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黒の錬金術師 -黒の称号を冠する者-  作者: 辻ひろのり
第2章 眠りから覚めて
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第29話 決戦準備

「よし、終わり!」

「出来たな! こいつはなかなかの仕上がりだぜ!」

「ええ! 2人がどういった顔をするか楽しみです!」


 俺と親方さんは出来上がった武器を包み、休憩所に戻る。

 ガルアとミイティアは……すごい顔をして、机に突っ伏していた。

 ラミエールは紙に何かを書いている。


「やあラミエール。調子はどうだい?」

「駄目ですわね。詳しい資料を作ってますが……実物を見せないと分かってもらえそうにありませんわ」

「そうか……。まぁ、ゆっくり進めてくれればいいよ。それに、あまり採り過ぎて薬草がなくなっても困るしね」

「そうですわね。薬草の知識に乏しいと、根こそぎ持って来そうで怖いですわ」

「うん。あまり欲張らないで、長い目でやっていこう」

「そうですわね」


 うつ伏せのミイティアに声を掛ける。


「ミイティア? 大丈夫?」

「……駄目です。兄様助けてください」

「自分で言い出したことでしょ?」

「そうだけど……」

「じゃ、朗報だ!」


 そう言って、ミイティアの剣を突き出す。

 ミイティアは重い体を起こすようにゆっくり立ち上がり、剣を受け取り確認している。


「ガルア。今度はしっかり手入れしろよ?」

「……気を付けます」


 ガルアも親方さんから剣を受け取り、巻かれた布を取る。

 そして、ガルアは驚愕する。


「な、何だこれは!?」

「ん? 改良しただけだよ?」

「ガルア。お前は剣を壊し過ぎだ! ほとんど作り直しと変わらねえぜ?」

「…………」

「親方さんの言う通りだよ。刃こぼれだけじゃなくて、刀身にも亀裂が入ってたみたいだよ。今回はそれを直して、剣が壊れにくいように調整したんだ」

「……何が変わったんだ?」

「えーっと、重点に置いたのは取り回しのし易さかな? 剣の重心の調整と軽量化をしたんだ。1割くらいは軽くなってるね」

「確かに軽くはなったが……」

「まぁ、使って試すしかないんじゃない? こればっかりは手探りだからね」


 ミイティアが俺に掴み掛かってくる。


「兄様! 私のは何も変わってません!」

「うん……。変えろと言う方が無理がある気がするけど……」

「ミイティアの剣は加工が難しいからな! だが……グヒヒ」

「兄様!? 何をしたんですか!?」

「んーっと……ニヒヒヒ。使ってみれば分かるよ」

「……イジワル」

「親方さん。2人に試し斬りをさせましょうよ? その方が2人は納得するでしょうし」

「そうだな」


 ガルアは剣に見惚れてるし、ミイティアは凹んでいる。

 引っ張るように2人を連れ出し、勝手口から工房の裏手に出る。



 ◇



 外は夕暮れで、辺りは暗くなっていた。

 地面には遊び疲れた子供たちが寝ころんでいる。

 フェインは……まだ元気そうだ。

 結構長い間待たせていたからな。仕方ないか。

 物置きから適当な木を用意して、2人に試し斬りをさせる。


「(ドゴーーン!) うおおお!! な、なんだこれ!? 的が木端微塵だぞ!?」

「……兄様? 私の剣も……何したの?」

「ふふふふ……」

「坊主。分かっていたが……やっぱりだな! ガッハッハッハッハ!」


 2人は訳が解らない様子だ。

 だが、切れ味の上がった剣に大喜びだ。


 ミイティアの剣は砥ぎ直ししただけだが、切れ味が上がっている。

 元々完成度の高い剣だったが、上級ミスリルということもあり、形状変更などの打ち直しはできなかった。

 だが、金属の結合強度が強いということは、その分薄く鋭く仕上げても刃こぼれのリスクが少ない。

 実質的には、本来の性能がちょっと上がった程度だろうが、あの切れ味からして目論みは成功したと言える。


 ガルアの剣は切れ味より、硬度と衝撃力を強化した。

 刀身に溝を薄く彫り、軽量化を施した。

 軽量化すると強度が問題になるが、そこは能力で補填した。

 持ち手を長くし重心を変えることで、以前より扱い易くなったはずだ。


 そして衝撃力の強化。

 ガルアの剣は斬るというより、叩き付けるというのが正しい。

 なら、衝撃力を強化した方が長所を伸ばせると考えた。


 衝撃力強化の基本原理は『運動量保存の法則』を応用した物だ。

 運動量保存の法則とは「外部から力が加わらない限り、運動量の総和は不変である」という物理法則である。


 衝突球という物がある。

 いくつかの玉を糸で垂らし、端の玉を持ち上げ落すと、半永久的に振り子運動を繰り返す装置である。

 片側の玉を持ち上げ落すと、反対側の玉が飛び跳ねる。

 これは理論上、片側の玉の力を100としたら、反対側の玉に100の力が伝わった証である。

 では、なぜ片方の玉だけが飛び跳ね、もう片方は動かないのか? というと、作用反作用の法則の説明が必要になる。


 物にぶつかる力、これを作用。

 ぶつかった力が跳ね返ってくる力。これが反作用。

 例えば、玉を壁にぶつける。

 壁に玉がぶつかり、跳ね返る。

 玉が跳ね返る。という現象は、反作用が生じていることになる。

 テニスボールのように反発力強い物なら分かり易いが、例え鉄球であっても、少しは跳ね返ることが想像できるはずだ。


 衝突玉の場合、壁となる玉が中央にあるが、結果は反対側の玉が跳ね上がる。

 これは作用側の玉に反作用が起きていないということだ。

 作用となる力がすべて反対側の玉に移り、反作用として返って来ない。

 だから、半永久的に振り子運動を繰り返す。


 さて本題だが、俺の能力で片側の玉に強化を施すと、

 本来、同じ振り幅で作用し合うはずの玉の振り幅が次第に大きくなる。

 数値的に言うと、基準となる力を100とすると、1回目は110~120、2回目は121~144となる。

 つまり、相手に1~2割程度上乗せした衝撃力を与える強化をしたという訳だ。


 もちろん、同質量、同加加速度での話だから、厳密には理論通りにはならない。

 だが、あの剣の質量に加え、ガルアの腕力を考えると、普通の剣だと簡単にへし折れるだろう。

 追加打撃と表現するのがいいのだろうか?

 更に言うと、衝撃力強化は2種類付与した。

 作用を強化する衝撃力強化と、反作用を作用に変換する衝撃強化である。

 後者を簡単に言えば、反射ということだ。


 あの剣は自重の重さのせいで、振れば振るほど消耗する仕様だった。

 つまり、壊れ易かったのだ。

 単純に攻撃面での衝撃力強化では、剣への負担が増加してしまう。

 それでは剣としての寿命を縮めたに過ぎなかったので、反作用に対しても強化を施したのだ。

 その結果、攻撃力は更に上がった。

 100の力で攻撃したとすれば、110~120の攻撃力である。

 そして更に、物にぶつかった時の反作用の1割から2割が追加打撃となる。

 数値的に言えば、121~142が一撃辺りの攻撃力となる。 

 しかも、本来110~120のはずの剣の負担は、100に軽減される。

 つまり、前と同じくらいの消耗があるものの、攻撃力は2割~4割程度強化された武器なのだ。


 まぁしばらくは、2人とも剣の扱いに戸惑うだろう。

 本来は自分で考え、自分なりに調整していくことが望ましいが……気付いてもらえるだろうか?

 喜んでいる2人に厳しい一言を言い放つ。


「ガルア、ミイティア。喜んでいるところ悪いが……修理費は払わないとな?」

「…………」

「兄様……それはズルくありません?」

「大丈夫! 2人は授業の先生をしてもらっているから、給料は払うよ。そこから支払えばいいって訳さ」

「代金はお幾らですか?」

「……親方さん。幾らになるのでしょうか?」

「そうだなぁ……ガルアの剣はデカイしな。金貨10枚ってところか? ミイティアのは……うーむ……」

「それなら金貨10枚で統一しません? 工程もありますけど、計算が面倒ですし」

「坊主がそれでいいなら構わんぞ?」

「2人もこの価格で納得?」

「いいけどよ……。俺たちは幾ら貰えるんだ?」

「えーっと、ひと月金貨1枚として、1年が12ヶ月として、4年だから……」


 メーフィスがサッと暗算で答える。


「1人48枚ですね。単純計算ですけど? 1年って12ヶ月なんですか?」

「あーいや……正確には分かってない……かな? ハハハハ……。まあいいよ! 1人50枚支払うね。メーフィスもラミエールも受け取ってね」

「マサユキさん、私は――」

「ラミエール。君も受け取るんだ。俺は校長なんだろ?」

「……分かりました」

「親方さん。あとで子供たちの武器も調整しましょうよ?」

「そうだな。持ってないのもいるしな。……この際新しく作っちまおうか?」

「いいですね! ついでに簡単な防具も作ってあげましょう。それもお願いできますか?」

「いいぜ! となると……幾らだ?」

「それはビッケルさんに任せましょう。金貨……200枚もあれば足りますか?」

「十分だろうな。足らなくても構わねえぜ」

「その時は言ってください。もしくは、次回出荷分からでも天引きでお願いします」

「分かった」


 この提案に子供たちも大喜びだ。

 前の戦闘で怪我した子たちがいたからね。装備の拡充は必須項目だ!

 それにガルアとミイティアだけ特別扱いってのも……なんか変な雰囲気になりそうだしね。


 休憩所に戻り、給料として金貨50枚をガルア、ミイティア、ラミエール、メーフィスに渡す。

 子供たちの装備として金貨200枚、鏡の代金として差額の金貨10枚、今までの鍛冶の講師料と材料費などで金貨200枚を渡す。

 残りは、1170枚。

 支払いを終え、ガルアもミイティアも支払いをする。


「よし! 今日は帰りますね。メルディが家で待ってますので」

「そうだな。また飲もうぜ!」

「ええ!」


 忘れないように鏡を箱にしまう。

 大金を持ってるし暗かったので、先に子供たちとラミエールたちを家まで送る。



 ◇



 家に着くと……静かだった。

 いつもはメルディが待ってくれているはずなのに……。

 とりあえず、金貨の詰まった箱をソファー前のテーブルに置く。

 リーアさんが俺たちの帰りに気付き、奥から出てきた。

 なんだか……悲しそうだ。


「マサユキ。お帰り」

「ただいまです。どうかしたんですか?」

「いえ……なんでもないわ」

「リーアさん。メルディはどこにいますか?」

「……部屋にいると思うわ」

「分かりました。行ってみますね」



 ◇



 2階に上り、メルディの部屋の前に着く。

 ドアを「トントン」とノックすると、ドアの隙間から顔だけ出すようにメルディが出てきた。

 顔はいつも通りのようだが……何やら不安げな様子だ。


「どうしたの? 何かあったの?」

「いえ……」

「部屋に入ってもいいかい?」

「いえ。……マサユキ様の部屋に行きませんか?」

「いいけど……」


 やっぱり深刻そうだ。




 部屋に入り、どっかりベットに座る。

 メルディも隣に座るが……何か言いたげだ。

 俺は部屋を見渡しながら話を切り出す。


「メルディ。俺はこの部屋で4年も眠っていた。その間、メルディはずっと俺のことを見ていてくれた。とても感謝しているよ」

「はい。私もマサユキ様が目覚めてくださって、本当に良かったです」

「うん。だからこそ言わせてくれ。メルディが困っているなら、今度は俺が助ける番だ。無理に事情は聞かないけど……話してもらえないかな?」

「…………」


 メルディがポロポロと涙を流す。

 そして語り出す。


「昼過ぎの話になります。近くの領地の貴族様から使いの方がいらっしゃいました。その方の仰る話では、男爵様のご息女様がこの村で作られた化粧品によって、酷いご病気を患ったそうです。なんでも『若返りの薬』と呼ばれているそうで、商人様を通じて購入されたそうです。その弁償金として……金貨500枚を要求されました。そのような大金はございません。そこで私めが奉公に出ることに決めたところでした。申し訳ございません。私はここを出て行きます。……勝手に決めてしまいましたが、お許しください」

「…………」


 俺はしばらく黙っていたが、突然大声で笑い出した。

 メルディは泣きながらも、俺の反応について行けてない。


「ねぇメルディ? 俺は例えどんなことがあっても、君を見捨てたりはしないよ。お金の心配いらないし、不心得な輩は俺に任せておきなさい!」

「ですが……金貨500枚とは……」

「まぁまぁ! 下に来てみなよ!」


 半ば無理やりメルディを引っ張り、1階に降りる。



 ◇



 1階には、ミイティアとリーアさんがソファーに座っていた。

 リーアさんは俺たちの姿を見て、顔を伏せる。

 ミイティアには「みんなを驚かせたいから黙っておくように」と言っておいたが、リーアさんやメルディの姿を見て事情を察知したようだ。

 ミイティアに目で合図し、安心させる。

 俺たちもソファーに腰掛け、話を切り出す。


「リーアさん。メルディから話を聞きました。とりあえず……すぐ解決しますので安心してください(ニヒ)」

「マサユキ。そうは言っても……お金がないわよ?」

「いいえ、あります! この中に!」


 そして、みんなに見えるように箱を開ける。

 歓喜するのかと思ったら……静かだった。

 ミイティアも拍子抜けの様子だ。


「……どうされたのですか? こんな大金を」

「王様から貰ったのさ。前から実験していた新型石鹸と、高級化粧品を買取ってもらえたのさ」

「マサユキ! それなら支払いができるわね!」

「いいえ! 払いません! 俺はビタ一文として払う気はありません!」

「どうして!?」


 みんな俺の発言に戸惑ってしまう。


「えーっと、まず、被害にあった貴族様の言い分ですが、単なる言い掛かりですよね? 弁償金を要求したい気持ちは分かりますが、お門違いです。言うなら取引した商人でしょう? あと病気についてですが、症状次第では治せるかもしれません」

「そうかもしれないけど……今度は大勢の衛兵を連れて来るそうよ? 怖いわよ?」

「この問題は村の将来にも関わります。ここで引き下がれば同じことが続くでしょう。それでは劣悪な商品を売る奴らを懲らしめられませんし、奴らの思い通りです。ここで引き下がってはいけません!」

「マサユキ様。どうかお考え直しください。貴族様と敵対してしまったら……村ごと焼かれてしまいます。どうか……」

「だーめ! 俺は戦う! 俺の大切な家族のために! 村のために! そしてメルディのために(ニヒ!) ……危険はあるけど、避けてばかりいられないからね」

「ですが……」

「兄様! 私も戦います!」

「マサユキ! お願いだから考え直して!」

「まぁまぁ落ち着いて。大丈夫ですって。話を最後まで聞いてください」


 3人を落ち着かせ、続きを話す。


「こういう場面で重要なのは、戦う理由ではありません。的確な状況分析です。相手が何人来るのか? どれくらい強いのか? 本当にお金目的なのか? ……などです」

「つまり、マサユキ様は「状況が不利なら戦わない」ということでしょうか?」

「その通り! 俺は負け戦をするつもりはないね! だけど可能な限り手を打ちたい。そのためにも村人が一丸となって対処したいと考えている」

「一丸となって……ですか?」


 みんなよく分かっていないようだ。


「メルディ。可能な限り細かく状況を説明してほしい。使者の服装や出身地、問題となる化粧品についてや、気付いたことなんでもね」

「はい。そうですね……」

「メルディちょっと待ってね。ミイティアにもお願いがあるんだ」

「はい?」

「今からガルアと協力して村人を工房に集めて欲しい。危険な戦いになるから無理に連れてくる必要はない。状況だけ知りたいという人でも構わない。できるかな?」

「分かりました!」


 ミイティアは颯爽さっそうとマールにまたがり、フェインと一緒に出掛けて行く。

 俺はメルディから聞けるだけ情報を聞き、その場で立案した作戦をリーアさんに説明する。

 時間は掛かったが、なんとか納得してもらえた。

 そして、一足先に工房に向かって走り出す。

 あとは親方さんと相談して、決行するか決めるだけだ。

 そう! 俺は……


 貴族と決戦に挑む!


 失敗すれば死ぬかもしれない。

 村が酷いことになるかもしれない。

 だけど……俺は逃げない! いや、逃げたくない!


 力があれば議論の余地もない。そういう理不尽なのが嫌なのだ。

 イチャモンを付けられて喧嘩を買う形にはなるのだが、虐げられることを許容できるほど……俺は寛大ではない。

 だからこそ戦うのだ!


 俺は熱い決意を胸に、工房に走る。



 ◇



「親方さん!」

「ん? どうした? さっき帰ったばかりじゃねえか? ……とりあえず落ち着け。松明を始末するんだ」


 焦り過ぎていた。

 松明を持ったまま、工房内まで入って来ていた。

 松明の火を消し、落ち着いてから席に着く。


「親方さん、お願いがあります」

「聞こうか?」

「はい。昼過ぎ、近くの貴族より伝令がありまして、販売もしていない高級化粧品で病気を患ったそうです。その弁償費用として、金貨500枚を要求してきました」

「そうか。払えない額ではないが……言い掛かりも良いところだな?」

「ええ。それで俺は、金貨1枚ですら払う気がありません。つまり、貴族と戦うことになります。そこでお力をお借りしたいのです」

「そういう話なら手を貸そう。相手を殺せばいいのか?」

「いえ。作戦を立てます。最悪殺し合いも覚悟する必要があります。ですが……俺は誰一人として死んで欲しくありません。もちろん戦闘となったら話は別です。一方的に蹂躙してやるつもりです」

「そうか……何かやるんだな?」

「俺と親方さんだけではできない方法なので、村人たちにも助けを借りたいと思っています。今、ミイティアとガルアが呼び掛けをしてくれています。間もなくここに集まって来ると思います。場をお借りして、作戦を伝えたいと思っています」

「分かった。ビッケル!」

「はい。聞いていました」

「そうか。準備を頼めるか?」

「お任せあれ!」

「ビッケルさん。ありがとうございます」

「いいってことさ。こういうのは慣れっこなんだよ」


 ビッケルさんは休憩室の片付けを始めた。

 俺は棚から紙とペンを取り出し、席に着く。


「親方さん。俺の知っている情報から簡単に概要をお伝えしておきます」

「分かった」


 作戦の説明を始める。



 ◇



 そうこうする内に村人たちが集まってきた。

 結構な人数がいる。

 ちょっと入りきらないかもしれない。

 大体50人は集まった。

 頃合いを見て、説明を始める。


「皆さん。お集まり頂き、ありがとうございます」

「いいってことよ!」

「そうよ! みんなアンタのために力を貸すわ!」


 みんなを落ち着かせ、確認を取る。


「皆さん。作戦を説明する前に覚悟を聞きます。ハッキリ言ってこの戦いは死人が出る可能性があります。作戦は立てますが……覚悟がない方は参加しないでください」


 皆、黙り込む。

 しかし……ガルアが叫ぶ。


「おう! 俺はやるぜ! お前は自分のために戦うんじゃねえんだろ?」

「……いや、俺のためかもしれない。元はと言えば俺が――」

「嘘ですわね! マサユキさんはそういう人じゃありませんわ! 化粧品が原因なら私の責任です!」

「ラミエール違うよ! 売り出そうとしたのが……間違いだったのかもしれない」

「兄様! 皆さんの顔をよく見てください!」


 村人たちの顔は……覚悟を決めた顔だ。

 年中魔獣と戦っていることもあり、危険と隣り合わせの生活をしているゆえなのか……皆覚悟を決めたいい顔をしている。

 よく考えれば……俺はまた……周りを巻き込んでいる。

 俺一人でやれば済む話なのに……。


「皆さん、ありがとうございます!」


 皆それぞれに声を掛けてくる。

 子供たちも士気が高そうだ。

 だが、俺は……誰一人として失いたくない。

 そのためにも戦術を組むのだ。



 ◇



 作戦を説明し終えた。

 皆「そんなのでいいのか?」 と口々に問い掛けてくる。


「皆さん大丈夫です! 最前線には俺が立ちます! 何があっても子供たちは護ります! 作戦は3日後の正午! 準備は工房で行います! 汚い話にはなりますが、支払いはこの件が落ち着いてからとなります! よろしくお願いします!」


 村人たちから歓声が上がり、皆やる気に満ちている。


「坊主。良かったな」

「はい……ありがとうございます」

「さて……。皆よ! 今日はもう遅い! 準備は明日からやろう!」


 村人たちが家に帰っていった。

 ガルアがニヤけた顔をして、問い掛けてくる。


「おう! 俺は何をすればいいんだ?」

「兄様! 私もです!」

「まぁ落ち着いて。ガルアには子供たちの訓練をお願いするよ。前に訓練で使わせたアレを使わせたいんだ」

「アレって、アレか?」

「うん。いきなり実践は厳しいでしょ? あとは演出を考えないとね」

「なら、デカイ的がいるな」

「頼むよ。多少小細工していいから、なるべく派手に頼むよ」

「任せろ!」

「兄様。私は?」

「ミイティアは……マールとフェインの教育だな。必要ないかもだけど、2匹には作戦が伝わってるか分からないからね。頼めるかい?」

「分かりました!」


 作戦も伝えたし、方針も決まった。

 あとは細部を詰めていく作業だけだ。

 メルディが心配そうに声を掛けてくる。


「マサユキ様……良かったのでしょうか?」

「大丈夫! 俺に任せて! 俺はこう見えて、百戦錬磨なんだから!」

「ひゃくせん?」

「得意分野ってことさ。前にも話したでしょ? 仮想空間での夢に近い話だけど、こういうのは日常茶飯ことだったのさ」

「分かりませんが……私もお供します!」

「メルディ安心して。誰一人として、怪我一つ負わせないよ」

「はい!」


 こうして、俺たちの決戦準備が始まった。



 ◇



 目を覚ますと、いつもの天井だ。

 だが、今日はいつもと違って見える。

 眠い頭を揺すりやや疲れた体を起こし、窓を開けて外を眺める。

 いい天気だ。

 気持ちいいくらい晴れ渡り、俺の気持ちとは裏腹に清々しさをぶつけてくる。

 今日は……決戦の日だ。


 準備に2日もあったから、終盤は暇すぎて……無駄な実験ばかりしていた。

 お陰でとんでもない代物が出来てしまったが……今回は使わないだろうな。


 それに俺の刀も作り直した。

 その名も「雅之鋼壱式」だ。

 なんか自分の名前が入ってるのはダサイのだが……製作者名を入れるとこうなる。

 名刀の名前ではないが、ゴロ的にもいいだろう。

 どうせ俺しか読めないし。


 今回の刀は鋼鉄製だ。

 鋼鉄の一字取り、「鋼」と付け加えたのだ。

 壱にするか四にするかでも悩んだが、鋼鉄製の刀の基準となるから「壱」を選んだ。


 性能は……かなりヤバい!

 何がって? そりゃー切れ味が半端ない!

 この前、刀が折れてしまった木はスッパリ斬れてしまった。

 試しに薄い鉄板も斬ってみたが、これはさすがに簡単にはいかなかった。

 斬れはしたが、少し刃が欠けてしまった。

 斬れなかったのはたぶん、技術的な問題な気がする……。


 カッコ良く「ザンテツケーーン!」 って叫びたかったのに……。

 まぁ……いずれは鉄だって斬ってやるんだから!

 そんな回想を巡らせながら、支度をする。



 ◇



 支度を終え1階に降りると、既に朝食の準備ができていた。

 ミイティアはいないが、リーアさんもメルディも席に着いており、マールとフェインは出された食事に手を付けずに待っていた。


「おはようございます。リーアさん。メルディ」

「マサユキおはよう」

「おはようございます。マサユキ様」

「ミイティアはまだ起きてないの?」

「起こしてきましょうか?」

「いや、いいよ。さ、朝食にしようか」


 みんなにそう言い、マールとフェインにも食べるように指示を出す。

 フェインはお腹が空いていたのか、よだれを垂らして待っていた。

 合図とともに勢いよく肉にかぶり付く。

 マールは雰囲気を悟っているのか……食べようとしなかった。

 なんとか言い聞かせて食べさせた。

 マールにも仕事があるし、力を蓄えていて欲しい。


 ミイティアは昨晩「寝れない」と言っていた。

 こういう場面でぐっすり寝れる訳がない。

 メルディも呼んで、どうでもいい話で夜遅くまで盛り上がった。

 たぶん、その影響で起きるのが遅いのだろう。

 まぁ時間もあるし、やることも分かってるし、今はゆっくり寝ていてもらおう。


 俺も食事を始める。

 だが、いつもとは違って静かだ。

 これから来る決戦を前にすれば、当然だろう……。

 皿に盛られた肉を見ながら、


「(さてさて、どう料理してくれよう……。グフ、グフフフフ……)」


 と、一人呟くのであった。

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