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黒の錬金術師 -黒の称号を冠する者-  作者: 辻ひろのり
第2章 眠りから覚めて
35/117

第34話 愛の形。そして出発

朝起きると・・・空気が違う。気分が違うだけかもしれない。

準備を整え1階に降り、そのまま外に出る。

あとはいつものルーチンワーク。





食事を終え、書き残しておく事を紙に纏める。

なにやら外が騒がしい。子供達が集まっているようだ。


外に出るとみんな駆け寄って来て、挨拶をしてくれるが・・・何か様子がおかしい。


「みんなどうしたの?」

「校長先生行っちゃうの?」

「聞いていたか・・・。うん。俺は男爵領に出掛ける事にしたんだ」


子供達は黙り込んでしまった。

予定とは違うが・・・。


「さぁみんな。席に着いて。今日は俺が授業をするよ」

「はい」


みんなが席に着く。


「さて、今日は授業というより、学校生活における心得について話す」


「学校が始まって4年経つ。成人を迎えた者もそうでない者もいる。しかしうちの学校には卒業という制度がない。卒業というのは、知識を習得した事を学校として認める制度だ」


「現状、卒業相当と認められるのは、メルディ、ミイティア、ガルア、ラミエール、メーフィスの5名だ。俺は教師もしているが、在学中という意識を持っている」


「彼らは学校の先生をやっている。仕事を始めている者もいる。彼らのようになりたいと思う者も多いと思う。さて、彼らと君達の違いは何だと思う?」

「仕事をしている事ですか?」

「それでは50点だ。ゲルト、他にはないかな?」

「・・・分かりません」

「質問の方向性を変えよう。君達は何のために学校に来ている?」

「強くなるためだ!」

「何のために?」

「魔獣を倒したり、みんなを護るためだ!」

「じゃあ、それでどうやって金を稼ぐ?」

「・・・工房に雇ってもらうさ」

「確かにこの村で働くとすれば、剣術の技術も必要だ。でも語学や算術の知識はいらないのかい?」

「工房で計算もするだろ?手紙も書くはずだ」

「そうだね。正しい答えだ。でも校長の立場としては、「それで終わり?」って感じ。もっと自分の可能性を考えてみてもいいかもね」

「・・・」

「オルド。落ち込むなよ?」

「はい・・・」

「さて3つ目の質問だ。俺の考える卒業の線引きはどこだと思う?」

「・・・年齢でしょうか?」

「俺も在学中だと言ったでしょ?気にするのは分かるけど、シルリア次第だよ」

「・・・はい」


子供達は皆黙り込む。

答えが出せないようだ。


「ちょっと話は変わるが、俺は人より物知りというだけで、何の技術も持ち合わせていない。医術はラミエールが上だし、木工技術はガルアには及ばない。剣術ではミイティアに劣る。メーフィスのように算術を極め、知識を深く学んでいるわけでもない。メルディのように地道で努力家でもない。そんな俺がやっているのは、俺の知識を元に誰かの役に立ちたい足掻いているだけだ」


「俺は何でも出来るように思われがちだが、俺は彼らと比べても劣るし、かなり不器用だ。語学でさえ未だに習得できていない。だけど君達の目には俺はどう映る?違うはずだ。君達は自分のできる事に対して無意識に制限を掛けている。つまり視野が狭いんだ」


「さて、俺は3つの質問をした。「彼らと何が違うのか?」「何のために学校に来るのか?」「卒業の線引きはどこなのか?」これらは基本的に同じ事を聞いている。じゃあ、これらに共通する事は何なのか考えてごらん」




しばらくして、ミリーが質問してくる。


「校長先生、質問いい?」

「うん。何かな?」

「心得って何ですか?」

「・・・ミリーこっちにおいで、教えてあげるね」


そう言って、少し離れた場所で「心得」について説明する。




ミリーは説明に納得してくれた。

ミリーが席に着くと、シルリアが聞いてくる。


「ミリー。校長先生は何って言ってたの?」

「教えなーい」

「・・・イジワル」

「って事はよ。心得ってのに意味があるんじゃねえか?」


皆「心得」という言葉を中心に考え始める。

俺は皆の考えの邪魔にならないように離れた場所で説明しただけなのだが・・・勘違いされてしまったようだ。


「なんかミリーの質問で混乱してそうだから、一応補足を入れておこうか?」

「はい」

「例えば剣術の心得の「無闇に力を行使してはいけない。」これは規則としてみんな知ってる事だと思う。でも、以前ボウガンの扱いについてお説教をしたよね?あの時なぜ叱り付けたか思い出して欲しい。ボウガンは試作品に分類され、完全に安全性が確保されているわけではない。使い方を誤れば死者が出てたかもしれない」


「そこで俺は「構造と危険性を意識しろ」と言った。単純な作りだから、みんなすぐに理解できたと思う。でも本来は自分で気付いて意識しなきゃならない事なんだ。つまり表面上の言い付けだけ守っても、本質的な意味が分かっていないと心得としては不十分なんだ」


「まとめると剣術の心得とは、力を行使する目的を明確にし、特性を深く理解し、状況に応じて使い分けるという事だ」

「・・・あ!」

「シルリアは何か気付いたかい?」

「・・・自信ありません」

「まぁ答えてみてよ」

「えっと・・・「意識の違い」だと思います。先生達とは目線という意識が違います。学校は知識を教えてもらうだけじゃなくて、自分にどう生かすかという意識が必要です。卒業の線引きは・・・分かりません」

「ほぼ正解かな。大切なのは「目的意識」だ。自分の夢を実現させる為の準備をする場所が「学校」だ。そして夢に向かう準備が完了し、歩み出した瞬間に「卒業」となる。俺が彼らを卒業相当と言ったのは、「卒業した」と断言してしまうと、必要に迫られても学校に通えないという意識を持って欲しくないからだ。それに俺が卒業を認定している訳ではないからね」

「なるほど分かりました!」


この解説で分かった子もいれば、分からない子もいる。

考える事が大事だし、分からなければ聞けばいい。


子供達に考えさせている間に、ラミエールとメーフィスに今後の相談をしておいた。





まだ1時間くらいしか経っていないが、話を切り上げる。


「(パン!パン!)さあみんな!考えは一端止めよう!答えは人それぞれ違うから、自分で答えを出さなきゃ駄目だからね」


子供達に新しく作った剣と防具を与える。

ゲルトは2本の新しい剣に喜んでいる。


「今回ゲルトには2本剣を渡した。これは彼の特性を生かすための装備だ。ただこれが適正なのかは、ゲルト自身が考える事になる。みんなも同じだ。自分達の武器や防具に疑問があるなら、親方さんに相談しなさい。もう話はしているので自分に合わせて調整するように!」

「校長先生。この剣や装備もそうですけど・・・お金掛かり過ぎてません?」

「結構掛かってるよ。でも必要な事だろ?」

「そうかもしれませんけど・・・俺達は貰ってばかりで・・・」

「後ろめたいなら将来何かで返してくれればいい。すぐじゃなくていい。お金じゃなくてもいい。ゲルトの出来る事で構わないよ」

「・・・分かりました!」

「みんなにも言っておくが、受け取る受け取らない、返す返さないも自由だ!俺の気持ちにどう応えるかは、君達次第だ」

「はい!」

「忙しないが、授業はこれで終わりにしよう。みんなには頼みがある」


子供達は口々にやる気を伝えてくる。


「みんなには「ジャガイモ」を掘って欲しい。できるだけたくさんだ。お願いできるかな?」


みんな了解してくれた。

片付けをさっさと済ませ、ジャガイモを掘りに向かっていった。

さて俺は・・・。





時は夕方。

ジャガイモは子供達が頑張ってくれて、かなりの量が取れた。

薬も大量に作った。補充用も完璧だ。

アンバーさんへ加工品のレシピも渡したし、荷物が多いので荷馬車も用意し、男爵様の馬車にも荷物を積み込んだ。

あとはメルディの説得かな・・・。


「閣下。馬車を使わせて頂いて、ありがとうございます」

「いやいや。こちらからお願いしたのだ。些細な事だ。気にするな」

「閣下の領地には、どれくらい掛かるのでしょうか?」

「途中村をいくつか経由するが、2日程度で着く場所だ」

「なるほど近いですね。どんな所か楽しみでございます」

「何もない所だぞ?この村と大して変わらん。少しばかり人が多い程度だ」

「いえいえ。私はこの村を出た事がございません。楽しみで仕方がないのです」

「そうか・・・そちは数年前にこの村に来たと言っておらんかったか?」


あ!


「き、記憶が曖昧でございまして、あまり詳しく聞かれましてもお答えする事ができません・・・」

「・・・そうか悪かったな。人にはそれぞれ事情があるだろうしな」

「お心遣いに感謝致します」


危なかった。男爵様が気を利かせてくれたから良かったというものだ。

明日は早いという事もあり、さっさと風呂に入る。





風呂から上がり、メルディを探す。

ミリアさんから2階のメルディの部屋にいると聞いて、部屋を目指す。


部屋に着き、「トントン」とノックする。

するとメルディが出てきた。


「メルディ。昨日の話なんだけど・・・」

「マサユキ様、良ければ中へ」

「う、うん」


何か雰囲気がいつもと違う。

そりゃーそうだろう。

勝手に「俺の嫁」宣言しといて、メルディを置いて男爵領に行こうってのは、普通に考えても心苦しい。


「メルディ。また勝手に話を進めてごめんね。でも・・・」

「いいのです。もうお決めになった事でしょ?私はそういうあなた様に惚れ込んだのです。あなた様の好きなように振舞って頂ければ、それが私の幸せなのです」

「・・・」


しばらく沈黙が流れる。


「メルディ。その・・・メルディを俺の妻だと宣言してしまってすまなかった。その・・・いつかは言おうと思ってたんだ。今すぐは無理だけど、俺の・・・」

「マサユキ様」


メルディに話を遮られる。


「その事でお話がございます」


メルディの表情は真剣だ。

そして、ゆっくり話し出す。


「以前、私の生い立ちを話しました。その時、奴隷になったという話は覚えておいででしょうか?」

「うん。孤児院にお金を入れるためだったね。そう言えば孤児院用にお金を渡してなかったね」

「いえ。それは大丈夫です。石鹸の利権と国王様からも援助が出ているようです。今回はその話ではございません」

「・・・うん」

「あの話には話し足りてない事がございます。奴隷となり、馬車でいくつも街を回る前の話でございます」

「・・・」

「マサユキ様は烙印についてお話をされました。実は・・・私には烙印がございます」

「え?!だって・・・いや全部確認したわけじゃないけど、見当たらなかったと思うよ?」

「ええ。烙印というより、呪印と言うべきでしょうか?私は・・・呪印により子供を産めない体でございます」

「・・・」

「ですから・・・子供は産めません。・・・お嫌でしたら結婚はせず、捨ててください。そしてミイティアを妻として子供をお作りください」

「・・・だからあんなに・・・」

「いえ。マサユキ様を愛しているからこそ、ミイティアにも幸せになってほしいのです」

「・・・メルディは勘違いしている」

「・・・」

「俺はメルディだから結婚したいと思ったんだ。できればメルディとの子供を作りたい。でも・・・産めない体だからと言って断る理由にはならないよ。ダエルさんとリーアさんだってそうだ。子供を産めなくても幸せな家庭を作り上げたじゃないか。俺達だってできるよ。だから・・・そんな悲しい事は言わないでくれ」


メルディは泣いた。俺にしがみ付き、泣きに泣きまくった。


どんな時も泣き事一つ言わず、献身的で、優しくて、時には厳しい。

だけど、俺の孤独さを側でずっと支えてくれていた。


彼女はもう・・・無くてはならない存在だ。だから、この程度の事では何とも思わない。

俺は彼女に幸せになって欲しい。ただそれだけが望みだ。


落ちつくまで優しく髪を撫で続けた。




「メルディ。聞いて欲しい。俺がなかなか誘いに乗らなかった理由だ」

「はい」


メルディは黙って俺の話に耳を傾ける。


「俺は昔学生をしていた頃、付き合っていた女の子がいたんだ。その子は先天的に病弱な体質の子だった。とても奥手な子だった。でも俺の話にいつも耳を傾けてくれたいい子だった。俺は自分の意見を押し付けたり、勝手にいなくなったり、彼女を振りまわしてばかりの最低な男だった。でも・・・俺は彼女を愛していた」


「ある時彼女は・・・1通の別れの手紙を寄こした。急な話し過ぎて、理由が分からなかった。簡単に会える距離ではなかった。俺は何度も手紙を出した。でも・・・返事は来なかった。俺は何も考えずに彼女の家に向かった。・・・それでも彼女は俺に会ってくれなかった」


「何年か経って、彼女から手紙が届いた。会ってくれるという返事だった。俺は授業を放り出し、彼女の元に向かった。彼女は前と何も変わらない、いつも通りの姿に映った。そして久々の会話を始めると、1つの写真を見せてきた」


「それは白黒の写真だった。真ん中が少し白っぽい写真だった。彼女は「あなたの子よ」・・・と言った。その時の俺はその意味が分からなかった」


「それから何年かして・・・やっと悟った。あの写真は俺の子なんだって。俺が本能に負けて、無残に植え付けてしまった尊い命だったと・・・」


「今さらかと泣いた。彼女はまだ幼かった。大分歳も離れていたから世間でも簡単に受け入れられる歳ではなかった。俺も学生で、仕事を本格的にやっていなかった」


「俺は今でもその事をよく思い出す。だから・・・」


俺は涙を流していた。

メルディが優しく抱き寄せ、髪を撫でる。


「俺はちゃんと一人前になって、愛する者を守れる存在になりたかったんだ。だから、だから・・・」

「いいのです。マサユキ様は立派になられました。辛かったですよね。・・・私はどこまでも付いて参ります。だから安心してください」


俺は年甲斐にもなく泣いた。

メルディに何度も優しく撫でられ、何度も励まされた。

そして、心から愛し合う夫婦となった。





時間は少し遡り、イーリスお嬢様が「私の婿になりなさい」宣言をした後の話。


「ミリア?私には魅力が足りないのかしら?」

「イーリス様。そのような事はありませんわ。イーリス様を欲しがる殿方はたくさんいらっしゃいます。マサユキ様は・・・メルディ様が妻でいらっしゃるからお断りになっただけでございますわ」

「そうなのかしら?」

「イーリスお嬢様。私はマサユキ様の妻ではございません」

「え?そうなの?・・・じゃあ、なんで断わられたのかしら?」

「あの方はお付き合いに順序を重んじられる方でございます。お嬢様がこちらにいらっしゃって間もないですし、それほどお話もされていません。マサユキ様は恥ずかしがっているだけでございますわ」

「そうなの?マサユキ様はメルディさんを妻と認めていて、メルディさんは妻ではないと言う。・・・それに私が求婚しても、メルディさんはあまり気にされていないけど、どうしてなの?」

「それは・・・」

「メルディさん。私は男爵家の娘以前に1人の女です。そしてあなたとは友人になりたいの。できれば事情を教えてもらえないかしら?」


少し間が空く。




そして告白を続ける。


「私は奴隷でございます。マサユキ様の奴隷という意味ではございません。この家の娘として家族に受け入れて頂いてます」

「うん。そういう話は聞くけど、夫婦になれない理由ではないわよね?」

「奴隷の女には子供が出来ない呪印を打たれます。ですから・・・私には子供が出来ません。あの方の子供を産ませるためにも多くの妻を持つべきなのです。私はあの方の側に居られれば・・・それだけいいのです。ですからお嬢様とマサユキ様が恋仲になってくれる事は嬉しいのです」

「・・・メルディさん。それは本当の話なの?」

「私もその事実を知ったのは2年ほど前なのです。理由はラミエールがよく知っています」


ラミエールにみんなの視線が集まる。


「えーっと・・・。やはり説明が必要ですわね。簡単に言いますと、メルディさんには月の物がありません。強制的に妊娠しない体にされています。気付いたのは2年前の冬です。珍しくメルディさんが風邪で寝込んでいまして、診察に伺った時に気付きました。私はマサユキ様とメルディさんは結婚を約束された仲だと思っていましたので、なんとか治療に挑んだのですが・・・駄目でした。マサユキ様なら何とかしてくださるかもしれませんが・・・」

「マサユキ様は特別な能力でもお持ちなの?」

「え?!あ!」


口を滑らせてしまったラミエールが挙動不審になる。

メルディが覚悟を込めた声で話し出す。


「イーリスお嬢様。お話しても良いのですが、ご内密にお願いできますでしょうか?」

「え?・・・ええ。何か怖い事なの?」

「いえ。マサユキ様のお命に関わる事です。相応の覚悟が無ければお答え出来ません」

「・・・分かったわ。約束する」

「ありがとうございます。・・・あの方は特別な力をお持ちでございます。今では普通に手に入る石鹸を作り出したのは、マサユキ様でございます。そして先の石鹸騒動の最大の被害者でございます。石鹸の製法を奪われ、不良品が出回り、苦情が舞い込み、村は周りから孤立する事になりました。マサユキ様はそれを見かね、村の再建のために新しい試みに挑戦されています。今やっと順調に進み始めた所なのです。ですから・・・マサユキ様の特別な力目当てに付け狙う者や、ねたみなどで評判を下げる者が出ないよう、この事を知っている者は皆マサユキ様をかばい護っているのでございます」

「・・・だから私の病気も治ったのね?」

「その通りですわ。マサユキ様は私の師匠です。イーリス様がお使いになった「偽の若返りの薬」ではなく、「本物の若返りの薬」を作った方です。私が同じように作っても金貨10枚の値段ですが、あの方に掛かれば金貨100枚となります。これだけの力を持っているにも関わらず、あの方はおごらず、威張らず、そして誰も見捨てません。お嬢様がここにいらした時も、脅しだけで戦闘をするつもりはなかったようです。覚悟だけはしておくようにと言われましたが、私達はあの方を信じています。必ずやり遂げるという確証が持てる方なのです。ただ恋愛に関しては・・・いつもあの調子ですわ。ですからイーリス様。どうかご内密にお願いします」

「私めからもお願い致します」


イーリスお嬢様は、2人に頭を下げられ一瞬戸惑うが、あっさり言い放つ。


「分かりました!その話は口外致しません!我ガトリール家の名にかけて、お約束致しますわ!」

「「ありがとうございます」」


メルディとラミエールはその言葉に喜ぶ。


「ところで・・・メルディさんはご結婚されないのかしら?」

「いえ、ですから・・・」

「分かっているわ。それでもあなた達は結婚すべきよ。あなたが信じるマサユキ様は、そんな事で戸惑う人ではないでしょ?」

「・・・」

「分かってないわね~。そんなだと私が奪い取りますわよ?」

「構いません」

「嘘をおっしゃい!あなたがそんなだから・・・ムー!押し倒しておしまいなさい!」

「・・・以前、寝室に押し掛けた事がございます」

「で?できたの?」

「いえ・・・断られました」

「ムキー!なんて男なの!従順で気が利いて、しかもこんな美人なのに!もういいわ!もうあなた達は結婚しなさい!これは命令よ!」

「・・・努力します」

「ダーメ!結婚しなかったらバラすわよ!」

「その時はお嬢様であってもお命を頂戴致します」

「うっ・・・。と、とにかく命令よ!命令!もうあなた達は結婚しなさい!いいわね?!」

「・・・はい」


ミリアさんとラミエールはそのやり取りを見て、ケタケタと笑っている。

そしてミリアさんが使っていたメルディの部屋を彼女に返し、見事結婚を果たしたのだ。





再び時間は、男爵領へ出発当日に戻る。


朝起きると、メルディの姿はなかった。

この部屋で寝るのは何回目だろうか?・・・思い出せない。

だけど、昨晩語り合った事は鮮明に思い出す。


俺は彼女の秘密に泣き、彼女は俺の思い出に泣いた。

悲しみに同情するのではなく、お互いを認め合えた。


そして俺は1つの決断をする。


「必ず呪印を解いてみせる!」


人を商品として、奴隷を扱う人間が憎い。

互いに納得した上での契約だとしても・・・これは酷過ぎる。

今の俺には彼女の呪印を解く術はない。

下手に解除を試みれば、どんな事が起きるかも分からない。


呪印に対する知識も必要だし、魔力や魔術に対する知識もいるだろう。

嫌な相手に媚を売り、その上で呪印の方法を覚える必要もあるかもしれない。

もしかしたらこれは、世界をも変える大きな事なのかもしれない。


だが俺はやる。

何年掛かろうが、必ず彼女を解放してみせる。

俺は静かに決意を固め、服を着て1階に向かう。





1階には、朝食の準備をするメルディやリーアさんの他にミリアさんがいた。

ミリアさんが気を利かせ、昨夜はソファーで寝ていたようだ。


「ミリアさん。おはようございます。昨夜はお気遣い頂きまして、ありがとうございます」

「いいのですよ。大事な時間だったのでしょ?そんな2人のためにこのソファーで寝る事くらい大した事はありませわ!それにマールちゃんやフェインちゃんと一緒に寝ましたから、最高の一夜でしたわ!」

「そうですか・・・。マール、フェイン。ありがとう」


フェインは喜んでいるが、マールは気にしていないようだ。

いつも通りの朝を迎えられて、なんだが安心した。


メルディが気を利かせて、お茶を勧めてくる。


「マサユキ様。お茶をお出ししましょうか?」

「いやいいよ。朝の運動と薪割りをしておくから」

「分かりました。準備が出来ましたらお呼びいたしますわ」

「分かった。お願いするね」


メルディもいつも通りのようだが、表情から気分は軽そうだ。

隠し事を打ち明け、夫婦になれた事を嬉しがっているのだろうか?

まぁいい。今は最高に気分がいい。


俺はいつもの日課を始めるため外に出る。

妙に荷物が増えた馬車が気になるが・・・気にせず日課に取り掛かる。





朝食の準備が済んだようだ。

男爵様もテーブルについている。


「お待たせしました。いつもの日課なもので、少々汗臭いかも知れませんが」

「構わんよ。ここはそちの家だ。我らは客人ではあるが、もうそのような間柄ではないだろ?気にせんでもよいぞ」

「はい。ありがとうございます。では食事にしましょう。今日は長旅になりますし、しっかり食事を取りましょう」


俺達は朝食を食べ始める。





食事を終え、いつもと同じく食後のお茶を楽しむ。

食事中もそうだが、さっきから家が慌ただしい。


そう言えば、俺の服とかの支度は済んでいない。

そのために動いているのだろうか?


出発する前に風呂に浸かりたい。

男爵様に断わって、汗を流すとするか。


「閣下。少し風呂に入って汗を流して来ようと思うのですが、構いませんか?」

「構わんぞ。何度も言っているだろう?ここはそちの家じゃ。好きにするがよい。それにまだ出発には時間がある。急がんでも良いぞ」

「ありがとうございます」


俺は風呂場に行き、さっと体を洗い湯船に浸かる。

しばらくはこの湯船ともお別れだ。

じっくり浸かりたいが、長湯でバテてもいけないし適当にあがろう。

そう思っているとメルディが入ってきた。


「マサユキ様。出発の荷の準備が出来ましたわ。ご心配されなくても用意しておきましたので」

「ありがとう。いつもメルディの気配りには感謝だよ」

「はい。先に行ってますので、ごゆっくり」


なーんか引っかかる気がするんだけど・・・まぁいいや。湯を堪能しよう。





湯から上がって、服を着る。

少しいい服だ。

どこで手に入れたんだろうか?


変な疑惑を感じながら外に出ると・・・たくさん人がいた。

親方さん、アンバーさん、ビッケルさん、ガルア、ミイティア、マール、フェイン、ラミエール、メーフィス、リーアさん、男爵様達、子供達、そしてメルディだ。


みんな勢揃いでビックリしたよ。それにミイティア・・・なんだその荷物は?


「ミイティア・・・まさか付いてくる気か?」

「はい!もちろんです!」

「よく見ればガルアもか?」

「俺を置いていく気か?」

「連れていく予定は無かったぞ?」

「気にするな。お前は弱いからなぁ。護衛は必要だろ?」

「弱い事は認めるが・・・」

「まぁそう言うなよ。メルディ姉さんも行くんだしよ。護衛が多いに越した事はねえよ」

「はああああああああああ?!」

「マサユキ様。私もお供させてください」

「・・・これは・・・誰だ考えたのは?」

「みんなですわよ。マサユキさんが出掛ける聞いて、みんなで話し合いましたの。イーリスお嬢様はこちらに残りまして、私の弟子として修業に入りますわ。付き添いでミリアさんにもこちらに残って頂く事になりましたわ。学校の方もお任せくださいな」

「ラミエールの言う通りです。僕だって授業ができるんですよ?お給料も頂きましたし、仕事としてしっかりやり遂げますから心配しないでください」

「というわけだ。坊主、受け取れ!」


親方さんは鞄と大きな箱を渡してくる。


「・・・親方さん。これは何でしょうか?」

「ああ。袋にはお前の鍛冶道具が入っている。箱は今度出荷分の代金の前払いだ。天引きも済ませてあるから気にするな」

「えーっと・・・。ありがとうございます」

「おう!」

「マサユキ。工事の方は私達に任せてくれ。力仕事なら私にでもできるしね。それに木も今のところは順調だよ。今度帰ってきたら見てあげてくれよ」

「アンバーさん。ありがとうございます。楽しみにしておきます」

「なんか、みんなすごい送り出しだね。僕はマールとフェインに会えないのが寂しいよ」

「ビッケルさん。すぐに戻りますって。遅くても冬までにはですが(ニヒ)」

「もおおおお!」

「リーアさん。良かったのですか?家は1人になってしまいますし、みんな旅立ってしまうと危険じゃないですか?」

「マサユキ!私を舐めているわね?私はこれでも昔はあの人と一緒に旅をしていたのよ。それにイーリスお嬢様とミリアさんがいるしね。寂しくは無いわ・・・うぅっ」

「リーアさん。ありがとうございます。ミイティアとメルディは俺が護ります」


その後、子供達から口々に別れの挨拶をされた。

シルリアは泣かないようにしているが、ファウとエリーゼはすごい泣きようだ。


「みんな。学校はこれからも来るんだぞ。リーアさんを助けてあげて欲しい。それに俺のいない間に新しい仲間が増えるかもしれない。その時は仲間外れにしないで一緒に助け合うんだぞ」

「「はい」」


子供達の精いっぱいの返事を受けると、俺もなんかしんみりとしてくる。

あといないのは・・・イーリスお嬢様とミリアさんくらいいいいいいい!

不意を突かれて、後ろから抱き付かれた。


この背中に押し付けられる感触は、デカイ!!ベリーデンジャラスだ!!


「マサユキ様~。私の婿殿になってくださいな~」

「済まない!それはできない!俺はもう結婚しているんだ!無理な相談だ!」


周りから歓喜と拍手が沸き立つ。


どうやら・・・俺は嵌められたようだ。


抱き付いてきたイーリスお嬢様も、ミリアさんも拍手している。

男爵様までも俺達の出来事を知っていたようだ。

みんなもそれを分かって集まっていたようだ。


メルディが子供達に引っ張られ、俺の横まで連れてこられた。

メルディの顔は赤い。


「皆さん。今日はありがとうございます。俺は今日、彼女と結婚しました。俺は・・・いや、私は彼女を幸せにするために、これからも精いっぱい努力していきます。どうか温かく見守ってください。式も宴も用意できていませんが、帰ってきたら盛大にやりましょう。簡単ではありますが、ありがとうございます」


ワーっと歓声と拍手が上がる。

花弁が空中に撒かれ、本当に結婚披露宴のようだ。


俺はメルディに向かい、誓いのキスをする。

再び歓声が上がり最高潮に達する。




メルディが後ろを振り向くと、女性陣が集まる。

そしてブーケを投げる。

ブーケを受け取ると、次に結婚できると言われている奴か。


受け取ったのは・・・いや、まだ勝負は付いていない!

ミイティアとイーリスお嬢様が取り合っている・・・。

ま・さ・かこの展開は・・・。


「イーリスお嬢様。それにミイティア。それを取っても俺の嫁にはなれませんよ」

「何ですって?!」

「やーよ。お嫁にしてよ兄様!」


ブーブー文句を言われてしまったが、祝いの席とあって引き下がってくれた。


簡単ではあるが、とんだサプライズ披露宴だ。

だが・・・みんなの心遣いが嬉しい。


いつの間にか涙を流している事に気付いた。

ガルアからは冷やかしが飛んでくるし、子供達も貰い泣きしている。


小さな村だが、俺にとっては大事な仲間達だ。家族と呼んでもいい。

そんなみんなに祝ってもらえるなんて・・・こんなに嬉しい事は無い。




男爵様が声を上げる。


「さあ!出発だ!」


俺達は馬車に乗り込む。ミイティアはマールの背中に乗り、ベストのような手綱を掴んでいる。

ガルアは荷馬車に乗り込み、馬車が出発する。


みんなに見送られ、俺は窓から顔を出し、見えなくなるまで手を振る。




森の向こうにみんなが見えなくなると、席に戻る。


「なかなか良い結婚披露宴だったのぉ。マサユキ殿メルディ殿、おめでとう」

「ありがとうございます。突然こんな事になって、俺も。いえ、私も大変うれしく思っています」

「構わん。楽な呼び方をするがよい。娘を助けてくれた恩人であるそちには、私は感謝しているのだ」

「厳密にはまだ完治したわけではありません。契約中ですのでそのような事は言わないでください」

「もう契約完了でよいだろう。それにそちの話し方は変じゃ。面倒だから気にするな」

「・・・はい」

「そうです!男爵領に着きましたら猛特訓です!」

「う・・・」

「ハッハッハッハッハ!良き妻を持ったな。これだけ教養のある妻じゃ。しっかり勉強するんじゃぞ?」

「はい・・・」


外にも聞こえていたのか、みんなに笑われてしまった。




さあ、俺にとって初めてとなる外の世界はどんなだろう?

話には聞いているが、大変な事が待ちうけていそうだ。

気を引き締めないとな!


外の風景を見ながら、俺は新しい世界に、ワクワクしてしまう気持ちを必死に抑えるのだった。

第34話です。

晴れやかな気持ちで、やっと2章が終わりました。

なんて言うか・・・いいですよねぇ。仲間に祝福される披露宴って。

私もいい出会いがしたいと思ってしまいました。


次話の35話より、「第3章 男爵領編」が始まります。

同時にタイトル変更、あらすじ変更、掲載時間の変更となります。

2章の後書きも順次削除していく予定です。


お気に入り登録かブックマーク登録してないと、探すに苦労するかもしれません。

一応探し易いよう、キーワードを載せておきます。

作品コード:N1706CA

Googleで検索しても出るのを確認しました。


まぁあとは私の頑張り次第ですよねー。掲載まであと・・・。

頑張って執筆を進めたいと思います!


次回は、水曜日2014/5/28/07:00を予定しています。

夜22時ではありません。朝7時です。よろしくお願いします。

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