第6話 サブストーリー:初めて彼にあった日(ミイティア)
これは、お兄ちゃんと初めて出会った時の話です。
近所の友達と遊んでお昼を食べに家に帰る途中、私は不思議な光景に出会った。
小さな光の粒が飛んでいたのだ。
その小さな光は、丘の向こうを目指して飛んでいく……。
私は不思議な光景にドキドキしながらも、興味が尽きなかった。
そして小さな光を追いかけるように、丘の上を目指した。
丘の上には……たくさんの小さな光たちが集まっていた!
光たちは温かく優しく光り、力強さも感じる……。
お父さんたちの使う魔法とは違う。でも……敵意がないことだけは分かった!
不思議な光景に見惚れていると……光たちが一点に集まり始める。
◇
しばらくすると、光たちは消えてしまった。
そして、1人の男の人が寝ていた。
「あの人? ……誰かしら?」
大きな男の人だけど……珍しい髪の色をしている。
お昼寝してるだけ? ……かもしれないけど。なぜ光っていたのか分からない。
昔、読み聞かせてもらった本の天使の話を思い出す。
「天使様は白い羽に白いローブ。そして金色の髪をしてたはずよね? ……あの人は黒い髪に黒い服。それに羽もないわ」
悪魔かもしれないけど……。天使様みたいに光り輝いていたし……。
私は判断が付かず、困ってしまった。
すると、男の人が「ガバッ!」 と、いきなり起き上がった!
慌てて近くの岩に隠れる。
そして岩陰からそーっと顔を出し、男の人の様子を確認する。
「はぁぁあああああああああ!? えっ!? はぁぁあああ!?」
男の人はいきなり変なことを言い出した!
立ち上がったと思ったら、何やら色々叫ぶ! 聞いたこともない言葉……。
その後も変なポーズをとったり、延々と何かをしている……。
「(怖い……)」
私にとってあの人の第一印象は……最悪でした。
◇
しばらくすると、男の人は岩に座り込んだ。
そして、目が合ってしまった! 私に向かって手を振ってくる。
「(見つかった!)」
急いで岩陰に隠れる。
「(あれ? 私、なんで隠れたのかしら?)」
不意を突かれてビックリしてしまったけれど……怖い感じの人ではなかった。
ずっと何かを試してたみたい。それにすごく必死そうだった。
さっきの光と、何か関係があるのかしら?
恐る恐る岩陰から男の人を覗きこむ……。
男の人は私を追い掛けることもなく、岩の上に座っていた。そして何か悲しそうな顔をしている。
その顔を見ていると……なぜか私も悲しい気持ちになる……。
「(分からないけど、やっぱり怖くない。でも……なんで悲しんでいるのかしら?)」
男の人は何かを探すようにキョロキョロし始めた。
岩を降り、地面に向かって手を動かし始めた。
「(何をしてるのかしら? 何かウンウン言ってるけど……。さっきみたいに怪しくないわ)」
しばらくすると、男の人はまた岩の上に座る。
手には綺麗に花で作られた花冠があった。でも、何か様子が違う。
目を凝らしてよく見てみる。
花冠には、小さな光が宿っているようにも見える。
「(……何? あれ? ……私も花を使った遊びは知ってるけど……あんな風にはならないわ……)」
花冠は生き生きと光沢感のある葉っぱをし、花は朝露で輝くように美しく咲いている。
そして全体から白い光を放ち、光り輝いているようにも見える。
天使の輪っかのように真っ白く輝くものではないが、幻想的な美しさを放っていた。
男の人が輪っかを自分の頭の上に乗せると、花冠は光を強める!
その姿は……まるで天使の輪っか。
そう誤解させるほど、キラキラと美しく輝いている。
「(綺麗……。天使様みたい……)」
男の人は私に自然な笑顔を向けてくる。
そして、身振り手振りで何かを伝えようと……変な動きをしている。
「(動きはよく分からないけど……悪意は持ってなさそう。何かを話したいのかしら?)」
なんとなくそう感じた。
「(天使様とお話できるかなぁ……怖いけど。お話くらいはしてみたい!)」
恐る恐る男の人に近づいていく……。
男の人の目の前まで来た。
やっぱり、男の人は岩の上から動かなかった。
表情も最初より和らいでいて、ホッとした表情をしている。
さっきから抱いていた疑問を投げ掛けてみる。
「あの、天使様ですか?」
男の人は困惑した表情をする。
「(やっぱり言葉が通じないのね)」
すると男の人は、私の頭に光り輝く花冠を乗せてくれた。
天使の輪っかを貰えたような気がした! とても嬉しかった!
「ありがとう」
そう感謝を伝えると、男の人は嬉しそうな顔をする。
「(言葉が通じてないかもだけど……気持ちが伝わったらいいな)」
次の瞬間――
男の人は苦悶の表情を浮かる! そして頭を抱えて地面に倒れた!
「――えっ!?」
男の人の息は荒い!
苦しそうに頭を抱え、痛みに耐えるような表情をしながらもがいている!
そして、動かなくなった……。
「ねえ! 起きて! 起きてよ!」
男の人の体を揺すり、なんとか起こそうとした。
とにかく必死だった! なんとかしなければと思った!
「待ってて、お父さん呼んでくる!」
そう言い残し、私は走った。
◇
辿りついたのは、私の家。
お父さんは家の前で薪割りをしていた。
お父さんに駆け寄り、シャツの裾を引っ張る。
「お父さん助けて! すぐに来て!」
ダエルは不思議そうな顔をする。
焦った表情する娘を見ると……冷静に問い掛ける。
「ミイティア、どうしたんだ?」
「男の人が倒れた!」
「それは誰だい?」
「天使様!」
「天使? ……はて?」
「とにかく来て!」
お父さんを半ば無理やり引っ張る。
「分かった!」
お父さんは優しくも力強く応じてくれた。
◇
私たちはあの人のいた場所にたどり着くと、急いで駆け寄った。
「お父さん……助かる?」
「ふむ……。これは気絶してるだけだな。ミイティア安心しろ! 大丈夫だ!」
その言葉を聞いて……体から力が抜けた。
ペタリと地面に座り込む。
「よし! 連れて帰るとするか」
そう言うと、お父さんは男の人を背中に担ぎ、家に向かって歩き始めた。
私もお父さんの後に付いて一緒に帰ろうとした。
そして、気付いた。
「輪っかがない!」
慌てて辺りを見渡す。
「ない! ……ない!」
悲しい気持ちで押しつぶされてしまいそうな気分になる。
「ミイティア? 何を探しているんだ?」
「輪っかがないの!」
草を掻き分け、辺りをウロウロと探しまわる。
ダエルは落ち着いて語り掛ける。
「大丈夫! いつか見つかるさ! ……それよりも少年を家まで連れて帰ろう」
「(うん? 少年?)」
私はお父さんの言葉の意味が理解できなかった。
男の人は大人の人だと思ったけど……。
不思議に思い、お父さんの背中を見てみると……そこには幾分小さくなった少年がいた。
服がダボダボになっており、最初見た時より縮んでいる気がする。
「(あれ? ……私の見間違いかしら?)」
少年はお父さんの背中でスヤスヤと眠っている。
さっきはすごく苦しんでいたけど……。今は少し落ち着いているみたい。
納得はできなかったけど……どうでもよくなった!
お父さんは歩き始め、私も一緒に家に向かう。
◇
家に着いた。
家の前にはお母さんとメルディが待っていた。
「お前さん、その子は?」
「ミイティアが見つけたんだ。今は気絶して寝ている。すぐにベットに寝かせよう」
「分かったわ。メルディ。支度をお願い」
「はい、奥様」
少年は空き部屋のベットに寝かせられ、私は少年を付きっきりで看病した。
少年は時々すごい熱と痛みに苦しんだ表情をする。
時折、悪夢に苦しむような呻き声も上げる。
何度も汗をぬぐってあげ、そして見守る……。
「神様。どうかお兄ちゃんを助けてください」
私は必死に神に願い続けた……。
◇
3日目。やっと少年の熱が収まった。
少年は落ちついた表情をして寝ている。
そこにメルディが部屋に入ってきた。
「お嬢様。あとは私が見ていますので、お休みになってください」
「嫌!」
「お嬢様! 彼が起きた時、酷い顔をしていたら嫌われますわよ?」
メルディは若干強めの口調でミイティアを諭す。
私はしぶしぶ椅子から降り、自分の部屋に戻る。
そして、窓から夕暮れの景色を眺める。
遠くには明かりが灯った家がチラチラと見える。
私はこの光景が好き。
何もないけど、ゆったりとした時間が心地いい……。
でも、代わり映えのない生活には飽きていた。
このままでも良かった。でも、変化が欲しかった。
そこにあの少年が出現した。
私には、少年が新しい何かを与えてくれるだろうという予感があった。
「はやく、起きないかなぁ……」
今はただ見守るだけしかできない。
だけど、体の奥からワクワクとする興奮も少し感じる。
◇
そして、10日目の朝を迎えた。
少年が起きた!
彼はもぞもぞと動き、気持ち良さそうに「う~ん……」と何やら呟きながら、布団の中でゴロゴロとしている。
私は廊下に出て、お母さんに向かって叫ぶ。
「お母さーん! お兄ちゃん起きたみたいだよー!」
再び彼の元に向かい、椅子に座る。
急いで髪を整える。
彼は眼をつむったまま渋い顔をしている。
そして目を開けると、私と目が合う!
「はぅ!?」
彼は驚いた声を上げる。
私もあまりに急なことだったため、声も出せずにただ彼の顔を見ている。
彼はキョロキョロ周りを見た後、再び私の方を向き問い掛けてくる。
「ここ……どこ?」
「私のお家よ」
戸惑いながらも簡単に受け答えをする。
あれ? 言葉が通じる?
疑問を感じつつも、やっと目覚めてくれたことが嬉しくて、どうでもよくなった!
◇
すぐにお母さんがやってきた。
「あら、起きたみたいね。良かったわ。あなた10日も寝ていたのよ」
「10日!?」
「この子が倒れてたあなたを見つけてね、知らせてくれたのよ。うちの旦那が連れてきてベットに寝かせていたの」
私は元気そうな彼を見て、嬉しさで涙が出そうになっていた。
ごしごしと顔を拭う。
そして、彼の裾を掴んで下に降りた。
◇
食事を取ったあと、彼はお父さんと何やら話し込んでいる。
難しそうな顔をしながら、難しい話をしている。
私は彼と話がしたい!
現れた時の光についても! 何を叫んでいたのかも! どうやってあの花冠を作ったのかも!
だから、
「お兄ちゃん。難しい話なんてしてないで、外に行きましょ」
「あー……」
あからさまに嫌な顔をされた。
本気ではないと思うけど……なんかムカつく! 私は話をしたいだけなのに!
彼は「待って」と言う。
しかたなく、待つことにする。
◇
そして……私に『お兄ちゃん』ができた!
お兄ちゃんは涙を流している。
なぜ泣いているのか分からないけど……私も嬉しくって涙を流していた。
「お兄ちゃん。よろしくね」
お兄ちゃんもほほ笑んで、
「ありがとう。ミイティア」
私は嬉しくって、お兄ちゃんに抱きついた!
ちょっと汗臭いけど……。優しく抱きしめてもらえるのが嬉しかった!
そしてお兄ちゃんの手を引っ張り、外に駆け出した。