第48話 決意の隔離
男爵様に勧められ、俺たちはゆっくり対面の椅子に座る。
「もう、察しているかもしれんが……。先ほど伯爵領より使者が参った。口上はこうだ――」
バリスデン伯爵領内にて反乱行為があった。
反乱は鎮圧できたが、仕掛け人が我男爵領の者であることが判明した。
ついては、即刻この者を捕らえ連れて来ること。
庇い立てするならば謀反と見なし、力を持って制する。
「――と言う訳だ。まさかと思うが……、シドの奴が……」
「閣下。一つお尋ねしても良いでしょうか?」
「……うむ」
「口上とは、これほど曖昧なのが当然なのでしょうか?」
「……そうだ。これが普通なのだ。爵位の上では目上であり、どうにも逆らえん存在なのだ。仕方ないことなのだ……」
「今回は心当たりがあるとはいえ、本当に心当たりがない場合は、どうされるのです?」
「その場合は、伯爵閣下と同列の諸侯か、それ以上の者に助けを仰ぐことになる」
「ということは、我々が他の諸侯に助けを求めなければ、口上は確定的になるということですね?」
「そういうことだ」
「では、事実無根だった場合、口上を突き付けた者はどう処置されるのでしょうか?」
「厳しい処罰が科されるのだが……、概ね訓戒程度で済んでいる」
「では、我々が伯爵閣下に対して口上を申し上げることには、問題ないのでしょうか?」
「無理だ! 爵位の低い者は上には逆らってはならんのだ!」
「なるほど……」
つまり、会社で言うところの部長には、課長クラスでは口出しできないということだ。
上から降りてくる命令には従わなくてはならなく、異議を唱えるならば、部長より上の職の人間に助けを求めなければならない。
だが、今回の場合、同じ部署の部長からの命令ではない。
国家が一つの部署と考えれば筋は通るが、領地ごとに別々に統治権が認められている。
つまり、一種の縦社会構造であって、それぞれ独立した機関でありながら爵位という優位性を盾に、横暴が有効ということなのだ。
「まぁ、大体分かりました。それにしても……この口上を考えた方って、相当お馬鹿さんですね」
「何が問題だと言うのだ?」
「いや、「仕掛け人が我男爵領の者であることが判明した」と言っておきながら、誰が言った情報なのか分かりませんし、分かってるなら教えれば済む話です。それに、「庇い立てするならば謀反と見なし、力を持って制する」って、さらにお馬鹿ですね。最初から、こちらが『敵』だと認識した言い方です。実際問題、後者はその通りなのですけど……、捻りがないですよねぇ」
「何が言いたいのか、サッパリ分からんぞ?」
「つまり、この口上は、相手の『揺さぶり』ってことです」
「無視せよ。と言うのか?」
「無視は駄目でしょうけど、誠意ある対応だとは思えません。「我らも調査してみるが、明確な根拠をお持ちであれば示されよ。場合によっては国王陛下の使者に立ち合って頂く」とでも、返信すればいいんじゃないですか?」
「むぅ……」
「実際に国王陛下の使者が立ちあう必要はないんです。相手が馬鹿なら宣戦布告してきますし、頭の切れる者……ではないと思いますが、その場合は、自分の過ちに顔を赤くするでしょうね」
「随分挑戦的な発言だのぉ? 以前も……大きなことを言っておったしのぉ」
「大口を叩くのは一種の心理戦です。本気で目指すつもりなら、黙って密かに行うものだと思います。私は商人です。誠意ある対応には可能な限り誠意に尽くします。しかし、相手に誠意の欠片もないのであれば『話は別』です。あらゆる手段を用いて身を護ります」
チラっと横を見る。
メルディは俺の膝に手を置き、無言で応援してくれている。
「閣下。これはシドさんに相談したほうがいいと思います。事実がどうであれ、相手側の攻撃が始まったのですから」
「……そうだな」
俺たちはシドさんのアジトに向かう。
◇
アジトには数人の連絡員しかおらず、お願いしてメンバーを集めてもらった。
その間、椅子に座り集まるのを待つ。
「このアジトに来て……もう3ヶ月、いや4ヶ月くらいですか?」
「もうそんなになるか……」
「最初にここに連れて来られた時は、内心ヒヤヒヤでしたよ。当初の目的とは違う方向にいってしまいましたし、まんまと罠に掛けられてしまいました」
「いや違うのだ! 罠を張っていた訳ではない! 単に……目的を話した方が納得してくれるだろうと思っただけだ」
「ええ。そのおかげで、私もスッキリした面もあります。でも……事実は違うようですけどね?」
男爵様は黙り込んでしまった。
そこにシドさんたちと、ガルアとミイティアもやってきた。
「おう! 待たせたな!」
「すみません。お呼び立てしてしまいまして」
シドさんたちに、口上について説明する。
「なるほどな……」
「心当たりはありますか?」
「本気で聞いてねえだろ?」
「ええ。一応礼儀だと思って」
「礼儀って、お前……。まぁいい。今に始まったことじゃねえしな」
「で、どうなんです?」
「反乱ってのは知らねえな。ちょっとしたボヤがあった程度とは聞いてるぜ」
「分かりました。閣下、この件は我々ではないようです。返信をお願いします」
「分かった」
「しかしよー。なんか胸糞悪ぃやり方だな?」
「同感ですね。口上はともかく、腐ってますね」
「だな! だが、まともな回答はこねぇ気がするぜ?」
「俺もそう思います。これは『宣戦布告』だと、取るべきでしょうね」
「やっぱりそうか……。よし! 杯を用意しろ!」
シドさんの号令で、杯を用意させる。
皆に杯が行き渡ったことを確認し、シドさんが話し始める。
「お前ら! ここまで良くやってくれた! 約4ヶ月だが、ここまで来れたのはお前たちのおかげだ! この場を借りて、感謝する!」
シドさんが深々と頭を下げる。
その姿に涙する者もいるが、皆覚悟を決めたいい目をしている。
シドさんが杯を掲げ、
「俺たちの勝利に!」
「勝利に!」
シドさんの音頭に合わせ、皆が掛け声をし杯を飲み干す。
酒はブドウ酒ではあるが……味がしない。
こういう状況では、酒の味はどうでもいいのだが……。
アルコールが強いのだろうか? ちょっとクラクラする。
バタンッ!
後ろで何かが倒れる音が……ミイティア?
ミイティアに駆け寄る。
一緒に駆け寄ったメルディも、何かフラフラしている。
隣にいたガルアもだ!
「どういうことですか!?」
「……。お前たちの仕事はここで終わりだ」
「納得すると……でも……」
意識が遠のく……。
そして、俺たちは眠ってしまった。
「悪いな。最初からこうすると決めてたんだ」
「マサユキ殿。すまぬ! そちは生きねばならない! 我らの覚悟……しかとその目で見ておくのだ」
◇
次目覚めると、見慣れた天井だった。
――ハッ!? なぜここに?
ガバッと勢いよく起き上がる。
周りを見渡すと……ここは俺の部屋だ。
日の出前なのか、とても薄暗い。
カンテラに火を灯し、ひとまず準備に取り掛かる。
俺がここにいるということは、メルディやミイティア、ガルアも村に戻ってるはずだ。
急いで相談しなくては……だが、ちょっと変だな?
イーリスお嬢様とミリアさんがいるから、部屋割的にはメルディかミイティアがいてもおかしくない。
リーアさんのことだから、そういう気回しはしないと思う……。
どうなっているのだろうか?
疑問を感じながら、廊下に出る。
階段が1階の光で照らされている。
季節的には秋だ。
日の出には早いから、時間帯的には3時か4時辺りだろう。
こんな時間に、誰かが起きてるのは少し変に感じる。
1階に降りると、台所の方で朝食の準備をしている音がする。
いい匂いが立ち込め、少し早い朝食になるのだろうか?
台所に着くと、リーアさんとミリアさんが忙しそうに準備をしていた。
ミリアさんが俺に気付き、
「おはようございます」
「え? あっ……おはようございます」
「あっ! マサユキ。おはよう」
「リーアさん、おはようございます。2人とも……随分早起きですね?」
「そうねぇ? そうよね! 早過ぎるわよね!」
「……さっぱり状況が分からないのですが……」
呆れた顔で2人を眺めていると、
「メルディたちなら、工房にいるわよ」
メルディたちが工房にいるってことは、メルディたちの方が状況を把握してる……ってことなのか?
リーアさんがお玉みたいな料理道具を片手に、
「マサユキ、席で待ってなさい。もうすぐ出来るわ」
「俺は――」
「あなたのために作ってるのよ! 食べてから行きなさい!」
「……はい」
渋々とダイニングに移動し、椅子に座る。
次々と料理が運ばれ、あっという間にテーブルはご馳走の山になった。
「さあ、頂きましょう」
リーアさんは目力で「食べろ!」 と訴えてくる。
スープを一口口に運ぶと、……懐かしい味だ。
長いようで短い4ヶ月だったが、安心する味だ。
懐かしさを感じながら、無心で食らい続けた。
◇
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
「あの……」
「メルディからは大体話は聞いてるわ。ここに運ばれてきて、1日経ってるわ。男爵領からだから、3~4日ってところね」
「……なるほど」
俺たちはシドさんたちに嵌められ、睡眠薬入りの酒を飲まされた。
ひと口程度で、4日も寝てしまうことは考えにくい。
単なる薬ではないかもしれない。
アクトバーさんが一枚噛んでいてもおかしくない。
事前情報で開戦は避けられないとは思っていたから、シドさんたちに説得されると思っていた。
俺は説得で折れるつもりはなかった。
だが……さすがシドさんだ。
俺の考えを看破して、先手を打って来た。
俺の予想では、全面衝突では勝てない。
正々堂々とは行かないが、相手の痛い所を突くことで、幾らか派兵を減らせるとは思っていた。
その数が1万程度なら、現状戦力でも五分五分くらいまで持ち込めると思う。
その交渉段階で……この有様だ。
男爵様が粘り強く交渉してくれればいいのだが……。
ミリアさんが神妙な顔つきで語り掛けてくる。
「マサユキさん。その……巻き込んでしまいまして、申し訳ございませんでした」
「自分で選択したことです。後悔はしてませんよ」
「そうは言いますが……」
「恐らくですが……イーリスお嬢様とミリアさんは、戦いに巻き込まないために隔離されたのだと思います」
「と、どういうことでしょうか?」
「……始めから男爵様は、戦いになることを予感してたのだと思います」
「まさか……」
「俺が男爵領の食糧問題解決のために抜擢されたのは、たまたまだと思います。それを受けたのも俺です。だから……責任を感じないでください」
ミリアさんは大粒の涙を流している。
「落ち込まないでください。俺は無理やり外されてしまいましたが……、まだ仕事は終わってませんからね!」
「……どういうことですか?」
「初めての仕事を反故にしてしまっては……今後の仕事に影響しますからね。単なる商人根性ですよ!」
「ですが……」
「まぁまぁ。この商人マサユキにお任せあれ! 必ず良い結果にしてみせますから!」
ミリアさんは少しだが、気を持ち直した。
鞄から1通の手紙を取り出す。
「その手紙を肌身離さず持っていてください。幸運が訪れる魔法を掛けてあります。すべてが終わったら読んでください。……開けちゃ駄目ですよ? 開けたら魔法が解けちゃいますからね」
「……はい」
ミリアさんは疑問に感じながらも、大事そうに手紙をポケットに仕舞い込む。
そういえば……
「イーリスお嬢様はどうされているのです?」
「今はラミエール先生の元にいます。お兄様の部屋が開いたということで、住み込みで弟子を続けています」
「そうですか……それは良かった」
席を立ち、玄関に向かう。
ふと、足を止め振り返る。
「リーアさん。ミリアさん。朝食ありがとうございました。行ってきます!」
「うん。頑張るのよ」
「いってらっしゃいませ」
2人に見送られ、俺は工房に向かって駆け出す。
私事ですが……新話書くのたのしぃぃぃぃ!
修正作業放ったらかしで新話書いてるのですが、新話書くのが楽し過ぎて放り投げたい気持ちになってしまいます。
でもまぁ……中途半端なやり方で、中途半端に終わらせるのも問題なので……新話書き貯め+少しずつ修正って感じで進めます。
次回は、水曜日2014/7/16/7時です。




