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第39話 熱い決意

月が高く昇った深夜過ぎ、俺とディラスキンさんはクワの製作を続けていた。

目標とする10本まで、もう少しで終わる。


「ふぅ。こっちは終わりました。ディラスキンさんのはどうです?」

「もう少し掛かるだな」

「まぁ無理しないでください。じっくりやりましょう」

「んだな」

「あとは実際使ってもらって、不便な所とかを改良しましょう。将来的には、すごい物が出来るかもしれませんね」

「すごいって、どんなだ?」

「んー。例えば・・・もっと薄くて軽くて、しっかり掘れるとか?」

「想像つかねえだ」

「可能かは分かりませんけど、意匠を付けてみるとかどうですか?」

「マサは意匠もやれるだか?」

「意匠はまだ習ってませんね。いずれは覚えたいですけど・・・どうにも魔法の才能がないみたいなんですよ」

「それは仕方ねえだ。オラだって才能がねえから、鍛冶仕事始めただ」

「そうですね。人には向き不向きがありますし、やれる事を精一杯努力すべきでしょうね」

「んだ」


俺は一足先に、後片付けを始める。




しばらくすると、外に人影が見えた。

一瞬、不審者!?と思ったが、ゴルドアさんだった。

あとマールもいる。


「マサユキ殿。まだここに居られたか」

「珍しい組み合わせですね。どうされたのですか?」

「様子を見に来たのだ。マールも心配そうにしてたからな、連れて来たのだ」

「ご心配お掛けして、申し訳ありません。すぐ後始末も終わりますので、もう少々お待ち下さい」

「マサ。ここはいいだよ。早く帰るだ」

「え?いや。こういうのは礼儀ですよ」

「ここはオラの工房だ。気にしなくていいだ」

「ありがとうございます。また明日伺いますね」

「おう!」


道具をしまい、館に帰る。


「さすがに深夜だと、静かですねぇ・・・」

「まぁな。こんな時間に起きてるのは、物取りくらいなもんだ」

「物騒ですね。これだけ治安が良くても、いるものなんですね」

「たまにな。衛兵に巡回させているが、どうにも効果がないのだ」

「何か手を考えた方がよさそうですね」

「うむ」


泥棒とは狡猾だが、臆病という話も聞く。

街灯とか、明かりを灯すだけでも効果があるらしい。

だが、仮に街灯を作るにしても、技術的な問題やコストの問題がある。

区画整理をして、逃げ込める場所を封じるというのも手だが、これもコストが問題だ。

何か別の手段で、簡単に取り締まれる手法を考える必要がありそうだ。


「そういえば、男爵領には検問がありませんでしたね?」

「ここにはないな。大きな城門都市ならあるだろうが、検問をしても大して防げんさ」

「なるほどです。見張りを増やしても、費用だけ無駄に掛かりますもんね」

「うむ。現状では、しっかり戸締りする事が大事だろうな」

「そうですね。でも、何か手は考えてみたいです」

「そうか。何かあれば協力するぞ」

「ええ、その時はよろしくお願いしますね」


何事もなく無事館に着く。

マールをミイティアの部屋に戻し、俺は水場に移動する。


体を石鹸で洗い、水をザバッと浴びる。

夏場なのに水が冷たい。

体がブルブルと震えてしまう。

仕方ないとはいえ、風呂が恋しい。


冷えた体のまま部屋に戻り、静かにベットに滑り込む。

隣では、メルディが静かな寝息を立てている。


「メルディお疲れ様。おやすみ」


小声で一言だけ伝え、俺も眠りに着く。





翌朝、目覚めるとメルディの姿はなかった。

準備されていた服に着替え、部屋を出る。


この館はなかなか大きい。

廊下も広いし、奥行きもある。

中央には1階への階段があり、吹き抜けの踊り場となっている。

天井には大きなシャンデリア風の蝋燭立てがある。


1階に降り、食堂の方を覗いてみると、メイドさん達が慌ただしく動きまわっていた。

まだ朝食の準備中らしい。

急かせても悪いので、そっと外に出る。


外には、ガルアがいた。

表の一角を陣取り、学校で使う機材の作成をやっていた。

既にいくつか机と椅子が出来上がっている。

さすがガルアと言わんばかりだ。


それを横目に、俺はいつものトレーニングに入る。





食事を終えた後、男爵様とセイルを呼び、応接間で話す。


「さっそくですがセイル様。学校で勉強されてみる気はありませんか?」

「勉強か・・・気が重いが、止むえないな」

「気持ちは分かります。勉強は大変ですけど、我々の学校は一味違います。知識ではなく、経験や技術として習得してもらいます」

「何が違うのだ?」

「例えば商人に必要になる知識は、顧客に分かり易い説明であったり、売り上げ計算、給与計算など実務的な知識です。単に言葉を知っていても算術が出来たとしても、使えなければ知識の持ち腐れです。それを実戦形式で習得してもらうという事です」

「なるほど。なかなか興味深いな」

「セイル様だけの事を言えば、領民達と交流する場という意味が大きいと思います。私の勝手な思い込みですが、領主に必要になるのは相手の言い分を理解し、的確な答えを出す技術です。これは単なる知識だけでは補完できません。ゆえに、あらゆる事に挑戦してもらいたいと思っています」

「なるほどな。分かったやってみよう」

「それから学校では、立場も爵位も関係ありません。全員同等に扱います。そして規則は大変厳しいです。守れないようなら退学して頂きます」

「・・・」

「指しでがましいですが、セイル様は言葉遣いが高圧的です。学校では謹んで頂きます」

「自重しよう・・・」

「よろしい。では早速、授業に参加してもらいましょうか」


セイルは学校に向かって行った。


「セイルはうまくやれるかのぉ?」

「素質は持っていると思います。なんたって、閣下のご子息様ですからね」

「フフフ。そちに言われると、冗談にしか聞こえん」

「結局はセイル様次第です。領民達と本気で向き合う、心構えが肝心ですね」

「うむ」


頭を切り替え、現状報告をする。


「まず、今日にも農地開拓を始めます。200人規模の作業になる見通しです」

「200人か・・・。思ったより少ないのぉ」

「やむ得ないです。十分な黒字化が見込めない限り、増員は難しいと考えています」

「なるほどのぉ」

「先日報告しました、農家の協力はどういった状況でしょうか?」

「いや、何もしてないな。何か問題でもあったのか?」

「はい。土質の改善が早急に必要です。手は打っていますが、農家の方の知識なしでは判断が付かないのです」

「分かった!早急に手を打とう!」

「ありがとうございます」


あと、話していないのは・・・。


「そうだ!学校についてなのですが、生徒達に昼食を振舞おうと思っています。できれば・・・」


男爵様が手を前に出し、俺の提案を止める。


「その話は、そちの妻より既に聞き及んでおる。料理人にも了解を得ている。問題はないぞ」

「そ、そうでしたか。ありがとうございます」

「ガルア殿とミイティア殿は兵士達の訓練をやってくれる事になった。なんとも心強い助けだ」

「そうですか・・・」


俺の知らない所で、みんながそれぞれ最善だと思う事をしている。

できれば一言報告が欲しかったが・・・自主的に動き始めたんだ。固い事は言わないでおこう。


「そちは良い仲間を持っているな。そちはそちのやりたい事に没頭するが良い」

「はい!」





相談も終わり外に出ると、子供達が何人かいた。

セイル、フーリアさん、シェラさんを始め、平民の子達と貧民の子達だ。

みんなソワソワしてて、落ち着きがない。

セイルはいつも通りだが、一人だけ綺麗な服で浮いている気もする。


まだ初日だし、こんなもんだろう。

メルディの元に行く。


「メルディ。初日だけど頑張ってね」

「はい。お任せください」

「ミイティアから、袋は受け取った?」

「はい。チョークですね。助かりますわ」

「うん。じゃあ、簡単に挨拶だけしとこうかな」


みんなを席に座らせる。


「コホン。皆さん初めまして、私が校長のマサユキです。学校とは知識を学ぶ場だ。そして当校の授業は、実践的な知識と技術の習得を目的としている」


「将来商人になりたい者、兵士になりたい者、大きな夢を叶えたい者もいるだろう。学校とはその足掛かりとする場所だ。だから点数や評価を気にする必要はない。勉強は辛く大変かもしれない。得意不得意もあるだろう。だが、みんなで助け合って乗り越えて欲しい」


「最後に・・・当校は規則が厳しい!特別扱いもない!気に入らなければ辞めればいい!君達の人生だ、好きにすればいい。だが、やる気と目的を持って学校に通うなら、俺達は全力で応えよう。以上だ」


生徒達は呆気に取られている。

強い口調だったが、重要な事なので先に告げたに過ぎない。


後をメルディに任せ、俺は鍛冶屋のディラスキンさんの元に行く。





ディラスキンさんは既に作業中だった。

朝早くから作業をやっていたようで、完成したクワの数も増えていた。


「お!マサおはよう」

「おはようございます。調子良さそうですね」

「んだ。大取引だしな!」

「・・・ん?これは形状が違いますね」

「ダメだか?」

「いえ。この形状って、何か意味があるんですか?」

「ああ。薄く仕上げると曲がるだ。曲がりにくい形にしただよ」

「なるほど、こういう試みは歓迎ですよ!良い商品が出来れば買取価格を上げますから、頑張って良い物を作ってください」

「任せるだ!」


出来たクワをひとまとめに抱え、耕作予定地に向かう。





予定地では、既に作業が始まっていた。

なかなか人数が多い。

ざっと、100人という所か。

ほとんどが貧民のようだが、初日にしてはなかなかの人数だ。


「シドさん。おはようございます」

「おう、来たか!何だその荷物は?」

「作業用のクワですよ」


荷物からクワを1本取り出し、シドさんに渡す。


「変わった形だな?」

「重要なのは使い心地ですね。女性陣など、軽作業担当者に使ってもらいましょう」

「そうだな」

「ああ、そうだ。性能いかんでは特許申請したいので、クワの管理を徹底してもらいたいんですよ」

「ふむ。特許って物でもないと思うがな?」

「まぁ特許じゃなくても、性能が良ければ売れますよね?なるべく高く売りたいんですよ」

「分かった。って事は、ディラスキンの作ったやつも、俺らが管理すればいいんだな?」

「話が早くて助かります」


考えている事をシドさんに伝え、納得してもらった。

クワは早速使ってもらう事にする。


「そう言えば・・・今日来てくれた人って、どんな人達なんです?」

「ほとんどが貧民だな。一部、移住してきた奴らもいるぜ」


単なる予感だが・・・。


「シドさん。せっかく集めてもらって、掛ける言葉ではないのですが・・・彼らは信用できるんですか?」

「どういう事だ?」

「密告者がいる可能性です。石鹸を作った時も化粧品を献上した時も、必ずと言っていいほど被害が出ているんです。今回も新しい試みです。疑いたくもなりますよ」

「確かにな・・・おい!」


シドさんが部下を呼び付け、登録簿を見ながら確認している。

何人か、該当者がいたようだ。

お願いして呼んでもらう。


集まったのは、ざっと20人くらいだ。

家族連れの人達と旅人風の男女だ。

順に面接をし、事情を聞いていく。




大半は、最近引っ越してきた人達だ。

丁度仕事を探している最中で、いい稼ぎ口として家族総出でやって来たそうだ。

残りは旅人という事らしい。

たまたまこの地に立ち寄り、路銀の稼ぎ口を探していたようだ。


この面接では「真偽の糸」を使った。

以前メルディにコレ使って、酷く後悔してしまったが、目的と質問内容をよく考えて使っている。

糸を束状にし、嘘の回数と強度を見分けられる仕組みになっている。


で・・・糸が切れた奴がいる。

どうにも怪しい旅人の男達・・・ではなく、最初の方に面接した一家の男女が嘘を付いていた。


「あのーすみません。もう一度お名前を聞いてもいいですか?」

「アランです。何か問題でもありましたか?」

「ええ。あなた嘘付いてますよね?何者ですか?」

「いえいえ、嘘など付いていません。つい最近、この街に来たばかりなのです」

「シラを切るなら、拷問してでも吐かせますよ?」


体から殺気を放つ。

アランは俺の殺気にビクついているが、それでも平静をつくろう。


「か、勘弁して下さいよ。以前いた街で大きな失敗をしてしまって、この街でやり直そうと思っていた所なんです。何も隠してません。どうかお許しください」

「あのーお気付きですか?その手に持った糸の束の事です。何本も切れてますよね?」


アランは俺の言葉の意味を、理解できてないようだ。

不思議そうな顔をしながら、糸の束を見詰めている。


「この糸は「真偽の糸」と呼ばれ、特別な魔術道具です。嘘をつくと切れる仕組みです。これだけの本数が切れると言う事は・・・相当やましい事を考えている証拠です。まだ嘘を重ねるつもりですか?」

「違う!違う!俺は嘘なんて付いてない!」


そう言って、糸の束を投げ返してくる。

俺は鞄から水筒を取り出し、こう告げる。


「では、これを飲んでもらいましょうか?これは「断罪の秘薬」という物です。尋問の最中に嘘を付いたら、死にます。潔白であるなら平気なはずです」

「いやだ!そんな物は飲まない!」


逃げ出そうとする男を、シドさんの連れ達が取り押さる。


「逃げるのは構いませんが・・・逃げれば殺すだけです。別に見逃しても構わないですよ。代わりに奥さんと息子さんが死ぬだけです。・・・それでも嘘を突き通しますか?」

「お、俺を殺せば、お前らタダでは済まないぞ!」

「ほお。誰が俺達をどうするんです?」

「・・・」

「これは奥さんと息子さんを拷問するしかないですね」


奥さんと息子は恐怖で座り込んでいる。

俺の勘だと、このアランという男だけが何かを隠している気がする。

俺は拷問を始めるべく、刀を抜く。


「まさか、拷問をするなんて嘘だと思ってます?・・・素直に話してくれるなら、多少譲渡しても構いません。黙って全員殺されるか、告白して減刑の機会を得るか。さあ、選びなさい!」

「・・・」


アランは黙り込む。

無言の時間だけが過ぎていく。


なんていうか、ものすごく効率が悪い。

自白剤でも作れないだろうか?


「あー!めんどくさくなってきた!」


そう言って、刀を振り上げる。


「ま、待ってくれ!話すから、やめてくれ!」


あら?俺の鬼畜スキルが上がる予感がしてたのに・・・。

押さえを一端解き、再度「真偽の糸」を持たせる。

鞄から金属の板を取り出し、作動させる。


「隠し事を話す気になりましたか?」

「・・・以前・・・人を殺した事がある」

「ほー。という事は、既に重罪人ですね。ですが、俺が知りたいのは別の事です。ここで何を調べていたのでしょうか?」

「・・・ある商人に依頼されて、金になりそうな珍しい事を探している」

「その商人とは誰です?」

「言えん!」

「あなたは既に重罪人です。話す気が無いなら、然るべき所で裁かれるだけですよ?」

「・・・」


しばらく無言が続く。

そして、


「国王陛下と直接取引をしているセグランという商人だ。奴に情報を教え、情報を元に物を作るらしい。俺は情報料を貰う。ただそれだけだ」

「他に協力者はいるか?」

「分からない。どこかの貴族が関与しているらしいが・・・名前すら分からない。頼む!助けてくれ!」

「最後に、あなたの本当の名前を聞かせてください」

「アリギスだ・・・」


俺は板の作動を止める。


「証言ありがとうございます。あなたの処遇は男爵様に判断して頂きます。ちなみに・・・」


板をピーンと弾く。

すると、録音された音声が流れ出す。

アリギスを始め、周りにいた者は皆驚いている。


「これであなたの証言は、重要な証拠となります。証言をして頂いたので、情状酌量を申し上げてみます。・・・あまり期待しないでくださいね」


アリギスは愕然と倒れ込む。

念のため、奥さんに真偽の糸を持たせ確認する。


糸は切れなかった。

どうやら、アリギスという男だけが犯罪に手を染め、奥さんには偽の名を使う事を教えていたようだ。

奥さんはこの告白を聞いて、何を信じていいのか分からない様子だ。


ともかく、これは男爵様に早急に伝える必要がある。

問題は、どうやって主犯格を捕らえるかだろう。




シドさんと今後の方針について話をしていると、男爵様が側近を連れてやってきた。

男爵様に事情と証拠を聞かせ、対応策を検討する。


他の人達は問題がなかったので、作業に戻させた。

噂が広まれば、不届き者は寄りつかないだろう。

その分、俺への危険度は増すが・・・覚悟を決めるしかない。

さっさと解決して楽になりたいものだ。


「閣下。これは急を要する問題です。早急に手を打ちたいと思います」

「うむ、そうだな。これは娘の病気にも繋がりそうだ。私も尽力する」


不確定情報ではあるが、王様と直接取引のある商人の名が出てきた以上、念のために王様に報告だけはしておく事になった。

ただ、あくまで報告に留める。

アリギスは殺人を犯したという点では有罪だが、商人の諜報員という意味では罪になるのか分からない。

石鹸や化粧品で被害が出た以上、関与がありそうだという程度だ。


所詮は私事だし、拡大解釈すれば最悪戦争も考えられる。

そこまで大袈裟にはならないと思うが、できれば起こって欲しくない。

そのためにも調査は必要だろう。


それに、俺の仕事は食料自給率の改善だ。

黙って見過ごすつもりはないが、余計な事で悩みたくない。


シドさんが話し掛けてくる。


「マサユキ。なぜそこまで徹底するんだ?」

「なぜって、不届き者を懲らしめているだけですけど?」

「じゃあ、なぜひと思いに殺さない?」

「人には様々な理由を背負っています。事実は消せませんけど、やり直しは出来ると思っています」


シドさんは何やら考え込む。


「お前。食料自給率の改善の意味、分かっているのか?」

「・・・」


分かっている。だが答えられない。

ここから先は俺の領分じゃない。


「その様子だと、分かっているようだな。付いて来い」


そう言って、街の方に向かう。

男爵様と側近達、シドさんの連れ達も付いていく。





貧民街の少し大きな建物に入っていく。

シドさんは中央の椅子にドッカリ座り、俺達も腰を下ろす。


「ここは俺達のアジトだ。盗み聞きはない」

「・・・」

「一つ聞く。俺達に加担する意味は分かっているな?」

「・・・分かっています」


シドさんは深い溜息をし、椅子に凭れ掛かる。


「もう言わなくても分かってると思うが、俺達は報復をするための準備をしている」

「ええ。・・・食糧事情の話を持ち掛けられた時点で、可能性として予想はしてました」

「俺の知る限り、判断材料はなかったと思うぜ。なぜそう思った?」

「確信に至ったのは領地を見てからです。貧富の差はあるものの、食うに困るほど逼迫ひっぱくした状況ではありませんでした」

「この話を聞いて、お前はどうする?」

「何も変わりません。俺は俺の仕事を全うするだけです」

「お前にとって利益にならなくてもか?」

「ええ」

「クク・・・ハハハハハハハ!」

「おかしいですか?」

「いや、完全に慈善事業だぜ?」

「分かってますよ。うまく行けば、回収できるとは思ってますけど・・・」

「いいや、分かってねえな。お前のやってる事は金持の道楽だぜ?」

「どう言おうと勝手ですが、途中で仕事を投げ出させたいのですか?」

「投げ出せばいいさ」

「・・・」

「単なる俺の勘だが、お前一人で解決しようと思ってねえか?」

「・・・」

「やっぱりな」


完全に見透かされている。


「マサユキ殿。そちは一人で背負い込み過ぎだ。なぜそこまで一人でやろうとする?」

「・・・すべての原因は、俺にあると思うからです」

「フフフフ。マサユキ殿。知っておるか?「人は生きている限り、誰かに迷惑を掛ける。」そちが責任を感じるのは嬉しいが、これは我らの問題だ。そち一人に重荷を負わせんぞ」

「それは分かりますが・・・」


男爵様とシドさんが言いたい事は分かる。

俺を巻き込みたくないのだろう。

だが、それなら打ち明けたりしない。


「なぜ、俺に打ち明けたのですか?」

「お前、分かった上で聞いてねえか?」

「予想はしてますけど、確証がありません。だから、報復を決めた理由を聞かせてください」

「・・・俺達はイーリスをあんなにしちまった奴らが憎い。だから報復するんだ」

「勝算は?」

「んーなのねえよ」

「そんな答えで納得すると思います?」

「しねえな。だが、お前なら俺達を使えると思ったから、打ち明けたんだ」

「つまり、助けて欲しいって事ですか?」

「そうだな。頼む。助けてくれ」

「マサユキ殿。私からも頼む」


俺は、深い溜息を吐く。


「この事を知ってるのは誰です?」

「ここに居る連中と、信頼の置ける奴だけだな」

「敵は?」

「切り替えはえーな!・・・隣の領地の伯爵だと踏んでいる」

「根拠は?」

「イーリスに薬を売りつけた商人が出入りしてるからだ」

「目的は?」

「さあな。イーリスを消すつもりだったんじゃねえか?イーリスが領主になるのは難しいが、他の領主と縁談ともなれば、後ろ盾になる。それだと手が出せねえからな。つまり、乗っ取りだ」

「ふむ・・・根拠が不十分ですね。商人は他の領地に出入りしてないのですか?」

「今のところは動きがねえな」

「それはおかしいですね・・・。一見、伯爵が敵のようにも見えますが、商人が意図的に見付かるようにしている可能性があります」

「なるほどな。捜索範囲を広げるか?」

「必要ないでしょう。商人の様子だけ、把握しておいてください。

「分かった」

「では、近隣の最大勢力はどこですか?」

「それは伯爵だな」

「戦力は?」

「およそ3万。こっちは良くて1000だぜ」

「・・・フハハハハハハ!」


俺は笑い出す。

突然の笑い出しに、皆呆気にとられる。


「何がおかしい?」

「フフフフ・・・いえ。たった1000人で、3万人も相手にするつもりだった事にですよ」

「仕方ねえだろ」

「いいじゃないですか。1人で30人殺せば済む話です」

「おいおい、まともにぶつかるのか!?」

「なわけないですよ」


俺の支離滅裂な発言に呆れられてしまった。


「確認したい事があります。戦争は許されるのですか?」

「許されないであろうな」

「それは爵位的な問題ですか?」

「それもあるが、簡単には正当化できんのだ」

「では例え勝ったとしても、負けが確定してるって事じゃないですか?そんなのは報復とは言いません」

「だが、何もせずに泣き寝入りなどしておれん!」


皆も同意見らしい。

轟々と決意を口に出す。


「皆さん。まず落ち着きましょう」

「何か策があるのか?」

「いえ。策も何も、まずはやれる事から潰して行くのがいいでしょう」

「ジャガイモか?」

「ええ。まずは食料自給率を上げます」

「だがよ。どんなに早くても冬まで掛かるんだろ?備蓄を考えても、1年は掛かる。とてもじゃねえが、相手は待ってくれねえぞ?」

「・・・それには秘策があります。方法を説明する前に、俺自身の事を告白する必要がありそうですね。俺には」

「待て!!」


男爵様が制止を呼び掛ける。


「いいのであるか?」

「・・・閣下はご存知だったのですか?」

「ああ。イーリスとそちの嫁達が話しているのを、偶然聞いたに過ぎないが、それはそちの命に関わる話なのであろう?」

「・・・ええ。できれば、使いたくありませんでした・・・。しかし、たった1000人で、30倍もの敵に挑もうと言うのです。皆さんの覚悟に応えるためには、必要な事だと思いました」

「マサユキ。俺達は秘密を守る。安心してくれ」


皆、無言で返事をする。

これだけの手練達に厚い信頼を受けられるのは、とても心強い。


「ありがとうございます。では・・・」





説明が終わり、関連して今後の対応策も提案した。


「・・・なるほどな。有効的な戦術だ」

「うむ。我らとは発想が違うな」

「食料自給率の改善は、単なる足掛かりです。むしろ、仕込みの方が大変ですね」

「まぁな。だが、今以上に金が掛かりそうだな?」

「確かにそれは課題ですが、流れに乗ってしまえば問題ないでしょうね」

「って事は、畑作りを急がねえとな」

「あまり根を詰めないでください。大きな動きは警戒されてしまいます。一歩間違えば、奇襲されかねませんからね」

「そうだな」

「となれば、私も動かねばな」

「閣下は基本的に従来通りの仕事をこなしてください。恐らく今後、決済関連が大変な事になりますので」

「分かった」


俺達は熱い決意を胸に、動き出した。


第39話です。

いい感じにストーリーが加速してきました。

さてさて、どうなるやら・・・(汗)


作中に出てきた金属の板と「断罪の秘薬」については、どこかで解説して補完したいですね。

まぁ理論的に説明するとなれば・・・結構大変な作業なのですが(笑)


さて、次回は月曜日2014/6/9/10時頃です。

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