第36話 男爵領に到着!
男爵領への移動は順調そのものだ。
順調な理由は、ジールさん達の存在だろう。
そこそこ名を馳せた集団だったようだし、この街道近辺はジールさん達の縄張りという事もある。
通り掛かった商人にギョっとされる場面もあったが、訳を説明した。
異例な対応である事に相手も承諾しかねたが、男爵様の顔を立ててなんとか納得してもらった感じだ。
小さな1歩だが、いずれ彼らの追い風になる事を願う。
他にも少数の何やら怖い人達もいたが、ジールさんの顔なじみとあって襲撃はなかった。
仮に戦闘になるとしても、こちらはマールを含めて14人もいる。
相手になるとしたら、最低でも30人は必要だろう。
◇
夕方頃になると、宿泊予定の町に着く。
「町が見えてきましたね~」
「マビラだな。旦那は初めてか?」
「ええ。村から出た事がないんですよ」
「へー意外だな」
「どういった町なんですか?」
「街道の町だな。宿と酒場があるくらいの小さな町だ」
「ふーん・・・」
すんなり町には入れたが・・・町人達の目が痛い。
その理由は分かっているつもりだが・・・。
大きな建物の前に馬車が止まると、中から主人らしき人が出てくる。
交渉中のゴルドアさん達と何やら揉めているようだ。
「どうしてそんな事言うの!?」
「ですから・・・」
「ミイティアどうしたの?」
「この人、マールとフェインは泊められないって言うのよ!」
なんとなく察していたが、そんなに脅えなくてもいいのにな。
「あのご主人。どうして駄目なのでしょうか?」
「はぁ。魔獣なんていると、他のお客様のご迷惑になるからです」
「では、他の宿を紹介してもらえませんか?できれば上質で、たくさん部屋のある宿が希望です」
「恐縮でございますが、当宿がこの町で一番でございます。他の宿をご紹介しても構いませんが・・・魔獣となると・・・」
「分かった。ここは1泊いくらですか?」
「・・・上の部屋は銀貨20枚。中は銀貨10枚。下は銀貨2枚でございます。上と中が個室で、下は相部屋となっています」
「なるほど・・・上と中の部屋は空いていますか?」
「・・・あの?」
「言いたい事は分かります。でも安心してください。もし他の客が銀狼で怪我する事があったら「宿代と治療費を負担する」というのはどうでしょうか?」
「・・・了解を得なければなりませんが・・・」
「じゃあ、もし銀狼に噛まれたら、宿に金貨10枚を支払います。これならどうです?」
「な!・・・分かりました。交渉してみましょう」
「その前に、えーっと・・・17人と2匹は泊まれますか?」
「ええ、もちろんです!」
「じゃあお願いします」
男爵様は呆れていたが、他の宿に行っても状況は変わらない気がする。
だったら交渉してしまった方が早いと思ったからだ。
案外早く他の客にも了解が取れた。
馬車を預け、支払いを済ませる。
宿にも食堂はあったが、ジールさんの紹介で酒場に移動する。
酒場に着くと・・・やっぱりと言うかマール達の件で揉めた。
ここは力技で強引に貸し切りにして、普通の客は半額を負担する事で合意した。
「旦那すまねえ」
「いいですよ。お勧めのお店なんでしょ?」
「はぁ・・・口に合うといいのですが・・・」
「さあさあみんな!遠慮せずに食べてください!」
最初はみんな遠慮して手を付けなかったが、遠慮せず食べるように言って食べさせる。
お腹が空いていたのだろうか?
みんなガツガツといい食べっぷりだ。
マール達は部屋の隅にいる。
最初は店主さん達に怖がられていたが、しっかり訓練されている事が分かると打ち解けてしまった。
なんでも、たまに魔獣を連れている者がいるらしい。
大抵はここまで訓練されてなく、どこかに繋がれるらしい。
フェインは女性店員にモテモテで、ぬいぐるみのように弄ばれている気がする。
一応釘を刺しておかねば・・・。
「あー。一応言っておきますが、自分達から不用意に近づいて「噛まれたから金貨を寄こせ」ってのは、なしですよ?」
「分かってますよ!フェインちゃ~ん!」
本当に分かっているのだろうか?
逆にマールは人を寄せ付けない。
ジールさん達も同様に、マールにはなかなか受け入れて貰えないようだ。
気位が高いのかもしれないが、契約が完遂するまでは気安く接する気が無いのだと思う。
俺もそれが正しいと思う。
だが、攻撃の意思がない限り襲ったりはしないはずだ。
ジールさんからは仲間達の紹介を受けたが・・・まだ覚えきれてない。
物覚えがいい方ではないというのも理由だが、無口な人が多いせいでもある。
そのうちの一人を除いては・・・。
「旦那ぁ!こんなに飲んでいいんスか?」
「ドンドン食って飲んでください。みんなもドレンさんくらいガツガツ行って構いませんよ」
男達は手を前に出して、「もういい」と無言で合図してくる。
「イエーイ!大盤振る舞い大歓迎ッス!こんなに飲んだのは久々っス!」
「おいドレン!程々にしとけ!」
「分かってるッスよ!まだまだ飲めまッスよぉぉぉ(ゴクゴクゴク)」
「旦那すまない。アイツはいつもあんな調子なんですよ」
「構いません。俺はこういう雰囲気は嫌いじゃないですよ。それにもうすぐ男爵領ですからね」
「・・・やっぱり金貨100枚の仕事とは思えませんぜ」
「額が見合っているかは(モグモグ)働き次第だと思います。それに出直すには必要でしょ?」
「はあ・・・」
なんとも違和感がある食事になったが、暗い雰囲気はドレンさんが吹き飛ばしてくれて有難い。
食事を終えた後、フーリアさんの舌の状態を確認し、薄皮を取り換える。
経過は順調そうだが、しばらくは離乳食中心の食事になるだろう。
舌は神経の集合体のような物だ。
通常の怪我とは違い、神経が元通りに治るか分からないが、元はと言えば俺の煽りが原因だろう。
だが、そうせざる得なかった理由もある。
日本人の感性で言うと、「私が悪かった」と言えば「私にも問題があった」と、自らの非を認める文化がある。
しかし、外国では「私が悪かった」と言っても、「そうだ。お前が悪い!」と開き直ってしまうのだ。
これはこの世界でも同様らしい。ただし、この世界の場合はさらに特殊だ。
力ある者が弱い物を食い物にする。弱肉強食が認められているのだ。
つまり穏便に話すためには、前提条件をクリアする必要がある。
前提条件とは「武力」である。
単純に武力同士のぶつかり合いなら、相手に非がなかろうが勝てば正義なのである。
弱肉強食の観点から言えば当然だろう。
だが、俺は話し合いに持ち込んだ。
その理由は、相手が一方的に力を行使しなかったからである。
男爵様達もジールさん達も俺達に要求するものの、出方を伺った。
だから相手に合わせて力を見せ付けた。
しかし、強大な力を見せつけ相手を屈服させる事は、単なる上下関係を生み出すだけだ。
それでは無用な軋轢を生みだしてしまう。
穏便に解決するためには、お互いの「利」を一致させる事が肝要だ。
「利」とは、人間が持つ欲である。つまり「お互いに得になる事」で合意するという事だ。
何を求めているのかの欲求の原点が分かれば、ここに至るまでの経緯が分かる。
ならば原因を改善してやればいい。単純な事なのだ。
◇
食事を終え宿に戻ると、ジールさん達は部屋に集まって何やら相談を始めたようだ。
まぁいい。彼らの生き方に俺はとやかく言うつもりはない。
俺達と男爵様は上の部屋になり、ジールさん達は中の部屋を借りた。
フロアは違うし、護衛の事もあるので丁度いいとは思う。
護衛は俺とガルア、マール、ゴルドアさん、ジェリスさんの5人で交代で行う事になった。
ジールさん達も護衛をしたいと申し出てくれたが、あえて断わった。
これは男爵様と俺との約束であって、街道移動の護衛がジールさん達の役割だと説き伏せた。
そんな訳で交代で、男爵様の護衛をしながらその日は終わった。
◇
翌朝、宿で朝食を取り、男爵領に向かって再び移動を開始する。
「ジールさん。馬車の護衛と馬の世話、ありがとうございます」
「・・・気付いていたか。俺達にできる事で仕事をしたまでだ」
「助かりますよ。実は気掛かりで何度か見に行ってたんです」
「なるほどな。だが何もなかったぜ」
「ええ。ジールさん達のおかげです」
「構わねえさ。・・・一人使えねえ奴はいるがな・・・」
ドレンさんの事だろう。
昨晩飲み過ぎて、今も辛そうに寝込んでいる。
ガルアも昼寝をしているが・・・彼の場合はやむえないだろう。
夜の護衛をずっとやってたからな。
それにしても・・・昨日会ったばかりの連中の中で、よくもまあ堂々と寝れる。
◇
男爵領に入ると、牛や羊を放牧する酪農地帯が広がる。
通りかかる人達が男爵様に挨拶をし、男爵様もそれに応えて手を振っている。
この辺りはよく巡回されているのか、怖そうな野党風の者もいない。
ただただのどかな風景が広がっている。
街に入ると、人の数はかなり増えた。
うちの村と変わらないと聞いていたが、割と人は多い。
衛兵達に何度か呼び止められる場面もあったが、その度に男爵様が説明してくれた。
理由はマール達と俺達の姿だろう。
危険も無くなったのでミイティアとマールは最後尾に移動し、衛兵達が馬車を囲んで護衛する形となった。
結果的に大所帯な一行になってしまった。
◇
しばらくすると男爵様の館が見えてくる。かなり大きい。
うちの10倍くらいの大きさはあるだろうか?
工房ほどではないが、2階建で左右に広い洋風の木造の館だ。
前庭は綺麗に整備され、大きな花壇もある。
たくさん人が集まっても十分余裕な広場もあり、貴族様の館という雰囲気が漂っている。
館の入り口には執事とメイド達が並び、男爵様のお帰りを待ちわびていた。
馬車は館の前で止まり、俺達は広場に荷馬車止めた。
「旦那様。お帰りなさいませ」
「うむ。領内の様子はどうだ?」
「お変わりありません。お嬢様はどうされたのでしょうか?」
「まだ治療中だ。後を任せ、領地の様子を見に帰って来たのだ」
「左様でございますか・・・」
執事達はイーリスお嬢様の容態が気になるようだ。
男爵様は偽の情報を流すため、嘘を告げている。
信頼できる家臣であるなら、打ち明けてもいいと思う。
どうするかは男爵様次第だが・・・まぁいずれ分かる事だろう。
馬車からメルディとフェイン、フーリアさんシェラさんが降りてくる。
見慣れない上に魔獣という事で、やはりいつもの反応だ。
「閣下!御下がりください!危険でございます!」
「よいよい。この者達は我の警護の者達である。これは銀狼といい、よく訓練されている。そのような無粋な真似は止めるのだ」
「・・・は!」
衛兵は渋々と引き下がる。
俺は閣下の元に歩いていく。
「マサユキ殿。この度は護衛までして頂いてかたじけない。この者達は、私の館の執事とメイド達だ。部屋の準備をさせるので、しばらく待っているが良い」
「ありがとうございます。皆様お初にお目に掛かります。私はキルヴィラという村の村長の息子であります、マサユキと申します。どうぞよろしくお願いします」
「ようこそお出でになられました。ささ、中でお待ちくだされ。お茶をお持ちいたします」
「申し訳ございません。私には少々やる事がございまして」
そう言って顔を荷馬車に向ける。
執事さんはすぐに察してくれた。
「閣下。お任せ頂いているとはいえ、先にあの者達の処遇を決めねばなりません。どうか寛大にご処置頂けないでしょうか」
「そちに任せたと言っただろう?そちの裁量で判断せよ」
「ありがとうございます。では、後程ご報告致します」
「うむ」
俺はメルディ達を連れ、ジールさんの元に行く。
「ジールさん、皆さん。お疲れさまでした。これで仕事は完遂となります。こちらが依頼料の残りの金貨90枚となります」
「旦那。それは受け取らねえ事にしました。罪を見逃してくれる上に、ほとんど何もしてねえ。それにフーリアの治療もある。金を受け取る資格はねえんです」
舌が完治していないフーリアさんも懇願してくる。
「アンナ、サマ。アタ、アタ、クシ・・・」
「フーリアさん。無理をされないでください。言葉は要りません。気持ちは十分伝わってますよ」
フーリアさんは無言で頭を下げてくる。
その姿にジールさんも嬉しそうだ。
「ジールさん。これは受け取ってください。前にも言いましたが、やり直すにはお金が必要です。それに・・・」
彼らの服装に視点を移す。
ボロボロの服な上、体は汚れて汚い。
「服も体も綺麗にしましょう。その姿だと護衛団をするにも苦労するでしょう。荷台に石鹸が積んであります。水場をお借りして、服も新しく用意して綺麗になってください。その費用も私がお支払いします」
「・・・あまりにも過ぎた話だ!俺達は貰った報酬でなんとかやるって!」
「駄目です!いずれは俺の部下になりたいのでしょ?なら、素直に聞きなさい」
「だがなぁ・・・」
「最初は取引を成立させるための手段でしたが、これはあなた達のやる気への投資なのです。儲かる儲からないという話ではありません。あなた達の覚悟はその程度なのですか?」
「違います!やり直したいです!」
皆、口々に意気込みを語る。
「じゃあ受け取ってください」
「・・・分かりました」
ジールさんは渋々受け取る。
「よし!今後どうするかはあなた達次第だ!元の野党に戻るも良し!真面目にやり直すも良しだ!」
「・・・いえ。やり直します。期待に応えられるか分からねえが・・・」
「まぁいいよ。生き方を変えるのは結構大変だからね」
「・・・ありがとうございます」
話がひと段落した所で、執事さんに服屋と武器防具屋を呼んでもらい、水場を借りた。
「旦那・・・こいつは本当に石鹸なんですかい?」
「うん。特級石鹸って言うんだ。国王陛下もお使いになってる物だよ」
「国王陛下が・・・どうりで金を持っているわけだ。恐れ入るぜ」
「まぁ俺としては、使った人の嬉しそうな顔を見るために作ってるからね。気にせず使ってくれ」
「旦那ぁ!こいつはスゲーや!見てくれよ!ウヒョオオオオ!」
「うるせえドレン!黙って洗え!旦那いつもすみません」
「いいのいいの!これが俺への報酬だもの!素直な感想で嬉しいよ」
「はぁ・・・」
ドレンさんはブレないが、他の連中はまだまだ萎縮している気がする。
それにしても・・・スゴイ体付きだ。
筋肉の付き方もそうだが、全身に大小の傷跡がたくさん残っている。
魔獣に付けられた痕や剣で切られた痕などだ。
長年戦い続けた歴戦の戦士らしい傷だ。
体を洗い終えると、今度は呼んでもらった服屋で買い物だ。
安い物でいいと言われたが、俺はお構いなしにいい服を揃えた。
もちろん、メルディやミイティア、ガルアの分もだ。
こんな使い方をしているとお金の心配をされるのだが、その心配は一切ない。
なぜなら、所持金が金貨4000枚近いからだ。
出発当日の俺の持ち金は金貨35枚だった。
決戦費用や小屋の建設費にほとんど支払い、学校の運営資金とリーアさんへ生活費を支払ったらこうなった。
必要経費ではあるのだが・・・我ながら金使いが荒い。
内訳は石鹸100本と化粧品20セットを王様が買取った額で計算したらしい。
そこからラミエールに支払い、これだけのえらい臨時収入になっている。
これなら当面お金には困らないし、男爵領で人を雇って畑を作る事も可能だ。
畑はそんなに大きな物にはならないとは思うが、何分俺には経験がない事だ。
農家の人に助言を求めたり、道具を作りながら試行錯誤する事になるだろう。
時間との勝負となる現状としては、心強い援護だ。
無駄遣いするつもりはないが、有意義に金を使いたいものだ。
新しい服に着替え装備を整えると、みんな立派な戦士になった。
フーリアさんもシェラさんもお嬢様風に変貌した。
石鹸の効果もあるだろうが、元々美人な2人だし、当然の結果だろう。
ジールさんの顔が赤い。
みんなも見惚れているが・・・目線が違う。
みんなメルディとミイティアの姿に目が釘付けだ。
ジールさんはフーリアさんに蹴飛ばされている。
気持ちは分かるが・・・浮気はいかんぞ。浮気は!
・・・俺も気をつけねば・・・。
ミイティアとガルアの装備も整えさせた。
一時は自分で支払うと言っていたが、ここまで来て自腹というのはジールさん達と扱いが変わるという事で無理やり納得させた。
高価な装備ではないが、肩当てと胸当てに部分的に鉄製防具が付いた物を購入した。
俺は皮の胸当てとベルトを新調したくらいだ。
色々理由はあるが、重量が軽くて、体の動きを邪魔しない物がなかったからだ。
その代わり服は何種類か色々購入した。
あとは特注にはなるが、マールとフェインの皮の防具も依頼した。
一応ベスト風の物は付けているが、もっと分かり易い形状と簡単な鞄、あと背中に乗る事を考慮した鞍を作ってもらう。
あとは友軍表示のための紋章を付ける場所も依頼した。
ここに着くまでに何度も悶着があったのだ。こういう配慮を優先させておかないと、マール達には苦労ばかり掛けてしまう。
紋章があれば、さすがに無下には扱わないだろう。
当面は男爵様の紋章を借りる事にするが、いずれは俺の家紋でも作って付けさせてやりたい。
みんな綺麗になった所で、男爵様のお誘いで昼食となる。
「さあ皆の者。遠慮せずに食べてくれ。好きなだけ飲んでも良いぞ」
「ありがとうございます。さあみんな、頂こうか」
貴族様の食事とあって、なかなか美しい見栄えと味だ。
テーブルマナーを知らないジールさん達は仰々しく不器用に食べていた。
道中での付き合いもあって男爵様から「作法は気にする必要が無い」と言われると、みんな気楽になったのかすごい食べ方だ。
ドレンさんは期待を裏切らない。
手掴みで騒ぎながらモリモリ食べている。
ジールさんとフーリアさんに怒られているが・・・なんとなくビッケルさんに似ている気もする。
まぁ食事が楽しいのはいい事だ。
◇
食事が終わり、一息ついた頃合いを見てジールさんに話し掛ける。
「ジールさん。今後の事でご相談があります」
「ああ・・・」
「フーリアさんの事ですが、療養のためにお預かりしてもいいでしょうか?念のために申しあげますが、人質としてではありません」
「構わないが・・・いいのか?」
「館に置いて頂けるかはこれから交渉しますが、傷の治療はもうしばらく必要だと思います。舌というのは神経組織が集合している場所です。うまく治せるかは分かりませんが、是非やらせてほしいんです」
「嬉しい申し出だが・・・なぜそこまでする?」
「あの怪我は俺が付けたような物です。俺に出来る事で力を尽くしたいんです」
「・・・分かった!フーリアを任せよう。シェラも一緒に残していいか?」
「分かりました。お預かりさせて頂きます」
「頼む」
「もう1つお願いがあります。この書簡をキルヴィラの工房長に届けて欲しいんです。依頼料は金貨2枚でいいですか?」
「金貨2枚は多いと思うぜ?銀貨でいい」
「人数も多いですし、適正価格が良く分からないんですよ」
「言い分は分かるんだがなぁ・・・」
「それに今後、村と男爵領を往復してもらいたいんです。荷馬車は使ってもらって構いません。お願いできませんか?」
「引き受けよう。だが手数料は考え直してくれ」
「追々調整しましょう。たぶん今後はもっと高額な報酬になると思いますが、仕事に見合った額をお支払いします」
「そいつはすごいな!仕事のやりがいがあるって物だ!」
「ええ。それとは別件で、街道沿いのお知り合いも輸送団に加えてもらえませんか?もちろん判断はお任せします」
「いいのかよ?アイツ等は俺達と違ってやり方が違うぞ」
「ですから「お任せします」と言ったのです。ジールさんがどういった輸送団にしたいかで人選基準が変わってきます。それに、ジールさん達だけが甘い汁を吸っていると思われたら、逆に標的にされかねません。輸送団が大きくなるのと同時に街道の安全が確保されれば、仕事もよりやり易くなるはずです」
「なるほどな・・・分かった、やってみよう」
「念のために忠告ですが、事前に決まりを決めておく事が肝心です。現メンバーも同様に決まりを守らせ、違反者は追い出すなり責任を取らせるようにしなければなりません」
「その辺りは傭兵時代によくやっていた。心配いらないだろう。判断が付かなかったら、相談させてもらってもいいか?」
「ええ。私は当分ここにいます。その時にお聞きしましょう」
「よろしく頼む」
「こちらこそ」
書簡をジールさんに託す。
仮ではあるが、俺専属の輸送団が出来た。
専属とは言うが、彼らの主任務は贖罪と街道護衛だ。
時間は掛かるだろうが、輸送が安定に行えるようなるし、町の活性化にも繋がる。
経済を立て直すには道からと言うし、彼らはその先駆けとして活躍してもらいたい。
話が終わえると、ジールさんはフーリアさんとシェラさんに事情を説明し、俺は男爵様と交渉する。
男爵様から許可が得られ、フーリアさんとシェラさんは館でお世話になる事になった。
話が終わると、さっそくジールさん達は館を出る。
フーリアさんとシェラさんに見送られ、新たな一歩を踏み出した。
フーリアさんが、腕に付けられた紐を眺めている。
「それ、気になります?」
「イエ」
「その紐は相手を傷つけるなど、犯罪を犯すと切れる仕組みになっています。あなた方を信用していない訳ではないのですが、罪を償うまでは付けてもらいます。贖罪を全うし、十分な功績を上げれば取ってあげますよ。それに、その紐がある事で罪の意識を感じられますからね。見栄えは悪いですが辛抱してください」
「ハイ。トウ、エン。トウエンデ・・・」
「いいですよ無理しなくて。さて・・・2人はジールさん達を助けるために何か覚えてみませんか?」
「何をですか?」
声が出せないフーリアさんに代わって、シェラさんが聞いてくる。
「例えば、輸送団の宣伝をするための張り紙を書く語学や、収入や給料計算をする算術です。2人は非力とあって隊では後方支援でしたが、拠点を構えて本格的な仕事にしてみる気はありませんか?」
シェラさんはフーリアさんと話し合う。
「フーリア姉さんもやってみたいそうです。私達に教えてください」
「分かりました。メルディ。2人の先生を受け持ってくれないか?」
「はい。お任せください」
「一応言っておくけど、家事とかはメイドさん方がやってくれるから、当面は授業に専念して欲しい。慣れない場所だし道具も揃ってないけど、不都合があったら言ってくれ」
「分かりました。マサユキ様はどうされるのですか?」
「俺はさっそく男爵領を見てくるよ。ミイティアとガルアを連れていくね。マールとフェインはお留守番でいいかな?」
フェインは納得してないようだ。
結局マールに言い聞かせられて、渋々残る事になった。
こればかりは仕方ない。
2匹の特注の防具はまだ出来てないし、領民達も2匹には慣れていない。
いずれは領民達に紹介して理解を得るつもりだが、その前に俺達自身が認知されなければならない。
マール達には悪いが、もう少し待っててもらおう。
衛兵さんかジェリスさんに領内の案内をしてもらおうと館に戻ると、一人の青年が仁王立ちしていた。
どこかで見た立ち姿でもあるが・・・服装からも男爵様のご息子様だろう。
「これはこれはご子息様。私は商人をしています、マサユキと申します。どうぞお見知りおきを」
「フン!貴様ら下民に名乗る名などない!」
「分かりました。では「坊ちゃま」と呼ばせて頂いても構いませんでしょうか?」
「フン!」
どうにも偉そうだ。
でもまあ・・・ニヒ。
「私は男爵様にお願い致しまして、この男爵領に新たな農地を開拓をしようと考えています。何分田舎者でして、領民にも知り合いはおりません。坊ちゃまなら領民達にも一目置かれた存在でしょう。もしよろしければご見聞を兼ねて、領地をご案内を頂けないでしょうか?」
「そうかそうか!私に付いてきたいのだな?ならば、しばらく待ておれ」
「畏まりました」
坊ちゃまはメイドに申し付けて、側近を呼ぶ。
男爵様の警護もあるので、ジェリスさんが付いてくる事になった。
メイドさんには伝言をお願いした。
坊ちゃまは馬に乗り、ジェリスさんが馬を引く。
その後に俺達が続くように館を出た。
さて・・・グフフ。きっと面白い事が起きるはずだ。
最近張り詰めていたからストレス発・・・もとい、社会勉強だな!
俺のニヤけ顔に、ミイティアとガルアは「また悪だくみしてる」と心の中で思うのであった。
第36話です。
マサユキ専属の輸送団が出来ましたね。
私の悪だくみスキルから言うと・・・標的にしたいような、したくないような・・・。
なんか・・・ストレス溜まっているのでしょうか?
ゆっくり温泉でも浸かって、リフレッシュした方がいい気がしてきます。
最近体のバイオリズムについて、研究を始めました。
仕事って意味ではないですよ?趣味って意味です。
体調が悪くなる兆候に、規則性がある気がしています。
まず、食欲が異様に上がったり、下がったりする。
寝つきが悪くなる。
体のどこかが痛い。
口内炎や歯周病などで痛む。
妙に味覚が敏感になる。
これらの兆候が見えたら、風邪を引きます。
風邪を引くと、食欲が減り、より寝つきが悪くなり、集中力が減退してきます。
治すには、風邪薬が一番のようです。
早めにぐっすり眠るのも手のようです。
たまに不眠症というか、まったく寝れない事があります。
そういう時は、耳栓が結構有効です。
民間療法というか、まったく根拠はありませんが、人によっては有効だと思いますのでご参考までに。
では、次回は月曜日2014/6/2/10:00です。
以前お伝えしましたが、月10時、水7時、金18時で、余裕があれば日曜0時という感じになります。