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第51話 英雄とは

 試射を終え、工房に戻ると……

 ガルアが疲れた顔をしていた。


「ガルア、何かあったのか?」

「ぁあん?」


 目が……怖い……。

 なんとなく心当たりもあるが……


「まぁいいよ。装備の――」

「「まあいい」で済ますな! こっちの身にも、なってみろってんだ!」

「何かあったの?」

「聞くな!」

「……じゃあ、いいよね?」

「男爵領が慌ただしいらしい」

「ジールさんが来たのか……。他には?」

「伯爵が近隣の町に圧力をかけ始めた。悪い噂が流れ、避難が始まってるらしい。近隣の士爵たちはまだ動いてねえらしいぜ」

「ふむ……」

「こうも露骨にされると、ますます伯爵の野郎がクソに見えてくるな」

「想定の範囲内だよ。この辺は男爵様に伝えてあるしね。あとは……男爵様が我慢してくれればいいんだけど……」

「どうだろな? 俺たちを切り離した時点で、戦う気満々だぜ?」

「準備を考えれば、すぐには動かないと思うよ。シドさんが裏工作するにも時間は必要だろうしね」

「なるほどな」

「鎧の方はどうだい?」

「今着てる奴が丁度いい感じだな。このくらいの重さなら問題ねえぜ」

「分かった。腕と足の動きはどう?」

「肩とひじの防具が邪魔だな。腰の部分も胴の鎧が邪魔くさい気がする」

「ふむふむ……。手首はどう?」

「手首はそうでもないな。剣の振り回しが主体なら問題ない。って意味だけどよ」

「ってことは、関節の可動部は重点的に改善した方がいいね。防御のことを考えて左肩には大きな肩当てを用意しようと思ってる。重量は今のを基準にやりくりするから、出来たらまた注文してくれ」

「分かった。……お前の頼みって何だ?」

「あー……。忘れてた」

「忘れて――」

「いや、ガルアのじゃないよ。親方さん。俺の収入って今いくらになってます?」

「そうだなあ……。多過ぎて途中から数えてねえぞ」

「…………」

「どんだけ稼いでるんだよ? まったくお前は規格外だな」

「ガルアの言う通りだぜ! 規格外だな! ガッハッハッハッハッハ!」

「ビッケルさんに聞けばいいですか?」

「そうだな」


 親方さんが大声でビッケルさんを呼ぶ。

 作業場の方からビッケルさんが走ってきた。


「お待たせしました。何でしょうか?」

「坊主の儲けはいくらだ?」

「大体金貨4万枚です」

「4万……」

「城が立ちそうだな……」

「だろ? 坊主は稼ぎ過ぎだぜ!」


 現世での価値計算は……もう面倒でやりたくない。

 金貨の価値基準が場所によって変わるためだ。


「金を使うのか?」

「ええ。きんを使います。それと銀を集めるためにも使います」

「……フフフ」


 親方さんはニヤリと笑う。


「坊主もついに、かねを材料と見始めたか」

「生活する分には金は必要ないですからね。親方さんもやってましたよね?」

「あの剣か?」

「ええ。ミスリル硬貨を集めて作ったんですよね?」

「その通りだ」

「さっぱり意味が分からねえぜ。金を使えば兵を雇えるんじゃねえか?」

「人の命は金貨何枚だい?」

「……さあな。その問答には意味がねえんだろ? 何するか言ってくれ」

「金貨を銀貨に換金してほしいんだ。もしくは銀の材料を買い集めて欲しい」

「それで何をするんだ?」

「鎧を作るのさ。言ってる意味は分かるだろ?」

「……さっぱりな」

「まあいいさ。ミイティアと一緒に近隣の町から集めて欲しい」

「坊主。銀なら倉庫にあるぜ?」

「鎧を数着作れるくらいあります?」

「それだと足らないな。……鋳造を考えても銀貨を集めた方が早いって訳か?」

「その通りです。そういえばガルア。ジールさんってまだいる?」

「随分前に工房を出たはずだぜ」

「ならいいか……。ガルアはミイティアと一緒に金貨1万枚を持って、まずはマビラに向かってくれ。ジールさんの事務所があるはずだ。そこから手分けしてもらって、町に影響がない範囲で換金してくれ。各町の士爵には断わりを入れた方がいいね。換金率は金貨1枚に銀貨10枚前後が相場だけど、相場以下でも構わない。輸送はジールさんたちに任せて、ある程度集まったら送ってくれ。大体銀貨5000枚くらいで1着くらいの鎧が出来るとは思うけど、5万枚は集めて欲しい」

「分かった。それから……」


 ガルアは紙を差し出してくる。


「ラミエールからだ。薬草の栽培を見て欲しいらしいぜ。お嬢はいつも通りだったから、適当にいなして置いた」

「悪かったね。薬草はもう、俺がどうにかする必要ないと思うんだよね。イーリスお嬢様は……仕方ないけど……」

「そのまんま伝えておいたぜ」

「……ありがとう」


 ガルアは鎧を脱ぎ、さっそく作業に入った。

 いいタイミングでミイティアが部屋に入ってきた。


「兄様! おか――」

「おい、行くぞ!」

「えっ!? ええ? ど、どういうこと?」


 さすがに何も説明しないで連れて行かれるのも、どうかと思ったので。


「ミイティア。お願い聞いてもらえる?」

「……何ですか?」

「ガルアに同行して、仕事を手伝ってほしいんだ」

「……何をするの?」

「金貨を銀貨に換金するんだ。細かい話はガルアが説明してくれるよ」

「分かったけど……」

「小手の調子はどうだい?」

「形は調整してもらったけど……射出機の調整がまだなの」

「調整ってどんな?」

「角度調整と射程距離の調整よ」

「それなら簡単にできるよ! ビッケルさん、六角レンチを用意してもらえます?」

「……あっ! そういえば、そんなの作ったね!」


 ビッケルさんが戸棚をゴソゴソと探し始めた。


「あった! コレね?」

「そう、それです」


 六角レンチを受け取る。


「……兄様? それをどうするの?」

「まぁ見てて」


 ミイティアから小手を受け取り、表面部分の装甲を取り去る。

 剥き出しになった内部の各部を指差しながら、


「このネジ穴が角度調節。こっちがピント調整。これが拡散幅の調整。他にも射出機の口径を変えたり、バネの交換もできる。仕込みナイフの種類を変えたりもできるから、好みに調整できるよ。他にも――」

「待って! 色々あり過ぎて覚えられないわ」

「こればっかりは慣れだろうね。色々いじくって感覚で覚えるしかないよ」

「……分かりました。やってみます」

「さっきも言ったけど、ミイティアとガルアには銀貨を集めて欲しいんだ。目標は5万枚。それ以上集めても構わないよ。道中必要になるお金や、ジールさんたちへの支払いは俺の金から支払ってくれ。迷ったことがあったらガルアと相談するんだよ」

「うん」

「じゃ、準備ができたら頼む」


 ガルアとミイティアは準備を整え、出掛けていった。


「じゃあ、ワシらも作業に入るか」

「……銀の鋳造はお任せしていいですか?」

「大丈夫だ。依頼の消化は順調だしな」

「あと問題は……塔でしょうか?」

「材料はアンバーが用意してくれてると思うが、早めに選定しねえと間に合わねえと思うぜ」

「どこが主戦場になるか分からないと手が打てませんからねぇ。まぁ……アンバーさんに確認を取りますよ」

「分かった」


 工房を後にし、アンバーさんの家に向かう。



 ◇



 アンバーさんの家の裏庭に着いた。

 納屋の戸は開いているが……人気ひとけがない。

 どこかに出掛けているのだろうか?


 裏庭の勝手口からだが、家のドアをノックする。

 すると奥さんが出てきた。


「あら、久しぶりね」

「お久しぶりです。元気にされてましたか?」

「この通りよ! あの人かい?」

「はい。アンバーさんはいないのでしょうか?」

「今日は材料の切り出しに山に出掛けてるよ。そろそろ戻ってくると思うから……中で待ってるかい?」

「まだいいです。ちょっと寄りたい所もあるので」

「分かったわ。……あの子どうしてる?」

「ガルア、戻ってないんですか?」

「うん……。村に帰って来てから、ずっと工房にいたらしいのよ」

「その……ごめんなさい」

「いいのよ! あの子が元気でやってるなら」

「そうではなくて……」


 言葉に詰まってしまう。

 「戦場に向かう」と言ったら……きっと泣いてしまうだろう。

 俺の勝手な行動に巻き込まれた人はガルアだけじゃなかったな……。


 しばらく沈黙していると、後ろから「ズドーン」と大きな音と振動が伝わってくる。

 振り返ると、アンバーさんがいた。


「……こんにちわ」

「どうしたんだい?」

「いえ……」

「言いにくいことなのかい?」

「……はい」

「じゃあ、ちょっと行こうか」


 アンバーさんの後を追う。

 裏庭を抜け林に入っていく。



 ◇



 しばらく歩くと、少し開けた場所に出る。

 そこには、あの木があった。


「あの木をここに植え直したんだ。成長も早いみたいだし、こっちの方が静かだと思ったんだ」


 木は凛とし、光るように美しい。

 以前にも増して力強い生命力を感じる。

 アンバーさんが俺の心の内を分かったような、鋭い指摘をする。


「ガルアのことだよね?」

「……はい。俺は……男爵領と伯爵領の戦争に介入しようと思ってます。命を懸けることになります。それをどうしても言い出せなくて……」

「分かるよ。私も若い頃は色々な戦地を渡り歩いたよ。……酷いものだった。戦争とはいえ、人を切っていい気部にはならないね。一兵士としては疑問を感じていても、戦争となれば目の前の敵を倒すだけだった。段々心が腐っていく気がしたよ」

「俺もガルアも……すでに人を殺しています。ちゃんとした理由があったとはいえ……その日は寝れませんでした。……今度はそれが戦争という規模で起きます。綺麗事とはいえ、降り掛かる火の粉を払うためには止めなければなりません。……俺は間違ったことをやってるのでしょうか?」

「戦争に正解も間違いもないんじゃないかな? 強い者が勝つ。これがこの世界のルールだと思うよ。ただ、私は兵士だったから答えは出せなかったけど、マサユキなら真の正解こたえを見つけられるんじゃないかな?」

「俺は英雄になる器じゃありません。正解なのかすら分かりませんよ」

「……マサユキは『英雄』って、いいものだと思ってる?」

「え、ええ。皆から一目置かれるというのもありますが、何かしらの成功者の証だと思ってます」

「マサユキ。私は二つ名を持ってるから言うけど……、英雄なんて嘘だよ」

「嘘?」

「英雄とは偶像崇拝、象徴に過ぎないってことなんだ。言ってみれば、国家に繋がれた魔獣みたいな物だよ」

「イマイチ言ってる意味が分からないのですが……」

「私たちは国家にまつり上げられた人柱なんだ。政治に利用され、あらゆる方面から私たちを利用しようとしてくる。昔は憧れていたけどね。成ったら成ったで自由が無くなってしまったんだ。どこに行っても英雄様、英雄様ってね。英雄は神の如く崇められるけど、実際できるのは人を殺すことだけだったりするんだ。戦争の抑止力としては有効だろうけど、自ら望んで抑止力となろうと思う人はいないと思う。だから、私たちは二つ名を隠し、力も隠しているんだ」

「……ごめんなさい。俺は……この村に英雄がいるというだけで舞い上がってました」

「いいんだよ。マサユキが何か成そうとしてるのは知っている。陰ながら応援はしてるけど、いざとなったら呼んでくれ。その時は理屈じゃなくて、親として責任を果たすよ」


 目頭が熱くなるのを感じる。

 俺がしようと思っていることがこれ程大きなことだったとは……。

 アンバーさんが木を撫でながら、


「この木も何か言いたいのかもしれない。……なんとなくそう思う」


 俺も木に触れ、目を閉じる。

 手が少しひんやりとし、何かが伝わってくるような……気もする。

 アンバーさんのようには感じ取れないが、


「木よ。俺は……世界と戦う。……うまく言葉にできないけど……見守っててくれ」


 木は何も語らない。

 でも、静かに話を聞いてくれた気がする。

 アンバーさんが変なことを言い出す。


「マサユキ。何人で戦うんだい?」

「えっ? ……4人、……いや、10人?」

「いっぱいだって」


 ん?


「誰に話してるんですか?」

「この木だよ?」

「……超能力か何――」


 木がザワっと揺れると、葉っぱが何枚か落ちてきた。

 それをアンバーさんが一つ一つ拾う。

 拾い終えると、葉っぱを差し出してくる。


「マサユキ。「これを持って行け」って言ってるよ」


 訳も分からず受け取る。

 葉っぱは綺麗に輝いている。

 木と同じく少しひんやりとしているが……生命力というのか、何か力強い力を感じる。

 木を眺め、


「木よ。心使いありがとう。必ず生きて帰ってくるよ」

「戦いに勝つとは言わないんだね?」

「勝てると言いきると、負けそうな気がするんですよ」

「いい心掛けだね。さすがマサユキだ」

「俺は真の正解を導き出せるか分かりませんが……、納得いく答えを探そうと思います」

「うん。いい答えだ」


 その後、アンバーさんの奥さんにも事情を説明した。

 奥さんは気丈に振る舞いながらも、心配する表情が隠せない。


「ガルアを頼みます」

「必ず連れて帰ります」


 そう一言だけ伝え、家を後にする。




 それから、俺は毎日ハンマーを振るった。

 朝も昼も晩も……、寝る間を惜しんでハンマーを振るい続けた。

 ただ一心に……護りたいという想いを込めて。


32℃を越える自室で、大汗を掻きながら修正作業に没頭中です。

8月31日締め切りの新たな新人賞に挑みたいと考えてます。


今回応募する『第2回 オーバーラップ文庫 WEB小説大賞』は、以下の条件で作品募集をしてます。

・舞台は異世界

・バトル展開がある物語

・ヒロインが一人以上登場すること

・10代後半~20代の主に男性読者をターゲットとしたエンターテインメント作品


一応・・・当てはまるので応募します。

「一応」と言葉を濁すのは、オーバーラップ文庫さんの出版方針と作品が合致しない気がしてるからです。

何と言うか・・・ドSなヒロインが多いイメージが・・・。


まぁ深くは考えず、何かに挑むというのは良い刺激となるので、緊張感を持つために応募しようと思いました。


すみません。先週は告知を忘れてたようですが、

次回は、水曜日2014/8/6/7時です。

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