第40話 子供の喧嘩とズルイ取引
秘密会議が終わり、皆それぞれの仕事に向かって行く。
「さて、俺はどうしようかな・・・」
やる事は分かっている。
問題は、作戦が現時点では空想上の物になっている事だ。
作戦には俺の能力を使う。ただ、俺の能力は不安定だ。
物に対する知識と理解が足らないと十分な力が発揮されない。
使い過ぎれば、長い眠りに陥る危険性もある。
つまり、万能ではあるが効率が要求されるのだ。
特に今回は、規模が大きい。
あれもこれもと力を使えば、すぐにガス欠になる。
自分の限界がどこなのか分かりにくい以上、ホイホイと使える代物ではないのだ。
むしろ、現時点での最大の問題点は、メルディ達にどう説明するかだろう。
みんなあの性格だ。二つ返事で協力してくれるとは思う。
だが・・・本当にそれでいいのだろうか?
説明するかは後で考えるとして、俺は俺で目の前の問題を潰して行くしかないな。
「そういえば・・・」
セイルはちゃんと授業を受けているだろうか?
なんとなく、メルディに叱られているイメージが思い浮かぶ。
◇
様子を見に学校に戻ってみると・・・やっぱり!彼は期待を裏切らない。
セイルが怒鳴り声を上げ、他の子達相手に口喧嘩をしている。
メルディも間に入って止めようと必死だが、どうにも収集が付きそうにない。
「パン!パン!はいはい、みんな。落ち付くんだ」
やっと少しだけ静かになった。
「セイル様。いやセイル。いいかな?」
「・・・はい」
「俺は言ったよね?高圧的な態度はしないようにと」
「・・・はい」
「最初からうまくできると思わないけど、努力が足らないんじゃないかな?」
「聞いてください!こいつらが悪いんだ!」
セイルが男の子達を指差す。
客観的な意見を聞くために、メルディに状況の説明をしてもらう。
◇
「なるほど・・・」
簡単に言うと、悪ガキ3人組だ。
セイルが真面目に授業を受けていたところ、悪ガキ3人がちょっかいを出し始めた。
最初は無視していたようだが、段々とエスカレートし、最後は石を投げ付けたらしい。
で、セイルが怒り出したというわけだ。
「ふむ・・・。これは4人とも退学だな」
「マサユキ殿!それはあんまりだ!」
「んーっと、うちの学校は無料だけど、規律を守らない奴には教えない。やる気の無い奴にも教えない。それに・・・仲間を傷つけるクズはもっといらない。例え、金貨1000枚出されても絶対に教えないよ」
「しかし・・・」
「あ"あ"、ダル!帰ろうぜ!」
「ああ」
「・・・(うん)」
悪ガキ3人組は帰っていく。
セイルは悔しそうな顔をしながら、必死に懇願してくる。
「マサユキ殿!私になんとか授業を受けさせてください!ここでの授業は、将来必要となる知識だ!こんな事で挫けたくない!」
「セイル。君は頼めば、自分だけは授業を受けられると思っているのか?」
「私は授業を受けたい!やりたくない奴は放っておけばいい!」
「つまり・・・彼らを見捨てて自分の正当性を訴えるという事は、将来領主になったとしても、領民を見捨てて自分の保身を優先するつもりなのだな?」
「・・・」
セイルは反論できずに黙り込む。
「一つ提案をしよう。セイルの本気を見せてくれないか?」
「授業を受けられるならやります!」
彼の目を見る。
迷いなく真っ直ぐ見詰める目は、彼の決意を示していた。
「ガルア。ちょっとあいつら連れて来て」
「ニヒヒヒ。おうよ!」
◇
しばらくすると、悪ガキ2人を両手に抱えて帰って来た。
1人は大人しく付いてきた。
「離せ!離せよ!この筋肉バカ!」
「ウガー!」
2人は、引っかいたり噛みついたり酷く暴れている。
俺は彼らの前に立ち、提案を出す。
「ねえ君達?あの世間知らずの坊ちゃんを、気が済むまで殴っていいって言ったらどうする?」
「はあ??」
「あの子は男爵様の息子だけど、学校では身分は関係ないからね。気にせず好きなだけ殴っていいよ」
セイルはその提案に最初は驚いていたが、決意の方が高そうだ。
「ただし、1対1だ!! 1人で殴り合いもできない腰抜けや卑怯者には用が無い!嫌なら逃げ出しても構わない。単にお前達の事を「腰抜け~」とか「卑怯者だ~」とか言い触らすだけだ。・・・いや、お前達のお父さんお母さんの仕事だって無くなるかもしれないね。俺にはそれだけの力がある。さて、どうする?(ニヒ)」
「ズルイぞ!お前こそ卑怯者だ!」
「そうだ!そうだ!」
「僕は殴り合いなんて嫌だよ・・・」
「クラティス、てめえ!こんな卑怯者、ぶっ飛ばしてやりたいと思わねえのか!?」
「そうだ!そうだ!」
「でも・・・」
「うるせえ!!黙れ!!」
ガルアの一喝で、無理やり3人を黙らす。
「もう一度言うけど、セイルと1対1で殴り合いする度胸はあるかい?もし勝ったら、うーん・・・(ニヒ!)金貨1000枚あげるよ。破格の提案だよ?やらない?(ニヒヒ!)」
「マ、マジかよ・・・」
「スゲエ・・・」
「・・・」
「その代わり負けたら、君達のお父さんお母さんの仕事は無くなる。この街にもいられない。この条件でどう?」
悪ガキ達は相談する。
その間にセイルにも確認する。
「セイル。君が勝てば授業を受けさせよう。負ければ・・・」
「金貨1000枚を払えばいいのだな?」
「いや、金貨は俺が負担するよ。これは俺がいい出した事だ。セイルが気にしなくていい。ただし、負けたら例え国王陛下の命令であっても授業は受けさせない!それにジャガイモの栽培も辞めて村に帰るよ。どうだやってみるか?」
「・・・やります!」
「よし!いい返事だ!」
再び、悪ガキ達の元に行く。
「さあ、セイルはやる気だぞ。お前達はどうだ?」
「やるさ!あんなやつに負けるはずがない!」
「よし、いい答えだ!じゃあ、代表者を決めてくれ。そいつが負ければ、連帯責任で全員同じ処分だ」
「俺がやる!」
「分かった」
決闘する事になったのは、ジェガという子だ。
念のために2人が凶器などを持っていないか調べ、地面の石や枝など細かい物まで綺麗に取り除く。
2人を対じさせ、ルールを説明する。
「ルールは簡単。素手で殴り合いをする事。凶器を使ったり、目潰しなど急所への攻撃は即時負けとする。仮に目を潰したら、そいつの目も俺が潰す。判定は俺がする。制限時間はなし。どちらかが参ったと言うまでは終わらない。2人ともこのルールでいいか?」
「問題ない!」
「余裕だぜ!」
そして、2人の長い長い殴り合いが始まった・・・。
◇
決闘を始めて何時間経っただろうか・・・。
そろそろ日も沈みかけ、夕焼けが綺麗だ。
ただ・・・目の前は凄惨の一言だ。
顔はボコボコ。体にはいくつも痣。それでも2人は殴り合っている。
途中、男爵様が止めに掛かろうとした。
しかし、危険なら即時止める事と、決闘である事を無理やり納得させた。
噂を聞き付け、シドさん達と3人のご両親も駆け付けた。今は様子を見守っている。
一応ご両親には経緯を説明しているが、納得を取り付けるのに苦労した。
まぁ、当然だろう。
俺のやっている事は、倫理的観点から非道とも言える。
そこは認めよう。
しかし、経緯はどうであれ、ちょかいを出した者には罪がある。
そしてセイルには、時期領主としての心構えが足りていない。
2人を納得させるには、決闘で白黒付けてやるしかない。
学校は厳しいと伝えてある。
更にこれは決闘である。
この2つの壁は誰も簡単には崩せない。いわゆる権利の横暴である。
だから、金貨1000枚の報酬か、村に帰るというという代償を支払うのだ。
もっと言えば、目先の金に目が眩み、まんまと契約を交わしてしまった2人が不注意なのだ。
この世界は非情だ。
ズルイ奴はどんな手を使ってでも、襲い掛かってくる。
コレが下らないと思うなら、俺は仕事を辞退してやるつもりなのだ。
そういえば・・・昔俺とガルアもやりあったなぁ。
ガルアはどう思ってるか知らないが、あの勝負はハッキリ言って、俺の負けだと思っている。
2人の殴り合いを見ていると、そんな思い出が出てくる。
殴り合いによる決着は、正直いい手段だとは思っていない。
単に分かり易いからだ。
それに、所詮は子供の殴り合いだ。
プロボクサーが殴り合っているなら危険過ぎるが、俺もガルアも12歳と13歳で殴り合っていた。
危険と分かればすぐ止めるし、今は見守るだけだ。
「さっさと倒れろ!ハアハアハア・・・」
「うるせえ!ぜえぜえぜえ・・・」
終始こんな様子だ。
◇
日が完全に落ち、辺りは暗くなった。
明かりとして篝火を焚いて、それでも続行する。
2人は何も語らず、ただただ殴り合っている。
顔はさらにボコボコになり、出血もしている。
そして・・・勝負が着いた。
ジェガと呼ばれる男の子がなんとか立っており、セイルが大の字で寝ている。
「俺の勝ちだ!うおおおおおおおおおお!」
だが俺は、
「まだだ!まだ勝負はついてない!どちらか「参った」と言うまでだ!」
そう。これは終わりの無い戦いだ。
負けと認めない限り永続する。
俺の声に反応して、セイルがゆっくり立ち上がる。
「くそおおおお!」
ジェガはセイルを殴り付けるが、拳は外れる。
セイルは避けた勢いでバランスを崩し、また倒れる。
しかし、再び立ち上がろうとする。
「さっさと負けを認めろ!」
セイルは無言で立ち上がる。
何度も何度も、同じ事を繰り返す。
「もうやめろ!負けを認めれば終わるんだ!」
「お、終わらない。私は・・・俺は負けるわけにはいかない!」
セイルは反撃するが、拳は空しく空を切る。
「なぜだ!?」
「俺は・・・将来この領地を治める!逃げ出したら、領主になる資格なんてない!それに・・・」
セイルは息を整える。
「マサユキさんの仕事の邪魔をしたくない。あの人の仕事は領地の未来を左右する。俺が負けて、領民達を苦しめるのだけは嫌だ!!」
「俺だって・・・俺だって負けられねえ!負ければ父ちゃん母ちゃんの仕事がなくなる。タークやクラティスも同じだ!負けられねえ!!」
2人はそう言うと、また殴り合いを始めた。
周りの人もその言葉に納得しているようだが・・・俺への視線が微妙に痛い。
分かってるよ。分かってるって。
◇
長い長い殴り合いの末、2人は倒れている。
そろそろ、いい頃合いだろう。
2人の前に出て、叫ぶ。
「セイル!ジェガ!もう終わりか!?」
「まだだ!」
「このおおおお!」
2人は立ち上がろうとするが、足元が覚束ない。
俺は、2人に問い掛ける。
「2人に聞く。・・・3つ目の選択肢を聞く気があるか?」
「・・・」
「・・・」
訳の分からない顔をこっちに向けてくる。
ガルアはニヤニヤしている。
「簡単簡単。2人とも負ければいい」
「嫌だ!」
「ふざけるな!」
「だって、2人の殴り合いの原因って俺じゃん。俺がいなければ済む話だろ?」
「今さら逃げるのか!?」
「クソ野郎が!」
「どうなの?3つ目の選択肢は選ぶの?」
「断わる!」
「そんなのいらねえ!」
「フフフハハハハハ!じゃあ・・・4つ目の選択肢だ!仲直りして、2人の勝ちにするならどうだ?」
「・・・」
「・・・」
「どうだ?簡単な事だろ?」
2人は俺を睨んだあと、お互い睨み合う。
「・・・俺はお前に負けたと思わないが・・・お前の勝ちでもいい」
「俺もだ。・・・こんなクソ野郎に騙されたぜ!」
2人は握手はしないものの、納得した答えを出したようだ。
ジェガが思い出したかのように、問い掛けてくる。
「ところでよ。金貨1000枚は貰えるのか?」
「んー。勝利条件満たしてないね。どちらかが「参った」と言って、勝敗が付かないと成立しないね」
「クソ!この嘘つきめ!」
「でもまぁ・・・勝者が2人だからね。2人とも同じ報酬でいいなら、金貨500枚ずつだな」
「お!よっしゃー!」
「俺はいらない」
「なぜだ!?金貨500枚って言ったら大金だぜ?」
「俺は勉強したいだけだ。それ以外望まない」
「・・・クソ!お前がいらないなら、俺もいらん!」
本当に金貨は渡すつもりだったんだが・・・まぁいい。
「分かった。金貨500枚は別の形で渡そう。ちなみにジェガ。お前も授業に出てもらうぞ。セイルの願いは授業を受ける事だからな」
「はあ!?・・・くそ!分かったよ」
「一応言っておくが、授業は無理やり押し付けるものじゃない。本当に必要ないと思うなら受けなくていい。よし!2人とも良くやった!」
男爵様が泣きながら拍手をしている。
周りのみんなも拍手を送る。
「さあ、金貨1000枚分の治療をしようか!ハッハッハッハッハ!」
「お前・・・ほんとエゲツないな・・・」
ガルアが厳しいツッコミを入れてくる。
言い分は分かるけど、そんな事で報酬を無かった事にするつもりはないけどね。
全力で治療するくらいは礼儀だ。
2人を椅子に座らせ、治療を始める。
周りにたくさん人が集まって、治療の様子を覗き込んでいるが・・・気にしないでおこう。
俺の全力治療は異常な回復を見せる。
傍目からは、魔法のようにも見えるのだろう。
止血が終わり、顔の腫れも大分収まった。
口の中も切っていたが、表面の傷はすぐに治った。
料理長さんが気を利かせて、料理を用意してくれたので、集まった人達も含めて宴を始める。
◇
男爵様の館は、いつになく活気がある。
もうすぐ真夜中だというのに・・・シドさんとガルアが飲み比べをしている。
だが・・・もう止めておけ。ガルアの負けだ・・・。
男爵様は上機嫌だ。
セイル達の傷が綺麗に治ったおかげか、もう気にしていないようだ。
会議でハッキリ分かったが、男爵様は俺の能力を知っていた。
この様子だと、知らない人の方が少ない気がしてくる。
まぁ・・・これだけ万能さを発揮すれば、誰だって異変に気付くだろう。
シドさん達にも教えたが、実際能力を目の当たりにすると、目を見開いて納得していた。
まぁいい。気にしたら負けだ。
セイルが隣にやってきた。
「マサユキさん。今日はありがとうございます」
「いい勝負だったよ。最後まで諦めなかったね」
「当たり前です!俺だけの問題じゃないですからね。領民達のために必死でした」
「それでいいんだ。だが、勝負には答えなんてない。たまたま今回は理由があったに過ぎないよ」
「納得はいってませんが・・・元々こういう結果になる予定だったのですか?」
「いや言ったままだよ。セイルが負けてれば村に帰ったし、ジェガに金貨1000枚を払った。セイルが勝ってれば、あの3人は街を出ただろうね」
「・・・き、厳しすぎません?」
「言っただろぉ?俺は厳しいって?」
「フフ・・・アハハハハハハハ!」
子供達がうたた寝を始めたので、宴はお開きとなった。
◇
俺は寝巻に着替え、ベットに横になっている。
隣にはメルディがいる。
「マサユキ様。今日はお疲れさまでした」
「うん、ごめんね。また勝手な事言い出して」
「いつもの事です。でも、良い結果に終わって安心しました」
「本当は、どっちかが勝って終わる予定だったんだ」
「フフフフ。マサユキ様。嘘はいけません。あなた様はそんな事をする人じゃありません。勝っても負けても丸く収めるつもりだったのでしょ?」
「・・・・フフフ。メルディには敵わないなぁ。でも、秘密だよ?」
「ええ。当然ですわ」
メルディに抱き付き、柔らかく温かな感触をゆっくり感じる。
今日はいろいろあり過ぎた。
農地といい、会議といい、学校・・・。
いつの間にか眠ってしまった。
「おやすみなさいませ」
メルディに優しく撫でられながら、俺は静かに寝音を立てる。
◇
眠りから覚めると・・・暑い!!
ベットはふっかふかで気持ちいいが、うだる様な暑さで汗だくだ。
クーラーも扇風機もない部屋なので、余計に暑く感じてしまう。
体を起こし、部屋を見渡す。
やはり今日もメルディの姿はない。
まぁ当然だな・・・。
窓から外を見ると、日は高く昇っている。
授業は・・・外ではやってないようだ。
さすがに、この炎天下で授業はできないよなぁ・・・。
頭をボリボリ掻きながら、寝癖のついた髪を整える。
髪を切ってもらってから、そう時間は経っていないが・・・少し気になるんだよなぁ。
また髪を切ってもらうか。
ふと、机に置かれた鏡に目が行く。
鏡には刺繍の入った布が掛けられている。
布を退けると、平凡で冴えない男の顔が映る。
髪はボッサボサだ。
近くにあったクシで整えるが、寝癖が酷い。
これは・・・無理そうだ。
支度を済ませ、1階に降りる。
◇
1階の食堂では、子供達が授業を受けていた。
食堂のテーブルは大きく、多少人数が多くても問題がないからだろう。
セイルもジェガも他の子達もしっかり授業を受けている。
昨日より人数が増えているが、この調子でいくと食堂に収まりきらない気もする。
やはり、無理をしてでも校舎を建てた方がいいかもしれない。
台所に向かうと、料理人達が昼の仕込みをやっていた。
料理長さんが俺に気付いた。
「やあ、おはよ。準備するからちょっと待っててー」
「ありがとうございます」
椅子を用意してもらい、台所の一角で食事を取る。
料理長さんはリトーネさんと言い、珍しく女性料理長さんだ。
何でも料理好きが高じて、お店を出していたらしい。
そこに噂を聞き付けてやってきた男爵様が、味に惚れて専属料理人として雇う事になった。と言う話だ。
「簡単な物だけど、おいしい?」
「うんうん!超美味しいです!なんて言うか・・・さすがプロ!って感じですね!」
「プロかぁ・・・って、それ何?」
「アハハハ・・・。プロフェッショナルの略で、その分野で生計を立てている仕事人って意味です。リトーネさんの料理は一級品ですよ!」
「フフフフ。私の腕は天下一品だしね!当然でしょ!」
ちょっとダメ元で提案してみる。
「提案なんですが、新しい食材に挑戦してみる気ありません?」
「何何!?どんな料理ができるの!?」
「食い付きいいですね~。ちょっと待っててください」
思いの他いい反応に、俺もビックリしてしまった。
これだけ腕のいい料理人だ。どんな料理ができるか楽しみだ。
袋を担いで帰ってくる。
「これです。ご存知ですか?」
「イモかしら?私の知ってる物とは違うみたいだけど・・・美味しいの?」
「美味しいですよ。薄く切って油で揚げて塩をまぶすと、ポテトチップス。棒状にして揚げれば、ポテトフライ。蒸して潰して野菜と絡めれば、ポテトサラダ。ペースト状にすり潰して、スープにもできますね」
「待って待って!紙に書くから!」
リトーネさんにゆっくり説明し、メモを取ってもらう。
「ふーん・・・毒抜きもいらないなんて、面白い食材ね。何で知ってるの?」
「秘密です」
「や~ん!教えてくれないとかイ・ジ・ワ・ルゥゥウ!フフフフ」
何だろ、この感覚・・・。
リトーネさんは若いし、たまに見せる仕草が可愛い。
体は小さいけど、堂々としている。
料理人というと男ばかりで固いイメージだけど、彼女はまったくそういう雰囲気がない。
どちらかと言えば・・・パテシエな雰囲気だ。
「と、ともかく、これはジャガイモと言って、今度畑で作る予定なんです。大量に作りますので、飲食店の目玉商品にしたいんですよ」
「なるほどね!そこで私の腕を見込んで、お願いって事ね?」
「はい。できれば、簡単には真似できない、サイコーに美味しい料理を作り上げて欲しいんですよ。出来そうですか?」
「まっかせなさ~い!私に出来ない料理なんてないわ!」
周りにいた料理人達から「オー!」という歓声が挙がる。
話をしていて、ある事に気付いた。
「そう言えば、イモに対して警戒心がありませんね?」
「毒イモの事?あれは食べれるわよ?」
「え!?」
「ちょっと手間だけど、毒抜きすれば問題ないわ。問題は味付けなのよ」
「んー、ん、ん、ん?どういった物なのですか?」
「プルプルしてて、味がないのよ。味も浸み込みにくいから、煮込み料理くらいしか使い道がないのよ」
「・・・まさか・・・コンニャクなのか?」
「コンニャク?」
「それって、現物あります!?」
「今はないけど・・・今度作ってあげるわ」
「お願いします!」
まさかアレがコンニャク芋だったとは・・・。
ぬか喜びしたくはないが、もしそうなら意外な食べ物が出来そうな予感がする。
大張り切りのリトーネさんに後を任せ、俺は畑に向かう。
さてさて、世紀の大魔術でも使ってやるとするか!
第40話です。
今後の展開で、本当にコンニャク芋かは置いといて。
コンニャク芋は、本当に毒イモらしいです。
シュウ酸カルシウムという毒素があって、生の状態で食べると、口内は爛れ、下痢などを起こすそうです。
摂取し過ぎると、危ない食べ物だそうです。
毒抜きは簡単で、すり潰して茹でて、灰汁を丹念に取ると無害のコンニャクになります。
コンニャク芋の栽培は結構大変みたいです。
収穫までに、3~4年は掛かるそうです。
作中では、短期の話になりそうなので、おそらく栽培まで書けないと思っています。
上の話に関連して、執筆のために色々調べ物をしていると、本当に野菜作りをしたくなってきています。
プランターで野菜作りもいいのですが、何を作ろうかな?
ジャガイモを作るってのもいいですよね。3章のメインがジャガイモですし。
その内、「野菜作りがオモシレー」とか言いだしそうです(笑)
さて次回は、水曜日2014/6/11/7時頃です。