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第41話 必要な知識

予定地に着くと、昨日より人が増えていた。

昨日は100人くらいだったけど、今日はその倍以上いる。

作業はだいぶ進んでいて、余計な木の伐採や、牛を使った土起こしもやっている。


シドさんの部下のギニースさん達が、綱引きの要領で太い切り株を引き抜こうとしている。

みんな力自慢達なのだろうけど、なかなか引っこ抜けないでいる。


「オラオラ!声出せー!」


シドさんが音頭を取り、掛け声を合わせて一気に力を込める。

切り株がミチミチと音を上げ、少しずつだがグラつき始めている。


「オラ!もう少しだ!」

「セイ!セイ!セイ!・・・」


切り株が・・・一気に引っこ抜かれる!

それと同時に、男達が雪崩れて倒れる。やっと抜けたようだ。

男達は叫び、互いに健闘を称え合う。


「皆さん、お疲れ様です」

「おう、来たか!ちょうど、厄介な奴が片付いた所だ」

「かなり大きいですね。カッコ良かったですよ」

「よせよ。ガラにもねえ台詞だぜ?」

「ハハハハ・・・」


農地はかなりの速度で開拓が進んでいる。

このペースで行けば、ジャガイモ以外に小麦の栽培もできそうだ。


問題は、育成の速度を考えると収穫量は限られる。

俺達の作戦を考えると、それでは遅すぎる。

だから、俺の能力を使いたいのだが・・・それには必要な人がいる。


「シドさん。農家の人に協力をお願いできました?」

「ああ。昼頃に来る予定だぜ」

「分かりました。そしたら・・・農具って足りてませんよね?」

「そうだな・・・。今日はたくさん集まったしな。もっと数は必要だぜ」

「今、何人くらいいるんですか?」

「ちょっと待ってろ」


シドさんは部下を呼び付け、資料を調べている。

参加者リストを作成し、かなり詳細に人員管理を行っているようだ。


「今日は350人だな。不審な奴はいねえと思うが、お前じゃねえからな。確実とは言えねえぜ」

「いいんですよ。どうせ分かりっこありませんから」

「そうだな」


後を任せ、一端ディラスキンさんの元に行く。





ディラスキンさんは、相変わらず忙しそうだ。


「こんにちは」

「おうマサ!これ見るだ」


1本のクワを渡される。

中央が一部窪んだ形のクワだ。

日に日にクワが改良され、これなら鉄の必要量が減って、資源的にも効率がいい。


「いい仕上がりですね。当面これを生産しましょうか。必要量が増えましたので量産をお願いします」

「増えただか?」

「今、畑で350人が働いています。大体300本は必要ですね」

「んだば、あと100本追加だな?」

「ええ。お代は先に支払います。1本銀貨70枚でいいですか?」

「いや、50枚でいいだ。街の者に使ってもらうしな。マサのやる事に協力したいだ」

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」


追加のクワ100本分の、金貨50枚を支払う。

そして俺も加わり、クワの作成に取り掛かる。





昼頃までクワの製作を行、出来た分を持って農地に再び戻ってくると、奥様達が大鍋で昼食の準備をしていた。


「こんにちわ。おいしそうないい匂いですね」

「もうすぐ出来ますわ。旦那様も食べてってね」

「ええ。ご馳走になります。ところで、食費ってどうしてるんですか?」

「シド様から出してもらってますわ」


そう言えば、こういう配慮を忘れてたな。

シドさんは専任ではあるけど、俺の足らない所をよく分かっている。

俺が雇い主なんだから、俺がもっとしっかりせねば。


シドさん達の元に行くと、農家の人だろうか?見慣れない人達がいた。


「おう!戻ってきたか。こいつらが農夫達だ」

「初めまして。私がマサユキです。お集まり頂いてありがとうございます」

「私はエファルと申します」


他の農夫さん達も紹介してもらう。


「さっそくですが、土について教えてください」

「旦那様は、何をお作りになるんで?」

「ジャガイモというイモです。現物があった方がいいですね。取ってきますよ」

「マサユキ。それは部下にやらせるから、お前は説明を聞いておけ」


シドさんの部下が館に向かった。


「イモですか・・・変わってますね。まあどんな作物でも、この地では育ちにくいです」

「原因は畜産ですか?」

「それもありますが、初年なら土質を変えるだけでいいですね」

「どういう土がいいんですか?」

「ムラサキ花はご存知でしょうか?」

「ムラサキ花?」

「あそこに咲いてる花ですよ」


指差す先には、青色の紫陽花あじさいが咲いていた。


「アジサイですか?」

「アジサイ?でございますか?我々はムラサキ花と呼んでいます。あの花は土質によって赤になったり、青になったりします。赤い花の土が、作物が育ち易い土と言われています」


アジサイの色って、もしかして酸性とアルカリ性を指しているのかな?


「土に石灰を撒く手法って、ご存知ありません?」

「ご存知なんですか?」

「先人の知恵なんですよ。なんでも石灰を土に撒くと、土質を変えられると言われています」

「ええ、その通りです。しかし、石灰の量の調節が難しいです。多過ぎると病気の原因になります」

「なるほど、石灰についてはお任せできます?」

「ええ。お任せください。それより次年度の事が問題です」

「初年度は土質の改善でいいと言ってましたね。次年は何が問題なんですか?」

「連作障害はご存知でしょうか?」

「言葉としては知っています。同じ作物を同じ場所に作ると、病気になったり、育ちが悪かったりする問題ですよね?」

「よくご存知でいらっしゃいますね。その通りです。それを防ぐには堆肥作りが重要です。それでも防げないのですが・・・」

「その理由には、心当たりがあります。まず堆肥の作り方を・・・」


エファルさんが興奮して、俺の話を遮る。


「なんですと!防ぐ方法があるのですか!?」

「え、ええ・・・。植物は特定の栄養素を元に育ちます。同じ作物を育てると、同じ栄養素ばかりが減ってしまいます。土のバランスが崩れるからだと思います」

「それはどうすれば良いのですか!?」

「えーっと、確か・・・」


なんだっけな・・・種類を変えるのは知ってるのだが・・・。


「種類を変えるといいらしいです。小麦、大麦という意味ではなく、インゲンや大豆、カブや唐辛子など、品種を変えるのだと思います」

「・・・随分曖昧ですね」

「申し訳ありません。知識は、かじり掛けが多いんです」

「分かりました。組み合わせについては検討してみましょう。次は堆肥についてです。うちでは「土蒸し」という手法を使って堆肥を作ってます」

「土蒸し?」

「はい。正式な名称は分かりませんが、落ち葉などの腐葉土やワラや枯れ草、家畜の糞尿などを交互に敷いて山にします。数カ月もすれば、山が熱を発して湯気が出ます。これを私達は「土蒸し」と呼んでいます」

「ほー。その堆肥を土に混ぜるってわけですね?」

「はい。他にも焼畑という手法もあります。山を焼いて新たな畑を作ります。ただこの方法は、国で禁止されています。なんでも環境破壊が問題になり、法律で禁止されています」

「それは懸命な判断ですね。森が消えれば大気汚染の原因になったり、貴重な薬草を採取できませんからね」

「なんと博識なのでしょうか・・・。さすがでございます」

「いえ、これも先人の知恵です。私は単に雑学として知っているに過ぎません」


とりあえず、初回は土質の改善で済むという事が判明した。

問題は2回目以降の作付けだな。


「堆肥の腐葉土の話で思い出したんですけど、腐葉土ってそのままは使えませんよね?」

「その通りです。直接は使えません。土蒸しが必要です」

「それで思い出したんですけど、泥炭ってご存じありません?燃える土です」

「泥炭は知ってますが・・・それも堆肥になるのですか?」

「ええ。腐葉土を土蒸ししなければならないのは、寄生虫を殺して、必要な微生物を残すためだったはずです。泥炭はほとんど土の中にありますので、その工程がいらないはずなんですよ」

「微生物とは何でしょうか?」


結構メンドクサイが、生物学について教えた。


「なるほど・・・微生物とは偉大ですな」

「偉大ですね。ここまでの説明で、ご納得頂けましたか?」

「はい。これなら育成効率もかなり上がりますね」

「シドさん。ちょっといいですか?」

「おうよ」


シドさんと少し離れた場所に行き、確認を取る。


「彼らは、作戦の賛同者ですか?」

「いや違うな」

「では、アレについては伏せて話を進めますね」

「分かった」


再び農夫さん達の元に戻り、畑作りの講義をしてもらう事になった。





お昼は、奥様達が用意してくれた料理を頂いた。

豚肉と野菜を煮込んだスープとパンだ。


そういえば、ここの主食はほとんどスープとパンだな。

味付けや効率の面で簡単という事もあるが、軽食とか開発してもいいかもしれない。

ハンバーガーとか食べたいなぁ・・・。


「マサユキ。ものは相談なんだが、給料の方針を変えていいか?」

「給料が安過ぎましたか?」

「多く出してくれるのは構わねえが、そうじゃねえ。日払いもやりたいんだ」

「なるほど・・・。理由も聞いていいですか?」

「旅人の奴らは、ひと月もいねえ場合があるだろ?そいつらのために日払いにしたいんだ」

「分かりました。そしたらお金を渡して置いた方がいいですね」

「助かるぜ。あと、半日だけ参加したい奴もいる。そいつらも加えてやりたいんだが、構わねえか?」

「そうですねぇ・・・。予算オーバーにならなければ大丈夫です」

「最大いくらまで行けるんだ?」

「えーっと・・・」


メモを取り出し確認する。

残金は金貨3220枚。

ここから決戦費用を、金貨2000枚は確保しなければならない。

残りは1220枚。


仮に500人来るとしたら、2ヶ月しか雇えない。

給料を上げるのも無理だ。

つまり、赤字だな。

でもまぁ・・・大丈夫だろう。


「月に金貨500枚なら、2ヶ月持ちます。3ヶ月目以降は、なんとか金策してみます」

「気前がいい額だが、大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。1ヶ月もあれば、次の収入があると思いますし、畑も3ヶ月で、予算もクソもない事になりますから」

「そうだったな」

「ええ。構想は練っていますが、計画的に進める分には影響はないと思います」

「無理するなよ」

「ハハハハ・・・」


金は後日渡す事になった。





食事が終わり、再び作業が始まる。

俺は、ある2人の姿に目が行く。

先日、犯罪者として捕らえたアリギスの奥さんと息子さんだ。


犯罪者の家族として、働き口が見付かりにくいと言う事もあるが、2人はアリギスの都合に巻き込まれた被害者だ。

現在は観察処分中である。

管理の面でも一緒に働いてもらった方が都合が良いので、作業に参加させている。


奥さんは慣れない手付きで作業に奮闘している。

頑張り過ぎて、倒れなければいいけど・・・。


息子さんは、12~13歳と言ったところか。

授業には出たくないのだろうか?




息子さんに声を掛けようと思っていた所、後ろから呼び止められた。


「こんにちわ。あなたがマサユキ様ですか?」


振り返ると、ヒョロットした体に大きな鞄を持った男と連れの女がいた。


「はい、そうですけど・・・どちら様でしょうか?」

「お初にお目に掛かります。私はアクトバー・ミルガンと申します。街で医者をしています。こちらは助手のキリルでございます」

「初めまして。私はマサユキと言います。商人をしています。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「はい。先日、男爵様のご子息様と貧民の者が酷い怪我を負ったと聞きました。しかし、瞬く間に治されたと言います。魔法ではなく、薬を使われたと聞き及んでおります。希少な万能薬だと思われますが、適切な治療なくして薬は効きません。医療にお詳しい方だと思い、是非私にもご教授頂きたいと思い、失礼ながら参上致しました」

「なるほど。もう噂になっていますか・・・」


さて、どうしたものか?

能力は当然隠す前提として、あれだけの効き目を大勢に見せたのが間違いだったか?

だが、あれは仕方ない。元は俺の責任だし、こういう事態も考えられた。

問題は、この男が何を考えているかだな。


「お伺いしたいのですが、アクトバー様は医者でございましょう?なぜ、一介の商人に治療方法を聞かれるのです?」

「医学とは常に勉強の毎日です。小さな事であっても突き詰めていく事が仕事でございます。それに・・・イーリスお嬢様の治療もうまくいきませんでした。男爵様に伺った話では、比較的良好だそうですが・・・男爵様はそれ以上話してくださいませんでした。察するに、マサユキ様が治療をされたのだと思っています」

「ふむ・・・」


勘が良い人だ。

男爵様が話せないのは作戦のためではあるが、たったそれだけの情報で俺に辿りつくとは・・・これはヤバイかもしれない。


それにしても、質問が悪かったのだろうか?

的外れな答えだし、本音の部分が聞けなかった。

もっと突っ込んだ質問が必要なのかもしれない。


「少し突っ込んだ質問をします。医術とは、一種の金のなる木だと思います。あなたは、医術にはどれほどの価値があると思っていますか?」

「・・・価値でございますか?」

「ええ。錬金術師を始め、特殊技能を持った者は技術の秘匿に大変注意を払っています。にも拘らず、あなたは簡単に「教えてくれ」と言う。筋違いではありませんか?」

「なるほど・・・」


アクトバーさんは考え込む。


「値段など付けられません」

「なぜそう思うのです?」

「人の命はお金では買えないからです」

「それは正論ですが、医術の価値について聞いているのです。患者の事を考えるのはいい事ですが、それは質問の答えにはなりませんよ?」

「・・・たしかにそうでございますが・・・」


アクトバーさんはまた考え込む。

シドさんが、俺達のやり取りをジッと見詰めている。


「私の医術は独学でございます。本を読んで学んだに過ぎず、的確な治療が行えているとは思っていません。街には他にも医者はおりますが、私は高額な治療費を払えない者達ばかりを相手にしているので、お金もございません。せめて、お話だけでも聞ければと思っていました」

「なるほど」

「マサユキ。アクトバーの言ってる事は、本当だぜ」


シドさんが話に割り込んできた。


「アクトバーは貧民ばかりを診てくれる医者だ。俺達が金を出してやって、なんとか医者を続けている奴だ。元貴族のくせに金に欲がねえんだよなぁ。そのお陰でみんな助かってるんだけどな」

「へー。なかなか志が高い方ですね」

「そのような褒められる物ではありません。キリルにも満足に給料を支払えない貧乏医者でございます」

「なあ、マサユキ。教えてやってくれよ。頼むぜ」

「シドさん。事情は分かりましたが、これは俺とアクトバーさんの問題です。申し訳ありませんが、見守っていて頂けますか?」

「分かった」

「ありがとうございます」


再びアクトバーさんに向き直し、質問を投げ掛ける。


「アクトバーさん。治療方法を教える代償として、何を支払えますか?」

「・・・何もありません。命を差し出すにも、腕や脚や目を差し出す事も出来ません。お金があったとしても釣り合わないでしょう」

「なんで、腕も足も目も、命さえも差し出せないと言うのです?」

「医術には手が必要です。触診や手術などの作業では、手は重要です。足は体を鍛え健康を保つために必要です。目も同様です。命は代償として見合っているでしょうが、1人でも多くの患者を救うには、泥水を啜ってでも生き延びねばなりません。お金は元々ありませんが、例え金貨を何枚積み上げたとしても、あなた様は納得されないと思ったからです」

「・・・」


少し間を空け、提案する。


「俺が特別な薬を持っている事は事実ですが、専門的な知識を持っているわけではありません。本当の意味で適切な処置なのかも分かっていません。それでも聞きたいですか?」

「何もお支払いできませんが、お聞かせ願えるのであれば」

「分かりました。これからあなたの真偽を調べます。通常は罪人を見分けるための物です。それで満足いく答えが得られなければ、教えません。構わないですか?」

「あの・・・嘘を付くと死ぬという薬でしょうか?」

「よくご存知ですね。それは使いません。説明を聞いて、納得がいかなければ断わって下さい」

「分かりました」


説明を行い、話に納得したアクトバーさんとキリルさんに真偽の糸を渡し、真偽を確かめる。




結果、糸は切れなかった。

彼らの想いは、本当の事だったようだ。


「おつかれさまです。2人とも合格です。俺の治療法を教えましょう」

「あの・・・こんなので良かったのでしょうか?それにお支払いも・・・」

「お金の話は、とりあえず後回しにしましょう。あなたが貧しい者のために働く限り、請求はしません。これはあなただからこその提案です。他の医者には、当然別の話となります。如何ですか?」

「はい。ありがとうございます」


アクトバーさんとキリルさんが頭を下げてくる。

シドさんも満足そうだ。

後日、日を改めて教える事にした。


俺は頭を切り替え、次の目標に目を向ける。





俺は2人に向かって歩いている。

その相手は、アリギスの奥さんと息子さんだ。


俺が近付いてきたのに気付き、2人はビクビクしている。

また拷問染みた取り調べをするとでも、思っているのだろうか?

下手したら、シドさんより俺は怖い存在なのかもしれない。


「お疲れ様です。仕事の方はどうですか?」

「え?あ、はい。精一杯努力しています」

「大丈夫ですよ。あんな取り調べをするつもりはありませんよ」

「はあ」

「俺はマサユキと言います。お二人のお名前を聞いてもいいですか?」

「はい。私はラウリーです。この子はラギスです」

「ありがとうございます。お聞きしたいのですが、息子さんを学校に通わせる気はありませんか?」

「え?いえ・・・私どもは罪人の身であります。そのような事はできません」

「あなた達2人は、罪人ではありませんよ?観察処分となっていますが、そう縮こまる必要はないのです」

「ですが・・・」

「この際、ハッキリ言っておきます!あなた達を観察処分としたのは、あなた方の命を守るためです。今回の事を密告したりする気があるなら別ですが。相手は凶悪な貴族です。口封じのためにあなた方を殺すかもしれません。そうならないための観察処分なのです。あなた方が罪の意識を感じるのはよいのですが、だからと言って卑屈になる理由にはなりません。お分かりですか?」

「・・・はい」

「俺はあなた方の再出発の手伝いをします。その一つが教育です。知識を学び、良し悪しを判断できる立派な子供に育てたいのです。もちろん強制ではありません。息子さんの将来に関わる話ですから。「新参者だから」「劣等感があるから」という理由で断る必要はありません。お金はこの仕事である程度稼げるでしょうし、半日だけでも授業に出てみませんか?」

「お申し出は有難いのですが・・・この子がイジメられないかと思っていまして・・・」

「もしかして、既に周りからイジメられています?」

「いえ・・・ですが、風当たりが強いですので」


この問題は俺が引き起こした。

責任の一端は俺にあるだろう。

周りで作業をしていた奥様達に事情を説明し、意見を聞いてみる。


「旦那様。そんなの大した事ないですわ」

「そうよ。うちの旦那はもっと酷いわ。あの人しょっちゅう喧嘩してるしね」

「うちもそうよ!」


奥様方は楽観的なようだ。

貧民とあって、お金を稼げない苦労や小さな過ちは少なからず体験しているようだ。

事情を詳しく聞いて納得がいったのか、わだかまりが塞がっていくようだ。


ラウリーさんは、それを聞いて泣いている。

その姿にラギスも悲しそうだ。




2人が落ち着いたところで、話を切り出す。


「ラギス。君は学校に行ってみる気はないか?」

「僕は・・・怖いです」

「イジメられるから?」

「・・・はい」

「うちの学校は、貴族だろうと貧民だろうと身分は一切関係ないよ。学びたい気持ちさえあれば大丈夫さ。もしイジメられる事があったら言ってくれ。そいつは退学処分にするよ」

「・・・僕が行くと迷惑になりません?」

「それは君次第さ。人付き合いが下手でも、不器用でもいいさ。他のみんなだって不安だと思う。自分から話し掛け、友達になろうと努力しないと駄目だね」

「難しそうです」

「まぁ、こういうのはやってみたら分かるよ」


ラウリーさんに向き直す。


「ラウリーさん。ラギスを学校に連れてってもいいですか?稼ぎ的な意味でも判断が欲しいのですが?」

「はい、構いません。ラギスのためにも私が頑張りますから」

「ラウリーさん、頑張り過ぎないでくださいね。体を壊したら、元も子もないですからね。自分の出来る範囲で作業してください。皆さんもお願いしますね」


奥様達も快く返事を返してくれた。

何か不都合があったらシドさんと相談したり、俺に連絡するように伝え、ラギスをやや無理やりに学校に連れていく事になった。





学校に着くと、授業の真っ最中だった。

メルディに事情を説明し、ラギルをみんなに紹介する。


「みんな新入生だ。この子はラギルだ。仲良くしてやってくれ」

「おい!そいつ犯罪者の子だろ!?」


ジェガが、厳しい言葉を投げ掛ける。

周りの子達も、同じ意見のようだ。


「ラギルの入学は、俺が許可した。それともジェガが納得しなかったら、授業を受けさせないつもりかい?」

「いや・・・だがよ」

「何が問題なんだ?」

「分かんねえけど・・・なんか嫌じゃねえか?」

「分かるよ。俺も事情を知らなかったら、きっと同じ気持ちだ」

「そうだろ?だから嫌なんだよ」

「事情は説明するけど、その前に一人の人間として見てやってくれ。彼は貧しい上に犯罪者の息子という不遇の存在だ。そう言う奴は、ジェガは見捨てるのかい?」

「いや・・・」

「マサユキさん。私は構いません。一緒に授業を受けてもらいましょう」


セイルが立ち上がり叫ぶ。


「セイルありがとう。でもこれは、ジェガの問題だ。ジェガはそう言う奴を放っておかない奴だと思っているんだけど、ジェガはそんなに器が小さいのかい?」

「・・・お前の台詞は、いつもズルいよな?」

「ズルくて結構。俺はラギルを受け入れられるだけの懐の深さは持ってるつもりだよ。それは認めてくれるかい?」

「・・・よし!ラギル、ここに座れ!」


ラギルはオドオドしながら、ジェガの横に置かれた椅子に座る。


「ジェガ。お前は本当にいい奴だな」

「うるせえ!」

「みんなもラギルとうまくやれそうかな?もし何か思う所があったら、メルディ先生に相談して欲しい。俺でもいいし、セイルやジェガに相談してもいいと思う」


ラギルは子供達に受け入れられ、顔を俯けながらも喜んでいるみたいだ。


「みんなありがとう。みんなの心が広くて、俺も嬉しいよ」


ラギルの方に向いて、話し掛ける。


「ラギル。君は今からこの学校の生徒だ。1日違いだが、ここでは先輩も後輩もない。同じ学校の仲間だ。一人で解決できない問題は仲間に相談するんだ。みんなもラギルを助けてやってくれ。お願いします」


俺は深々と頭を下げる。

その姿にセイルもジェガも子供達も意外そうな顔をしている。


子供達の様子は落ち着いたようだ。

手を叩き、授業の再開を伝える。


「(パン、パン!)よし!授業を始めよう!メルディ頼むね」

「はい」


そして再び授業が始まった。





授業が順調に進んでいる事を確認し、一端館の応接室に向かう。

メイドさんがお茶を出してくれて、ゆっくり考察タイムに入る。


まず、畑は順調だ。

このペースで行けば、1週間程度で畑にはなるだろう。

本来は1ヶ月くらい猶予を見ないとならないのだろうけど、ジャガイモは多少環境が悪くても育つはずだ。

ちょっと不安があるから、あとでエファルさんに聞いてみよう。


次に、資金面だ。

現時点で一番の出費は、決戦のための兵士の給料だ。

金貨2枚で1000人換算しているが、妥当だとは思っていない。

相手はなんたって、3万はいるんだ。

命の対価として、妥当な訳がない。


これは先の問題として、今は資金確保で問題ないだろう。

問題は、残りの金でどうやってやりくりするかだ。


武器の生産もそうだし、畑で働く人への給与もそうだ。

必要に迫られている校舎の建設費も見積もらねばならないだろう。

これを解決するには、石鹸と化粧品を売って金にしないとならないだろう。


そういえば、ジールさん達はどうしているだろう?

出発してもう2日経ってるし、そろそろ付いた頃合いだろう。

いや、野盗達の説得をすると考えれば、もっと掛かるだろうな。


となると、石鹸製作と化粧品製作も時間が掛かりそうだ。

唯一の資金源だから、定期的に生産をしたいが・・・。

あまりに生産が滞ると、奥様方からの不満が爆発しそうな予感がする。


アクトバーさんの医術指導は、どうしたらいいだろうか?

俺が教えられる事は限られている。

手術もできるみたいだし、俺の知識は役に立つのだろうか?

いや、深く考えないでおこう。


あとは、ジャガイモだな。

能力を込めるにしても、解除ができないからな。

しっかり方法を考えないと・・・エライ事になりそうだ。


そういえば、ここに来るまでにシドさんの部下には会わなかった。

ちゃんと届けられただろうか?


いつも通りウンウン唸って考え込んでいると、男爵様が部屋に駆け込んでくる。


「マサユキ殿!一大事だ!」

「ん?何か事件ですか?」

「イ、イ・・・」

「い?」

「ジャガイモがないのだ!」

「は?」

「だから、ジャガイモがないのだ!倉庫にないのだ!」」

「シドさんの部下達が持って行ったんじゃないですか?」

「そうではない!盗難なのだ!」

「・・・なんだってー!!」


急いで倉庫に向かうが、ジャガイモは一つ残らず消えていた。

ガランとした倉庫に呆然としてしまう。

――頭を切り替え、痕跡を探す。


しかし、痕跡は何も見つからない。

朝にはあったから、犯人はまだ近くにいそうだ……。


焦る気持ちを無理やり押さえ付け、走り回るのであった。


<読者の皆様へ>

突然で申し訳ございませんが、しばらく休載を考えています。

休載は、次の次の43話より行いたいと思っています。


休載に踏み切る理由は、小説の品質に疑問を感じているからです。

誤字脱字を始め、句読点の付け方や文章構成にも課題があります。ストーリー展開や表現にも疑問を感じ始めました。


きっかけは、『本当に面白い小説なのか?』という疑問からです。

私の考える面白い小説とは、『読者がのめり込める小説』です。

ストーリーがいくら面白くても、読みにくい文章では意味がありません。


投げ出すために休載を提案しているわけではありません。

自分の至らなさを痛感しているからこそ、中途半端な対応では読者様に申し訳が立たないと思うからです。


少し重い話にはなりましたが――私自身はやる気に満ち溢れています!

最高の小説を作り上げるための充電期間だと思っています!

打ちきって別ストーリーを作るもよし! 地道に全部修正するもよし! 

方針は決まっていませんが、執筆活動を辞めるつもりはありません。


朝から失礼致しました。今日も頑張っていきましょう!


次回は、金曜日2014/6/13/18時頃の掲載予定です。

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