん……。マサユキさん大丈夫なの!? 腕を! 腕を切り落とされて――」

「いいんだオルラ。あれはお芝居だそうだ」

「……お芝居? ど、どういう事?」

「何でも、「監視者」の目を掻い潜るために一芝居打ったらしい」

「で、でも! マサユキさんは腕を切り落とされていたわ!? 血もいっぱい出てたし……」

「あれは「作り物の腕」という話だ。血も「輸血用の血」らしい」

「でも……何でそこまでするの?」

「それはだな……」



 ◇



 所変わって、ジールさんの荷馬車の中。


「さっきは焦ったぜ! 分かっててもヒヤヒヤ物だったぞ?」

「あれくらいはやらないと「監視者」は騙せませんからね。義手がうまく動かせなくて大変でしたよ」

「兄様動かないで! 血が止まらないわ!」


 治療に当っていたミイティアに怒鳴られてしまった。

 ミイティアが怒るのも仕方がない。

 と言うのも、この作戦は親方さんとジールさん、サーヴェントさん以外は知らなかったからだ。

 ミイティアはそれを知らずに親方さんを攻撃していて、一歩間違えれば大怪我を負わせていたかもしれなかった。

 カーネリアさんが相変わらずの様子で、更に追い打ちを掛けてくる。


「私たちには黙っていて、サーヴェントだけには教えるなんて、ズルイ人ね?」

「昨晩の内に伝えておくつもりだったんですけどね……。早めに来てくれれば伝えられましたよ?」

「仕方ないわ! 女には支度に時間を掛ける義務があるのよ!」

「カーネリアがミイティアちゃんに抱き付いて、邪魔してたって聞いたぜ?」

「いいのよ! それは私の支度なんだから!」

「あーっもう! みんなウルサイわ! 手当してる間くらい静かにしててよ!」

「や~ん! 怒ったミイちゃん、可愛いい~!」


 頭の上でいつものハグを始められ、ミイティアの手元がゆらされ……傷口が痛い。

 「なんだかなぁ」と思いつつも、頭を切り替え話を進める。


「ミイティア。それにカーネリアさん。二人はどんな「呼び名」にしますか?」


 カーネリアさんは考える様子もなく、即答で返す。


「私は宝石の名前とかがいいわ。ミイちゃんは「ミイシャ」でいいんじゃない?」

「勝手に決めないでください!」

「ミイちゃん。私との『約束』は守ってね?」

「うっ……」


 ミイティアは急に黙り込んだ。

 「どんな約束」を交わしたのかは知らないが……まぁ、些細な理由で答えられないのだろう。

 ぬえは、カーネリアさんの呼び名を提案する。


「なら、「スピネル」ではどうでしょうか? 別名尖晶石せんしょうせきとも言いまして、ルビーより希少な宝石の名前です」

「刺々しい名前ね? ルビーじゃダメなの?」

紅玉こうぎょくですか? 悪く無いと思いますけど、命名には「色」を避けるようにしてるんです」

「ふーん……」

「ねえ兄様! 私のは!?」

「はい、アウトー。ちゃんと「ぬえ」と呼んでね?」

「……ごめんなさい」

「ミイティアは「ミイシャ」でいいんじゃないかな? ゴロもいいしね」

「適当過ぎよ! もっと強い名前にしてよ!」

「ミイシャ」


 ぬえは上に手を伸ばし、ミイティアの頭を撫でながら何度も「ミイシャ」と言う。

 直接顔は見えないが、ミイティアは大人しい。

 やや強引ではあるが、「ミイシャ」という呼び名で納得してくれたようだ。


 ミイティアに邪険にされたためか、膨れ顔のカーネリアさんがサーヴェントさんに八つ当たりをする。


「もお! 素直な子じゃないんだから! ……ねぇサーヴェント? なんでアナタは着替えてないの?」

「ん? ああ、俺のは重いからな。道のりは長げーし、あとで着替えるさ」

「まったく……。緊張感無さ過ぎじゃなくて?」

「俺なりの考えもあっての事だ。ふぁああ……俺はしばらく寝るぜ……」


 ガタガタと揺れる荷馬車で、サーヴェントさんは平然と眠りに入った。

 俺が言うのも変だが、サーヴェントさんは知略家だ。

 俺のやりたい事を聞き、その上でどう行動するのが最善か明確な答えを持って動く人だ。

 だからこそ、「休める時に休む」という答えを出せるのだろう。


 頭の治療が終わると、ミイティアとカーネリアさんに作戦の詳細を話し始める……。



 ◇



 キン! ガン! ガガ、ガン!

 剣と剣がぶつかり合い、大きな音と火花が飛び散る。


「オラオラ! 生温い攻撃してんじゃねえぞ!」

「おうよ!」

「さすがガルアさんだ。二人掛かりでも、まったく歯が立たないや」

「おい、ゲルト!! 手を抜いてるんじゃねえのか!?」

「……ボクのせい!? オルドの踏み込みが甘いからでしょ!!」

「おいおいテメェら……」


 オルドとゲルトが訓練そっち退けで、言い合いを始めてしまった。


 ここは、特別自治領統領府近くの広場。

 林を切り開いただけの広場である。

 ここではガルアたちだけでなく、護衛に配備された兵士たちも訓練を行っている。

 今でこそこの広場で訓練をする事を日課としている兵士たちだが、最初は「元男爵軍」「元伯爵軍」というだけで啀み合っていた。


 啀み合いは、時として良い結果を生む。

 ただ、ここの場においてはその限りでなかった。


 人の踏み入らぬ地に本拠地を構えている事もあり、時折魔獣が現れる。

 撃退すべく立ち向かうが、頭数ばかりあっても連携がない。

 戦闘中においても啀み合いが発生し、負傷者ばかりが増えていた。


 苦戦を強いられる中、ガルア、オルド、ゲルトらの活躍が光った。

 盾を構え、魔獣と膠着状態の兵士たちの頭を飛び越え、ボウガンと剣で次々と倒していく。

 指示一つ発さず、一丸となって突撃をしたり、時にはバラバラに各個撃破を行ったりと、兵士たちとの練度の差を見せつけた。


 年端も行かぬ彼らに力の差を見せつけられ、プライドを傷付けられた兵士たちは、力試しに訓練を申し込む。

 しかし、兵士たちは負けた。

 対人戦ならば、集団戦ならばとルールを変え、幾度と無く訓練を行ったが……負け続けた。

 時折兵士が勝つ事もあったが、オルドもゲルトも平然と再戦を申し込み、勝っても負けても良い戦い方に質問を重ねてくる。

 子供の持つ「無垢さ」と、ひたすら強さを求める「ストイックさ」に次第に敬意を持つようになり、国や領地を守る兵士として彼らに誇れる物を得るべく、「個としての強さを磨く」訓練を受け入れたのだ。

 結果、今では啀み合いは薄れ、魔獣による被害も最小になっている。


 警備隊長が水とタオルを差し出してくる。


「皆様、水とタオルです」


 オルドは差し出された水とタオルを無造作に受けった。


「おう! ワリイな!」

「おいオルド!! ちゃんと言葉遣いに注意しろよ!! 隊長様ありがとうございます」

「いいのです。私は不相応にも隊長を仰せ付かっていますが、ここではオルド様、ゲルド様が隊長のような物ですから」

「という訳だ! 気にするなよゲルト!」


 ゴツン!

 オルドの頭に、ガルアのゲンコツが飛んできた。


「イッ、チィィィ……」

「オルド! 調子に乗るな! それから……」


 ガルアはゲルトの頭も殴る。


「ウガッ! なんでボクまで……」

「連帯責任だ。すまなかったな、ミゼル隊長」

「ガルア殿。お心使いありがとうございます。しかし、この程度構わない事ですぞ?」

「いや。目上に敬意を払えなんて言わねえが、責任も取れねえで偉そうな事言うコイツらが悪いんだ」

「それは御尤ごもっともでもありますが、最初の魔獣襲撃以来、負傷者は僅かです。この功績は、あなた方にあると我らは感じているのです」

「それは違うな。ここに出る魔獣は俺たちも知らない奴らだ。戦い方の基本が通用するからいいが、それに対応できるようになったのはアンタらの力だ」

「恐縮でございます。ですが……いえ、それより娘の婿になりませぬか? ガルア殿なら娘を任せても――」

「またその話かよ!? その話は終わっただろが!」

「ですから、めかけでも結構ですので」

「あのなー……」


 ガルアは隊長の執拗な縁談に頭を掻きながらも、周りを見渡す。

 使いの者が慌ただしそうに動きまわり、早馬が駆けていく……。

 何かが起きたようだ。

 急いでマサユキの元に向かう。


 会議室のテントが見えてきた。

 周りには人集ひとだかりが出来ており、皆浮かない表情をしている。

 テント側に待機していたアンバーさんに状況を聞く。


「オヤジ! 何があった?」

「ああ。色々複雑な事情らしいよ」

「いや、だから! 何があったか聞いてるんだよ!!」

「んーっと……輸送車が襲われたらしい。伯爵領で起きてた内乱の影響って話さ。あと、教会が異端審問にマサユキを召喚したとか、竜が――」

「マサユキを異端審問? 何言ってやがんだ!?」

「ガルアならそう言うと思ったよ。私も同感だ。だから、それは気にしなくていいよ」

「まさか……オヤジが片を付けるってか?」

「うん。教会とはいえ、私には手出しはできないはずだからね。そっちは私が担当するとして、問題は『竜』だ」

「竜? 飛竜とかそんな奴か?」

「いんや。「山神やまがみ」とか、「地喰いの甲竜」とか呼ばれてる奴だね」

「なら、そっちは俺がやるぜ!」


 ガルアの意気揚々とした表情とは逆に、アンバーさんは厳しい表情をする。


「いや、ガルアには無理だ」

「……オヤジらしくねえセリフだな? どういう奴なんだ?」

「そこら辺の魔獣とは、大きさも強さも桁外れだ。本来、国家規模で対応する脅威なんだよ」

「じゃあ、王都から派兵があるのか?」

「それはないらしい。どうも帝国が動いていて、侵攻を阻止するために国境に戦力を集中させているらしい」

「自国の問題より防衛かよ! ……放っておいて問題ないのか?」

「両方大事なのさ。だから、赤槍せきそうに討伐依頼をしたらしい」

「セキソウ? 聞いた事ない名だな?」

「竜討伐専門の戦闘集団の名さ。奴ら強いぞー」

「オヤジは知ってるのか?」

「昔ちょっとね。まぁそっちは問題ないと思うから、ガルアはマサユキの護衛を頼むよ」

「……分かった」


 ガルアはアンバーさんの提案を了承した。

 だが、納得しきれていなかった。

 マサユキが異端審問される心当たりはあるものの、なぜ「このタイミングなのか」が分からない。

 単なる巡り合わせか、はたまた陰謀か……。

 ガルアにはその答えを導き出せない。


「アイツなら……どう思うだろうか……」


 ガルアの感じる不安は、少し違った形で実現する事になる。

 事態は……更なる問題を生じ、歯車が狂い始めた。


次回、水曜日2015/3/4/7時です。

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