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黒の錬金術師 -黒の称号を冠する者-  作者: 辻ひろのり
第4章 特区構想計画編
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第82話 新たなる可能性

「これがいいのかしら?」

「……も、もう少し上です」

「こう? あんっ、動かないで!」

「す、すみません……。もうちょっと優しくお願いしますね」

「に”い”さ”ま”!!」


 ミイティアは仁王立ちし、凄みある顔を近付けてくる。

 マサユキは作業の手を止め、静かに答えた。


「邪魔しちゃったかな?」

「そうではありません! 何ですかその……破廉恥な会話は!?」

「そう? 私もお兄ちゃんも至って普通だけど……ミイちゃんは気になるお年頃なのかしら?」

「そ、そんなんじゃないわよ!! もう少し静かにしてほしいだけよ!」

「あ~ん! スネたミイちゃん超可愛いい!!」


 カーネリアさんはミイティアに抱き付き、頬ずりを始めてしまった。

 マサユキは平然と作業を続ける。


「カーネリアさん、ここにもお願いします」

「まったく! お兄ちゃんは人使い荒いわね!」

「そうですか? これはミイティア用ですし、丁寧に作ってあげたいじゃないですか?」

「兄様それ……私のだったの?」

「うん、そうだよ。……まだ完成してないけど着てみる?」

「う、うん……」


 ミイティアは手渡されたマントを着ける。

 ただ、どう見ても「ただのマント」にしか見えない。


「兄様? これにも何か能力が付いているの?」

「んー……外に出ようか?」

「なぜ外に? って! 何でそんなに勿体ぶるのよ!?」

「いいのいいの!」


 ミイティアの言葉を無視し、マサユキは裏庭に向う。

 そして裏庭に出ると、地面に転がっていた石を拾い始めた。


「兄様? 何してるの?」

「ん? 気にしなくていいよ。ミイティアはフードを被ってね」

「んもぉ! ちゃんと説明してよ!」


 ミイティアはマントに備え付けられたフードを被る。

 フードは頭をスッポリ隠せる十分な深さがあった。

 しかし、視界はかなり狭められ、激しく動けば簡単に捲れ上がってしまいそうでもある。


「これから「そのマント」のテストをする。戦闘状況を前提としたテストだから、全力で動き回ってね」

「分かりました」


 マサユキはミイティアに向かって石を投げる。

 ミイティアはそれを簡単にかわしたが、次々と飛んで来る石に息付く間もなく動かされる。

 次第に石の勢いが増し、厳しい角度で飛んでくる。

 段々と回避するのが難しくなり……ついには石が当たってしまった。


「痛ッ!」

「大丈夫? 別に剣とか籠手で防いでも良かったんだよ?」

「え? ……そ、そんなの分かってます!」

「ホントー?」

「ちょっと回避できるか試してただけです!」

「まぁいいよ。動いてて気付いたかな?」

「……何がですか?」

「そのマント、全然捲れないでしょ? それに動き易くない?」

「そういえば……」


 マントには『風になびかない』能力を付与してある。

 仕組みは簡単だ。

 カーネリアさんに協力してもらい、マントを避けるように動く空気の流れる気道を作ってもらった。


 動き回る事で発生する風は、気道によってマントには当たらなくなる。

 体に当たる風も軽減され、追い風を受けた時のような無風状態で動けるようになる。

 つまり、意図的に無風状態を作り上げ、フードを捲れさせないという訳だ。


 ただし、効果を持続させるためには魔力が必要になる。

 そこで、籠手に付与した物と同じ「魔力を吸収する能力」を付与してある。


 魔力は人に限らず、食べ物や水、そして空気中にも存在する。

 ただ、魔術師の持つ魔力と比較すると微々たる物だ。

 なので、可能な限り低出力で実現できるよう力を抑えて付与してもらい、大気中の魔力だけで能力を持続させられるようにしてある。


「――という訳さ。でも、まだまだ付与が甘いみたいだね。フードが捲れはしないけど、なびいて視界を邪魔してるみたいだ」

「うん……。でも、これで私も付いていけます!」

「そうだね。『約束さえ』クリアしてくれればだけどね?」

「任せてください!」



 ◇



 二人を学校に返し、マサユキは作業に取り掛かるべく準備を始める。

 そこに、サーヴェントさんがやってきた。


「兄ちゃんすまねえが、手伝ってくれねえか?」

「いいですよ。何をすればいいですか?」

「『アレ』の制御を、どうにかできねえかと思ってな?」


 サーヴェントさんの言う「アレ」とは、魔導エンジンの事だ。

 ただ、当初予定していた魔導エンジンとは発想が違う。


 当初予定していた魔導エンジンとは、火魔法でシリンダー内に小爆発を起こし、爆発力でピストンを稼働させ動力を得る方法だった。

 そして今あるのは、ロケットエンジンの要領で火魔法を直接推進力とする方式だ。


 ただ、火魔法を力任せに放出するだけでは十分な推進力は得られない。

 規模は違うが、火炎放射器やガスバーナーと同じような物だからだ。

 そんな物では十分な推進力は得られない。

 そこで、カーネリアさんの風魔法と融合させてみた。

 結果、火と風の相乗効果に因り、爆発的な推進力を得る事ができたのだ。


 問題はそれで解決したかに思われたが、今度は熱管理の問題が生じた。

 高火力にエンジンが悲鳴を上げ、壊れてしまったのだ。

 

 冷却装置ラジエータを設置する案もあったが、高火力を十分冷却するには大きな冷却装置ラジエータが必要になる。それでは重量の問題が生じてしまう。

 そこで、材質の改善を試みた。


 材料には「ラヴァリウム」と呼ばれる溶岩鋼を使用した。

 主に溶鉱炉に使われる熱耐久力の高い金属ではあるが、衝撃に脆い性質がある。

 そこで、ミスリルを融合させてみた。

 結果、十分な熱量に耐えられるエンジンとなり、熱管理の問題は解決した。

 で……サーヴェントさんが相談してきたのは、その後の問題だ。


「エンジンは良いんだけどよ、空力制御がうまく行かねえんだわ」

「見た目は完全に飛行機なんですけどね……。理屈は分かってても、実物に仕上げるのは難しい問題ですよねぇ」

「だよなぁ。俺も紙飛行機を参考に作ってはみたが、この規模となると理屈通りに進まねえわな」

「この際、羽を取っ払ってはどうでしょうか?」

「……羽無しで飛べるのか?」

「いえ。もう完全にファンタジーな発想なんですけど――」

「今さら言うか? フヒ!」

「それは言いっこなしでお願いします!」


 紙を取り出し、イメージを絵にしていく。

 そして、絵を手で表現しながら説明する。


「一人乗りのサーフボードって感じです。こ~んな感じに、波乗りの要領で飛べばいいんですよ」

「だがよ。それじゃ小回りが利かねえんじゃねえか? 直進だけじゃ戦闘には使えねえぜ?」

「じゃあ、浮遊能力を付与するとしますか」

「カーネリアの魔法か……だが、あれは繊細な風の制御が必要になるぜ? 俺に扱えるとは思えねえぞ?」

「難しい操作は必要ないと思いますよ。要は、空気の層に乗っかってしまえばいいんです。飛行機の羽だってそうです。羽の上側より下側の気圧が高い事で空力を得られます。それを魔法で無理やり実現するんですよ」

「それはつまり……空気を板の下に送り込めばいいって事か?」

「理屈ではそうなりますね。周辺の気圧制御もできれば、急反転などの小回りを良くできます。その場に留まる事も可能だと思います」

「なるほどな! それが実現できたら面白れえ! さっそくカーネリアに頼むぜ!」

「待ってください。それは後回しにしましょう。それより……」


 作った魔導エンジンはセスナ機に搭載する大きさなので、「一人乗りのサーフボード」に載せるには大き過ぎて使えない。

 つまり、作り直しが必要になるのだ。

 そして問題となるのは、『それを作るための材料』を集められるのか分からない事だ。


 エンジンに使うラヴァリウムは希少であるものの、比較的集め易い。

 それに使うミスリルも少量で済むので問題とならない。

 問題は、本体の材質だ。


 本体を軽い「木製」で作るのも有りだ。

 ただその場合、高火力に耐え切れず焼けてしまう可能性がある。

 能力を付与するにしても、木では十分な能力付与が行えない。

 一番理想的なのは、軽い上に飛び抜けて能力付与しやすいミスリルなのだが……十分な量のミスリルを確保するのはかなり難しい。


 ミスリル製である白金貨を鋳潰して使うという手も無くもないが……そもそも硬貨を材料に使うのは違法である。

 全面ミスリルで作るとなると、白金貨で何枚になるか分からないし、高額にもなり過ぎる。

 となると、ミスリルに近い材質の素材を探すか、能力付与の限界値が高い合金を新たに開発するかしかないだろう。

 仮に、運よく材料を集められたとしても……間に合うかどうか……。


「兄ちゃんどうしたよ?」

「資材をどうやって調達しようかと思いまして……」

「金が掛かるって事か? なら、俺の白金貨を使ってくれ」

「いえ、その必要はありません。……と言うより、その程度の量では作れないんですよ」

「……プロメテシウムやラヴァリウムを使うってのは駄目なのか?」

「駄目ですね。ラヴァリウムは熱耐性に優れていますけど、全面に使うと重量の問題が出ます。プロメテシウムの場合、使い道が狭いためほとんど流通してないんですよ」

「ふむ……」


 二人してウンウン唸っていると、ある事を思い出す。 


「……そう言えば。さっきカーネリアさんに「腕輪」を使ってもらったんですけど、想定以上の出力が出てました。あれを魔導エンジンに転用できればいいのかもしれません」

「休憩室の穴の話だろ? 俺が使った時はあんな穴は開かなかったんだがな? 相乗効果が影響してるんじゃねえのか?」

「それは言えますね。……って、そうだ! さっきカーネリアさんに「靡かないマント」を作ってもらったんですよ。それを使って試してみませんか?」


 休憩室に移動し、「靡かないマント」をサーヴェントさんに着けてもらう。

 そして、適当に裏庭を駆け回ってもらう。


「うおおおお!! な、なんだこれ!? 妙に体が軽く感じるな?」

「やはりミイティアに使ってもらった時より効果が発揮されてますね。となると……」


 少し重量があっても、十分能力付与できる材料を使って作れるかもしれない。

 余裕があれば、色々とギミックを加えてもいいかもしれない。

 サーヴェントさんと相談し、早速作業に取り掛かる。



 ◇



 順調に計画が進行し、数日が経過した。

 そんなある日、事件が起きた……。


「ふぅ。ここに来るのも久々だ……」


 マサユキは一人山小屋に来ていた。

 その小屋は、4年前に石鹸開発に使っていた山小屋だ。


 あれ以降、特に使い道がないこの小屋は物置きと化し、人も寄り付かない場所という事でぬえの鎧などが収められていた。

 マサユキは鎧の破損を修復をするため、小屋に立ち寄っていたのである。


 小屋の鍵を開けようとドアに寄った時、マサユキは『ある事』に気付いた。

 鍵が開いていたのだ。

 しかも、強引にこじ開けられた訳ではなく、綺麗に解錠されている。


 ナイフを抜き、物音を立ないよう小屋の中を伺う。 

 中には……誰もいない。


 ゆっくり小屋に入り、中を見渡す……。

 何やら荷物らしい物が置かれ、焚火場に手を翳すと僅かに温かみを感じる。

 誰かが寝泊まりしているようだ。

 ひとまず詮索は後回しにし、無くなった物がないか調べる。

 

 一通り調べたが……特に無くなった物はなかった。

 むしろ、物が整理され小屋の中が綺麗にも感じる。


 その理由に考えを巡らせていると……キイっと音を立てドアが開いた。

 マサユキはナイフを持ち、振り向きざまに入ってきた人物を押し倒した!

 そして、喉元にナイフを突き付ける!


 ナイフを突き付けられた者は「キャー!」 と悲鳴を上げ、突き付けられたナイフに怯えてプルプルと震えている。

 良く見ると、20代くらいの女性だった。

 それが分かった瞬間辺りが薄暗くなり……勢いよく何かを振り下ろされた!


 ――ガッ、ギギギギッ!

 なんとかナイフで防げたが、振り下ろされた物は、釘がいくつも飛び出した「こん棒」だった。

 こん棒を持つのは50代くらいの男。

 側には40代くらいの女性もいる。


 男が大声で怒鳴り付けてくる。


「娘から手を放しやがれ!!」


 こん棒に力が込められ、釘が目の前まで迫ってくる。

 だが、マサユキは……


「この状況では動けません。場合によっては娘さんに当たってしまいます。どうか冷静になってください」

「何度も言わせるな!! 娘から離れやがれ!!」


 男はマサユキの呼び掛けを無視し、更に力を乗せてくる。

 マサユキは力を入れこん棒を押し返すと、左手で男の右手親指を掴み、小手返しの要領で外側に捻る。


 グイグイと左手の捻じ込みを強め、男が「こん棒を離すまい」と抗った瞬間、一気に押し出す!

 男はドアの外までよろめくように押し出され、尻もちを着いた。

 マサユキはすかさず男の後ろに回り込み、首元にナイフを押し当て再度制止を呼び掛ける。


「冷静になってください! 危害を加えるつもりはありません! 物取りと勘違いされていたら申し訳ありませんが、ここは俺が借りている小屋なんです! 鍵が開いてて警戒していたところ、あなた方が現れ咄嗟に反応してしまっただけなんです!」

「この状況で、何を信じろって言うんだ!?」


 ……確かにその通りだ。

 状況が逆転しただけであって、やっている事はこの男と同じだ。


「お父さんから離れて!」


 小屋の中にいた女性が声を荒げる。

 見るとその手には、鎧と一緒に保管されていた剣が握られていた。


 マサユキは状況の悪化を察し、男を解放する。

 そして、ゆっくりと離れるとナイフを仕舞った。


 女性たちは男に駆け寄り安否を気遣うと、再びマサユキに立ち向かおうとこん棒や剣を構える。

 しかし、マサユキはそれに動じず、胸に手を当て一礼する。


「俺はマサユキと言います。俺はこの小屋に置いてあった鎧と剣を取りに来ただけです。大切な娘さんを押し倒してしまった上、誤解を与えてしまった事をお許しください」

「そんな言葉で、ワシらを騙せると思っているのか!?」

「お父さん! あの人、本当にここに来ただけかもしれないわよ?」

「そんな訳あるか! こういう奴は言葉で騙しやがる! 簡単に騙されるんじゃない!」

「でも……あの人は私を傷つけないよう気を使ってくれたし、ナイフも仕舞っているわ。ここは落ち着いて話を聞きましょ」

「くっ……」


 男は警戒しつつも、こん棒を下ろした。


「ありがとうございます。よろしければ、名前をお聞かせ頂けないでしょうか?」

「ワシは……ディグラだ。これは妻のフィビア。そして娘のオルラだ。ワシらは……」


 ディグラさんは言葉を詰まらせた。

 思い浮かぶ心当たりを聞いてみる。


「もしかして、最近の「物取り」はあなた方ですか?」

「…………」


 何も語らないが、表情から「それが当たり」だと分かる。

 彼らがそれを素直に話さない理由も分かる。

 この世界での「物取り」は、思いのほか罪が重いからだ。


「では、これからも『この生活』を続けるおつもりなのでしょうか?」

「そんなつもりはない! 仕事さえできれば……」


 娘のオルラさんが理由を補足する。


「お父さんは目が悪いの。それで仕事ができなくなって、私が代わりに頑張ってたけど……」


 なるほど。だんだん状況が掴めてきた。

 ディグラさんが襲ってきたのは、娘さんを守るためだ。

 愛娘を目の前で襲われたなら、怒り狂っても当たり前の事だろう。

 仕事をクビにされた事が原因でこんな生活はしているが、根は素直で、十分働く意欲を持っている。

 それに……彼らは「物取り」を自覚しているが、『大した問題でない』という事に気付いていない。


 マサユキは彼らが持って来ただろう地面に転がっていた野菜を拾うと、ゆったりとした口調で話し始める。


「この野菜、美味しいですよね」

「あ、ああ……」

「鶏肉と一緒に煮込んでスープにすると、これがまた格別なんですよ。焼き立てのパンがあれば尚最高です」

「マサユキ……とやら。結局ワシらは……」

「もしかして、「物取り」の罪を問われるとでも思ってます? 俺はそんな事しませんよ。それより、これだけで足ります?」

「い、いや。まぁ……」

「なら、鶏肉を差し入れますよ。あと小麦粉や塩、お酒なんかも持ってきますね」


 平然と話すマサユキに、ディグラさんは疑念の声を上げる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 何でそんなに平然としているんだ? ワシらを騙して何かさせたいのか?」

「別に深い意味はありません。隣人として何かできないかと思ってるだけです」

「ワシにはその考えが理解出来ん! なぜそんなに人を信じられるのだ!?」

「お父さん待って!」


 オルラさんはディグラさんを落ち着かせると、小屋に入っていく。

 そして、何かを持って来た。


「これを対価として譲って頂けないでしょうか?」


 見せて来た物は、銀のブローチだ。

 だが、マサユキはそれをチラリと見ただけで、すぐに目線をオルラさんに戻す。


「対価は要りません。隣人としてお付き合いさせて頂きたいだけです。それに……それは大切な物なのでしょ? 尚更受け取れませんよ」

「この世に無償ほど怖い物はありません。あなた様のお言葉は優しいですし、信じたい……。だけど、それに甘んじていては前に進めません。だから、対価としてこれでお支払いたいのです。どうか、お願い致します」

「……分かりました。お気持ちを汲み取れず、申し訳ありませんでした」


 マサユキは頭を下げた。

 オルラさんはその姿に慌てたが、交渉を続ける。


「で、どうでしょうか? 対価として見合いそうでしょうか?」


 受け取り、じっくり観察する。

 受け取った銀のブローチは、琥珀と銀だけのシンプルな物だった。

 だが、丁寧に細部まで作り込まれ、光の反射角まで計算されたかのように美しく輝いている。

 鑑定眼のないマサユキでさえ、一流の職人技が注ぎ込まれた物だと分かる程の出来だ。


「これはスゴくいい物ですね。家宝だったりされるのですか?」

「いいえ。これはお父さんが作ってくれた物です。私も見よう見真似で作った事がありますが、ここまでの物は作れません」

「なるほど……。でも、これは対価に見合うなんて物じゃないですね」


 意味を取り違えられてしまったのか、オルラさんはガックリと俯く。


「ち、違います! こんな高価な物は『食料品だけでは釣り合わない』って意味です! むしろ、その腕を見込んで雇いたいくらいですよ!」

「ほ、本当ですか!?」

「待つんだ!」


 ディグラさんが話に割り込んできた。


「それはワシが作った物に違いないが……ワシは目が悪くてもう作れん。それに……ワシらはお尋ね者だ」


 マサユキは首を傾げる。


「全然問題ないですよ。目が悪いなら眼鏡を掛ければいいだけです」

「眼鏡は高価な品だぞ? ワシらにはそんな金はない」

「俺が出します。そのくらいの出資は安い物です」

「だ、だが、「物取り」は拭えぬ罪だぞ?」

「それも問題ありません。この野菜は出来が悪く廃棄された物です。そんな物を選んで食い扶ちにしている辺り、罪に問える事をしてきたとは思えません。他に借金や問題を抱えてたとしても、俺が解決してみせます。ならば、これだけの銀細工を作れる職人です。雇っても問題ないでしょ?」


 ディグラさんは男泣きを始めてしまった。

 フィビアさんとオルラさんはディグラさんに寄り添い、泣きながら頭を下げる。

 

「となると、新居が必要ですね。工場こうばも必要ですし……。仮住まいになりますが、工房に部屋を用意させますよ」

「ああいや! お許し頂ければここで十分でございます! 旦那様にそこまでしていただく訳には」

「あ、あの……その「旦那様」とか「敬語」は止めて頂けません? 雇うとは言いましたけど、任せたい仕事をお願いしたいだけであって、上下関係を作りたい意味はないんですから」

「……どんな仕事を任せようって話ですかい?」

「時計を作ってもらいたいんです。まぁ、道ながらお教えしますよ」


 話がまとまり、移動の準備を始める。

 マサユキは鎧を抱え、ディグラさんらを連れ工房に向かった。


次回、水曜日2015/2/11/7時です。


2015/2/6 訂正

「ナタ」→「こん棒」に修正。

ニュースで悲報を拝見し、慌てて修正しました。

修正前の文章で不快な思いをされた方がいらっしゃいましたら、申し訳ありませんでした。


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