第84話 鵺再び
準備が整った。
ミイティアは黒いマントを羽織り、フードで顔をスッポリ覆い隠している。
鎧も着込んでいるようだ。
と言っても、全身甲冑の鎧ではなく、仕込み鎧である。
ミイティアの場合、身軽さが大きな武器になる。
ならば、重量があり動きが制限される鎧よりも、急所防御に特化させた胴回りの防具だけで十分だと考えた。
服の下に着込める点も、雑踏に紛れれば十分なカモルラージュ効果が得られる。
鎧同士がぶつかるカチャカチャといった音もないので、隠密行動にも最適だ。
そして、武器には弓を持っている。
事前にどういった状況で勝負をするか説明はしていないが、得意とする近中距離だけでなく、長距離も対応する構えなのだろう。
対するマサユキは、鵺の時に着ていた黒い全身鎧を身に付け、腰には刀ではなく剣を携えている。
特別な変化は見受けられず、以前と変わりないようにも見える。
「さてミイティア。「この面」を付けたら俺は、『鵺』だ。もう「兄様」なんて呼ばないでくれよ?」
ミイティアはコクリと頷き、同意を示した。
面を付けると……
マサユキの雰囲気はガラリと変わった。
いつものホンワカとした雰囲気ではなく、ピリピリとした棘々しい空気が漂い始める……。
「始める前に、連れを指名するがいい」
ミイティアは『その意味』を理解するのに少し戸惑ったが、後ろを振り向きお願いする。
「私と……私とペアを組んで頂けませんか? カーネリアさん」
カーネリアさんは腕を組み、静かに考えを巡らす。
そして答えた。
「……いいわ。可愛い妹の頼みだしね」
「いもう……と?」
カーネリアさんも準備に取り掛かる。
黒いローブを着込み、銀の腕輪を装着する。
自前の杖を持つとフードを被り、ミイティアに並び立つ。
「では、私は「この者」を指名する」
鵺の隣に来たのは、身窄らしい服装の小柄な男だった。
髪はボサボサと長く、顔の大半を髪が覆い隠している。
腰には小さなナイフを携えているが、特別強そうには見えない……。
ミイティアはてっきり、サーヴェントさんが来ると思っていた。
だから「誰ですか?」 と問い掛けたかったが、ミイティアはそれを飲み込んだ。
それを察し、鵺は簡単に紹介する。
「この者の名は、蠍。鈴蘭の実行部隊の者ではあるが、共闘関係の同志に過ぎない。ゆえに、小難しい説明や挨拶は抜きだ」
「分かりました。ルールはどうしますか?」
「どちらかが降伏するまでだ」
「取り押さえればいいって事?」
「それで降伏するのであればな」
「兄さ……鵺様の性格からして、それは勝負が付かない気がするけど……」
カーネリアさんが話しに割り込み、新しい提案をする。
「じゃあ、「その面を取る」ってのはどう? 面を取れば鵺ではいられないでしょ?」
「いいだろう。ならば、我らはフードを外せば勝ちでどうだ? もちろん、降伏させるか戦闘不能になれば終わりだ」
「いいんじゃない? 簡単に取れるとは思わないけど」
「決まりだな。では、始めるとするか……」
鵺は鞄から金貨を取り出し、指で弾く……。
それを見たミイティアは、叫ぶ!
「あれを見ちゃ駄目! 耳も塞いで!」
カーネリアさんはそれに反応できず、金貨に魅入っている。
次の瞬間、「ボン!」 と音がすると、辺りにモウモウと煙幕が立ち込めた。
ミイティアは剣を抜き、煙幕を利用した攻撃を警戒するが……なかなか次の攻撃が来ない。
警戒を緩めず、カーネリアさんの頬を叩く。
カーネリアさんが正気を取り戻した。
カーネリアさんは状況を素早く確認し、風魔法で煙幕を吹き飛ばす。
しかし……そこには鵺たちの姿はなかった。
「どこに行ったのかしら?」
「分からないわ。にい……鵺様の事だから近くに居ると思うけど……気を抜かないで」
警戒を緩めず、周りを見渡す。
集まった人の中には……それらしい人物は見当たらない。
物陰に隠れている可能性も考えたが、裏門の周辺は森を切り開いた広場になっており、木々の生い茂る森までは50mはある。
短時間で森まで移動するには走る必要があり、足音や鎧の音がしてもおかしくないはず……なのだが、物音一つ立てずに消え去っていた。
「ミイちゃんこれって……終わるの?」
「期限は決めてませんでしたね。私たちが諦めてフードを脱ぐのを待ってるのかもしれません」
「それって試験結果としてどうなの? 余りにもズボラ過ぎない?」
「逃げるが勝ちって言います。……鵺様も言ってました」
「ふーん……」
カーネリアさんはサーヴェントさんを見据える。
サーヴェントさんは……独り含み笑いをしていた。
「ねえサーヴェント!」
「ん? なんだ?」
「鵺がどこに行ったか知らない?」
「俺に聞いていいのか? 試験にならねえだろ?」
「だって、「連れを選べ」とは言ったけど、「何人選べ」とは言ってないじゃない。だから、あなたを連れに選んでもルール違反にはならないわ」
「カーネリアさん、それズルくないですか?」
「ミイちゃんってホ~ント、頭固いわよねぇ? そんなだから騙されちゃうのよ」
「わ、私は固くありません! 私の試験なんですから、私一人でも突破しなきゃダメなんです!」
「それが頭固いって言うのよ。「逃げるが勝ち」なんて言う不誠実な相手を、まともに相手に――」
カーネリアさんは話すのを途中で止め、飛んできた矢を風魔法で撃ち落とした。
矢は音も無く飛んできていた。
そして、確実にミイティアの頭を狙った一撃だった。
いくら試験とはいえ、死ぬ危険性があった攻撃にカーネリアさんは怒る。
「ちょっと鵺っ!! 今のは危険よ!! 卑怯だと言わないけど、ヤリ過ぎよ!!」
鵺からの応答は……ない。
鳥のさえずりが森から聞こえるだけで、とても静かだ。
サーヴェントさんがそれを見て、馬鹿にするかのように大笑いをする。
「ハハハハ。お前らがトロいからだろ?」
「サーヴェント! アンタ笑ってないで手伝いなさいよ!」
「だから、それじゃ試験にならねえだろ? それに手伝えない理由もある」
「理由って何よ?」
「鵺の居場所を知ってるからだ」
「もったいぶらないで教えなさいよ!」
サーヴェントさんは答えようとしなかったが、人差し指を立てる。
それは、『上』を指し示す物だった。
上を向くと……空高くに浮遊する黒い物体が小さく見える。
目を凝らすと、それは鵺だった。
上空50mくらいの空中に、鵺は居た。
「どうやってあそこまで……。浮遊魔術が使えるようになったの?」
「ミイちゃんそれはないわ。私はサーヴェントの道具だけにしか魔術を付与していないもの」
ミイティアは目を凝らし、魔力輻射を確認する。
しかし……その兆候は見られない。
ミイティアが確認したかったのは、魔術道具を使用しているかどうかだ。
マサユキの作った魔術道具は、使用時に魔力輻射を確認できる。
浮遊術ならば、風の属性を示す「緑」が見えるはずだったが……それを確認できなかった。
「魔力輻射は見えませんね。気球で飛んでる訳でもないようです。可能性としては、細い糸を木に張り巡らせて、その上に乗ってるのかもしれません」
「糸って、簡単に切れてしまわない?」
「能力次第では可能だと思います。それより打つ手がありません。ここから矢で狙う事も可能ですけど、面だけを狙うのは難しいです。それに、蠍が狙い澄ましたように矢を撃って来ます。攻撃を躱しながら狙うのは難しいです」
「なら、私が上に行くわ」
カーネリアさんは魔法の詠唱を始めた。
しかし、詠唱の邪魔をするかのように矢が飛んでくる。
しかも、今度は『2方向』から『同時』に。
ミイティアは素早く反応し、剣で矢を払い落とす。
カーネリアさんも詠唱を中断し、風魔法で矢を払う。
「詠唱中の隙を狙ってるわね」
「みたいですね」
「なら、弓で落としちゃいなさいよ」
「それだと兄様が……鵺様が怪我しちゃいます!」
「だって、戦闘不能でも勝ちになるんでしょ? それにあそこまで昇る手段があるんだから、落ちた場合も考えてるんじゃなくて?」
「そうかもしれませんけど……」
相談をしてる間も次々と矢が飛んでくる。
示し合わせたかのように同時に飛んできており、発射されてくる方向もマチマチだ。
とても、蠍一人でやってる事とは思えない。
「カーネリアさん。上のはダミーかもしれません」
「ダミー? 偽物って事?」
「分かりませんけど、矢が2本同時に飛んでくるのは変です。それに射撃が的確過ぎます。たぶん、この矢の飛んでくる方向にいると思います」
「なるほどね……」
カーネリアさんは少し考えた後、ミイティアとは別の考えを示す。
「とりあえず、アレ落としちゃわない?」
「え? でも……」
「闇雲に探すより、目の前のアレを落とす方が楽でしょ? 私が矢を防いでおくから、ミイちゃんが弓で落とすの」
「……分かりました。やってみます」
ミイティアは弓を引く。
狙いは……足元。
目視では確認できないが、足元にあるだろう糸目掛け、矢を放った!
矢は……鵺のすぐ側を通り抜け、外れた。
鵺は回避行動すら見せず、微動だにしない。
「やっぱり、ダミーな気がするけど……」
「いいの。次は私の魔法も込めるから撃ちなさい」
「……そんな事できるの?」
「やれば分かるわよ」
カーネリアさんが矢尻に風魔法を込める。
魔法付与はマサユキでなければ付与されないと思っていたが、矢尻の周辺に小さな風の渦が形成された。
ミイティアは弓を引き、再び狙いを定め、放つ。
放たれた矢は先に放った矢とは比べ物にならない速度で飛翔し、鵺に向かって飛んで行く。
狙いがズレ、「当たる!」 と思った時……鵺は動いた。
ダミーだと思われた鵺が動いたのだ。
華麗に身を翻し、矢を躱したかと思うと……地面に向かって真っ逆さまに落ちてくる。
「地面に激突する!」 と思った瞬間、何かを切り離し、華麗に着地した。
「やっぱり本体だったわね。さあ、ミイちゃんやっちゃいな!」
「はい!」
ミイティアが駆け出し、鵺との距離を詰める。
鵺は煙幕玉と取り出し、地面に投げ付けた。
すると、モウモウと煙が一面に広がり始める。
「同じ手は喰らわない」と、カーネリアさんは風魔法で煙を吹き飛ばすが、鵺は腰から小さな袋を取り出すと、ミイティアに向かって緩い放物線を描くように放る。
そして、すかさず反対側の手で金貨を弾く。
同時に2つの物が飛んでくる状況。
金貨は最初に使った物と同じ、「催眠効果がある」と思われる。
もう一つの袋は得体が知れないが……ミイティアは『金貨』選んだ。
剣で金貨を払い、真っ二つにした。
袋は……煙と死角でよく見えなかったが、火花が飛び散っていた。
それは導火線。
導火線の煙は煙幕でカモフラージュされ、火元は死角で見えないよう投げていた。
「爆弾!」
瞬時にその正体にミイティアは気づいたが、時既に遅し……。
爆弾は間近に迫っており、回避するにも、火元を切り落とすにも間に合わない。
元を辿れば、最初の矢を受けた時点で気付くべきだった。
鵺は最初から、『手加減などしないつもりだった』のだと……。
「もうダメ……」そう思った瞬間、カーネリアさんが叫ぶ。
「弾けよ! ≪ディフュージョンクラスター≫!」
散弾銃のような風魔法が地を這うかのように突き上げ、袋は白い粉を撒き散らしながら飛散した……。
カーネリアさんの援護を受け、ミイティアは鵺の面目掛け剣を振り上げる。
カッ!
剣先が面に命中し、面の端を僅かに切り落とす……。
「あん! おっしー! もうちょっとよ!」
剣先を切り返し二撃目を入れようとした時、鵺は両手を挙げる。
そして……
「参った……」
余りにもアッサリと負けを認めてしまった。
しかし……
「はぁぁぁぁあああああああ!」
ミイティアは止まらない。
鋭い剣撃を次々と放つ!
鵺は狙われる面を僅かにずらし回避を続け、仕切りに「参った」と言っているのだが……なかなか攻撃が止まらない。
――ボンッ!
大きな音と火柱が上がり、サーヴェントさんの≪フレイムバレット≫が地面に大穴を開けた……。
そのおかげか、ミイティアは攻撃を止まった……。
状況が飲み込めないミイティアのために、サーヴェントさんが説明する。
「ミイティアちゃんの勝ちだってよ。もういいんだぜ」
ミイティアは、鵺を見据え問い質す。
「……ホント?」
「ああ。私の負けだ」
「でも……何で? 面を取ってないわ」
鵺は面を外し、理由を説明する。
「この試験は、『カーネリアさんとの連携』を見る物だったんだ。少数精鋭で動くなら連携は不可欠だ。言動に惑わされず、最後まで気を緩めなかった姿勢も十分合格の域だね」
「兄ちゃんよ。俺はそもそも試験する意味あったのか疑問だぜ?」
「んーまぁ……カーネリアさんと互角に渡り合える実力を持ってますからね。必要ないと言えばないでしょうね。でもまぁ大見得切った手前、引くに引けなかったという事もあります。だから、奇襲と状況判断力を題材に試験をしてたって訳です」
「ちょっと!!」
カーネリアさんがマサユキに詰め寄る。
「矢も爆弾も、もし当たってたらミイちゃん死んでたかもしれないわよ!?」
「だ、大丈夫です。矢尻はゴム製ですし、能力付与して衝撃は緩和してあります。爆弾は小麦粉を撒き散らすだけの煙幕です。風魔法でなく、腕輪の火魔法を使ってたら危なかったですけどね」
「どっちにしても、当たり所が悪ければ怪我するのよ!? 目に当たったらどうするのよ!?」
「それは仕方ないです。鵺の仕事はそれが日常茶飯事ですからね」
「仕方ないで済まさないで!! 仮にもあなたは、ミイちゃんのお兄ちゃんなんでしょ!?」
「カーネリアさん!」
ミイティアがカーネリアさんを引き止める。
「私は危険を承知の上で志願しました。実戦を前提にしてるなら必要な事です。それに……私は目を失ったからと言って、兄様から離れるつもりはありません!」
「ミイちゃん……」
カーネリアさんはミイティアを抱き締める。
深い谷間にミイティアを押し込み、ミイティアをギュウギュウ締め付ける。
「で、兄ちゃんよ? さっきの浮遊術は何だ? 煙幕から急に飛び出した所は見たけどよ……どうやったんだ?」
「コレを使ってたんですよ」
マサユキは篭手からワイヤーを引き伸ばす。
それは極細のピアノ線のようなワイヤーだ。
「これは「竜の髭」と呼ばれる特殊繊維です。1本で2,3人は持ち上げられる剛性を持っています。これを篭手に仕込んだリールで一気に引き上げ、5000ケトル上空に昇ったって訳です。上空にも同様にワイヤーを張り、足場として使ってました」
「……どうやって巻いたんだ? 瞬時に持ち上げられる機能でもあるのかよ?」
「上昇する事自体は難しくありません。もう空の彼方に飛んでいってしまいましたが、上空に気球を用意していました。地面に結び付けられた紐を切り、気球の浮力で一気に飛翔したんです。一応篭手にも巻き取りの機構は搭載されてますけど、瞬時に飛翔するとなるとこの方法しかありませんね」
「よくもまぁ、博打な方法を平然と使うぜ……。まぁ、俺には必要ねえ物だな」
「ですね。完成しちゃいましたもんね」
「何の話?」
ミイティアがカーネリアさんの谷間から顔を出し、さっぱり見えない話に食い付いてきた。
マサユキとサーヴェントさんは顔を見合わせ、「ひ・み・つ」と言う。
これにはミイティアは怒ったが、カーネリアさんがキュウギュウと谷間に押し込まれ黙殺されてしまった。
マサユキは場が落ち着いたのを見計らい、無線で合図を送る。
しばらくすると……森の奥からゾロゾロと人が出てきた。
皆、手には長距離用のボウガンを携えている。
「紹介が遅れましたが、彼らは鈴蘭の実行部隊の者たちです。蠍はその取りまとめ役をしています」
「やっぱり複数人いたわね。まともに戦う人じゃない事くらい分かってたけど……なんかシャクね」
「事戦いにおいては卑怯は戦術です。理屈に合わないのが戦闘ですし、策をいくら講じても負ける時は負けます。今回は二人の力を見てもらうためにお願いしていました。種明かしはこれくらいでいいでしょうか?」
「……どうする? ミイちゃん?」
「あ、あの……皆さんから見て、私たちは役立ちそうですか?」
それを聞き、蠍たち実行部隊の者は大笑いする。
なぜ笑われているのか分からないミイティアは困ってしまった。
蠍がその理由を代弁する。
「嬢ちゃん。あっしらはずっと陰ながらアンタらを見てきてるんだ。今更な話ですぜ。……ふぅ。主様の護衛、あっしら一同からもお願いしやす」
蠍たちは深々と頭を下げた。
「ミイティア。彼ら見覚えない?」
「んーっと……」
蠍たちがフードを脱ぎ去る。
「あっ! アルさん! ヴェダさん! それに宿屋にいたニナさん! 雑貨屋で働いてたカルムさんまで……。みんなシド様の部下じゃなかったの?」
「んーっとね。厳密には今もシドさんの部下なんだ」
「ど、どういう事なの?」
「俺の首に懸賞金が掛けられてるんだ。依頼主はシドさん。暗殺に来たところを取り押さえ、条件付きで雇っているんだ。と言っても、暗殺任務は続行してもらっているから、いきなり後ろから刺されても文句は言わない契約なんだ」
「……意味が分からないわ。どうしてそんな事を?」
「彼らのためさ。俺の暗殺に失敗した彼らは、自ら命を絶たねばならない掟に縛られている。ならば、依頼が継続すれば問題ない。ただ、永遠にこの状況を持続する事は不可能だ。だから、シドさんの真意を確かめるまでの契約になっている」
「それって……私たちの『味方ではない』って事?」
「うん。俺の行動次第では敵にも成り得るって事だね」
ミイティアは状況を受け入れられず、頭を抱え込んでしまった。
蠍が心の内を話す。
「譲ちゃん。あっしらは主様の味方になりてえ。だが、シド様を裏切れねえ。犬畜生同然に扱われてきたあっしらに手を差し伸べてくれた恩人に、弓は引けねえんだ」
「……なぜ、兄様を慕ってくださるのですか?」
「そりゃぁ……義理ってのもあるが、救世主様だと思うからだ」
「それは言い過ぎですよ。俺は成り行きで鵺を演じていますが、正義の味方ではありません。救世主とは逆の道を歩んでいるんですよ」
「それでいいんだ。公平なんて幻想に囚われない生き方に、あっしらは惹かれるんだ。シド様にもそんな気概があったが……今は分からねえ。主様はそれを変えてくれると思っているんだ」
「何で!? 何でそんな事言うのよ! みんな兄様の部下になってしまえば済む話じゃない!」
「ミイティア!!」
マサユキはミイティアを怒鳴り付けた。
「ミイティア、人の生き方を否定しては駄目だ。それが善だろうと悪だろうと、それを選ぶのは当人次第だ。空腹に飢えた者を救ったシドさんは、彼らにとって恩人だ。俺はシドさんと分かり合おうなんて絵空事を言うつもりはないが、俺に刃を向けるなら戦うだけの話だ」
「何で!? 何で戦わなきゃならないの!? 兄様はそんな事望んでいないでしょ!?」
「表の俺ならその選択肢も取れる。だけど、今の俺は鵺だ。鵺は、あらゆる問題を『力』で解決する武闘派だ。だから、利害関係を結べない弱者は見捨てるし、裏切り者や邪魔者は躊躇なく切り捨てる」
ミイティアは黙り込んでしまった。
カーネリアさんが声を掛けるが、下を俯き考え込んでいる。
あとは自分とミイティアの問題だと思ったマサユキは、皆を解散させた。
工房に足を向けたマサユキに、サーヴェントさんが声を掛けてくる。
「いいのか?」
「あとはカーネリアさんに任せますよ。どっちにしても、選ぶのはミイティアです」
「まぁ……そうだな」
次回、水曜日2015/2/25/7時です。