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第49話 止まらぬ戦い

 薄暗い闇を駆け抜け、工房に着いた。

 明け方だというのに、工房員たちは忙しそうに作業をしている。

 見慣れた顔ぶれだが……誰も反応しない。親方さんも反応がない。

 休憩所に入ると、ビッケルさんが一番に声を掛けてきた。


「マサユキおはよう! みんな待ってたよ!」


 ビッケルさんに続きガルアとミイティア、メルディも、


「遅かったな?」

「兄様、おはようございます」

「おはようございます。マサユキ様」

「クーン」


 フェインが擦り寄ってくる。

 薬を飲まされたのは俺たちだけだったが、フェインも無事に村に帰れて良かった。


「さて、状況を教えてくれ」

「あれから3日経っている。日が昇れば4日目というところだ。ジールの奴らに送られて着いたんだが、ジールたちも誘われなかったらしい。どうも領民以外はカヤの外らしい。今ジールの奴らは、男爵領へ輸送中だ。一応情報収集もしてくれる手筈だ。……大まかにはこんなだな」


 ガルアの報告を聞き、俺も席に着く。


「にしてもよ……シドさんにはガッカリだぜ!」

「それは私も同感! 投げ出すとでも思ってるのかしら?」

「まぁまぁ2人とも。男爵様とシドさんには最初から『筋書き』があったみたいなんだ。いいように利用されたとも言うけど……、俺たちのことを思っての決断だと思うよ」

「……まぁいいさ。お前はこの状況、どう思ってるんだ?」

「んーっと、事態はかなり複雑だね。男爵様とシドさんの企み。伯爵の横暴。フェデルクとビリア一派の陰謀。主にこの3つが絡み合ってる。あの『箱』を手に入れて少しは状況が鮮明になったと思う」

「結局……ローズは関係なかったのか?」

「いや、そうとも言い切れない。綿密に計画された内容から察するに――」


 いきなり頭をゴリゴリと撫でられる。

 振り向くと、親方さんがいた。


「おう! 元気でやってたか?」

「お久しぶりです。親方さん」

「さっそくだが注文の品を見てくれ。構わねえか?」

「ええ」


 話を中断し、倉庫に移動する。



 ◇


「どうだ? 注文通りだぜ!」

「デ、デケーな……」

「大砲かしら? 訓練所で見たのとは形が違うわ」


 それは巨大な大砲である。

 男爵領に出荷した物とは、大きさも形状もまったく違う。

 砲身は10m近くあり、発射口とは別に装填口が用意されている。

 台車に設置された砲台という感じだ。


「親方さん。試射はしましたか?」

「いや、まだだな」

「決め手は弾だと思いますが……、設計通りに射出されるか確認したいですね」

「そうだな。さっそくやるか?」

「後にしましょうか。別口で注文した小手って出来てます?」

「待ってろ」


 親方さんが木箱から、小手のような装備を取り出す。


「コイツだ」


 受け取り、ガチャガチャと動作確認をする。


「うん、いいですね! 概ね設計通りだと思います。あとは使い心地でしょうね」


 それをミイティアに渡す。


「私にですか?」

「ミイティア専用だよ。ミイティアの戦闘スタイルに合わせて防御力の強化と、中近距離戦を想定した装備なんだ。本当はもっと軽い素材で作りたかったんだけど、予算がなくてね」

「ふーん……。随分簡単な作りなのね?」

「重過ぎると戦いにくいでしょ? 今は小手の基礎部分だけだし、ギミックは仕込みナイフと中距離用の射出機だけしか付いてないけど、ワイヤーアンカーやボウガンなんかをオプションで追加できるようにしてあるんだ。目的は防御力の強化だから、オプション設定はミイティアが決めて欲しい。軽量化やトリガーのクセなんかも調整できるから、細かく注文してくれ」

「……分かりました」

「俺のはあるのか?」

「ガルアのは……まだ作ってないんだ」

「そうかよ……」

「落ち込むなよ? 『まだ』作ってないってだけだからな」

「……どんなヤツを作るつもりなんだ?」

「んー……。どんなのが希望?」

「そりゃー……いやいい。お前が考えろ」

「ガルアは細かいギミックより、直感的に使える方がいいよね?」

「そうだな。メンドイのは使えねえと思うぜ」

「……重量は多少重くなると思うけど、重装甲の鎧なんてのもいいかもね」

「重さはいいけどよ……動きにくいのは困るな」

「まぁ……その辺りは調整しつつって感じかな。寸法だけ測っておいてくれ。別件で頼みたいことがあるからね」

「おうよ!」

「じゃあ、一端休憩所に戻ろうか」


 休憩所に戻る。



 ◇



 黒板を用意してもらい、状況の概略図と資料を張る。


「思う所はたくさんあると思うけど……。まずは、俺たちの行動目的をハッキリさせよう」

「目的って言うと……男爵を助けることか?」

「男爵様か……。俺としては助けていいのか分からなくなったかな? 調べれば調べるほど分からなくなるよ」

「兄様? どう――」


 ガルアがミイティアの発言を遮るように、


「俺もお前と同意見だ。どっちもどっちだな」

「分かり易く説明してよ!」

「じゃあ、状況説明からした方がいいね」


 黒板を指差し、


「まず男爵領。知っての通り、元々は男爵領の食糧問題解決のために出向いた。でも、途中から話がすり替わって報復、戦争となった。しかし俺たちは切り離された。これは何故か?」

「戦争に巻き込まないためでしょ?」

「それも一理ある。でもさっき言ったように、『筋書き』が存在したんだ」

「筋書き?」

「うん。大元おおもとの原因は不明だけど、イーリスお嬢様の病気と報復は関連がないと思ってる。その理由は、調べても調べても『犯人に行きつかない』から。俺たちは治安維持という名目で、男爵領以外の領地まで治安維持活動を行った。これは輸送経路の確保という意味もあったけど、敵をいぶり出すためでもあったんだ。結果、シドさんの言う『伯爵が敵』が成立する答えが見つからず、逆に否定する答えも見つからない。つまり、確定情報がないんだ」

「それは分かるわ。でも……シド様が嘘をついてるとは思えないわ」

「俺もそう思いたいんだけどね……。とにかく次の話を聞いてくれ」


 鞄から資料を取り出し、机に広げる。


「この資料は伯爵領の情報だ。ひょんなことで入手した情報なのだけど、信ぴょう性が高い資料だ。この資料には、伯爵閣下とその息子を中心とした伯爵領内での悪事に関連したことが細かく書かれている。どうやら、権力を使って横暴極まりないことをやってるようだ。結果だけしか書かれていないから、男爵領にちょっかいを出し始めた理由までは分からない。予想だけど、男爵様とは因縁の仲だったのと、イーリスお嬢様への求婚のこじれだと思っている。仮にこの理由なら、シドさんが怒る理由にも納得がいくんだ」

「イーリス様ってモテそうですよね? 兄様にぞっこんでしたけど……」

「そ、それは置いておいてほしいかな……。ともかく、これで敵対関係が説明できる。そして、先日の口上で一気に状況が加速した。って訳だ」

「……待って! 兄様は『信ぴょう性が高い資料』と言うけど、どうして信ぴょう性が高いと思うの?」

「それは裏付けをしたからだよ」

「どうやって?」

「秘密!」

「んもぉぉおおお! 教えてくれてもいいでしょ!」

「簡単に言うと、情報屋に依頼したんだ。情報料は安くないし、口外することもできない。これは信頼関係を維持するために必須事項なんだ。だから、追求はしてほしくないんだ」

「……分かったわ」

「で、最初に話は戻る――」

「坊主」


 親方さんが話を遮る。


「何でしょう?」

「男爵と伯爵のそれぞれの意図は分かったが……それだけじゃないんだろ?」

「……なかなか鋭い指摘ですね」

「簡単なことだ。シドの行動が変だからだ。奴が感情的に報復ってのがそもそもおかしい。長い付き合いの嬢ちゃんを自分の娘と同じだと思っていても、簡単に相手の策略に乗る奴じゃねえからな」

「それは同感です。シドさんは仲間が虐げられたり仲間外れになるのを嫌がる人ですが、仁義というのでしょうか? 筋を通す人です。今回のことで言えば、ちょっかいを出した伯爵だけを標的に済むはずですよね」

「そうだ。奴は別の理由で、報復という形を取ったのだろうな。その辺りも調べてあるんだろ?」

「ええ。調べました」


 資料に手を置く。


「さっき、「ひょんなことでこの資料を手に入れた」と言いましたよね? この資料はビリアという女頭目から得た資料です。聞いている話では、ローズという名を出したそうです」

「坊主。ローズという名を鵜呑みにするな」

「ローズをご存知なんですか?」

「ああ。300年以上前に死んだ男の名だ。……ローズは黒い髪に黒い瞳。そして特別な力を持っていたらしい」


 みんなの視線が俺に注がれる。


「皆よ。坊主は関係ない。お前たちも鵜呑みにするな」

「……ローズとは何者なんですか?」

「死の大地を作っただの。魔獣を生み出しただの。残虐な悪の化身だと言われている。ワシも詳しくは知らんな」

「…………」


 特徴もそうだが、死の大地や魔獣を生み出すってのは……俺の能力でも可能だと思う。

 300年前というと……戦国時代かな?

 俺がローズの生まれ――いや! そんな訳ない!

 どうやってこっちに来たのか分からないが、俺は異世界転送された存在だ。

 転生の可能性は拭えないが……


「親方さん。もし――」

「坊主。ワシは坊主がローズの生まれ変わりだとは思っていない。だが、ローズと同列に考えないというだけだ。ワシは『黒の称号』を持つ者として、その時はワシの判断で決断する」

「……『黒の称号』とは、どんな意味を持つのでしょうか?」

「黒の称号とは、何にも染まらぬ色から『独自の裁量権を持つ者』を指す。ただ……それは表向きの話だ。『黒』とは畏れを表す色だ。悪の象徴にも使われる。黒の称号とは『畏怖される存在』を表す言葉でもあるということだ」

「なるほど……」


 単に肌の色が黒いから。だと思っていた。


「だがなあ……あの人のことだから、ワシの肌の色で決めたと思うぞ?」

「……フ、フフフフフ」

「あの人はそういう人なのだ。……ま、気にするな」

「分かりました。その時は親方さんに任せますよ」

「分かった」

「兄様……」

「ミイティア。俺は誇らしい兄でいたいんだ。残虐非道で欲望の限りを尽くす兄なら……不幸を振りまく前に止めて欲しいんだ」

「……はい」


 話が脱線し、暗い話になってしまった。

 本題に戻そう。


「本題に戻りますが……この戦いは止まりません。傍観もできません。その理由は、伯爵の横暴が俺たちにも降り掛かる可能性が高いからです。俺たちは男爵様に加担しました。情報を見る限り、俺は標的にされてる可能性が高いからです」

「じゃあよ。やっぱ、男爵の応援に行くべきなんじゃねえか?」

「ガルアの言いたいことは分かるよ。でも、俺が気にしてるのは保身や目先の勝利じゃないんだ。無慈悲に殺すだけなら……例え相手が10万来ようが勝てるよ」

「倉庫で見たアレか?」

「……アレだけでは難しいね。10門くらいあれば条件しだいだと思うけど……。それじゃ駄目なんだ! 勝っちゃいけないんだ!」

「勝っちゃいけないって……何が問題なんだ?」

「問題は『誰が得をするか?』 ということだ」

「伯爵の方が有利なんだから、伯爵が得をするんじゃねえのか?」

「違うね。伯爵位というくらいだ。そもそも金には困ってないはずなんだ。そう考えると利益は少ない」

「じゃあ……ビリアか? でも……直接的に得をしてるとは思えねえぞ?」

「ビリアはこの戦いの情報を誰よりも掴んでいて、加担してきた張本人だ。でも、恐らくは裏に誰かが居ると思う。……例えば、弱体化した伯爵領と男爵領を奪おうとする奴とか」

「フェデルクか?」

「フェデルクは利益という面では得をする人物だけど、領地を治める気はないと思う。どういう結果になっても得をする人物であっても、直接関与してるとは考えにくいかな」


 親方さんが髭を撫でながら、


「坊主。帝国か?」

「その可能性はありますね。帝国の状況とか分かります?」

「いや、そこまでは分からんな。現状休戦状態であるのは確かだ。だが内戦があれば……好機と見て攻撃に出る可能性がある」

「俺もそれが最有力だと思ってます。でも、単純に帝国が敵だとも思ってません。そこで出てくるのが――」

「ローズって訳か?」

「そう。ローズというキーワードが異様に出ていて、シッポすら掴めていない。唯一ローズに近しい者はビリアです。ビリアは恐らく……俺の能力まで知ってる可能性があります。仮に、俺の潜在能力を把握していて男爵側に付くように仕向けたとします。うまく男爵様側を増強できたとします。そうすれば男爵領と伯爵領の力関係が変わります。拮抗する力同士でぶつかれば消耗戦となります。そして、その影響は国内まで広がります。国力が低下すれば、次は国家間での戦争となります。どちらが勝っても疲弊は免れません。その時一気に情勢に塗り替える。……そう考えれば、ローズがやろうとしてるのは『国家同士の潰し合い』の可能性が高いという訳です」

「なるほどな」

「それを見越して先手は打ちました。結果は分かりませんが……。あとはジェリスさんに賭けるしかないでしょうね」

「それはミリアには伝えてあるのか?」

「いえ。彼女には不要な情報だと思います。余計な情報を与えても彼女では何もできません。むしろ自分を責めてしまうと思います。すべてが終わったら、ジェリスさんから話すと思いますよ」

「ふむ」

「なぁ? 結局俺らは……何を目的にすればいいんだ?」

「俺たちの目的は『戦争を止めること』だ。そしてどちら側でもなく『中立』として動く」

「ということは、男爵とも伯爵とも敵になる。ってことだな?」

「そういうことだね」

「なら……少数の俺たちは大変だな」

「うん。ガルアには大暴れしてもらうよ」

「……フハハハハハ! 面白れぇじゃねえか! 一丁やってやろうか!」

「兄様! 私も頑張ります!」

「まだ準備は出来てないけど、作戦の概要を説明するね」


 作戦をみんなに説明する。



 ◇



 説明が終わり、みんなそれぞれの仕事に向かって行く。

 残されたメルディとミイティアが俺を見詰めている。


「マサユキ様。私は何をすればいいでしょうか?」

「メルディには情報整理と学校のフォローをお願いしたい。今はメーフィス、オルド、ゲルトがいないから学校が大変なことになってそうなんだ。全部やらなくていいから、足らないところだけ助けてあげて欲しい。あと余裕があれば、ラミエールと連携して医療班を組織してくれ。開戦までは……ひと月切ったと思う。半月以内に引き継ぎまでやってくれ」

「大変そうですわね」

「情報整理は俺の仕事だとは思うんだけど、開発を優先させたいんだ。これが作戦の大前提だからね。大変だと思うけど、割ける人員が少ない以上1人2役以上やらないと成立しないと思うんだ」


 メルディが何か言いたそうな顔をしている。


「メルディ。思ったことは言ってくれて構わないよ」

「あの……本当に帝国の企てなのでしょうか? 話が大き過ぎるということもありますが、国家間の問題は王都で処理されるのではないでしょうか?」

「……考え過ぎなのは自覚してるよ。でも、内戦を許容してしまう国家は……最も平和に遠いと思う。必然的に国家間の戦争も連想できるって訳だよ」

「もしかして、ジェリスさんがやってるのって」

「……違ってないけど、目的は別なんだ。恐らく王様は動かない。正確には動けないと思ってる」

「どうしてでしょうか?」

「予想なんだけど……政治的な理由だと思うよ。俺の石鹸がそれを物語ってるかな?」

「国王陛下には内戦を止める力がない。ということでしょうか?」

「かな? 動いてくれれば幸いだけど、動かない前提で考えてるよ」

「ということは……後ろ盾はない。味方はいない。相手は数万人。ローズという強敵がいて、男爵様方には見放され、私たちは少数。まさに……勝てる見込みがない戦いですわね」

「フフフフ。酷いもんだろ?」

「マサユキ様は勝ちますわ」

「その理由は?」

「私の旦那様ですもの!」


 自慢げなメルディを抱きしめる。

 チラッとミイティアを見て、ミイティアをグイッと引き寄せ、両腕で2人を抱きしめる。


「さあ、始めようか」


火薬製造小屋の爆発事件の件なんですが・・・よくよく考えるとストーリーとして無理やり感がある気がします。

タイミングとしては「第46話 月夜の脱走者」の前辺りなので、その内追記しようと思ってます。



次回は、水曜日2014/7/23/7時です。

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