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黒の錬金術師 -黒の称号を冠する者-  作者: 辻ひろのり
第4章 特区構想計画編
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第72話 それぞれの成長に向かって

 腕まくりをし、カーネリアさんは高らかに宣言する。


「さぁて、これも勝って10連勝ね!」


 対するミイティアは剣を抜き、気合い十分の応えを返す。


「今日は負けません!」


 カーネリアさんとミイティアの戦闘訓練が始まった。


 開始合図とともに、ミイティアは目にも止まらぬ速さで間合いを詰める。

 そして、剣を振るおうと踏み込んだ瞬間……なぜかバックステップで距離を取る。

 ミイティアはこれまで何度も、風の塊のような壁に攻撃を邪魔されていた。

 回避できたのは、ほどんど直感のような物である。


 というのも、風魔法は火系統魔法のように目に見える魔法ではないからだ。

 発動時、僅かながら空気の揺らぎが見えるのと、独特な音が鳴る程度である。

 ただ、カーネリアさんは音を可能な限り消すようにしていた。

 単に耳触りとなる音を消したかっただけでもあるが、低い威力の魔法でも有効打とできるからだ。


 ミイティアの攻撃は続く。

 左右にサイドステップを踏み、時折フェイントを加えて的を絞らせない。

 柔軟な体から繰り出される動きは、目で追うのもやっとな程だ。


 しかし、カーネリアさんはその程度を物ともしない。

 浮遊魔法で僅かに浮き上がると、アイスリンクでスケートでもするかのように地面を滑る。

 そして、小さな風の塊と範囲の広い風魔法を組み合わせ、ミイティアを一歩も寄せ付けない。


「ほ~らほら。ミイちゃん来ないの~? ソ~レソレソレ!」

「グッ!」


 ミイティアは地面の石をいくつか掴むと、篭手に仕込む。

 再び走り始め、カーネリアさんに向けて石を射出した。

 対するカーネリアさんは、余裕の面持ちで魔力を込めた杖を横に振る。


「風の障壁。≪ウインドカーテン≫」


 目には見えない風の流れができ、射出された石はカーネリアさんを避けるように軌道を変える。

 ミイティアは続けてワイヤーアンカーを打ち込む。

 少し重量のあるアンカーは、風の障壁を物ともせず飛んでいくが……見当はずれの方向に飛んで行ってしまった。


「どこ狙ってるのかしら? そんなの意味ないわよ~」

「それはどうかしらね?」


 グイっとワイヤーを引っ張ると、ワイヤーがカーネリアさんのすぐ側に寄って来る。

 しかし方向が悪かったのか、ワイヤーは僅かにカーネリアさんに寄っただけで止まる。


「まだまだね。もう少しで当たる――」

「ハァアアア!」


 ミイティアはワイヤーを辿って勢いよく飛び込むと、勢い任せに剣を振るう。

 カーネリアさんは杖で剣を受け、そのまま杖を返してミイティアを叩き落とした。


「あっぶなー! ミイちゃん、なっかなかやる~!」


 考えに考えた策だったが……通用しなかった。

 ミイティアは肩を落とし、その場に倒れ込む。


「これでも……駄目なのね」


 パンパン!

 手を叩く音が聞こえた。

 審判をしていたサーヴェントさんが、訓練の終わりを伝えた。


「今日はここまでだ!」

「私はまだやれます!」

「ミイティアちゃん、今日は良かったと思うぜ。だが、その剣はかなり切れるんだろ? このままだとカーネリアが怪我しちまうと思うぜ」

「……ごめんなさい」

「ミイイイイちゃ~~~ん!」


 カーネリアさんはミイティアに抱き付く。

 そして、遠慮なしに頬擦りをし、頭を撫でる。


「カ、カーネリアさん、止めてください!」

「いいの! 今日のミイちゃんは頑張ったんだもの。褒めてるのよ~」

「私は……惨めな気分です。強くなれているのかすら分かりません……」

「そうね~……。成長はしてるけど、私にひと月程度で追い付けるとは思えないわ」

「……やっぱり」

「言っておくけど、約束を反故にする気はないわよ? 約束通り私が勝ったら、ミイちゃんを私の妹にするんだから!」

「…………」


 ミイティアは落ち込んでいるようだ。

 ここまで10戦して、10連敗。

 一戦毎にカーネリアさんを追い込めるようにはなっているが、段々と力任せの戦法になり、訓練の域を越えつつあるのだ。


「ミイティアちゃん顔を上げろよ。みんな見てるぜ?」


 ミイティアは顔を上げ、周りを見渡す。

 すると、心配そうに見守っている子供たちの姿が見える。


「いいか? カーネリアとの戦闘訓練は単純な力比べじゃねえ。兄ちゃんが求める応えが、そんな簡単な事じゃねえくらい分かるだろ?」

「うん……。でも、手も足も出ないようじゃ兄様と一緒に居られないわ……」

「そりゃーそうだろうな!」


 サーヴェントさんは、まるでマサユキの考えを分かり切っているかのように答えた。

 何気なく地面の石を拾うと、遠くに投げる。

 そして、背中を向けて語る。


「兄ちゃんと共に闘うなら、今のままじゃ駄目だ。だが、兄妹としてなら話は別だと思うぜ?」

「私は兄様と一緒に戦いたい! だから、強くなりたいの!」


 サーヴェントさんは振り向き、屈んで視線の高さを合わせる。


「言いたい事は分かるぜ。だが、今のままじゃ駄目だ。じゃあ、どうするか?」

「もっと訓練を!」

「そこは間違いじゃねえと思うぜ? いずれカーネリアを抑えられるだろうよ」


 その言葉にムカついたのか、カーネリアさんはサーヴェントさんに食い下がる。


「ちょっとお! 私が負けるって言うの!?」

「いずれって話だ。今は力を抑えてミイティアちゃんに合わせているが、成長には目を見張る物があるのは認めるだろ?」

「……ん、んまあねぇ……」

「俺たちは兄ちゃんに負けた。正確には『負かされた』と言うべきだろうがな。俺たちが負けたのは兄ちゃんの策に嵌ったからだが、策を見破ったとしても勝てた気がしねえ。だから『負かされた』なんだ。なぜ兄ちゃんはこんな事が可能だと思う?」

「戦い方でしょうか?」

「それもそうだが、相手の戦い方や考え方から、攻めるべき弱点を的確に突くからだと思う。魔法を使えなくても、仕組みを知ってると違うようだぜ?」

「……兄様が仰っていたんですか?」

「ああ。兄ちゃんはミイティアちゃんを心配しているぜ。……で、俺からアドバイスがあるんだが、聞くか?」

「……いいです」

「そうよ! 教えちゃ駄目よ! サーヴェントは私の味方でしょ?」


 サーヴェントさんは頭を掻く。


「そうは言ってもなぁ。今のままだと訓練を続ける意味が無いぜ?」

「いいのよ! 私を負けさせたいとでも言うの?」

「じゃあ、「勝てない勝負に挑むのは馬鹿」だとでも、ミイティアちゃんに言うのか?」

「そうじゃないけど……」

「どうせなら、いい勝負をしてスッキリ勝ち取った方がいいだろ?」


 カーネリアさんの耳元で続きを話す。


「(じゃねえと、ミイティアちゃんは「カーネリア姉様」なんて、絶対呼ばねえと思うぜ?)」

「(わ、私はそんな事言わせるつもりは……)」

「(とにかく、やる気を出してもらうためにもアドバイスが必要だ。その方がカーネリアにも、やり甲斐が出ると思うぜ?)」


 カーネリアさんは顔を赤くしながらも、黙って頷く。


「ミイティアちゃん。とにかくアドバイスは聞け。攻略法を教える訳じゃねえし、魔法の授業だと思って聞いて欲しいんだ」

「……分かりました」

「よし!」


 サーヴェントさんは枝を拾い、地面に図解を書いて行く。


「魔法は一見便利に見えるが、発動するまでにはいくつか段階を踏む必要がある。大きく分けて三段階ある。『魔力を溜め』、『魔法を構成し』、『放つ』。ミイティアちゃんの場合、『放つ』の後に動いている。それじゃ攻撃を受けても仕方ねえんだよ」

「つまり、私は『放つ』の前に攻撃を当てればいいって事でしょうか?」

「んー……これじゃ分からねえか。ちょっと見てろ」


 サーヴェントさんは手をかざす。


「ゆっくりいくぞ。まずは『魔力を溜める』」


 手に赤い光が集まり始める。


「次に『構成』」


 光が収束し、球状の炎の弾に変化する。


「で、『放つ』」


 ボンッ! と音を立て、炎の弾は遠くに飛んでいく……。


「次に、実際に使う速度でやるとだな――」


 瞬時に光は収束し、炎の弾は次々に飛んでいく。


「な? この速度に割り込むのは相当難しそうだろ?」

「……無理です。そんな速度に割り込めないわ……」

「だろ? だけど、兄ちゃんはやり遂げたぜ」

「兄様が?」

「ああ。これ以外ない方法でやりやがった」

「ど、どうやって!?」

「ん、んん……。自分の弱点を教えるようで気が引けるんだよなぁ……」

「ご、ごめんなさい。私が気付かなければならない事なのに」

「俺も改善策を立ててる最中なんだ。だから、今は簡単には教えられねえ。……どうしても知りたけりゃ、兄ちゃんに聞くってのは手だと思うぜ?」

「兄様には……頼りたくないの」


 サーヴェントさんはミイティアの頭をポンポン叩く。


「『自分で考え、それを実行する。それでも分からなければ聞く』。それがこの学校の教訓だろ?」

「……分かりました。まずは自分で考えてみます!」

「いい応えじゃねえか。よーし! 次はビードラたちの番だ!」

「お、俺たちッスか!?」


 急に話を振られて、ビードラさんは焦る。

 周りに居る子供たちも同様だ。

 とにもかくにも、訓練は続けられた……。



 ◇



「――とまぁ、学校の方はこんな感じだ」


 一緒に酒を飲み交わしつつ、サーヴェントさんに学校の状況報告をしてもらっている。

 約束を交わして5日目だが、予想通りうまくは進んでいないようだ。


「ミイティアちゃん大変そうだぜ? 放っておいていいのか?」

「俺に答えを聞いたとしても、相当難しい要求だと思いますよ」

「手がねえって事か? 俺とやった時みたいに……」

「あれは例外です。視覚を奪った上に煽る事で、溜めの大きい威力重視の魔法を打たせたから可能な話であって、訓練でお披露目する方法ではありません」

「って事は、今なら兄ちゃんを倒せるって事か? フヒヒヒ」

「そうかもしれませんね。タダじゃ負けませんけど。ニヒ」


 気持ち悪くニヤ付き、二人して睨み合う。


「まぁ……手がない訳じゃないんですよねぇ」

「おっ! どんなだ?」

「俺の手の内でも知りたいんですか?」

「別にヤリ合う意味はねぇよ。単なる興味だ」


 頭を掻き、少し悩んだ後、仕方ないと割り切って説明を始める。


「付与技術:≪レジスト≫。抵抗という言葉が示す通り、魔法に対して抵抗力を発揮する能力です。究極的には魔法の無効化を目指しています」

「抵抗? 無力化? 鎧なんかに付ける能力って事か?」

「それも一つなんですけど……まだ無理です。今は魔法構成を阻害する程度なんです」

「つまり、魔法の構成段階に介入して、魔法発動を邪魔するって事か?」

「はい。でもまぁ……理屈上の話ですからね。実用化はまだまだ遠いですよ」

「ん? ……もしかして、もう作っちまったってか? 実物があるなら見せてくれよ」

「いいですよ」


 サーヴェントさんの申し出をアッサリ受け、鞄から一枚の銀貨を取り出し渡す。


「それを握った状態で、魔法を構成してみてください」

「おっし!」


 サーヴェントさんは手に魔力を集め、魔法を発動しようとする。

 しかし、思い通りに魔法が形成されないようだ。

 少しムキになったのか強めに魔力を込め始めると……手から勢いよく炎が噴き出した。


「うわぁっ、あっちぃぃぃぃ!」


 サーヴェントさんは慌てて銀貨を投げ捨てると、手を抑えその場にうずくまる。

 俺は……この事態を飲み込めずにいた。


 サーヴェントさんは火系統の魔法を使う術者であり、火に対してかなりの耐性を持っている。

 ≪ブレイズランス≫を直接手で握っても火傷をしないような人だ。

 にも関わらず、火傷?

 いやだが……そんな事あるのか?


 投げ捨てられた銀貨を見ると、炉で熱せられたかのように赤く高温状態になっている。

 形が崩れ、少し融解してさえいる。


 考えるのを強引に抑え込み、製氷機の元に走る。

 そして氷をいくつか布に包むと、サーヴェントさんの火傷した手に当てる。


「しばらくコレで冷やしてください」

「クッソォォォ……騙された感じがするぜ」

「申し訳ありません。俺の設計ミスかもしれません」

「……そう言うな。途中まではうまくいってたんだろ? 俺が魔力を込め過ぎたせいかもな」

「でも……すみません。俺のせいです……」

「兄ちゃんのせいじゃねえよ! ……とにかく、この状況を分析してみてくれ」

「……分かりました。込めた魔力量はどの程度か分かりますか?」

「≪フレイムバレット≫10発分くらいだ」

「あの無詠唱の火の玉の事でしょうか?」

「そうだ。だが、≪ブレイズランス≫の1/20くらいの魔力量だぜ? ≪ブレイズランス≫の方が熱いはずなのに、なんで銀貨コイツの方が熱いんだ?」


 込められた魔力量や魔力強度が高いほど、炎の熱量が高くなる事は検証済みだ。

 そう考えると、≪フレイムバレット≫200発分に相当する≪フレイムランス≫の方が、圧倒的に熱量が高い。

 にも拘らず、サーヴェントさんは火傷を負ってしまった。

 という事は……。


「考えられる答えは、≪レジスト≫がサーヴェントさんの『火耐性』まで影響した可能性があります」

「……もうちょい噛み砕いて説明してくれ」

「はい。火耐性というのは、火系統魔法で火傷を負わないための防護服のような物です。例えば、≪ブレイズランス≫は鉄の鎧を一瞬で溶かしてしまう程の火力があります。そんな魔法を手掴みするにはかなり強い火耐性が必要になります。そしてその火耐性は、サーヴェントさんの魔力によって作られています。銀貨には『込められた魔力を拡散する』という能力を付与していました。その結果、≪フレイムバレット≫の形成阻害だけでなく、『火耐性』の展開阻害までしてしまったと考えられます」

「ふむ……。たしか「原型を留めないほど壊れると、能力も無効になる」って言ってたよな? それに、≪レジスト≫は「魔法の構成段階だけを阻害する」んだったな? つまり……魔力の拡散が追いつかず≪フレイムバレット≫が形成されちまって、その熱量で銀貨が破壊された。同時に『火耐性』も≪レジスト≫の効果で展開が阻害され、防御が間に合わず火傷を負ったって事か?」

「だと思います」

「つーことはよ。兄ちゃんの≪レジスト≫は魔法を封じる以外にも、相手の自滅も狙えるって事にならねえか?」

「一考の余地はありますが……特定条件下でしか実現できませんね。実用性は低いと思いますよ」


 薬箱から火傷用の薬を取り出し、サーヴェントさんの手に施していく。


「例えばよ。相手の魔法発動に合わせて射出機で飛ばす。ってならどうよ?」

「それでは神技に近い反射神経が要求されてしまいます。詠唱魔法ならいざ知らず、無詠唱魔法だと発動までに1秒と掛からないですからね」

「ミイティアちゃんならどうだ? 反応速度はズバ抜けてるし、広範囲系の魔法なら使い所もあるんじゃねえか? カーネリアに持たせるってのも手かもな?」

「それじゃ訓練の意味がないですよ。試験や実戦ならともかく、訓練はカーネリアさんの訓練でもあるんですから」

「そりゃあ……そうか。戦闘中に相手に持たせるなんて無理あるしな……」


 サーヴェントさんは投げた銀貨を拾うと、まじまじと眺める。


「何で≪レジスト≫なんて物を作ろうと思ったんだ? 前に作った魔法剣の方が実用面でも道はあるだろうし、わざわざ答えの出ない難題に挑む理由が分からねえぜ」

「そんなの分かり切った事です」


 腰に手を当て、顔の前で人差し指を上に向けた決めポーズを取る。


「面白いからです!」


 この台詞には、席を一緒にして飲んでいた親方さんにも、口に含んだ酒を盛大に撒き散らしながら笑われてしまった。


「そんなに笑う事ないじゃないですか?」

「フヒ……いや、坊主の意見は正しいと思うぜ」

「面白れえからか……。ふむ……」

「まぁそれに、これは最強の対抗魔法ですからね。っと、能力でしたね」

「最強? 俺の中では炎が最強だと思ってるんだが?」

「魔法には有利不利という相関関係がありますよね? 炎なら水に弱い。水なら地に弱い。地なら風に弱い。でも、そういう不利さも魔力の強さで克服可能です。そういう意味ではこの≪レジスト≫も例外ではありませんが、魔法発動ができない魔術師なんて、タダの人です。相手の先手を潰すには、これ以上ない最適な方法でしょ?」

「相手にはしたくはねえわな……」

「実在するか分かりませんけど、幻惑魔法や洗脳魔法、次元魔法や透明化魔法など、対処が難しい魔法に対抗できるのが長所なんです。究極的にはすべての魔法に対応できる、汎用性の高い能力に仕上げたいとは思ってます。先は長そうですけどね……」

「究極的か……。どこまで想像力を広げれば辿りつけるんだろうな?」

「ヒントの一つに、ミスリルという素材を研究できればと思ってます」

「白金貨に使われているヤツか?」

「はい。発動後の魔法をレジストする方法はミスリルなら可能なんですけど、どうしてレジスト可能なのかが分からないんですよ。理屈としては、ミスリルが魔法の構成バランスを崩す事でレジストされる……くらいでしょうか?」


 隣でガバガバと酒を飲んでいた親方さんは、聞いていた話に首を傾げる。


「坊主。それは昔教えてやらなかったか?」

「陰陽の魔法特性の話ですよね?」

「いや、それは魔獣の血についてだな。「ミスリルの剣なら、魔法を弾ける」と教えたつもりだったがな?」

「弾く? 消し去るのではなくて?」

「ワシも詳しくは知らんのだが、消すではなく『弾く』らしい。ダエルの奴は鋼鉄の剣でも弾いておったぞ」

「ダエルさんが……」


 そう言えば、長らくダエルさんとは会ってない。

 今は王都で国王陛下の頼みで動いているそうだが……何をやってるのだろう。


「その内ダエルが戻って来るそうだぜ」

「えっ!? いつですか?」

「さあな? ひと月後くらいじゃねえか?」

「なら、宴の準備をした方が良さそうですね!」

「祝うって言うと……坊主の方じゃねえか?」

「俺ですか?」

「そりゃそうだ! まだ結婚の祝いが終わってねえじゃねえか!」

「あっ……」


 スッカリ忘れていた。

 「村に戻ったらお祝いしましょう」なんて言ってた気がする……。

 今さらだが……恥ずかしい。

 とはいえ、メルディは特別自治領に行ってるし、戦争の後始末は山のように残っている。

 とてもじゃないが、お祝いをしている場合じゃない。


「やはり、悠長に構えてられませんね。戦後処理は速やかに済ませた方が良さそうです」

「まだ何かあるのか?」

「まぁ……後始末って程度です。戦闘状態にはならないとは願いたいですけど、放置しておいても怖いですからね」

「ワシはいつでも手を貸すぜ。もう戦争には加担しちまったしな」

「なるべく手を煩わせないようにはします」

「固い事言うぜ。それ! もう一杯飲め!」


 そう言って、ダバダバと酒を注ぐ。

 酒はキツイが気心の知れた仲間と飲む酒は、最高だ!

 その日はいつにも増して酒を飲んだ。



 ◇



あねさん! あねさん!」


 ビトリスが大声で叫びながら部屋に入ってきた。

 ビリアは布団から這い出し、眠い目を擦り、二日酔いで痛む頭を抱えながら答える。


「うるさいわねー! 頭がガンガンするじゃない! それに、淑女の部屋にノックもしないで入らない!」

「す、すんません……」

「で、こんな朝っぱらから何よ?」

「いや、帝国の奴らが動くみたいですぜ!」

「帝国? ……それはおかしいわね」


 ビリアは難しそうに考え込む。

 ビトリスは焦った表情のまま、気に掛けていた事を聞く。


「それからあねさん! 侵攻計画はどうするんです? 準備は出来てるのに動かねえって、どういう事です?」

「はぁ? それは前に話したでしょ? アンタのその耳は飾りかい?」

「いや……いくら取引したからって、奴の言う事を信じていいんですかい?」

「アタシが言うのもなんだけど、義理ってヤツだね。それにアイツはまたここに来る。その時どうするか決めるさ」

「んーな、悠長な……」

「とにかくアタシが決めた事だ! アンタは情報収集にでも行ってきな!」


 蹴飛ばすようにビトリスを部屋から追い出し、再び考え込む。


「帝国か……何かあったのかもしれないわね……」


 窓から見える朝焼けの空を少し眺めると、ビリアは再び布団に潜った……。


次回、水曜日2014/12/24/7時です。

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