第38話 開拓準備
館に着くと、執事さんとメイドさん達が出迎えてくれた。
セイルの汚れた姿に驚かれたが、事情を説明すると更に驚かれてしまった。
なんとか落ち着いてもらい、セイルを部屋に案内してもらう。
騒ぎに気付いて、男爵様も奥から出てきた。
「マサユキ殿!どうされたのだ!?」
「ええ。セイル様の社会勉強に付き添ってきました」
「あの姿から察するに、荒事のようにも思うが・・・」
経緯を説明する。
「・・・納得したい所だが、少し荒良治過ぎないか?」
「事前に何度も確認を取りました。見過ごしたのは意図的ではありますが、セイル様ご自身の力量を知ってもらう、いい機会だと思いました」
「なんとも過激だのぉ・・・」
「やり過ぎでしょうか?」
「いやいい。無事に済んだようだしな」
「ありがとうございます。話は変わりますが、シドさんとは旧知の仲だそうですね」
「うむ。子供の頃からの付き合いだ。奴にはいつも世話になっている」
「我々との決戦の時にもいたようです。閣下には・・・何か悪い事をしてしまった気がします」
「私も気付いておった。奴が本当にマサユキ殿に付いたかは判らぬが、戦いともなれば話は別だろう。それもあって戦いを取り止めたのだ」
「あの時は、本当に申し訳ございませんでした」
「終わった事だ。気にするでない」
気を取り直して、報告のために応接間に移動する。
「まず、野盗達について。彼らは輸送の護衛団として再出発しました。順調であれば、近辺の輸送経路の治安維持に努めてくれる予定です」
「次に農業開拓について。シドさんに農地の確保をお願いしました。労働力は貧民を中心に募集を掛ける予定です」
「次に懸念点です。地質に問題があるかもしれません。私は専門外ですので、農業に詳しい方に助言を請いたいと思っています」
「最後に税についてです。ジャガイモの税率を5割で検討しています。内訳は1割~2割を領主、2割を公共事業に、残り1割を私の取り分とします。以上です」
情報料が多かったのでメモを書き、改めて男爵様に検討してもらう。
「大体は了解した。しかしこの・・・公共事業とは何なのだ?」
「税収次第ですが、学校の運営費に充てたいと思っています。あと以前お話しした、保険制度に使えないかと思っています」
「なるほど・・・保険なる物は医者の同意が必要そうだな」
「そうですね。保険については領民の理解が必要です。すぐには実現できる物ではありません。それより気掛かりは、王に納める税です。範囲内に収まりそうでしょうか?」
「問題ないだろう。人が増えれば上納金も上がるが、その分収益も上がる。ジャガイモが嗜好品になる事もないだろうしのぉ」
「いえ、最悪の状況を考えましょう。重税を課される場合も考えられます。税収が増えたからと安堵するのではなく、税収の何割かを貯蓄するように考えねばなりません」
「そうだな。有能な代官が必要そうだ」
「はい。そのためにも学校運営は重要です。領民を育成し優秀な人材を確保する事が、結果的によい防衛手段となると思います」
「うむ。学校の方はそちが取り仕切るのであろう?」
「任せて頂けるなら精一杯やりましょう。ただ、厳しい規則は変えないつもりです」
「それは一任するぞ。気兼ねなくやりなさい」
「ありがとうございます」
学校は男爵様の館の一部を利用させてもらい、当面は青空教室とする事になった。
生徒が増え、予算的にも余裕があれば校舎を建設したいとは思っている。
まぁすぐ建つ代物じゃないし、予算は多めに確保しておかないと野草の育成小屋の二の舞になる。
今朝、朝執事さんにお願いしていた資材が届いていたようなので、ガルアに黒板や机などの学校設備の準備をお願いした。
あとは・・・。
「それから、セイル様についてです」
「うむ」
「彼を学校に通わせたいと思っています」
「いいのではないか?」
「分かりました。その上でお願いがございます。セイル様の学校での扱いは、貴族も貧民も関係なく同等に扱いたいと思っています。この事に対する承諾を頂けないでしょうか?」
「良かろう。我らは領主として爵位を持っているが、元を辿れば同じ領民だ。階級や立場に胡坐をかいているようでは、立派な領主にはなれんだろうしな」
「分かりました。あとはセイル様ご自身の判断とします」
「分かった。・・・ところで、ジャガイモが売れるまではどうするのだ?教師を雇うにも金がいるだろう?」
「それはご心配に及びません。私が立て替えます」
「いや、そうではない。税収が安定しているなら分かるが、そち達の学校のように無料で提供するとなると損ではないのかという事だ」
「まぁ確かに損ではありますが・・・優秀な人材を育成するのです。損はないでしょう」
「・・・取り分といい学校といい、そちのやり方は慈善事業のようにしか思えんな」
「そうでもありません。先行投資です。回収も検討済みです。むしろ政治にまで口出ししてて、咎められない方が不思議です」
「まぁそうなのだがのぉ」
男爵様の仰りたい事は分かる。
先行投資とは言うが、金のためにやっている訳ではないので、慈善事業と言われても仕方ない。
最終的に仕事を男爵様達やシドさん達に任せる予定にはなるが、特産品の1割が懐に入ると考えればかなりの大取引とも言える。
永久的に取り分を貰い続けるのはどうかとも思うが、金が入ったら入ったで、またどこかに投資すればいいだけの話だ。
「男爵様。最終的な仕事の完了時の話をしますと、畑はシドさん達に任せるつもりです。学校運営も優秀な教師を作り上げ、雇う事になるでしょう。兵士達も教育し、優秀な代官を置き、健全で透明性のある領地運営になればと思っています」
「そちは不可能を可能にする男じゃ。夢物語だろうと実現してしまうだろう。私も領民を代表して微力ながら手伝おう」
「フフフ。微力なんて甘っちょろいです。是非、私を脅かすほど頑張ってください」
「フハハハハハ!そうだな!私もまだまだ頑張らねばな!フハハハハハ!」
報告が終わり、昼食の準備が始まる。
ミイティアにメルディ達を呼びに行かせ、俺はガルアの様子を見に行く。
ガルアは既に、黒板の原型を作り上げていた。
板に黒い塗料を塗り、あとは乾くのを待つという感じだ。
さすが木工職人!なかなかの手際だ。
うまく行けば、明日にも授業を始められそうだ。
◇
昼食を取った後、フーリアさんの治療をしながらメルディに経過報告を受ける。
「・・・というのが現状です」
「分かった。ここに学校を作る事になったから、それの教師もやってほしい。主にお願いしたいのは語学と算術。その他は後回しでいいよ」
「分かりました。昼食も子供達に振舞いますか?」
「そうだね。相談してみるよ」
「お願いします。施設の準備はいつ頃揃いそうですか?」
「そうだなぁ・・・どうだいガルア?」
「ああ。黒板は明日には出来るな。机と椅子は何個くらい作ればいいんだ?」
「うーん・・・最初は10個くらいでいいんじゃないか?」
「それなら明日までに用意出来ると思うぜ」
「まぁ数が足らなくてもいいよ。勉強に不自由ない物を作ってくれ」
「おうよ!」
「兄様!私にも仕事をください!」
「そうだなぁ・・・」
実力的には兵士達の訓練教官というのも手だと思う・・・が、そこまで口出ししていいのやら。
それにしても俺達のやっている事って、まさにコンサルタント業務だな。
コンサルタントとは、会社の業務改善などの相談役である。
よく言う「監査役」という役職だ。
仕事は作業工程の改善や、運営資金の有効活用化など多岐に渡り、業務効率改善の手助けをする。
多岐に渡る知識と経験が要求され、具体的で的確な改善方法が要求される。
しかし、現実的には割りのいい仕事ではない。
業務に色々口出しをできたり、基本的には提案するだけの仕事なのだが、役に立たないとすぐにクビだ。
冷たい言い方だが、お互い他人と割り切っている。
報酬も高額ではないので、複数のクライアントを受け持つのが普通だ。
現世でも、俺はこの仕事くらいしか俺らしく働けないと思っていたが、現実問題としてクライアントを得るまでが大変なのだ。
誰が実績もない、信用もない者を雇うものか。
仮に1つでも仕事で成功してるなら話が変わるが、信頼が仕事の有無を左右する仕事なのだ。
さて、ミイティアの話に戻るとして・・・。
「ミイティアは何をやりたい?」
「え?」
「たまには、自分で考えてご覧」
「んー・・・」
「例えば、不自由に感じている事から始めるのもいいと思うよ」
「だったら、マールとフェインを・・・」
「気にしてる事は分かるよ。どうやったらうまく行くか考えるんだ」
ミイティアはしばらく考えていたが、この街で唯一知り合いのシドさん達に紹介する事になった。
俺も農地の状況が知りたかったので、同行する事にする。
◇
人づてにシドさん達がいる開拓予定地に着くと、50人くらいの人が集まっていた。
シドさんが俺達に気付く。
「お!銀狼じゃねえか!」
そう言って、躊躇もせずにマールとフェインを撫で回す。
「慣れているんですね」
「昔魔獣を飼っていたんだ。それにしても、こいつら大人しいな」
「敵意がないからだと思いますよ」
「俺も飼ってみたいぜ」
「お譲り出来ませんからね」
「そんなケチな事言うなよ」
「ダメです!!マールとフェインは私の家族です!!」
ミイティアが間に割り込んで、身構える。
シドさんは不意を突かれた顔をしていたが、ミイティアの頭をポンポン撫でる。
「冗談だぜ。今はそんな余裕ねえしな」
「冗談でもダメです!」
「分かった分かった。済まなかったな」
ミイティアは膨れ顔をしている。
ミイティアを落ち着かせ、一先ずシドさんの仲間達にマールとフェインを紹介してもらう。
「マサユキ、耕作地はここでどうだ?」
「十分な広さだと思いますね。水場が遠いようですので、井戸も掘らなければなりませんね」
「それからコイツだ」
黒い大きな塊を差し出してくる。
依頼していた毒イモのようだ。
ゴツゴツしていて、色はサトイモに近い。
ナイフで少し切ってみると、中は少し黒っぽい。
汁気は少ないが、少し粘り気がある。
ちょっと一口舐めてみると・・・特に味はしない。
「なんだろコレ?イモのよう、ウアアアアアアアア!!!」
強烈な痛みが口に広がる。
急いで水で洗い流すが、痛みは引かない。
「おいおい、食うもんじゃねえって言っただろ?」
「うぐ・・・」
最初は無味だと思って油断していたが、かなり渋い。と言うより痛い!
道理で毒イモと呼ばれるわけだ。
ラミエール曰く、口に含んで苦みを感じる物は毒素があるそうだ。
必ずしも有害な毒とは限らないが、簡単に確かめる方法の一つらしい。
それで舐めてみたのだが・・・。
しばらく舌がヒリヒリと痛むのを我慢しながら、考察を続ける。
とりあえず、これは食べるに食べられない。
形状と味からしても、品種が違うと分かる。
とりあえず、今は置いておこう。
ジャガイモがこの地で育ちにくいと言っていたが、土が原因かもしれない。
その理由には心当たりがある。
土が酸性なのだろう。
物には酸性、アルカリ性という性質がある。ph値とも言う。
水で例えるなら、アルカリイオン水という物がある。
簡単に言うと、体のph値に近い水というべきだろうか?
ph値とは、7を中性といい、0に向かうと酸性、14に向かうとアルカリ性と分けている。
人間のph値は大体7~8と言われていて、ややアルカリ性だ。
つまり、アルカリイオン水は体液に近いph値なので体に受け入れやすい。
同様に野菜にも、酸性、アルカリ性が存在する。
一概には言えないが、酸性土壌ではアルカリ性に分類される野菜は育ちにくいという事だ。
じゃあなぜ、酸性土壌になっているかという理由である。
ここは放牧で牛や羊を飼っている。
必然的に糞尿が土に含まれる。
ただ、糞尿自体は土ではない。
広義ではあるが土とは、糞尿などをバクテリアが分解した物をである。
その分解で塩素やリンなどが土中に放出され、酸性土壌となるのだ。
もちろん、アルカリ性土壌なら何でもいい訳ではない。だが、今はいいだろう。
ちなみに、糞尿自体は土の性質を酸性化させるだけであって、不要な物ではない。
ただ現実的には、家畜の糞尿以外は使いたくない。
戦国時代とか大昔の農業では、人の糞尿を土に混ぜるやり方をしていた。
しかし、現代ではそれをやらない。
ヒエや米など、野菜を主食にしていた時代なら良かったのらしいが、現代のように肉も加わると、寄生虫が土壌に沸いて作物を駄目にするらしい。
良し悪しの判断は出来ないが、人の糞尿には別の処理が必要だと思っている。
黙り込んでいる俺を見て、シドさんが話し掛けてくる。
「どうだ?イモは作れそうか?」
「不可能ではないと思います。土の改善が必要そうです」
「具体的には何をすればいい?」
「そうですねぇ・・・石灰ってご存知ですか?」
「分かるぜ。だが、畑に石灰はいらねえだろ?」
「えーっと、話が難しい上に確証はないのですが・・・」
「構わねえ。難しくてもいいから説明してくれ」
「分かりました」
シドさんに説明する。
◇
少し時間は掛かったが、なんとか話し終えた。
「なるほどな。作物が育ちやすい環境にするために石灰を使うって事か」
「ええ。比較的簡単で安価に手に入りますからね。他の農家の方達はどうやってるのか気になります」
「紹介してやろうか?」
「とりあえず大丈夫です。男爵様にお願いしたので、その内ご紹介頂けると思います」
「分かった。さっそくやるか?」
「その前に人を集めましょうか」
「そうだな。何人くらい集めればいい?」
「人数の前に予算を決めないとですね。貧民の方の月収って、どれくらいですか?」
「そうだな・・・銀貨50枚~金貨1枚程度だな」
「シドさんとしては何人くらい雇いたいですか?」
「俺が決めていいのかよ?」
「希望です。大体でいいので聞いておきたいんですよ」
「・・・500人くらいだな」
ざっと計算する。
500人を月金貨1枚で半年雇うと、6ヶ月で金貨3000枚。
道具や石灰など、その他を金貨300枚とすると、合計で金貨3300枚。
一応予算内だな。
だが、現実的な計算ではない。
畑の規模から考えても、100人~200人がいい所だ。
なら、最初から200人を基準に計算した方が妥当だろう。
200人なら、6ヶ月で1200枚。
その他を含めて、金貨1500枚だな。
メモを書いて、シドさんに渡す。
「200人雇った場合の計算をしました。損益分岐を考えると、人数が多過ぎるのは得策ではありませんね」
「さすがに500人は雇えなかったか」
「200人で半年やってみて、その経験の元に増員を考えるべきだと思います」
「そうだな。仕方ないな」
「その代わり、開拓作業には臨時として雇うのは構わないと思っています」
「それなら仕事を持ってる奴も参加できるな」
「ええ。あとは仕事に来た人の管理もお願いできますか?名簿を作って、日割り計算ができると良いです」
「・・・100人程度なら可能だが、それ以上にとなると難しいな」
「例えば各班10人ひと組にして、各班毎にシドさんの部下を付けます。優秀な人がいれば任命してもいいと思います。それなら班の数は増えますけど、管理の面で負担軽減できますでしょ?」
「それはいいな!事情の把握もしやすそうだ」
「仕事は重労働と軽作業に分けて、非力な女性や子供、老人は軽作業に充てます。基本的にやる気があれば誰でも可能です。」
「なるほどな。仕事の格差はどう対処する?」
「金銭的な差は当面なしにしましょう。差を付けるとしたら、よく働いた班に褒賞を出すというのは手だと思います」
「分かった。不正にはどう対処する?」
「難しい話ですね。いずれはシドさん達が管理する事になるので、シドさんに一任したいですね」
「その言い方だと、お前はいずれいなくなるって事か?」
「その通りです。仕事が終わったら後を任せ、村に帰る予定です」
「となると、俺達も気合いを入れねえとな」
「ええ。頑張りましょう」
シドさん達に後を任せるためにも、ある程度綿密な計画が必要だと思う。
売上は最低でも、金貨1500枚は欲しい。
でないと割が合わないし、税金も決まらない。
ひとまず今日は、人材募集をやってもらう事になった。
◇
「カン!カン!カン!」
「いい手付きだな。とても商人様とは思えねえだ」
「ありがとうございます」
俺は鍛冶屋のディラスキンさんを紹介してもらい、開墾用の農機具を作っている。
ミイティアとマール達は、シドさん達と広報活動中だ。
「済みませんね。押し掛けておいて、仕事場まで借りてしまって」
「いやいいだよ。オラん所の工房なんて小さい方だが、好きに使ってええだよ」
「いえいえ、立派な工房じゃないですか。羨ましいですよ」
「そか?ありがとよ」
手を休め、工房を見渡す。
釜戸はよく手入れされて、とても綺麗だ。
道具は長年使い続けてきた感じがよく分かる。
「ディラスキンさんは鍛冶仕事、随分長そうですね」
「分かるだか?」
「ええ。工房と道具を見れば大体分かります」
「さすがだ。マ、マサ・・・」
「マサユキです。フフフ」
「すまねえ。オラ覚えが悪くてな」
「いいですよ。坊主でも小僧でも好きに呼んでください」
「マサキさ。その腕、どこで覚えただ?」
「(まぁいいや)キルヴェラのゼアって工房長、ご存じありませんか?」
「ゼア?」
「黒い大男です」
「・・・え、英雄様だか!?」
「ええ。その方に直々にご指導頂いたんです」
「そか~。羨ましい話だな」
さすが親方さんだ。
ディラスキンさんは名前を覚えるのが下手なだけで、それ以外はそうでもなかったりする。
俺も心当たりがあるから、人の事は言えない・・・。
形を整え、微調整を行う。
「マサよ。そんなに薄ぐてええだか?」
「試しってのもあります。強度不足なら調整しますよ」
「そか」
俺が作っているのは、日本製の農機具のクワである。
こっちの世界にもクワはあるが、全体が木製で先端部分だけ金属を使った大きなフォークという感じだ。
別にそれでも問題はない。
単に日本製のクワがどういった感じなのか、実際作って試してみたくなっただけだ。
調整が終わると、砥ぎを行う。
やはりディラスキンさんは、俺の発想が異質だと感じているようだ。
俺も単なる思い付きでやってるから、根拠を説明するのに苦労する。
ひとまず1本目のクワが出来た。
試しに裏庭を掘ってみる。
「ザクッ」という音と共に、いい感じに土が掘れる気がする。
試しにディラスキンさんにも使ってもらう。
「ほー・・・なかなかいい出来だ」
「使えそうですか?」
「んだ。鉄がいい重し代わりで、土の食い込み方がいいようだ。重みも感じんし、女子供でも使えそうだ」
「もう少し改良したいところですが、ディラスキンさんにはコレを200本作ってもらいたいんです」
「ええだよ。いつまでだ?」
「そうですねぇ・・・。1日10本ずつで20日でどうです?」
「もっと作れるだよ」
「斧とか他の道具も依頼が来ると思うので、急がなくていいですよ。構わなければ今日中に10本作りましょうか。俺も手伝います」
「そか。マサとならスグだな」
「1本いくらでしょうか?」
「そだなぁ・・・銀貨20~30枚ってところだな」
「なら、200本で金貨100枚でどうです?」
「はっ!?そんな大金だか?」
「銀貨20~30枚ってほとんど原価ですよね?手数料を入れて、1本銀貨50枚計算です。それでも安過ぎだと思いますよ?」
半ば無理やり代金を渡す。
「・・・金貨100枚なんて・・・初めてだ」
「物のついでにお願いがあります。もしコレを他の商人に売る事があったら、金貨10枚以上で売ってください」
「じ、じゅう?・・・なんでそんな大金になるだ?」
「小さな剣でも金貨10枚はします。鉄の量から考えても妥当だと思います。それに新しい技術は高値で売る権利があります。ズルイ奴は安く買い叩いて、他の地で高く売り付けます。それを防ぐ意味あいが大きいですね」
「分かるだが・・・オラにはできねえだ」
「例えば、お店の店主に販売をお願いして、高値で大量に買ってくれる人だけに売るとか制限すればいいんですよ」
「それも分かるだが・・・」
「じゃあ、シドさんにお願いしましょうか?俺が言うより説得力ありますし」
「それなら良さそうだな」
「分かりました。シドさんには後でお伝えしますね」
話を切り上げ、2人でクワの製作に掛かる。
◇
しばらくすると、ミイティアが工房にやってきた。
「兄様、お疲れ様です!」
「ミイティアお疲れ。マール、フェインもお疲れ様。街の人の様子はどうだい?」
「問題ありません。皆さん温かく受け入れてくれました」
「それは良かった。人は集まりそうかな?」
「少しなら来てくれる人はいました。でも・・・ほとんどの人は仕事があるから来れないって言ってます」
「まぁ想定の範囲内だよ。シドさんは?」
「雇い主さんとの交渉に向かってます」
「分かった。ミイティア達は先に帰ってていいよ」
「・・・」
「言いたい事は分かってるって。伝言とコレをお願いできるかな?」
「・・・はい」
ミイティアに伝言をお願いし、包み渡して先に帰ってもらう。
俺は再び槌を振るう。
慌ただしいが、一気に話が進み出し休む暇もない。
でも、これがいい!
目的がハッキリ見えていて、みんなのやる気と希望となる仕事を手伝う。
こういうのが「仕事をしている」という充実感だ。
俺は夜中遅くまで、槌を振るい続けた。
第38話です。
最近暑いですねぇ。
湿度が低いおかげで比較的過ごし易いとはいえ、脱水症状にならないように注意してください。
暑い日には冷たいアイス食べたくなりますよねぇ~。
ラクトアイス系も好きなんですが、あずきバーもお勧めです。
モナカも捨てがたいし、冷凍の今川焼も捨てがたい。
う~ん・・・単なる甘党なのでしょうか?
まぁいいです。食べ過ぎだけには注意したいものです。
次回は、2014/6/6/18時頃です。