第44話 試みの結果
「マサ! マサ!? どうしただ!?」
ディラスキンさんが体を揺すってくる。
どうやら転寝をしていたようだ。
「……すみません。最近忙しかったので……ちょっとボーっとしてました」
「今日は帰れ! あとはオラがやっとくだ」
「……分かりました。お願いします」
俺は支度をし、工房を後にする。
◇
館に向かい、街中を歩いてる。
あれから……大体2カ月が経過した。
街並みは激変し、人は忙しなく行き交っている。
人口は7000~8000人くらいまで増加した。観光客を入れれば1万は越えるだろう。
クレープの甘い匂いが漂ってくる
いい匂いだ! 甘くて香ばしくて食欲を誘ういい匂いだ!
お店には、今日もたくさんお客さんが並んいる。まさに長蛇の列だ。
大半は女性客が占め、ほとんどがリピーターである。
中には面白半分で並んでいる人たちもいるが――そういう人たちは一目で分かる。あまりの待ち時間の長さにブーブー文句を言っているからだ。
でも一口食べれば……あまりの旨さに足をバタつかせながら踊りだす!
結果的にそれが、客が客を呼ぶ噂となっているのだ。
客たちのお目当ては、季節限定、数量限定の『イチゴクレープ』だ。
原材料の関係で限定の商品となっている。
希少な上に旨いと来る。病み付きになる客を絶賛量産中なのである。
中身は生クリーム、イチゴ、コーンフレーク、チョコレートソース、色付けしたシュガーチップがトッピングされている。
生地は、小麦粉をベースとしたクレープ用の小麦粉である。
『イチゴチョコレートミックス』とでも表示したい所だが、意図的に表示を簡略化している。
分かり易い表示にするためでもあるが、秘匿性を保つためでもある。
――秘匿の一つが『チョコレート』
アンバーさんが見つけてきた木から取れた。
チョコレートの製法も独特だ。
実は白くてネバネバしている。それを香りの強い葉で包み数日間熟成させる。その後、天日干しにする。
日光で色が黒くなると、それを粉末化して砂糖と絡めてチョコレートとなる。
現世では化学的に作られる工程だが、手間を掛けることで比較にならない旨さを引き出している。
ハッキリ言って――専門店で売られているチョコより旨い!
意外と知られていないが、チョコレートは熟成工程で味が変わるのだ。
この世界では珍しい部類の食べ物だから、余計に反響も大きいというわけだ。
――もう一つは『クレープ生地』
製粉作業は家庭ごと店ごとに行っていた。
それでは味に差が出てしまうので、関連の店で扱う小麦粉をまとめて製粉化する工場を作ったのだ。
ただ製粉するだけでなく品質にもこだわり、最高品質の小麦粉に仕上げた。
さらに各店の商品ごとに材料を混合し、配合作業を一手に受け持っている。
味を均一にできる上に情報秘匿も行える。中間マージンを考えれば、一石三鳥なのだ。
もちろん警備は厳重だ。
同じ過ちは繰り返したくないし、街の活性化のための切り札とも言えるからだ。
美味しそうな匂いに負け、ケーキを買う。
俺が買ったのはミルフィーユやチェリーパイ、ショートケーキなどである。
これを作ったのもリトーネさんだ。
やっぱり俺の見立ては間違っていなかった。
リトーネさんはパテシエとしての才能もあった。
経験と感性だけで独創的な料理を作りだすオールラウンダータイプの料理人だった。
甘い物以外にも新食感のパンやホットドック、ピッツァなどを作り上げた。
基本は軽食を主体に開発し、レストランなど料理屋は独自色を打ち出す方針にしてある。
なので、街には色取り取りの料理が溢れ返っている。
◇
まだ営業時間には早いが、酒場ゾーンに入った。
ここは主に居酒屋やBARなど、水商売を中心とする店が立ち並ぶ。
夜になると開店し、完全に夜の街になる。
昼間営業している飲食店もそうだが、すべての店舗は許可制にした。
そして種別ごとに営業ゾーンを分けている。
理由は、差別化を図るためだ。
――この政策変更には、猛烈な店主たちの反対があった。
かなり厳しい規則なので当然の反応なのだ。
しかし、俺たちの事業がうまく行きだすと渋々ながら賛同者が増えた。
まぁ簡単な理由だ。
俺たちの店ばかりが儲かって、一種の独占状態になっているからである。
参加には厳しい規則を義務付けられる。
規則は――
売上の管理を徹底させ、財務官の命令いかんでは開示しなくてはならないこと。
通常とは違った高い税法が適用されること。
非合法な商品を扱ったり秘匿情報を漏洩した場合、最高死刑が執行されること。
届け出がなかったり書類に不備があった場合、営業停止および高額な罰金が科されること。
などなど、かなり無理を押しつける規則なのだ。
その代わり――
ゾーン分けにより有名店の近くで営業でき、客が呼び込み易いこと。
衛兵と自衛団の支援が受けられ、荒事から店を守れること。
領主から店舗変えの補助金が出ること。
経営の知識や、算術のできる人材を将来的に紹介してもらえること。
新レシピの提供や、ミックス粉を買える権利。
など、知識面や資材面での援助が受けられる。
まぁ、一種のフランチャイズと思ってもらえば分かり易いだろう。
知り合いのお姉ちゃんがヒラヒラと寄ってくる――ヤ、ヤバイ!
「ユキちゃ~ん! ねえ、私たちといいことしない?」
クリクリと俺の乳首をコネまわす。
「ま、また今度――って! ソコは駄目! 触らないでください!」
「(もぉこんなに大きいわよぉ? サービスするから、ね? どぉ?)」
豊満な体を押し付け、俺の股間をいじくり回し、上目遣いで誘ってくる。
「メ、メルディと離婚したらお願いします!」
「やーよ! 今すぐベットに……」
グイグイと引っ張られるが、最近こういう扱いが多くて困る。
お金はいらないとか……。
お金を払ってでも抱きたいとか……。
訳が分からないアタックをしょっちゅう受ける。
魅力的な提案ではあるが……だが断る!
俺の性欲は全部メルディのためのものだ!
これがマイルールなのだ!
◇
館が見えてくると、衛兵さんたちが寝むそうに門番をしている。
衛兵たちが眠くなるのも分かる。
治安は以前にも増して良くなったからだ。
俺が提案したのは、裏道に砂利を敷き詰め足音で人気が分かるようにした。
住民には夜の通行を規制させ、近隣の住民同士での連絡会を設けた。
ゾーン分けにより警備範囲が狭まり連絡会との連携もあって、頻発していた物取りは壊滅した。
壊滅とは、文字通り『壊滅』である。
自白剤を開発し、捕らえた犯罪者から問答無用で情報を吐かせた。
その結果を元に拠点をすべて撃破したのだ。
街から物取りがいなくなり、治安が高い基準で維持されるようになった。
勢いに乗って、近隣の町にも同様の処置を行った。
町ごとに士爵などがいたが、実績と男爵様の威光を借りて強引に提案を受け入れてもらった。
結果、近隣の町も含めて治安が安定している。
街道も同様だ。
ジールさんたちのおかげで、主要な経路の野盗はすべて一掃されている。
たった2カ月だが、劇的な変化を遂げたのだ。
◇
館の隣には学校を併設した。
急造ではあるが、今では100人程の生徒がいる。
生徒が増えたのでコース分けも行った。
基礎学習コース、執務官コース、料理人コース、商人コースである。
――基礎学習コースはメルディが担当している。
基礎的な語学と算術を教える。
――執務官コースは男爵様と執事さんが担当。
執務官候補の生徒が集まっている。
――料理コースはリトーネさんたち料理人が担当。
料理人も免許制になったので、子供だけでなく大人もいる
――商人コースは主に俺が担当している。
今は生徒数も少ないしやることが山積みなので、執務官コースと合同授業となっている。
今は4コースではあるが、職種の多様化に合わせ専門的な教育を施して行く予定だ。
執務官コースの教室を覗いてみると……やっぱり!
「いや、これだけの経済成長率だ! 今は事業拡大の時期なんだよ!」
「ちげーだろ! 数値だけ見ても意味がねーんだよ! 経営側の問題を無視するんじゃねえ!」
「僕は両方大事だと思うよ。無理な開発は人員不足になったり貧富の差に繋がると思う。お金を稼ぐのは重要だけど、貧富の差を無くす政策を考えるべきだよ」
セイル、ジェガ、ラギスが口論している。
歳に見合わない口論ではあるが……これでも平常運転といったところだ。
今、彼らが協議しているのは『街の成長戦略』である。
これは形式的なものではなく、実際的な授業である。良い案が出れば領地改革にも採用される。
具体性を持った授業だからこそ、討論が熱くなってしまうのだ。
先生を担当している男爵様も困っているようだ。
3人の元に行き声を掛ける。
「またやってるね」
「あ! マサユキさん、お疲れ様です」
「オツカレーッス!」
「お疲れ様です」
「熱心なのは分かるけど――討論というのは、自分の意見を押し通すことじゃないよ。相手の考えを受け入れることから始めないとね。その上で客観的な意見を交えて、先にある問題点を明らかにすることが肝心なんだ。そこまで来て初めて『正当性』を評価できると思う。同じ題材なんだから、そもそも揉める理由はないはずだよ? 君たちならできるはずだ」
3人とも黙るが……表情から納得がいってないようだ。
「君たちは『事業拡大=儲かる』って考えてる?」
「そうです! 今は人の流入も多くなってますし、これを機に事業拡大すべきです!」
「だ・か・ら! お前は金しか見えてねーのかよ!?」
「貧富の差の改善が重要だよ!」
「なあいいか? ここまで街が活性化したのは『客層のニーズ』と『戦略』がマッチしていたからだ。ニーズは人の数に比例はするが、店が増えれば客の取り合いにもなる。それでは潰れてしまう店も出る。それと格差の改善は金を出せば解決する問題じゃない。働く場があるかということだ。成功した理由とバランスが大事だと思うぞ?」
再び3人は黙り込む。
「目先の金に飛びついているようじゃ……まだまだ先が思いやられますよね? 閣下?」
「そうだな。ここまでの結果を出せたのは、マサユキ殿の機転のおかげだ。そちたちはその結果に踊っているに過ぎんな」
3人はヘコみ、言い返せないようだ。
「例えるなら……この箱だ。中にはケーキが入っている。領地を箱としたら――」
「おい、黒髪!」
ガルアが教室に入って来て、強引に俺を引っ張っていく。
「おいおい、どうしたんだ?」
「見つかったんだよ」
「何が?」
「例の盗賊だ」
「ジャガイモの件か?」
「……恐らくな」
後を男爵様に任せ、俺たちはシドさんのアジトに向かう。
◇
シドさんのアジトに着く。
部屋には犯人と思われる男たちが捕らえられ、既に拷問された後のようだ。
男たちはぐったりし、体には無数の拷問の痕が残っている。
「シドさん、状況は?」
「強情なやつらでな……。なかなか情報を吐かねえぜ」
「自白剤を使いましょう」
鞄から自白剤の入った瓶を取り出す。
注射器で液を吸い出し、リーダーらしい男に注射する。
自白剤はアクトバーさんと開発した。
自白剤というと、映画の拷問シーンくらいしか出てこないだろう。
成分も当然公開されていないだろうし、俺も知らない。
だから、薬の知識があるアクトバーさんに協力してもらい、幻覚作用のある植物から自白剤を生成した。
その植物というのは……『麻薬』だ。
麻薬と言っても使い方次第では麻酔薬にも使われる。
例に挙げるならモルヒネだろう。
とまぁ、それを応用し自白剤を作り上げたのだ。
依存症に陥らないよう配慮しているが、現時点では完璧には程遠い。
領主という後ろ盾がなければ、犯罪行為スレスレなのだ。
◇
自白剤を投与した男がフラフラし始めた。
どうやら自白剤が効き始めたようだ。
シドさんが尋問を始める。
「おい! お前がジャガイモを盗んだんだな!?」
「……ジャイモ?」
「ジャ・ガ・イモだ! コレのことだ!」
そう言って、ジャガイモを見せ付ける。
「それ旨い……」
「だれの指示だ!?」
「……姉さん……」
「そいつは誰だ!?」
「…………ローズ」
「ロ、ローズだと!?」
シドさんの表情が強張る!
「ローズとは何者なんですか?」
「……あ、ああ。極悪野郎の名だ。帝国を恐怖に底に陥れたという極悪人の名だ。やつらが動いてるとなると……」
「何が問題なんです?」
「奴らは半端じゃねえ! キチガイの集まりだ! 強盗、強姦、殺人、拉致、なんでもやりやがる! ボヤボヤしてたら奇襲されるぞ!?」
「どれくらいの規模なんです?」
「ハッキリとは分からねえが……数千とも数万とも言う。こうなってくると……伯爵は関係ない気もしてくるぜ」
「……まぁ聞いてみましょう」
俺は男に質問する。
「アジトはどこですか?」
「アジー?……カシェリァ……」
「連絡はどうしてる?」
「……村に帰る……」
「次の連絡はいつだ?」
「……満月……の日」
「フェデルクは知ってるか?」
「……フェ?……知らない」
「商人のフェデルクだ! デブ商人だ!」
「あのデブ! ブヒヒ! ブーブーブヒヒ!」
「頭がハゲてないか?」
「ブヒヒヒ! ……ハゲてる! ブヒヒヒ!」
「笑い声が変だろ?」
「ウヘへ、そうそう変! フェフェとか……ニヒヒヒヒィィイ!」
「お前の名は?」
「……ビトリス……ゴホッ! ゴホゲフ!」
フェデルクというのは、シドさんの部下たちがマークしていた商人だ。
デブでハゲで「フェッフェ」っと、特徴的な笑い方をする。
だが……。
「シドさん。今の情報から何が読み取れます?」
「ちょっと待ってろ!」
シドさんが地図を広げて確認する。
「……あった! カシェリアは伯爵領にある。ここからだと片道5日は掛かるな。満月となると……半月後か!? とすると……ひと月後には襲ってくる可能性があるな。これで確定だ!」
「シドさん。俺の見解では伯爵との関連性は確定してません。フェデルクを捕らえて吐かせる他ないですね」
「クッ! ……作戦はどうする? 相手は数千以上だぜ?」
「そうですね……情報が足らないです。こいつらから情報を引き出すしかないと思いますが、伯爵領だと手が出しにくくありません?」
「だな! こちらには口実はあるが、伯爵領で暴れるとなると……ユイルの立場が危ういな」
進軍中の敵を奇襲するなら、口実上でも戦略的にも楽だと思う。
問題は、『先手』を取れるかということだろう。
「シドさん。こいつは殺さずに拘留しておきましょう。自殺も考えられるので、常に監視と猿轡をしておいてください」
「分かった! 戦いの準備も急ぐぜ!」
「その前に、閣下に報告しなく……」
その時、男がブツブツと小声で何か喋り出した。
「……ジェリ、ス……すま……ちま……」
書式変更を試みましたが、どうでしたでしょうか?
何かあればご意見をお願いします。
1話の修正状況は、ボリューム的に増えてしまったので0話としてプロローグを設けることにしました。
戦闘シーンの追加を行った以外は、内容には基本的に変更ありません。
特に何時に更新するとは伝えられませんが、今日明日中には更新を完了させる予定です。
その後の修正は随時更新という感じです。
最新話は・・・来週の月曜日にでも1本出しましょうか。
無駄に更新間隔空けたくないという理由もありますが、終わり方が気持ち悪いですよね?
一応予定ですが、月曜日2014/6/23/10時頃更新します。
あわわわ、更新遅れました。
今日も1日頑張りましょう!




