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第37話 商談開始

俺達は坊ちゃまに付いて、ゆっくりと街を回っている。

威張り散らしていた割に、領地の事はよく知っているようだ。

ボンクラ息・・・もとい、世間知らずのご子息様だと決めつけていたが、どうやら違うようだ。

だが、領民達からは煙たがられている。

やはり・・・教育が必要そうだ(ニヒヒ)


この街は大体5000人規模といったところだ。

親方さんには話を聞いていたし、見た感じからも予想通りの街並みである。

ほとんどが平民で、一部、貧民と呼ばれる貧困層が存在する。

農業と畜産業が主で、商店街は生活必需品ばかりが並ぶ。

一部だけだが、裕福な家庭向けの嗜好品を扱う店もある。


「なかなかの街並みですね」

「そうか?王都に比べれば、所詮田舎だ。貴様は田舎の出なのだろうが、この程度で驚くとは情けないな。王都を見れば目玉が飛び出るはずだ!フハハハハハ!」

「なるほど、私の事をよくお分かりのようです。察するに、坊ちゃまは王都に出向かれた事がお有りなのですね?」

「・・・そ、そうだ!すごかったぞ!ハッハッハッハ!」

「私もいずれは王都に赴きたいと思っています」

「き、貴様には無理だ!貴様は多少金を持っているようだが、連れが同じく子供では王都にすら辿りつけんぞ!あまり大きな口を叩くな!」

「失礼致しました。肝に銘じておきます」


俺のへつらう振る舞いに、ミイティアは終始膨れ顔だ。

ガルアは・・・無関心だな。




農地に出来そうな土地は、少し郊外だが十分な広さを確保できそうだ。

これなら結構広い畑が作れるかもしれない。

あとは男爵様と領民達に相談して、本格的に開拓を始めればいいだろう。


懸念点としては、畑作農家が少ないという事か?

大半が畜産業をしていて、兼業で小規模な畑を作っているという程度だ。

畑を見る感じ、特には問題なさそうだったが・・・そうせざる得ない何か理由があるのだろうか?

残る問題は労働力の確保かな?


遠くに、ボロボロな服を着た子供達が見えた。

一目見て、貧民の子供だと分かる。


「坊ちゃま、あの者達はどういった者なのですか?」

「ああ。奴らは貧民の子だな。貧民とは街で下働きをしている者達だ。認めたくはないが・・・これが我領地の現状なのだ」

「では、あの者達を雇っても問題はないですか?」

「・・・なぜそういう話になる?話が飛び過ぎだ!それに子供だぞ!?」

「いえ、貧民の者達を雇う事に、問題がないのかと聞きたかったのです」

「・・・問題あるかないかは父上・・・」

「問題はなさそうですね。行くとしましょうか」

「おい!私は分からんと言・・・」


言い訳している坊ちゃまを置いて、俺はさっさと子供達の元に行く。

近くまで行くと、子供達は脅えていた。


「やあ、こんにちわ。何もしないから脅えないで」

「・・・」

「言葉は話せないのかな?」

「話せます」

「良かった。俺はマサユキと言います。商人をやってます。君達に話を聞きたいんだけど、少し時間を貰えるかな?」

「・・・はい」

「俺はこの男爵領に、新しい農地を作ろうと思っている。働き手を探しているんだけど、君達のお父さんやお母さんはこういう仕事ってできるかな?」

「・・・分かりません。お父さんは畑で仕事をしてます。お母さんはお店の手伝いをしています」

「ふむ・・・」


既に仕事を持っている人からすれば、ギャンブルとも言える仕事に付きたい人は少ないかもしれない。

だから、貧民なら比較的ハードルが低いと思っていた。

貧民だからこそ安定した収入は死活問題だ。

「貧民だから仕事がない」と決め付けてしまったのは間違いだった。


それに人を引き抜くと、雇用主にも迷惑が掛かる。

仕事を持たない人なら雇えるだろうが、労働に対して意欲が無いと意味がない。


でもまぁ・・・貧民と言うくらいだ。ろくな収入が得られないのだろう。

俺の仕事は男爵領の自給率を改善する事であるが、貧富の差の改善も付けくわえたい。

だから、できれば貧民を中心に雇いたいのだ。


「仕事を持ってない人達っている?仕事を探してるけど、なかなか見つからない人達がいいんだけど?」

「・・・分からないです」

「じゃあ、貧民に詳しくって、顔が利く人っていないかな?」

「・・・いるけど・・・」


言葉に詰まった子供が脅えている。

怖い人達なのだろうか?


「もし良かったらその人達、俺に紹介して貰えないかな?」

「でも・・・やめといた方がいいよ?」

「怖い人?」

「うん・・・」

「苛められたりするの?」

「ううん。たまに来るけど、お金を渡すといなくなる」

「なるほどね・・・」


恐らくはみかじめ料なのだろう。

危険なのは分かるが、そういう人達の方が貧民に顔が利くと思う。

最悪逃げればいいし、多少人数がいても金で解決できるならそれでもいい。

問題は相手がどう出るかだろう・・・。


「みんな。その人達の所に案内してくれない?途中まででいいよ」

「商人様危ないよ!?やめた方がいいよ!」

「大丈夫大丈夫!俺達はこう見えて強いんだ。仕事を相談しに行くだけだよ。それにその人達を無視すれば、農地を荒らされるかもしれないからね」

「・・・うん」


子供達は渋々と俺の提案に従ってくれた。

坊ちゃまとジェリスさんには「危険なので、館にお帰りください」とお願いした。

しかし坊ちゃまは・・・俺の警告を無視し、半ば無理やり付いて来ようとする。


「坊ちゃま。本当によろしいのですか?」

「何度も言わせるな!ここで帰っては、私が臆病者のようではないか!」

「臆病者でも良いではないですか。ここで命を落とす事になっても、何の益にもなりませんよ?」

「くどい!これは私の領地の問題だ!貴様達よそ者が口出しするとは、おこがましい!立場をわきまえろ!」

「・・・失礼致しました。そこまで仰るなら、私から言う事はございません」


俺達は歩き出した。

そして思い出したかのように、告げる。


「当然の心得だと思いますが、危険を承知の上で参るのです。坊ちゃまのお体は、坊ちゃまご自身でお守りください」

「・・・あ、当たり前だ!じ、自分の身くらい自分で護る!」

「良い心掛けです。例え坊ちゃまが捕らわれても、我々は無視します。是非、無事なご帰還を」

「な!・・・くっ」


坊ちゃまは自分の発言に後悔し、少し脅えている。

無駄な正義感と責任感が、そう言わせてしまったのだろう。

いわゆる典型的なエリート志向の固まりという感じだ。


まぁ俺としては・・・この世間知らずに本当に掴まってもらって、現実を実体験してもらいたい。

もちろん、それが起きないようには振舞うつもりだ。





俺達は・・・男達に囲まれている。

予想はしていたが・・・坊ちゃまは屈強な男達に捕らわれている。

なんていうか・・・「お前バカだなぁ」と言ってやりたい。


経緯はこんな感じだ。

子供達に案内され別れた後、目の前に男が飛び込んできた。

何やら苦しそうにのたうち回り、呻き声を上げていた。


最初は様子を見ていたが、血のような物を吐いた。

それを見てジェリスさんが駆け寄ったところ、坊ちゃまが別の男達に馬から引きずり降ろされた。

で・・・ガラの悪い男達に囲まれたと言う訳だ。


男が目の前に出てくる以前から、なんとなく分かってたけど・・・あえて見過ごした(ニヒ)

こういうのは、人を騙す常套手段だ。

現世でも、海外旅行に行くとよくあるパターンだ。

ミイティアもガルアも分かっているので、俺の出方を見て動かなかった。




囲んでいる男達は・・・20人くらいいるだろうか?

皆ニヤけ、手にはナイフなど武器を持っている。

その中に、突出して体付きがゴツイ大男がいる。

顔には大きな傷痕があり、見たまんまゴロツキの親分だ。


「おうおう!小僧の命が惜しかったら、金を寄こしな!」

「あのぉ?こういう事したら、男爵様に討伐されません?」

「グアッハッハッハ!馬鹿め!例え男爵だろうが、俺達には逆らえねえよ!」

「なかなか強気ですね」

「当たり前だ!さあ金を出せ!」

「んー・・・俺は別にその方の護衛ではありませんしね」

「何だと貴様!?私を助けよ!」

「マサユキ殿!私が目を離した隙とはいえ、その態度は軽薄過ぎます!」


俺の冷たい反応に、ジェリスさんも虚を突かれたようだ。


「どうした!?さっさと寄こさねえなら・・・腕の一本でも切り落としてやろうかあ!?」

「いいんじゃないですか?」

「・・・エグイ護衛だな。だが、脅しじゃねえ!切り落とすぞ!」


子分達に坊ちゃまを抑え込ませ、大きな剣で「振り下ろすぞ」という威嚇をしている。


「私はあなた方に、商談を持ち込もうと思っていたのですが・・・つくづく欲のない方々だ。とりあえず、コレで手を打ってもらえませんか?」

「ヘッヘッヘッヘそいつを寄こしな。話だけは聞いてやるぜ」


俺は「例の金貨」を見せ付け、指で金貨を高く弾く。

金貨は「キィィィン・・・」と音を発し、ゆっくり放物線を描きながら空中で回転する。


この金貨の話は、ミイティアもガルアも了解済みだ。

前の実践でも、2人はちゃんと動けていた。

直接金貨を見ないように目線を外し、直接音を聞かなよう耳栓を付けてもらっている。

それでも多少は影響してしまう。

特に今回は、近い上に全方位に向けて放つ。

多少の影響は覚悟の上での作戦なのだ。




男達は金貨の放物線に魅入っている。

タネを知らないジェリスさんも坊ちゃまも魅入ってしまっている。

魅入ったのを確認し・・・俺達は動き出す!


俺は手当たりしだいに男達の後頭部目掛け、刀の峰で殴り付ける。

ガルアは強烈な当て身で、強引に気絶させる。

ミイティアは器用に当て身と蹴りで倒して行く。


全員の制圧が終わったら、坊ちゃまを助け出しジェリスさんの側に寝かせる。

縛り付けるロープがないので、男達の服を脱がせ、手足を縛り上げる。

なんともエグイ対応だが、仕方ない。


遠巻きに様子を見てた貧民達は、俺達の対応に呆れている。

お願いして椅子と机を用意して貰う。


ガルアには男達の見張りと周辺警戒をお願いしてた。

俺とミイティアは肉団子の集団を目の前にして、優雅さとは程遠いティータイムをしばし過ごす。





やっとジェリスさんが目覚めた。

しかし、状況に戸惑っているようだ。


無理もない。種明かしはしてないし、事前に説明もしていない。

とりあえず状況だけ説明し、坊ちゃまを無事取り返せた事と、今後の事を説明する。

坊ちゃまは眠ったままだが、そのまま寝かせておく事にした。




しばらくして、男達が目覚め始める。

縛り上げた布を取ろうともがくが、俺の能力で強化された布はそう簡単には引きちぎれない。

それにガルアの目もある。

状況を理解したのか、完全に諦めムードだ。


やっと大男が目覚めた。


「クッ!どういう事だ?・・・俺は死んだはずだ・・・」

「ええ、死にましたよ。ここはあの世です」

「・・・ば、馬鹿言うんじゃねえ!ここは俺達の街だ!」

「では、これから公開処刑に入りましょう。頑張って泣き叫んでくださいね。でないと・・・俺が楽しめないじゃないですか。ウヒ、ウヒヒヒヒ!」

「クソオオオオオ!!ヘッドが戻ってきたら、オマエらなんか皆殺しだ!」


叫び声が響く街角に、10人程の男達が現れる。

どう見てもヤーさんのような男達だ。

顔付きと体の傷跡から、死線を何度も越えてきたような手練達のようだ。


「ヘッド!」


男達は口々に叫ぶ。

皆待ちわびたような声で、ヘッドと呼ばれる男に向かって叫んでいる。

俺は立ち上がり、次なる戦いに向けて気持ちを入れ替える。


「カー!なんて様だ!呆れるぜ!」

「ヘッド!こいつら全員殺してくれ!」


ヘッドと呼ばれる野党の棟梁は、ニヤけながら俺に寄ってくる。


「おうおう、よくも可愛い子分達を痛めつけてくれたな!?血祭りに上げてやるぜ!(ニッ!)」

「ええ。楽しい楽しいパーティーと行きましょうか(ニヒ!)」


俺とヘッドは睨み合い、怪しい雰囲気が広がる。


そのやり取りに、ミイティアもガルアも何も反応しない。

そして・・・2人して笑い出す。


「フフ・・・。アハハハハハ!こんにちわ、シドさん!」

「ハッハッハッハッハ!マサユキよく来た!ガルア!ミイティア!お前達とも数日ぶりだな!」


そのやり取りに、縛り上げられた男達も、ジェリスさんも、遠巻きに見ていた人達も皆驚いている。


「シドさん、皆さん。お久しぶりです」

「こんにちわ。シド様」


珍しくガルアが敬語を使っている。

シドさん達は、つい最近あった決戦のために招集された人達だ。

元は親方さんの知り合いで、たまたま近くの村に出掛けていたのを呼び掛けられたらしい。


なぜ、ガルアが敬語を使っているかは簡単な理由だ。

ガルアがシドさん達に稽古をお願いして、負けに負けたのだ。

俺はそれに立ち合ってはいないが、話だけは聞いている。

ゆえに、ガルアはシドさん達に頭が上がらないのだ。


彼らは決戦が終結し、報酬を受け取るまで工房でお世話になっていた。

男爵領に行く事を決めた時点で支払いは親方さんに任せたので、その後報酬を受け取ってここに帰って来たのだろう。

一応手練と言う事もあって、多少は多めには報酬を受け取ったとは思うが・・・まさかここの出身だったとはね。


「お前らバカだなぁ。こいつらは俺の知り合いだ。それに結構強いぜ。ガルアは俺達の中でも5番目くらいの強さだ」

「ば、馬鹿な事言わんで下さいよヘッド!」

「いーや事実だ。てかお前ら・・・何で裸なんだ?レディーの前だぜ?」


ミイティアが顔を赤くしている。

まぁね。仕方ないよ。

せめてパンツだけは残したが、ロープを用意してる間に起きたら面倒だしね。


「済まなかったな。うちのもんが迷惑を掛けた」

「いえ、気にしないでください。社会勉強にご協力してもらっただけです」

「でもよ・・・よくこれだけの人数、締め上げたな?」

「ええ。シドさん達がガルアを鍛えてくれたおかげですよ」

「止せよ。ガルアはつえーし、お前達なら朝飯前だろうよ。・・・それに誰も怪我してねえみたいだしな。俺から言う事はねーぜ」


ガルアは少し照れている。


「俺はただ商談に来ただけですしね。怪我をさせてしまったら、商談どころじゃないですからね」

「お!また何か金になる話か?」

「ええ。大儲けできますよ!」

「そいつはいいぜ!聞こうじゃねえか!」

「ヘッド・・・ほどいてくれよ」

「お前ら!少しは反省していやがれ!」


シドさんの一喝で男達がどんよりヘコみ、シドさんの連れ達に笑われている。

騒ぎに気付いて、やっと坊ちゃまが目覚める。


「ん?・・・な、なんだこれは!?」

「おはようございます坊ちゃま。大暴れで大活躍されていましたよ?なかなかいい戦いっぷりでした」

「・・・嘘をつくな!そんな訳ないだろ!?」

「はい嘘です(ニヒ)でも、いい経験になったでしょ?」

「・・・」

「なんだ、男爵の所の小僧じゃねえか。こんなのと一緒だったのか?」

「き、貴様!私を愚弄するか!?」

「おう!!やろうってのか?」


シドさんの凄む言葉に、坊ちゃまは黙り込む。


「まぁまぁ坊ちゃま。社会勉強です。社会勉強。何が悪かったのか反省しましょう」

「・・・」

「シドさん。ここで商談でも構いませんか?」


ミイティアが気を利かせて席を空け、シドさんが入れ替わりで座る。

お茶も改めて用意する。


「で、どんな話だ?」

「毒イモについては、ご存じでしょうか?」

「アレは食えないイモだろ?この辺にもあるが、食えたものじゃねえぜ?」

「あれ?・・・品種が違うのでしょうか?俺の村では食えたんですけど?」

「あの土地だけだと思うぜ。こっちのイモは食えねえんだ」

「なるほど・・・と言う事は、ちょっと手間が掛かりそうですね」

「まさか、イモを作るのか!?」

「ええ。村で採れるジャガイモという品種を、こちらでも作れないかと挑戦したいんですよ」

「可能なのか?昔それをやって、失敗した奴がいるぞ?」

「ふむ・・・。何か原因がありそうですね」


しばらく考え込む。


「まぁいいですよ。試してみましょう!」

「ヤケっぱちにも聞こえるぜ?」

「俺はこの地の食料事情を改善に来たんです。今さら失敗が怖いからと、諦める訳にはいきませんよ」

「何か理由があるのか?」

「その事はいずれお伝えします。話に戻りますと、労働力を探しています。できれば、貧民を中心に募集を掛けたいと思っています」

「なぜ俺達なんだ?」


少し凄んで聞かれた。


「少し難しい話になりますが、なぜ貧民層が生まれると思います?」

「・・・雇い主が金を溜め込んでいるからじゃねえか?使用人に金を少ししか出さなかったり、横暴を利かせるからだな」

「ある意味正解ですね。金を貯め込んで、誰かのために金を使おうという発想がない人もいます。しかし、利益が出ないから払えないという場合もあります」

「それは仕方ねえだろ?だから皆苦労している。貧民を相手に仕事を作ってくれるのは嬉しいが、結果的に上下関係を作り出すだけじゃねえか?」

「ええ、ですから・・・根本からひっくり返してやりましょ?」

「どう言う事だ?」

「貧民から金が溢れ出る状況になったらどうですか?」

「どうやってだ?確かにあのイモは旨い。だが作れるかも分からねえし、お前が雇用主になれば、結果的に上下関係が出来るじゃねえか?」

「上下関係に不快感を持っているかもしれませんが、適切な上下関係は必要な事です。対等な関係とは立場や役職ではなく、人間性に求めるべき物です」

「それは分かった。だが、仕事に向かない奴はどうする?」

「まったく向かない人は仕方ないでしょうね」

「それは差別か?」

「差別ではありません。努力もやる気も認めます。しかし、向かないと安易に決め付けて、無気力でダラダラ続けるくらいなら雇う気がないというだけです」

「じゃあ、こいつらは使えないのか?」


シドさんの言いたい事は、「仕事についていけない人」が出る事に対しての懸念だ。

俺が言いたいのは、「仕事を無理強いさせたくない」という事だ。

この差を埋めるには・・・。


「視点を変えましょう。俺はこの地に、特産品を生産する拠点を作りたいと思っています。特産品を作る人だけでなく、特産品を売る人も必要になります。輸送や護衛にも仕事が増えるでしょう。料理に生かせば料理人もやれます。そしてこれらの売り上げの半分を税金に納めてもらいます」

「半分だと!?」

「半分というのは仮の話です。最初から低い税率を提案して、あとで税率を上げると反感を食うと思ったからです。具体的な税率は特産品価格次第でしょう。俺が目指すのは一袋金貨1枚。一帯が農園になれば、年間金貨数千枚の収益になります」

「・・・規模がデカいな。確かにその額なら、仕事にケチつける奴は雇えねえな」

「どっちにしても大変な仕事です。将来大きなお金になると分かっていても、続くとは限りません」

「だが、なぜ半分も税金になるんだ?」

「シドさんも言ったでしょ?「一人占めしている奴が問題」だと。貯め込む事に意味はありません。単なる自己満足です。だから税金として取るのです。つまり、官民共同事業です」

「つまり、領民のために領主に出資すると言う事だな?」

「その通りです!」


やっと方向性の一致ができそうだ。


「お前の利益はいくらなんだ?」

「1割くらいです」

「って事は、4割も領主に払う・・・いや、それは少な過ぎないか?」

「まだ男爵様にも相談してませんので妥当性は判断付きませんが、領主として受け取れるのは1割~2割程度の予定です」

「残りの2割は、どこに行くんだ?」

「公共事業・・・という所でしょうか?この辺は追々決まってきますので、税率もその後の話でしょうね」

「なんかよく分からねえな。だがハッキリしてるのは、仕事に成功すれば儲けられる事と、農業以外にも仕事があるって事だな」

「はい。それぞれがやってみたい仕事に付けばいいと思います。」


大まかには合意が取れたと判断できる。


「済まなかったな。随分突っ掛かる真似をして」

「いえ。シドさんが譲れないのは「除け者を出さない事」だと分かっていましたから」

「分かってるじゃねえか。じゃあさっそく仕事に入るとするか?」


シドさんが男達の方を向く。


「そういや、こいつら何しやがったんだ?」

「坊ちゃまを生け捕りにして、身代金を要求してきただけです」

「はああああああああ!?マジかよ!?おいお前ら!俺がいねえからって勝手な真似してんじゃねえ!」


シドさんに怒られ、大男達はさらにヘコんでいる。


「済まなかった。後でユイルには詫びを入れておく」

「あれ!?男爵様とお知り合いだったのですか?」

「昔からの腐れ縁だ」

「なるほど・・・。坊ちゃま、この者達を解放しても構いませんか?」

「・・・なぜ私に聞く?貴様が決めろ!」

「何だぁコイツ?口の利き方分かってねえんじゃねえか!?」

「・・・」

「いいんですよ。いずれは男爵領を統治される方になるでしょうし、これも社会勉強ですよ」

「まったく甘ちゃん過ぎだぜ!」

「せっかくですから、彼らにも農地開拓を手伝ってもらいましょうか?」

「いいぜ!こいつらは腕っぷしだけだが、そういうのならできるだろうよ」

「分かりました。一応彼らにも聞きますね」


俺は立ち上がり、縛り上げられた男達の前に行く。


「シドさん。いや、ヘッドがお前達を使っていいと許可をくれた!だが、やりたくない者はやらなくていい!やる気の無い奴を雇う気はない!それでもやってみたい者はいるか!?」

「・・・ヘッドが言うなら・・・」

「違う!!貴様達がやりたいのかと聞いている!これは命令ではない!ヘッドの命令も関係ない!街の者のために働こうという気概があるのかと聞いている!」


「ふぅ・・・難しく考えないでください。手先が不器用でも構いません。頭が悪くても構いません。一番必要なのは「自分のため」、そして「街のため」に働こうという気持ちです。改めてよく考えてみてください」


男達はしばらく考え込む。

シドさんはその姿を黙って見ている。




大男が語り出す。


「俺は・・・畑仕事をした事がねえ。それでもいいのか?」

「構わないです。仕事は地味で大変ですけど、うまく出来る必要はありません。やる気さえあれば構いません」

「・・・アンタのためでなく、俺達のためだ。それでいいんだろ?」

「はい。それで結構です」


口々に決意を口に出す。

中には周りの勢いに飲まれてしまった者もいたので、丁寧に説明し、それぞれ納得のいく答えを全員から得られた。

その姿にシドさんは嬉しそうだ。


「よし!お前達を開放する!言っておきますが・・・バカな真似をしないでくださいよ?」

「分かっている」


俺とガルア、シドさんの連れの人達で拘束を解く。

男達を解放すると、縛り上げた腕や強く打たれた頭を撫でている。

とくに騒動も起きず、男達の目の輝きが違うようにも見える。


早速、シドさんにお願いし、適当な候補地を考えてもらう。

それと、この地の毒イモを探してもらうお願いもした。

後を彼らに任せ、俺達は一端館に戻る事にした。




帰り際、坊ちゃまが口を開く。


「お前達は強いな」

「そうでもありません。シドさんが知り合いじゃなければ・・・血みどろな戦いになっていたかもしれません」

「そうではない。あの者達を目の前にしても、脅え一つ見せないではないか」

「ええ。慣れっこですので」

「貴様は・・・いや、あなたは私とは桁外れな存在だ。非礼を詫びよう」

「はい。いい勉強になって良かったです」

「きさ・・・あなたは厳しいですね」

「ええ。みんなからもよく言われます」

「そうか・・・お前達も苦労しているな・・・」

「そうです!兄様は厳し過ぎます!」

「そうだな!フハハハハハ!」

「やめてくれよ。・・・ヘコむよ・・・」


みんなに笑われてしまった。


「済まなかった。私はセイル・ガトリールだ。・・・あなたは何と言ったかお聞かせ頂けないでしょうか?」

「マサユキです。こっちがガルア。この子がミイティアです。2人は俺の心強い親友と、頼りになる妹です」

「そうか。ガルア殿、ミイティア殿。助けて頂いてありがとうございました」

「いいって事よ」

「はい。どう致しまして」

「それにジェリス。お前もありがとう」

「あの・・・坊ちゃま。私は何もしていません」

「なんだと!?・・・まぁいい。私はいつも護られてばかりだ。その分も纏めて感謝する」

「え?あ!・・・勿体ないお言葉です・・・」

「ジェリスさん良かったですね。なかなか聞けないお言葉じゃないのですか?」

「え?ええ。こんな嬉しいお褒めを頂けて・・・」


ジェリスさんは少し涙ぐんでいる。

その姿にセイルは、自分の愚かさを感じ取ったような顔をしている。


少し過激な社会勉強にはなったが・・・こういう小さな経験の積み重ねが、いい領主様になる糧になっていくだろう。

だが・・・まだまだ教育は必要だな!

学校の授業も受けさせたいし、畑仕事も手伝わせて領民との触れ合いも大事にして貰いたい。

彼にはもっと頑張ってもらわねば!


俺の想いを巡らす顔を見て、全員嫌な予感しかしないのであった・・・。

第37話です。

開拓計画がスタートしました。

作中に登場するシドさんは、頭脳派・カリスマタイプという設定です。


2章の決戦時の伏線がコレだったのか!?って感じですよね。

私は伏線が大好きなので、結構埋め込んでいます。

ただ、埋め込んだのはいいが、忘れている物もありそうで・・・。

な、なるべく伏線は回収したい物です。



話は変わりまして、最近30℃を超える真夏日が続いています。

下らないウンチクですが、35℃以上が猛暑日、30℃以上が真夏日、25℃以上が夏日と使い分けられているようです。


気温上昇はフェーン現象が原因のようですが、こうも暑いとなんとなく水不足が気になりますよね?

6/1(日)時点での関東の貯水率は、利根川水系94%、荒川水系68%、多摩川水系87%となっており、過去2年のデータ上では最大貯水率になっています。

なので、当面は水の問題ありません。


理屈を説明するとフェーン現象というのは、暖かい風が山に向かって吹き、雲を形成します。

雲は空気中の水蒸気の集まりです。

空気中の水蒸気が一カ所に集まり、気体から液体に変わる過程で熱エネルギーが発生します。

その熱エネルギーが、吹いてきた風の温度を上昇させる現象をフェーン現象と呼んでいます。


つまり、山側では雲が出来やすい状況なので、貯水率が高く維持されるというわけです。

一応注意としては、山の天気が変わり易いという意味になるので、キャンプなどは注意が必要です。


さて、どうでもいい話になってしまいましたが、

次回は、水曜日2014/6/4/7時頃です。若干時間をずらして投稿します。

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