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黒の錬金術師 -黒の称号を冠する者-  作者: 辻ひろのり
第4章 特区構想計画編
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第78話 意外な訪問者と解決法

「おう! 兄ちゃん今日も早いなって……グフフフどうしやがった? クハハハハハ!」

「…………」

「いつものヤツらしいぜ?」


 マサユキの言葉にできない悲痛な叫びを、親方さんが代弁してくれた。

 いつもの事だが、ミイティアが暴れてマサユキの顔は腫れ上がっている。

 サーヴェントさんも事情は理解している。

 だが、それを分かった上で冷やかしてくるのだ。


「で? 今日は誰に寝込みを襲われたんだ? クフフ」

「……分かり切った上で聞いてません?」

「カーネリアだろ? アイツ珍しくヘコんでたぜ」

「サーヴェントさんに焚き付けられたと聞いてるんですけど? わざとですか?」

「わざとも何も、アイツがそうしたいからしたんじゃねえのか?」

「はぁ……。何を言っても埒が明かない気がします……」

「別に深く考えなくていいじゃねえか? 気にいった女なら、拝み倒してでも抱く! これが普通だぜ?」

「そういうのは卒業したんです! まったく……」

「頭固てえなぁ。……今夜は俺が夜這してやろうか?」


 親方さんは大笑いする。

 俺はグッと堪え……華麗なスルーを試みる。


「にしても連絡来ませんねぇ? あれから3日も経ってるのに」

「兄ちゃん話逸らすの下手だなぁ。昨晩カーネリアとはどうだったのよ? やるとこまでヤッちゃったか?」


 グッっと……堪え……。


「は、早く……連絡くらいくれても、イイデスヨネ?」

「オッパイデカかったろ? 何気にアツイデカイからなぁ。もう夢心地だったんじゃねえか? ウヒ! ウハハハハハハハ!」

「ザ、ザーヴェント……ざん?」

「兄ちゃんはケツ派か? 俺も分からなくもないが、やっぱ女は……おい? おいおいオイオイオイ!! チョ、チョット待て!!」


 赤く燃え上がる鉄の塊を持ち上げ、サーヴェントさんの口元に向けている。

 マサユキに無表情でユラリユラリと詰め寄られ、サーヴェントさんは顔を青くしている。


「何を脅えてるんです? ほっぺたが落ちちゃう程オイシーですよ~。ニヒ! ニヒヒヒヒ……」

「いやいやいやいやいや、待て! 待てって! 落ちるどころか穴が開く! やり過ぎたのは謝る! だから落ち付けって!」

「坊主、そのくらいにしてやれ」

「……ふぅ。仕方ないですね」

「いやー悪かった。「兄ちゃんは男色家」だとカーネリアには言っておくぜ」


 脳漿が沸き立ち、体がワナワナと震えたかと思うと……何かが切れた音がする。

 熱せられた鉄の塊を掴んでいた鉄ばさみを持ち、サーヴェントさんを睨もうとしたが……もうその場にはサーヴェントさんはいなかった。

 相変わらず……逃げ足が早い。


「坊主の気持ちも分からんでもないが……許してやれ」

「しつこいのが問題なんです! せめて……笑い話に収めて欲しいですよ」

「まあ……アイツは嬉しいんだろうよ。よそ者扱いされず、力ではなく個人として受け入れてくれた事がよ」

「俺も……似たようなものですからね」


 マサユキはサーヴェントさんに近しい物を感じていた。

 「異世界転送」された場所がここでなければ、きっと誰も信用できず、独り苦悩しているだろうと思うからである。


 親方さんは頭をゴリゴリと撫でてくれる。

 ゴツゴツした手で遠慮なしに撫でてくるのだが、いつも不思議と救われた気分になる。

 俺も……このくらい懐の大きい男になりたい……。


「さあ、続きだ!」

「ええ!」


 再び作業を開始する。

 そこに……。


「相変わらず工房に引き籠りだな? それに何か楽しげだ!」


 後ろから聞こえた懐かしい声の方を振り向くと……。


「ダ、ダエルさん!!」

「おう! マサユキ元気にしてたか?」

「はい! ダエルさんもお変わりなく元気そうで何よりです!」

「相変わらず、その流暢な話し方は変わらねえんだな?」

「そんな事より、リーアさんとミイティアには会いましたか? 二人とも喜びますよ!」

「いや、まだ野暮用があってな」

「野暮用……ですか?」

「すぐ終わるって。ゼアに届け物を渡しに来ただけだ」


 ダエルさんは背負っていた鞄を漁り始める。


「あれ……どこ行ったか……この辺に……おっ! あったあった!」


 鞄から取り出したのは、シワクチャになった紙だ。

 それを親方さんに渡す。


「あのオッサン人使い荒いんだよなぁ。人を散々コキ使うだけ使って、王都に呼び出したかと思ったら「ここに届けろ」ってよ」

「いいじゃねえか。あの人は悪気がある訳じゃねえしよ」

「あの……ダエルさん?」

「ん? なんだ? 土産か! そうだなぁ……」

「いえ。そういう話ではなくて……国王陛下をオッサン呼ばわりして、平気なんですか?」

「オッサンはオッサンだ! ジイさんと呼ぶと怒るがな? ハッハッハッハッハッハ!」

「そうだったな! ガッハッハッハッハッハ!」


 2人とも平然と……馬鹿にでもしてるかのように笑っている。

 国王陛下から預かった書簡もシワクチャだし、もう何が何やら……。


「その話はいいとして――」

「いいのか? まぁオッサンなりジイさんなり、好きに呼べばいいと思うぜ?」

「そういう話ではありません!」


 今日は心をかき乱されてばかりだ……。

 気持ちを落ち着かせ、本題に入る。


「国王陛下からの書簡って、商品の代金について書かれているんですか?」

「いや、内容までは知らねえな。……何かあったのか?」

「えーっとですね。王都に出荷した商品の代金が不自然なんですよ。どうも金貨に細工されているようでして」

「偽造硬貨の話か?」

「ご存知なんですか!?」

「知ってるも何も噂になってるぜ? 見分けが付かねえってな。商人の間じゃ白金貨で清算したり、現物取引か売掛で凌いでるって話だ」

「なるほど……」


 偽造硬貨の判別が付かない以上、金貨を使った取引では損してしまう可能性がある。

 だから、偽造が難しい白金貨や物々交換といった現物取引、一括清算できる売掛を使っているのだろう。


「その対策は考えました。色々許可や確認が必要だと思ってまだ試していませんが……」

「ほお! そいつは聞きたいな! ……っとその前に、書簡の確認をしようか。俺の聞いてきた話と関連するかもしれねえからな」

「分かりました。休憩室で話しましょう」



 ◇



 届けられた書簡には、やはり偽造硬貨の問題が書かれていた。

 事態はかなり深刻で、国内にはかなりの枚数が出回っているらしい。

 犯人探しは実施されているが、表立って大々的に動けないため、解決には時間が掛かりそうだという事だ。


 偽造硬貨を判別する方法はあるらしい。

 だが、1日1000枚程度の判別がやっとで、内政面での資金運用でギリギリの状況のため、マサユキへの支払いにまで手が回らなかったそうだ。


 そこでダエルさんに手紙を託し、マサユキに協力を仰ぐ手筈だった……のだが、ジールさんたちがダエルさんを追い抜いて到着してしまい、混乱を招いてしまっていた。


 送り付けられた金貨は、予想通り偽造硬貨が含まれた物だった。

 ただ、その内訳は代金だけでなく、依頼の意味も含まれていた。

 「検証で鋳潰しを許可するためにも再鋳造権は必要だし、どうせ作り直すならまとめてやってくれ」

 と……あまりの手抜き加減に「おいオッサン! 手抜き過ぎだろ!」 と叫びたい。

 

「国王陛下は相変わらずですが……やはり、受け取った金貨は偽造硬貨だけではなかったようですね」

「受け取ったって……こっちの領収書には金貨3万枚って書かれているが……そんな大金を受け取ったのか?」

「えーっと……約8万枚ですね。本物も含まれている事を考えれば、5~6万枚相当だと思いますけどね」

「なんつーか……現実感ない数字だな? マサユキはやる奴だと思ってたが……サッスガだな!」


 ダエルさんは親指を立て、ニカッと笑みを見せているが……どうにも無理をしている感じがする。


「サッスガって顔してませんよ? ものすごく引きつってますし」

「そりゃそうだ! 俺の全盛期ですら万に届くかって感じだ! この数字にどう納得しろって話だ?」

「……まっ。この際忘れましょ」

「忘れ……もういい! こんな事で時間食ってても仕方ねえしな!」

 

 やりきれない顔をするダエルさんを見るのは、初めてかもしれない。

 でも、そんな事で優越感を感じたいとは思わない。

 俺にとって金は、所詮金。

 稼いだ金に一喜一憂する事があっても、それをアドバンテージだとは考えたくない。

 そういう心の制御は難しいのだけど、ダエルさんにも慣れてもらいたいものだ……。


「ともかく、届けられた書簡で許可は頂けました。俺が考えた判別方法を試してみましょうか」


 準備に取り掛かる。

 用意したのは、貯金箱のような硬貨を入れる口の付いた箱と、滑り台のような鉄の板が付いた装置。それと、四角い鉄の塊。


「三通り用意してみました。まず、この箱は「硬貨の大きさを比較して分類する装置」です。偽造金貨の出来は精巧で、レリーフや重さでは判別できません。『金貨の大きさが違う』という点に着目し、硬貨の大きさで分類する機械です」


 実際に金貨を投入してみると、2種類に分かれて落ちて行く。


「単純に大きさだけで分類してます。簡単な仕組みではありますが、安価に生産できる利点があります」

「なるほどな……。これなら金に余裕のない商人にも使えるな。こっちの奴はどうなんだ?」


 ダエルさんは、滑り台と鉄の板が付いた装置を指差す。


「それは音で判別する機械です。偽造硬貨が『精巧に作られている点』を逆手に取り、材質の音の違いから判別する機械です」


 金貨をいくつか滑らせてみると、キーンという音と、リーンという鈴の音が鳴る。


「反響板に金貨が当たると、金貨の材質によって微妙な音の違いが出ます。音の違いを比較し、鈴が「リーン」と鳴ると偽造硬貨だと判別できます。ただ、これは俺の能力が前提となってますので、大量生産には向いていません」

「ふむ……。能力の使い過ぎには注意しろよ」

「大丈夫です。無理をしなければ前みたいな事にはなりませんから」

「そうか……。それでも無理はするな」

「はい。で、次なんですけど……」


 四角い鉄の塊を持ち出す。


「これは金貨を吸い付けて判別する機械です。磁石はご存じですか?」

「磁石?」

「金属に張り付く石。って言えば分かりますか?」

「剣に張り付く砂か?」

「それと同類ですね。それは磁気を帯びた砂鉄なんですけど、磁石はそれを大きくしただけです。これは鉄にコバルトとニッケルを少量加えて作った、フェライト磁石という物です」

「それはいいんだが……金貨は引っ付かないと思うぜ? 金貨は汚れはするものの、砂が付きっぱなしにはならないからな」

「その通りです。金は磁気を帯びにくい性質があります。つまり、磁石には付かない」


 磁石を金貨の山に乗せ、持ち上げる。

 すると……

 何も反応しない。


「……あ、あれ? なぜ……」


 別の判別機で偽物と判別された金貨を磁石に近づけてみるが……いくらやっても付かない。


「だから言ったろ? 付かねえって。自分で言っておいて何で戸惑ってるんだ?」

「こんな……はずでは……」


 正直……ショックが大きい。

 金貨には鉄が含まれていると考えていた。

 だから磁石でくっつけ、簡単に金貨を判別する事が可能だと思っていた。 

 図に乗っていた自分が……恥ずかしい。


 ダエルさんはマサユキの顔色を伺いつつも、フォローを入れる。


「まぁいいじゃねえか。この大きさで見分ける装置は使えそうだしよ」

「……いえ。それは確実ではありません。やはり音で判別する機械を作った方がいいかもしれません」

「だが、それは危険が伴うんだろ?」

「無理のない範囲でやればいいだけですよ」


 ダエルさんは少し考え込んだ後、質問を重ねる。


「マサユキ。もう他には判別方法はないのか?」

「ない訳ではないのですが……」


 紙を取り出し、方法を列挙していく。


「化学反応、炎色反応、磁気反応、電気伝導率、放射能測定。これらは金属の性質を理論的に導き出す方法です。ただ、これを実行するには特別な検査機器が必要です。作ろうと思えば不可能ではないと思いますけど……」

「それってよ、リンツに相談したらどうだ?」

「それはそうかもしれませんけど……」


 チラッと親方さんを見ると……眉を顰め、あからさまに嫌そうな顔をしている。

 リンツ様を呼ぼうものなら、親方さんは大反対するだろう。


「お、俺が出向いて聞いてきますよ。リンツ様は特別自治領の方でお忙しいと思いますし」

「アイツが忙しぃ? それはねえと思うぜ。アイツは興味ねえ事には一切関わらねえからな」

「と、ともかく、ここに来ると話がややこしくなる気がします。呼ぶのだけは勘弁して頂けないでしょうか?」

「まぁいいけどよ……。ゼアもいい加減許してやればいいのによ?」

「…………」


 親方さんの表情は、更に険しさを増している。

 リンツ様は万人受けするタイプの方ではないけど、そこまで嫌がる理由が分からない。


「じゃあ、聞くだけ聞くか!」

「えっと……今からリンツ様の所へ?」

「そうじゃねえよ。ちょっと待ってな」


 ダエルさんは何やら鞄の底を漁り始めると、銀色の四角い箱を取り出した。

 大きさは両手に収まるくらいで、銀かミスリルで作られているようだ。

 表面は鏡のように鏡面加工されている。


「こいつでリンツと連絡できるらしいぜ。それなりの魔力が必要になるから、ゼアの魔力を借りん事には動かせねえらしいがな」

「通信機ですか? 魔力を動力源にするとは面白いですね」

「詳しくは知らねえが、コイツならすぐに話ができるし、リンツがここに来なくてもいいからな。頼むぜゼア」


 親方さんは渋々という感じで箱に手を乗せ、魔力を込め始めた。

 すると、箱の表面に小さな紫色の光の玉が浮かび上がってくる。

 箱の表面一杯に光の玉が満たされると、少しずつ収束し始め、模様のような物を形成する。

 光の玉が時折瞬きし、まるで小さなプラネタリウムが箱の中に内包されているかのようだ。


 しばらくその光景に魅入っていると、聞きなれない声が聞こえる。


「はい。シーラでございます。ご主人様はご多忙のため、私がご用件を承ります」

「よう、シーラ! リンツいねーか?」 

「ダエル様。相変わらず不躾でございますね……。ご主人様は外出中でございます。出先をご存知であれば、直接出向かれる事をお勧め致します」

「そう言うなよ。オッサンにはこいつで話せるって聞いてるんだからよ。繋いでくれよ」

「ですから――」

「あーあーんーんー……コホンコホン……ゴホゲホ……」


 知ってる声が割り込んで来た。

 明らかにリンツ様だと思うが、なんだその……ワザとらしく割り込んだはいいが、失敗した感は……。


「シーラ。ここからはボクが話すよ」

「畏まりました」

「ダエル、久しぶりだね。もう討伐任務は終わりかい?」

「あんなのチョロイって! それよりちょっと話を聞いて欲しいんだ」

「ボクは忙しいんだ。手短に頼むよ」


 ダエルさんはマサユキの肩をポンと叩く。

 少し声色を変え、話し掛ける。


「呼び掛けに応じて頂き、感謝致します。私はぬえと申します。折り入ってご相談が――」

「あら! ユキちゃんじゃない! どうしたの? もう体いいの?」


 あっさり見破られてしまった。

 どうして分かったんだ?


「あ、相変わらずさすがですね。どうして気付かれたのですか?」

「そんなの簡単! 特別自治領こっちにいる代役は、魔力輻射でユキちゃんじゃない事は分かってるからだよ~ん! それより体の調子はどうなの?」

「お陰さまで順調です。能力の方も回復しつつあります」

「…………」


 ……なんだ、この間は?


「そうか~良かったよ。で、相談って、何?」

「偽造硬貨が出回っているという噂は、ご存知でしょうか?」

「あれはシーラに一任したけど、ユキちゃんも被害にあったの?」

「俺への被害はどうでも良くて、偽造硬貨の判別機の開発を国王陛下から依頼され――」

「魔力輻射を利用した判別方法は、完璧でなかったって事だね?」

「……そのようです」


 相変わらず話の展開が早い。

 「一を聞いて十を知る」を体現しているような人だ。


「なるほどね。ユキちゃんはどういうのを考えたの?」

「形状で判別する装置と、反響音を判別する装置を作成しました。ただ欠点があり、実用的ではありません。化学反応、炎色反応、磁気反応、電気伝導率、放射能測定という方法もありますが、手詰まりの状況です」

「なるほどね。そっちの方法の方が現実的だね。反響音の判別方法について詳しく教えてよ」

 

 さすがリンツ様だ。

 ほとんどノンタイムで切り返してきた。

 「現実的」と言うからには、理論は分かっているという事だろう。

 その中でも唯一、理屈に合わない反響音について興味を持ったという事だろう。


 マサユキは能力の詳細を伏せ、理屈を説明していく。


「なるほどね。なかなか興味深い話だったよ」

「ありがとうございます。でも、効率面から良しとできないのはご理解頂けますか?」

「ユキちゃんの場合、それ自体が無意味って思ってない?」

「す、鋭いですね……」

「って事は、いずれここに来る?」

「すぐではありませんけど、寄らせて頂きます」

「じゃあ待ってるね。判別機はもう気にしなくていいよ。あーでも、また連絡してほしいなぁ。ユキちゃんとはもっと話がしたいよ」

「俺一人では通信機が動かせませんので、また今度で……」

「え~~~~~! もっと話がしたい話がしたい話がし……(プツン)」


 通信が突然途絶えた。

 親方さんは……すごく嫌そうな顔をしつつ、してやったりという顔をしている。

 まぁ……親方さんには悪いけど、問題は大分解消されたので良しとしよう。


「親方さん。ありがとうございました」

「……コレっきりにしろ」

「努力します……」


 ダエルさんはマサユキの肩をポンポン叩く。


「まぁいいじゃねえか! 偽造硬貨の問題もこれで解消だしな!」

「いえ。何も解決してません」

「……リンツは「気にするな」って言ってなかったか?」

「『判別機は』ですよ。根本的には何も解決してません」

「って言うと、まだ何かあるのか?」

「それは親方さんとも相談したんですが……」


 マサユキは計画を説明し始めた。


 この偽造硬貨の問題は、装置を開発すれば済む問題ではない。

 偽造元を潰しても解決しない。

 偽造が可能だという事が問題なのだ。

 真の解決を目指すなら、更なる先手を打たねばならないだろう……。



 ◇



 説明を終え、ダエルさんの野暮用にも片がついたので一緒に我が家に帰る事になった。

 その道中、戦争の話や自分の状況についてダエルさんに説明した。

 ダエルさんは黙って聞いてくれたが……マサユキの期待とは逆の答えが返って来た。


「いいんじゃねえか? やるだけやった結果なんだし、もっと気楽にいこうぜ」

「また……考え過ぎでしょうか?」

「その通りだ! マサユキは考え過ぎだ! なんつーか……もっと好き勝手やっていい年頃だしな。そろそろメルディとも結婚してやらなきゃな!」

「いあ、あの……」

「なんだぁ? メルディがいないから寂しいってか?」

「そうではなくて……」


 話を濁している内に家に着いてしまった。

 授業の準備をしていたミイティアが俺たちに気付き、ダエルさんに向かって飛び付いてくる。


「父様おかえりなさい!」

「おおぉぉぉお! ミイティア成長したなぁ! たった1年でここまで成長するとは、俺も鼻高々だぜ!」


 ダエルさんは嬉しそうにミイティアを抱き締め……って、おい!

 さりげなくミイティアの尻を撫でまわすな!

 ミイティアは嫌がる素振りさえ見せないが……それでいいのか?


「兄様どうかしたの?」


 俺の考えがバレたか?

 ……いや、俺は悪くない。


「いや……」

「なんかな? マサユキに「メルディと結婚したらどうよ?」 って聞いてからずっと黙り込んでるんだ。ミイティアもメルディと一緒に結婚したいよな~?」

「あの……兄様は姉様と結婚されていますよ?」

「…………はぁあ!?」


 その後の展開は……言うまでもない。

 というか、ミイティアがある事ない事言いまくり、子供たちも悪乗りの便乗を始め、ダエルさんには散々問い詰められた。

 この状況に慣れつつある俺も……どうなんだろうか……。

 一人責められながらも、秋の空を脱力しながら眺める俺であった……。


次回、水曜日2015/1/14/7時です。

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