表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/117

第52話 鉄球が動き出す

 あれから半月が経過した。

 開戦予測から逆算した準備期間が間もなく終わる時期だ。

 俺は相変わらず工房に籠り、ハンマーを振るっている。

 そこにジールさんが慌てた様子で駆け込んできた。


「マサユキ! 急報だ! ……おい!? 聞いてるのか?」


 ジールさんの呼び掛けに応答せず、一心にハンマーを振るう。

 ジールさんが何度も呼び掛けるが……すべて無視する。

 困り果てるジールさんを見兼ね、ビッケルさんが休憩室に連れていった。



 ◇



 少し時間は掛かったが……


「やっと出来たな」

「これでも……完成度5割くらいですよ。耐久性は文句ないと思うのですが、最大の課題だった重量が改善できませんでした。まぁ、ガルアなら問題ない水準だと思いますけどね」

「この出来でその程度か……。やはりワシも行こうか?」

「駄目ですよ。巻き込めません」

「今さらそう言うな。ワシはお前を失いたくない」

「嬉しい申し出ですけど……やっぱり駄目だと思います。二つ名持ちが現れれば戦闘は止められると思います。でも、世界がそれを見過ごしません。せっかくこの生活を得たんです。安易に捨てないでください」

「お前が負ければ……ワシたちは動くと思う。それでも構わんか?」

「その時は何も言えませんよ。死人に口なしです。それに止めることもできません。黒の称号を持つ者の考えですからね」

「ふむ……」

「じゃあ、休憩室に行きましょうか。ジールさんを大分待たせていますし」


 休憩室に入ると、みんな揃っていた。

 遠方に出ていたメーフィス、オルド、ゲルトもいる。

 ラミエール、イーリスお嬢様、シルリアを始め子供たち、村人たち。

 アンバーさん、ミリアさん、ガルア、ミイティア、メルディ。

 そして……ジェリスさん。


 広いはずの休憩室が、狭く感じてしまうほど人が集まっていた。

 そして、みんなの視線が俺に注がれる。

 みんな状況をある程度理解しているようだ。

 人の隙間を縫うように移動し、黒板の横に来た。


「皆さん。集まってくれてありがとうございます。お心遣いは嬉しいのですが……帰ってください」

「どういうことだ!? こうやって集まったのに帰れって!」

「私たちがあなたを見捨てると思ってるの!?」


 轟々と激しい非難を浴びる。

 だが、仕方ないのだ。

 こればかりは……巻き込めない。


「お願いです。皆さん帰ってください。お願いします」


 深々と頭を下げ、食い下がる。

 怒号は止まらない。

 みんな意思が固いように思われる。

 だが、それでも頭を上げず、「お願いします」と呼び掛け続けた……。


 しばらくして親方さんが、


「皆の者! 静まれ!」


 その一言でシーンと静まり返る。


「皆の気持ちは坊主には伝わっている。ワシたちは各々(おのおの)事情を抱え、ここに移り住んだ。社会と隔絶する生活をすることで平穏を得ていた。だが……参加するということは、今までの平穏な生活を捨てるということだ。腕っぷしと根性で解決できる問題ではない! よく考えろ!」


 その問い掛けに皆黙る。

 そして、ヒソヒソと話し合い始めた。

 続けて親方さんが語る。


「皆よ! 前の決戦とは訳が違う! 確実に勝てる保証などない! 今は時間が惜しい! 即時に答えが出ない者は外に出ろ!」


 親方さんに促され、村人たちが渋々と部屋を出ていく。

 子供たちはシルリアに促されて出ていく。




 ほとんどの人は部屋を出ていった。

 最初から覚悟が決まっていたガルアとミイティアが、


「まぁ、こんなもんじゃねえか?」

「そうね。私たちは今に始まったわけじゃないしね」


 と、さも自分たちだけは特別だ。というような口ぶりをする。

 それをメルディがいましめる。


「ガルア! ミイティア! そういうことを言ってはいけません! 皆さんはマサユキ様を想って集まってくれたのです。今は考える時間が必要なのです」

「……すまねえ」

「ごめんなさい」


 親方さんが俺の肩を叩く。


「もういいぞ。お前の仕事を始めろ」

「……はい」


 顔を上げ、残ったメンバーを見る。

 親方さん、アンバーさん、ガルア、ミイティア、メルディ、ラミエール、イーリスお嬢様、ミリアさん、ジェリスさん、メーフィス、オルド、ゲルト、リーアさん、ジールさんの14名。


「みんなありがとう。覚悟が決まらず出ていったみんなにも感謝したい」

「いいってことよ。それより始めようぜ」

「ああ。まず、親方さんとアンバーさんは参加しない方針だと思います。間違いないでしょうか?」

「うむ」

「その通りだね。私たちが参加すると事態がややこしくなるね」

「次に、リーアさんとジールさん。2人の意思は分かりましたが参加しないでください。お願いします」

「マサユキ。私は私の息子と娘たちを見守るためにここにいるの。家を護る身として見届けたいの。だから居させて」

「……分かりました」

「旦那! 俺は旦那に命を救われた。仲間たちとも話しあって決めたことだ。無理だと言われても付いて行くぜ!」

「ジールさん。あなたは俺との約束を十分守ってくれた。もう誰もあなたたちをさげすむことはありません。胸を張って生きて欲しいんです」

「駄目だ! 俺は……旦那に恩を返せないままでいるのが嫌なんだ! 旦那がいなくなっちまったら……きっとまた同じ生活に戻っちまう……。だから手伝わせてくれ!」


 ジールさんが必死に食い下がってくる。

 それを見兼ねたガルアが、


「俺も同意見だぜ。ジールの仕事の大半はお前の依頼だ。それを失うってことは……逆戻りだな」

「はぁ……。まったく」

「いいんだとよ。良かったなジール」

「ああ!」


 ガルアは得意げにジールさんの肩をポンポン叩く。

 ジールさんも嬉しそうだ。


「イーリスお嬢様、ミリアさん、ジェリスさん。あなたたち3人は残ってくださいね」

「何を仰ってるのです? 私たちは領地に戻りますわ」

「私はお嬢様に付き従うだけです」

「私もです」

「では、イーリスお嬢様は俺たちとは敵対関係になる。ってことですね?」

「……どうしてそうなるのかしら?」


 イーリスお嬢様は小首を傾げる。

 ミリアさんも分かっていないようだ。

 イーリスお嬢様には作戦を話していない。

 だから話に食い違いが出ても仕方ないのだが……領地に帰ったところで何ができると思っているのだろうか?

 俺の表情から何かを察したのか、メルディがフォローを入れる。


「マサユキ様。イーリスお嬢様には分かっている範囲で状況をお伝えしています。私の一存で話したことです。ですので、イーリスお嬢様を責めないでください」

「つまり、ここに居るメンバーは……何を言われても意思を変えるつもりがない……ってこと?」

「そりゃそうだろ!」

「そうよ!」


 またみんなから、怒号のような非難が飛び出す。


「フフフ……。坊主の負けだな」

「負けとか……幸先悪い台詞ですね」

「兄様! 兄様の言う『負け』は、『死ぬこと』でしたよね? この程度で負けと決めるのは、今まで私たちに何を教えてきたって言うの?」

「うっ……。痛い所を突かれたな」

「だーかーらー。さっさと始めろよ!」

「……分かったよ」


 皆を黒板の前に座らせ、状況整理を始める。


「まずはジールさんの報告を聞きましょうか」

「おう! 男爵がキレちまって開戦が決まったんだ。開戦予定は10日後だ。開戦予定地は男爵領と伯爵領の中間地点。地図があれば分かり易いんだが……」

「ありますよ」


 近くの物入れに入っていた地図を取り出し、机に広げる。


「随分精密な地図だな?」

「ちょっとお金は掛かりましたが、案外簡単に手に入りましたよ」

「まぁいいさ。ここが予定地だ」


 そう言って、ジールさんは地図で開戦予定地を指差す。

 その場所は、男爵領と伯爵領の中間にある広い荒野だ。

 軍を展開させるには十分な広さがあり、大きな遮蔽物はほとんどない。

 拠点を築くにしても、防衛には不利な地形とも言える。


「なるほど……。予想通りですね」


 地図に印を書き込み、経路を説明していく。


「では、ジールさんはこの印の位置に資材を運んで組み立ててください。完了後、この地点に移動して待機を」

「ん? 待ってくれ! そんな場所、戦地とは関係ないだろ?」

「ここは重要拠点です。ここを防衛できるかで勝敗が分かれます。訳はあとで説明しますね」

「……分かった」


 メーフィスに目線を合わせる。


「次にメーフィス。報告を頼む」

「はい。マサユキさんの予想通り、国王陛下は動きません。特使を派遣されるそうですが、到着は開戦後になると思います。近隣の領主様の反応も、基本的に静観という感じです」

「書簡の方はどう?」

「駄目ですね。国王陛下の一存では簡単には用意できないとのことです。恐らく特使が携えてくると思います」

「やっぱ駄目だったか……」

「国王陛下より大臣様が厄介でした。事あるごとに厳しい指摘の応酬でしたよ」

「言い負かされたとか?」

「それはないですね。口撃はすべてね退けました。それが原因かは分かりませんが、良い答えが得られませんでした」

「まぁね。お願いしにいく立場なのに「強気で行け」と言ったのは俺だし」

「仕方ないですよ。今回の目的は別にありましたしね」

「うん。王様の了承を得られなかったのは残念だけど、今後に繋がればいいね。よくやってくれた! オルド、ゲルトも護衛の任務、ご苦労様」

「いいってことよ!」

「うん!」

「となると……やっぱり本来の作戦通りになるって訳か……」


 ミイティアが訳が分からないという顔で、事情を聞いてくる。


「兄様。その話……私聞いてませんけど?」

「簡単に言うと、王様に戦争を止めて欲しかったんだ。命令を出せば止められるし、止められないなら援軍が欲しいってね。あとは何かしらの支援がなければ、今後一切、石鹸や化粧品、新発明の道具の販売委託を取り消すって提案したの」

「王様には、あんまりメリットなさそうね?」

「デメリットが大きい提案なんだ。化粧品は貴族の奥様方には大人気だし、王様にとっても貴重な財源が消えるってことになるからね。更に言うと、親方さんからも書簡を出してもらった。国の英雄の頼みを無下に扱うことでこうむるリスクもあるってことなんだ」

「ふ~ん。分かったわ」


 黙って聞いていたガルアがちょっとイラ立ちながら、次の話を切り出す。


「作戦通りってことは説得だな?」

「うん。かなーり難易度が高いと思うんだけどね」


 イーリスお嬢様が立ち上がり、


「マサユキ様。その説得、私に任せてもらえません?」

「嬉しい申し出だけど……、どう説得するの?」

「分かりません……。ただ、私の言葉なら父にも、シドにも届くかもしれませんわ」


 ふむ……。確かに俺が言うより効果がありそうだ。


「分かった。やってみてくれ」

「感謝致しますわ」


 ラミエールに視線を向ける。


「ラミ――」

「私は治療の準備ですわね?」

「……うん。ラミエールには兵士たちの治療をしてほしい。オルドとゲルトはラミエールの護衛を頼む。撤退指示が出た後の集合地点はココだ」


 そう言い、川沿いの広場を指差す。

 指差すそこは、最前線の反対方向だが、ジールさんの待機している地点からかなり離れた位置である。


「ここは追撃にあった場合の防衛拠点となる。川を渡るのには少し苦労すると思うけど、荷馬車でも通過可能だ。川を渡りきった場所で防衛し、川の向こう側に敵を引きつけてくれ。あとは一網打尽だ」

「……マサユキさん。話の腰を折りますけど、最初の話では『勝ってはいけない』と聞いてました。それに男爵様に加担せず『助けない』とも言ってました。最悪の事態を想定しての話しなら分かりますけど……何でこういう話しになっているのですの?」

「えーっと、説得がうまくいけば男爵様を助けてもいいと思ってる。いくつか厳しい条件を突き付けるから、それを受け入れてもらえないなら『助けられない』。それから『勝ってはいけない』ってのは、勝ち過ぎによる蹂躙じゅうりんをしないって意味だ。戦争が止まりさえすれば、勝敗なんてどうでもいいってことだよ」

「……まぁいいですわ。集合地点をココにしたのは、どういう意図があるのですの?」

「一番のポイントは川の存在かな。川は自然の要塞だからね。進軍速度が下がれば迎え撃ち易い。回り込もうにも、ここ以外だと水深が深くて渡りにくい。回り込めないということは、最も警戒すべき奇襲の可能性をほとんど除外できるんだ。でも、撤退中の隊では数千人単位の追撃を防ぎきることは難しいと思う。そこで対岸で足止めさせることが重要なんだ。対岸に足止めさえできれば、砲撃で一網打尽にできる。ジールさんの居る地点には長距離砲台を設置する。効果範囲も広いから、巻き添えを喰らわないためにも距離を稼ぐ必要があるんだ。追撃がなければその必要はないし、川があれば水の確保も容易だ。少し遠いけど、山をいくつか越えれば小さな村がある。そこは別の領地だから追撃が及びにくいって訳だよ」

「なるほどですわ。避難する領民たちとは別経路ですの?」

「避難経路はいくつか選定済みだよ。一番生存率が高そうなのがこの集合地点ってだけで、他の経路で追撃をしてきた場合でも対応可能だ。情報は砲撃地点に集まるようにはしてるから、追撃との距離をしっかり取ってれば狙い撃ちさ」

「分かりましたわ」

「ジールさんも、ここの重要さが分かりましたか?」

「ああ! 俺たちは砲台を守ればいいんだな?」

「はい。ここは人が滅多に踏み入らない地です。魔獣や盗賊団がいる可能性があります。隊編成は任せますが、奇襲を想定した編成と布陣にしてください」

「分かった」

「大砲で目標を的確に狙うには、正確な弾道計算が必要になる。これはメーフィスに手伝ってもらいたい。メーフィスは弾道計算もできるよね?」

「余裕です。でも大砲のデータくらいは欲しいですね」


 黒板に張り出した紙を取り、メーフィスに渡す。


「これが大砲のデータだ。理論値通り飛ぶし、風の影響もほとんどないはずだ。多少着弾地点にズレがあっても効果範囲は大きいから、簡単に命中するよ。完璧さより確実性を狙ってくれ。砲撃位置と着弾結果の情報は随時送られてくるはずだから、発射指示は任せるよ」

「分かりました。でもこれって……山の裏側ですよね? どうやって合図を受けるんです?」


 少し考え込む。


「ここだけの話にしてくれるか?」


 皆、コクリと頷く。


「ガルア。ちょっとメーフィスを連れて、工房の外まで行ってくれるか?」

「アレを使うって訳だな?」

「そそ」


 ガルアとメーフィスが休憩室を出ていく。

 工房を出ただろう頃合いを見て、鞄から黒塗りされた板を取り出す。


「ガルア。聞こえるか?」

「オウ! キコエルゼ!」

「何これ? 何でガルアの声が聞こえるの?」


 ミイティアが不思議そうに黒塗りされた板を眺める。

 この世界には存在しない通信機だ。

 ビックリすることも分かるのだが、転移魔法は存在するらしいのに通信魔法がないとは……ちょっと変な話だ。


「メーフィス。納得したかい?」

「エエ。コレナラツカエソウデスネ」

「なんか聞き取りにくいわね?」

「二人とも休憩室に戻って来てくれ」

「ワカッタ」


 ガルアとメーフィスが休憩室に戻ってきた。


「マサユキさん! またスゴイ物を作りましたね!」

「簡単に言うと『音波と共振』を利用した通信機だよ。アナログの音声を規則性のある固有振動波に変換して発信する。それを受信して再度アナログ音声に戻してるって訳。聞き取りにくいのは、固有振動波に声の特色を載せられないからなんだ。モールス信号の進化版って言えばいいのかな? 長文より単語の方が伝わり易いよ」

「兄様。どうして話すことに前置きをおいたの?」

「だって画期的過ぎるでしょ? 身内で使う分にはいいけど、バレたら面倒だからだよ」

「マサユキさん。通信距離の制限はないんですか?」

「通信距離に制限はあるよ。大体5キロメートル。5フィールくらいだね。それ以上の距離で通信をする場合は中継機を利用する。ただし、遮蔽物しゃへいぶつが多過ぎると通信に影響するみたいだ。それを解消するために中継機を設置する。ただ、単体の通信距離自体は変わらないらしい……。以前チラっと講義した『電波通信』とは法則性が違うみたいで、通信波の減衰がほとんどない。『一定距離の通信が可能で、多少の障害物を物ともしない通信機』という位置付けらしい。だから、簡単には通信途絶状態にならないから安心していいよ」

「分かりました。それにしても……相変わらずデタラメな能力ですね」


 こればかりは苦笑いするしかない。

 鞄から紙の束を取り出し、メーフィスに渡す。

 量が多く十分整理できていないが……メーフィスなら処理できるだろう。


「これは砲撃予定地点の地形データと敵の行動予測だ。ここの地図と合わせて弾道計算に使ってくれ。発射地点からは戦場が見えないけど、闇雲に撃たないように注意してくれ」

「発射地点を特定されるからですか?」

「いや、そういう意味ではない。標的が見えない目隠し状態での砲撃になるから、計算を間違えると味方にも被害が出る可能性があるんだ。元々無理な注文なんだけど、人を殺す道具だという意識を持ってもらいたいって意味だよ」

「なるほど……。雨の場合はどうするんです? 大砲に使う火薬は水に弱いって聞きましたけど?」

「それは対策済みだよ。砲弾とは別に炸薬薬莢さくやくやっきょうを使う。簡単に言うと、火薬を入れ物に詰めて密閉した物だ。だから多少の雨では火薬は濡れないし、火薬量の調整も不要だ。発射力も一定になるから正確な弾道計算も可能になる。もっと言えば装填速度も上がる。ただ……雨や強風などの気象変化や気圧変化、温度変化、湿度変化という微妙な気象条件は影響すると思う。こればかりは当日の天候次第だから、地点情報と着弾情報から微調整する必要があるね」

「なるほど……。その情報って、どこから来るんですか?」

「…………」


 言い出しにくい。

 言わなければ説明できないのだが、どう説明すればいいのだろうか?


「言えないなら構いませんよ。僕はマサユキさんの指示に――」

「情報屋を使うんだ」


 ガルアが躊躇なくズバリと言ってしまった。

 ガルアは俺を見ながら、


「このくらいいいだろ? マールがいないことも説明してねーしよ。お前は隠し過ぎなんだよ」

「……分かったよ。情報屋を雇って斥候せっこうとして動いてもらってる。マールは情報屋の機動力として一緒に行動している。あの人たちはメーフィスたちの目となり、戦況や砲撃の着弾情報などを逐一報告してくれる。……ただ、情報屋については話せない。素性は確かだから、疑う必要はないよ」

「分かりました。僕も迂闊でした。あとは資料を確認してから確認したいと思います」

「うん。頼むよ」


 ガルアが神妙な顔つきで、質問を投げ掛ける。


「ところでよ。勝算はどれくらいなんだ? 負ける戦いをするつもりはないとは思うが……みんな疑問に思ってるはずだぜ?」

「んー……。相手が馬鹿真面目に真っ向勝負に挑んでくれば、ほぼ勝てるとは思ってる。でも……正直分からない。型に嵌れば負けない戦法ってのもあるけど、たくさんの人間の思惑が混じり合う戦場では、思い通りになる方が希だと思うんだ。だから、読みが外れたら苦戦すると思う。絶対負けない戦法もあるにはあるんだけど……。それを使ってしまったら内戦どころじゃなくなるんだ」

「核ですか?」


 メーフィスがとんでもないことを言い出した。

 核兵器については、剣術の授業でチラっと言っただけなのだが……よく覚えていたな。


「核じゃないよ! あんなの作れないし……作りたくない。あんな物……抑止力としては最低だ……。たった1発で街が消えるんだ。すべてを焼き尽くし、不浄の大地しか残らない。戦いに勝ってもむなしさしか残らない。……俺が『正したい』のは、ねじ曲がった政治体質そのものなんだ。自らの欲望、事情、感情で、他人をおとしめたりしいたげたりするやり方を変えたいだ。「改革には痛みが伴う」とは言うが、痛むべきは指導者であって民衆や兵士たちではない。だから、無関係の者を巻き込むような大量破壊兵器は使いたくないんだ」


 メーフィスは自分の言っていることの愚かさに気付いたようだ。

 だが……

 俺は口ではそう言うが、やっていることはそう変わりない。

 長距離砲台の弾頭は核兵器とは言わないが、一定範囲内の人間を虐殺する。

 単に、規模が大きいのか限定的なのかしか差がなく、そのトリガーをメーフィスに任せることが後ろめたい……。 

 ガルアは平然とした顔つきで、別の提案をしてくる。


「なあ黒髪。伯爵だけ殺せばいいんじゃねえか?」

「その場合は事後処理が大変になると思ってる。俺が突き付ける厳しい条件ってのは、戦争を引き起こした罪に対する『裁判』なんだ。つまり、俺たちが介入したことを『正当化』するということだ。これができないと俺たちは、単なる『貴族殺し』になってしまう。それは最悪のシナリオだと思う。だから、可能な限り『首謀者を捕らえる』必要があるんだ。それで軍が止まるかは分からないけど、止まらないなら強引に黙らせるまでだよ」

「その一つが、あの大砲か?」

「そうだね」

「……なるほどです。だから、説得という手段を取るんですね?」

「うん。それが一番被害が少ないしね。お互い住み分けをキッチリして、邪魔し合わないって約束さえ出来れば、男爵領にも伯爵領にもいい話になる。その分、俺の敵が増えそうだけどね」

「割に合わない戦い方ですよね? でもマサユキさん。この状況狙ってませんでした?」

「……メーフィスはなかなか鋭いね。どうしてそう思うのか聞かせてくれるかい?」

「まず、集めた情報からの先読みはほとんど完璧でした。さらに、伯爵様を討つだけなら造作もない口ぶりです。特に今回は、法律で護られた特権階級の人物を相手にします。相手取るには『誰もが納得する理由』を突き付ける必要があります。つまり、『泳がせて弱みを掴もうとした』とも考えられるからです」

「さすがだね。まったくその通りだと思うよ。ただ、これが正しい選択だったかは疑問に思ってる。リスクが大き過ぎるし、確実性という意味でも不安定だ。王様がスッパリ決断してくれれば済む話なんだろうけどね……」

「仕方ないですよ。国王陛下は立場的にも、貴族様たちを無視できませんからね。安易に了承してしまっては国を割ってしまうことになります。でも、マサユキさんなら簡単に黙らせることもできそうですけどね?」

「……まるで、俺自身が核兵器みたいな言い方だね?」

「僕は同義だと思ってますよ。マサユキさんが居れば、新国家でも建てられるんじゃないか? ってほどにです」

「俺にはそんな器はないよ。……ちょっと脱線し過ぎだね。次の話にいこうか」


 鞄から包みを取り出す。

 中には、あの木から貰った『葉っぱ』が入っている。

 葉っぱの茎の部分には紐が結ばれ、ネックレス状に作られている。

 その葉っぱのお守りをみんなに配る。


「葉っぱ? とても綺麗ね。どこかで見たことがある気がするけど……」

「ミイティアも知ってると思うよ。まぁ……入手は簡単ではないと思うけど。アンバーさんの所の木だよ」

「ああ、あれか! あれは切れねえだろ? どうやって採ったんだ?」

「ヒ・ミ・ツ! フフフフ」

「お前ソレばっかだな?」

「ガルアもいずれ採れるようになるさ」


 いくつか余ったので、親方さん、アンバーさん、リーアさんにも配る。

 そして残りの2つを、


「ジールさん。これはフーリアさんとシェラさんに渡してください」

「いいのか?」

「輸送団全員分を用意できませんでしたが、ジールさんの気掛かりはフーリアさんとシェラさんですよね? だから、何事もないようにお守りを持たせてください」

「……感謝する」


 全体を見渡す。

 みんなやる気に満ち、戦いの前の悲壮感は感じられない。


「これで全員への指示は行き渡ったかな?」


 ミイティアがプンスカ怒りながら、


「私はまだです! ワザとですか? ワザとですよね?」

「あっ! いや……」


 ミイティアには簡単な仕事を任せようと思ってたから言わなかっただけなのだが……不誠実だったかもな。


「……ごめんなさい」

「まったく! ……私は何をすればいいの?」

「俺と一緒に男爵領に向かって欲しいだ。俺の護衛ね」

「それだけ?」

「それだけだよ?」

「……まあいいわ!」


 ミイティアは後ろの方で微笑んでいるメルディを見て、何かに気付いたようだ。


「姉様への指示はないの? それにガルアも」

「ガルアは別任務で動く予定だよ。メルディはここに残るよ」

「えっ!? 姉様いいの?」

「私は戦えないから残るのよ」

「なんで? ……なんで私に相談してくれないの!?」

「ミイティア。あなたはマサユキ様と私を護れるの?」

「護ってみせるわ!」

「ミイティア、冷静になりなさい。もしあなたが無理をして怪我でもしてしまったら……マサユキ様は命を投げ出してでも護ろうとするわ。そんな時、私が居ることで負担になりたくないの。付いていけないことは残念だけど……私はここで出来る仕事をするわ」

「姉様……」


 ミイティアは泣きながらメルディに抱きつく。

 メルディは優しく髪を撫で、何度も「大丈夫よ」と言い聞かせる。


「姉様……私が必ず、兄様を護ります!」


 ミイティアは涙を堪え、空元気混じりの決意を伝えた。

 メルディは無言でミイティアを抱きしめる。


「さて、これでいいかな? 資材の運搬と設置作業は大体3日あれば完了する想定だ。開戦が10日後だから、2日余裕を見て5日後に出発する。それまでは各自鋭気を養ってくれ。……あと言い忘れたけど、軍資金を渡しておく。メーフィス頼めるかい?」

「分かりました。どういう分配をすればいいでしょうか?」

「そうだなぁ……。一人金貨100枚渡してくれ。ジールさんの仲間の分も――」

「待ってくれ! 俺たちは金のために動くんじゃねえ! そういうのはいらねえよ!」

「駄目です! これは命を懸けた戦いです! ……命の値段としては安過ぎますが、残しておいても意味がないんですよ。だから……受け取ってください」

「……分かった。だが、俺たちは金で動くんじゃねえからな!」

「分かってますよ。勝つために必死に頑張りましょう」

「ああ!」


 皆が金を受け取り、それぞれの家に帰っていく。

 俺とガルアは鎧の整備があので残った。

 休憩室には親方さんとアンバーさん、俺とガルアの4人だけが残った。


「親方さん、アンバーさん。すみませんでした」

「気にするな」

「いいってことだよ。なかなか考えられた策だったし、上手くいくといいね」

「親方さんには話してあるんですが、俺たちの行動予定です」


 紙の束を親方さんに渡す。


「坊主。死ぬなよ」

「そのための準備です。抜かりはありませんよ」

「ガルア。マサユキを頼むぞ」

「分かってるよ。親父」


 整備を終え、俺たちはそれぞれ家に向かう。

 4か月ぶりの家での休暇だ。

 そう! 家には風呂がある!

 最近はこればかりが楽しみで仕方なかった。

 戦いの前にこういう雰囲気は不謹慎かもしれないが……

 恋しい恋しいお風呂ちゃんに会えると思うと、足が軽やかに動くのであった。


次回、水曜日2014/8/13/7時に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ