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黒の錬金術師 -黒の称号を冠する者-  作者: 辻ひろのり
第2章 眠りから覚めて
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第27話 つまらぬ意地

銀狼シルバーウルフの試験をしてから、2週間は経った。


腕の怪我は、現在も治療中だ。

ほぼ完治と言ってもいいが、ラミエール先生からの強いお達しで……現在も怪我人扱いされている。


治療中は激しい運動は当然として、お風呂にも入れない。

ちょっとしたストレスだ。


あまり大っぴらには言いたくないが、メルディに体を拭いてもらっている。

嬉しい事なのだけど……彼女には負担を掛けたくない。

薬の検証を兼ねているので止むえない事とはいえ、言い出した本人としては押し黙るしかない。



腕の治療の経過は順調だ。

治療開始から4日で、左腕は自由に動くようになった。

もちろん、その時点では完治していない。


皮膚の傷は治りきっておらず、しばらく治療を継続する必要があった。

だが、断裂しかけていた筋肉の方は治ったようだ。

おかげで痛いには痛いが、手の動作としてはそれほど問題にならない。


ラミエールに許可を取り、無理のない範囲で午前中は授業、もしくは本や資料を読み、午後は剣術指導をした。

それから親方さんやラミエールに手伝ってもらい、石鹸と美容化粧品の増産を始めた。


余談だが、親方さんに苛性ソーダの精製原理を講義した。

親方さんは講義に大分苦戦していたが、やはり職人だ。

理論が分かった途端に、効率のいい方法を提案してきた。

今は苛性ソーダを含め、原材料の精製を任せっきりになっている。


おかげで市販品の石鹸のレベルも上がり、村人達には喜ばれている。

もちろん、販売は村人限定で出荷の予定はない。



12日経つと、右腕のギプスは外された。

傷は残っていたし筋肉も少し衰えてしまったが、骨折は完治していたようだ。

多少傷は痛むが、両腕共に使えるようになり、ほぼ完治したと言える。


普通、骨折治療には2~3ヶ月は掛かる。

魔獣の血の効果だろうか?

人体の神秘という事だろうか?


皮膚表面よりも体内の方が治りが早い気がする。

仮に皮膚表面も、体内に近い環境にすれば治りが早かったりするのだろうか?

この結果にはラミエールに呆れられてしまったが、新しい治療方法を考案できそうだと息巻いていた。


やっと腕が自由に使えるようになり、工房で新しい武器の製作や新しい発想の新アイテムの開発をするようになった。



今日は数えて14日目だっけな?

曜日感覚が無いからイマイチ自信が無い。


両手の怪我はほぼ完治したと思っている。

たった2日違いだが、腕の痛みはもう感じない。

そろそろ包帯を取る頃合いだろう。




治療薬の検証も行った。

製法をラミエールに教え、カエルなど小動物を使って検証実験をした。


結論としては、魔獣の血は少量なら問題が無い事が分かった。

だが、まったく問題がないわけじゃない。

懸念していた副作用が出てしまったのだ。


血の量にも寄るが、薬を塗った個所は黒く変色した。

時間が経てば次第に薄くなっていくようだ。


更に血の量を増やすと、性格がやや獰猛化した。

薬を使い続ければ、全身真っ黒な魔獣が完成してしまいそうだ。


この結果を見て、俺の体にも同様の症状が出るかと思っていたが……今の所その様子はない。

これにも法則性があるようだ。


血の量を調整するか、浄化してから使うようにしない限り、治療薬としては危険だ。

しかし、方向性として役立つ事が分かった。

これは今後の研究次第だろう。


仮にこれを売り出すとしたら、さすがに錬金術師達の反感を買うはずだ。

様子見も兼ねて、当面は自前用にするつもりだ。



俺に使った薬は魔獣の血を配合している。

試薬5号には薬と血の配合率を9:1、試薬6号には8:2で作っている。


念で血を浄化するイメージを加えた物だったが、経過から見ても、ある程度うまく調合出来たと思っている。

問題は、治療経過の比較ができない事だろうか?


今回、左腕は傷が深かった。右腕は骨折していた。

同じ怪我なら比較し易かったが、怪我の程度が違うので比較できない。

唯一共通点と言えば、皮膚の傷だろう。


魔獣の血の配合率が高い試薬6号の方が、皮膚の治りが遅かったように感じる。

つまり血には、一定の効果はあっても多過ぎるとリスクしか伴わないという事になる。


冷静に考えれば、血液型の相性もあるだろう。

たまたま俺に適合した可能性もあるし、血の種類の特定と効果確認も必要なのかもしれない。

変なところで悪運だけは強いな。


まぁいい。

今回、俺の腕の治療経過は一種の目安にはなるはずだ。

他人に使うとなれば慎重にならざる得ないが、薬が完成すれば大怪我を負った人でも助けられる可能性が高まる。

武器制作を後回しにしても、治療薬の開発に注力した方がいいかもしれない。




石鹸と美容化粧品は王様に送って2週間経つ。

早馬ならもう到着はしているとは思うが、検証と承認の作業がある。

連絡を待つにしても、あと1カ月くらいは見ておく必要があると思う。


かなりの高額な値段を提案したし、同じ事が起きないように色々書いた書簡も添えた。

それで揉めて長引く可能性はあるが……。


前世でも、美容化粧品の認可には数カ月は掛かったはずだ。

それを考えれば、1カ月程度で結論が出ると思う方がおかしいだろう。

これは気長に待つしかないかな。




まぁこんなもんか……。

でも、何か忘れている。


別にミイティアに付き添って、村の人達にマールとフェインの紹介をしなかった事じゃない。

当然のように、次の日にミイティアには激怒されたけど……。


マールは怪我もしてるし、治るまではしばらく工房で療養して、村人達に伝言だけ伝えるようにした。

今では村人達も理解してくれて、ほとんどの人と面識がある。

ただ……一部を除いて……。


毎日その理由を考えているんだが……何か見落としている気がする……。

こう……なんて言うかな?

俺の事じゃない気はしている。

例えるなら「不安」というべきだろうか?


「マサユキ様!」


後ろから、いきなりメルディに呼び掛けられビックリしてしまった。


「うわわ!! ……なんだメルディか。ビックリしたよ」

「さっきから何度も呼び掛けていますわ。起きているならいいんです」

「あ……ああ。ごめんね」

「マサユキ様は最近謝ってばかりです。もっと堂々としていてください」

「ごめ――頑張るよ」


俺は今、午後の剣術指導をしつつ、見学中である。

ラミエールが「腕が完治するまでは見学するように!」と、何度も言って来るからだ。

だから、技術的なアドバイス程度しかできていない。

メルディも俺の腕の経過を聞いてやっと安心してくれたし、あまり無理はできない。


子供達が気を利かせ、メルディの仕事を手伝ってくれるようになったおかげで、彼女もやっと授業に戻れた。

久しぶりに余裕のある授業で、メルディは大張り切りだったな。


言わずと知れた授業の結果だが……相変わらず俺が最下位だ。

最下位の片付けは、1期生達が手伝ってくれた。


俺は「大丈夫」とは言ったが、ラミエール達が強引に止めに掛かってきたので、申し訳ないがお願いした。

特別扱いされる事は嫌ではないが、俺よりひ弱な子達もやっているから後ろめたい。

この借りは何かで返すつもりだ。



そんな事もあり、暇を持て余した見学と言う名の「考察タイム」に入っていたのだ。

もちろん、ただの考察タイムではない!

最高にモフモフを堪能しながらの考察タイムだ!


俺の背中にはマールがいる。

マールは地面に伏せ、背中をソファー代わりに存分にモフモフを堪能していたのである。


マールは、あの一件以来、俺の側を離れない。

両手を怪我してしまった事への報いなのだろうか?


思った以上に信頼関係を結べて良かったよ。

だから、こうやって枕にしても何も言ってこない。

もちろん、話せないから表現って意味だ。


フェインとはあの後、何度かいざこざがあったが……今ではフェインとも仲直りできた。

今はミイティアによくなついていて、いつも一緒にいる。


たまにミイティアの邪魔をして、叱られている事もあるが……マールはそれを放任している。

ミイティアを信じているのかは分からないが、そのやり取りに全く反応しないのだ。




2匹がやってきて、家の食生活もライフスタイルも変わった。

特に食費が増大した。


2匹の餌は肉がメインだ。

魔獣の肉から豚や牛の肉まで、何でも食べる。

それに野菜も食べる。


メルディが出す料理がおいしかったらしく、マールもフェインも勢いよく食べていた。

肉食だと思っていたから、これにはさすがにビックリした。


マールもフェインもよく食べるから餌の仕入れが大変にはなったが、それを知ってか知らずかガルアがよく魔獣の肉を差し入れに来る。

あいつも喜ぶ2匹に会うのが楽しみなのだろう。



マールの怪我は1週間くらいで治っていた。

治療薬の効果もあったのだろう。


来た時に付いていた大きな傷は、今ではほとんど見当たらない。

とても綺麗に治ってくれた。

使った治療薬は俺の念を込めた薬だったが、もし魔獣の血をそのまま使っていたら……酷い事になっていただろう。


治療後の経過も良好で、黒く変色したり、マールの性格にも影響せずうまく治ってくれた。

下手をしたら、まだら模様の一部が黒い毛並みになっていたかもしれないからね。



そういえば、2匹には首輪を付けていない。

この状態だと野生の魔獣なのか、飼っている魔獣なのか見分けがつかないよな?


俺のモフモフシーンに釣られて、マールを撫でていたメルディに話し掛ける。


「メルディ? マールやフェインに首輪って必要だと思わない?」

「首輪でございますか? あまり良い印象はございませんが……」

「……もしかして、奴隷は首輪を付けてるとか?」

「ええ。できれば、ない方がいいのかと」

「そうか……別の方法を考えてみるか」


メルディが「奴隷」というキーワードに反応したのを見逃さなかったが、やはり禁句だったか。

だが、メルディを見ていると「不安」の何かを感じる。

確かめる術は……


「メルディ。糸って持ってる?」

「糸でございますか? 今は持ち合わせていません」

「ちょっと作ってみたい物があるんだ。持ってきてくれるかい?」

「はい。分かりました」


メルディは家に向かって駆けて行く。

マールが少し反応するが、俺の顔の様子を見て、また目を閉じる。


マールはとても賢い。それに気が利く。

力仕事があればメルディを助けてくれるし、危険察知も素早い。

たまに魔獣に出会う事があっても、マールが先に気付くおかげで先制攻撃ができる。


少数の場合は、子供達やフェインにも相手をさせる。

俺達は見守るだけなのだが、そんな時でもマールは油断をせず、集中力を欠かさない。

いざとなったら飛び出すつもりなのだ。




あとで分かった事なのだけど、この村には結構魔獣が出る。

最初は魔獣が少ないと聞いていたから、最近何でこんなに出没するのかと思っていた。

理由は、ダエルさん達が結構な量を退治していたからだ。


最近はダエルさんがいない事もあるが、ガルアが見回りをしていることもあるし、学校の子供達も強くなってきてるという事で、見回りそのものも減っているらしい。


冷静に考えれば、この村の人達は魔獣を恐れはするものの、立ち向かう勇気を持っている。

魔獣の被害も毎回そんなに酷くないし、それなりに実力者が多いいように思える。


とはいえ、警戒は常にしておくべきだろう。

マールに感謝しつつ、優しく撫でる。





メルディが帰ってきた。

手には糸の束を持っている。


普段着とかボロボロになってきてるし、いつも細かく手直しをしているのだろう。

はやく服を買ってあげたい。

そして、メルディの喜ぶ顔を存分に楽しみたい。


「わざわざありがとう」

「このくらい、どうって事はありませんわ。ところで……何を作るのですか?」

「んーっと、嘘を見破る道具かな?」

「……嘘ですか?」

「さっき……奴隷の話が出たよね? あまり話題には出さないようにはするけど」

「構いませんわ。気にしていません」

「そうか。それでね、犯罪者とか前の石鹸みたいに悪用する人をどうやって見分けるかって考えたんだ。それが『この糸』さ」

「どのように使うのです?」

「まぁ論より証拠だ。作ってみよう」


俺は座り直し、作業に入る。

やる事はシンプル。

糸に念を込め、一定の条件で発動するようにするのだ。


理論的には心の中で考えている事と、言動の違いに反応すると切れる仕組みだ。

具体的に言うと、人は嘘を付くと、手が冷たくなったり、汗をかいたりする。

脈拍にも変化があるし、言葉にも挙動が感じ取れる。

そういう細かい状況証拠を元に判断するのだ。




まだ完全に能力の把握はできていないが、こういった物を作れるようになったのは、工房で実験を繰り返した結果だ。


俺の能力は、「創造的能力付与魔術クリエイティブエンチャント」で間違いなさそうだ。

魔力総量が足らないので、親方さんの斧のような意匠には反応しなかった。

しかし、物に目的を持たせ、本来持っている機能を強化する事ができると分かったのだ。


例えば、ナイフ。

材質は鉄だ。

鉄には「固い」「しなる」という性質がある。


固くなれば薄く仕上げるにも都合がいいし、刃先の鋭利さの仕上げ度合いにも影響する。

つまり、性質を利用し、鋭利さの性能を引き上げる強化ができるのだ。




ハンマーも似たような物だ。

「重さ」だけでなく、無形の「衝撃」にも強化できた。


衝撃という現象は、運動量保存の法則だ。

エネルギー保存の法則とも言う。

具体例を挙げれば、衝突球だ。


衝撃球というのは、鉄の玉を糸で吊り下げ、いくつか連ねて並べてある道具だ。

一番端の玉を持ち上げて手を離すと、カチカチと半永久的に動き続ける。


理論的には物理学にはなるが、運動エネルギーが伝わるとエネルギーは対象物に乗り移る。

その結果、反対側にあった玉が飛び跳ねるという訳だ。


「衝撃強化」は、質量増加による加速度が上がった事が原因だと思っている。

でないと、衝撃球の動きが永久どころか、加速され続け、最後は一回転してしまうはずだ。


今は総称して衝撃力強化とは言っているが、今後検証しないとならない項目だ。




ちなみに副産物的な発想で、音の強化もできた。

音は振動数によって音色が変わる。

具体的な例を上げれば、バイオリンだろうか?


振動周波数を計算すれば、ちょっとした武器が出来る。

高振動ブレードとかって意味じゃない。

そんな物より……よっぽど凶悪な物だ。


出来たには出来たが……使い道を誤れば凶悪過ぎる。

なので、親方さんと一部の人しか知らない物になっている。




まぁそれはさておき、問題は解除の方法だ。

分解して、再度組み上げただけでは能力は消えなかった。

一度溶かすなど、使用目的と懸け離れた状態まで変形させないと能力は消えない。

そして、念を込めての能力の上書きはあまり成果が出なかった。


つまり、一応リセット方法はあるが、作り直さない限り完全なリセットは無理だし、能力の変更は即時には無理だという事になる。

上書きで能力の変更は今のところ出来ない。


どうやら一定のルールと強化の上限があるようだ。

それに物の特性をよく理解していないと、能力の発動力にも影響が出る。

既に作られた物より、1から作り上げた方が能力発動に影響が出る事も分かった。


この理論でいくと、自由な発想で物を作れる反面、メンテナンスは俺にしか出来ないし手間も掛かる。

作るだけ作ってアフターサービスができないって何か変だが、自由度が高いのが最大の利点である。


でも、こんな特別な能力ってなんかズルくないか?

今は能力が限定的だからいいけど、究極的になんでも思い通り……ってのも、なんかなぁ。

まぁ、誰かに力を分け与えられるって点では理想的であると思う。




作業に雑念が混ざっていたのか、糸で指を切ってしまった。

良く見ると糸がボロボロになっている。

余計な雑念が入り過ぎたのだろう。


指を軽く舐めて、再度作り直す。


つばのおかげか、イメージがし易い。

唾を付けてゆっくり念を込める。





出来上がった。

唾で汚いし、検証した事もない物だが……まぁ試しだ。


「まぁ、こんなもんかな?」

「もう出来ましたの?」

「じゃあ、さっそく試してみよう」


メルディに唾がついて若干汚い糸を両手に持たせる。

糸は両手に置くような感じで、中間の糸をややたるませている。


「じゃあ、メルディ質問をするね」

「はい」

「メルディは……俺の事が嫌い?」

「いいえ」

「メルディは、空を飛べる?」

「フフフフ。いいえ」

「じゃあ……この手に持っている石は何個?」

「2個です」


糸は何も反応しない。


「じゃあ、次は嘘をついてみて」

「はい」

「メルディは、俺の事が嫌い」

「……はい」


糸の中央が少しほどけた。

嘘と分かっているのだが……「はい」と言われたのがショックだ。

質問の方向性を変えるべきだな。




2本目を作り直し、メルディに渡す。


「じゃあ行くよ」

「はい」

「メルディは俺のエッチな本の隠し場所を知っている?」

「……いいえ?」


糸は切れない。

元々持てってないから反応するわけがないのだが……なぜ「いいえ」なのだ?


「質問が悪かった。そうだな……」


ちょっと考える。


「メルディは俺に隠し事をしている?」

「…………」


メルディは黙り込む。

まだ糸は切れていない。


「ごめん。質問がまた悪かったよ。隠し事くらい誰にでもあるから、気にしないでね。次に行こうか」

「隠し事はありません」


そう言うと、プツンと糸が切れた。


メルディは俺に対してとても真摯だ。

俺にだって隠し事くらいある。

なのに、彼女は正直過ぎる。


「すまないメルディ。気を悪くさせてしまった。でも……正直に答えてくれて、ありがとう」

「いいえ。そんな事はありませんわ。それにしてもすごいですね。嘘を付いたら分かってしまうとは」


この雰囲気はなんか嫌だ。

だけど、ちゃんと言っておくべきだろう。


「メルディ。大事な事だから言っておくけど……嘘は付いていいよ。俺も……隠し事は無くはないんだ。だから気にしないで欲しい。それに……コレは駄目だね。嘘を見透かすのはやっぱり気分が良くない」

「そんな事はございません。「道具は使う者次第で良くも悪くもなる」と言うのがゼア様の口癖でしたわね」

「……そうだね。これは使い方を誤れば……人間関係が壊れてしまう。しっかり見極めて使わなきゃね」


俺は大変な物を作り上げてしまった。

調子に乗っていたとも言える。


メルディに何かしらの「不安」を感じてたのはいいが、それを見透かそうという考え方は野蛮だ。

使ってみて、嫌というほど実感する。


相手の心理状況を読み取る道具なんて、悪魔の所業だ。

簡単に作れる物ではあるが……使い方をしっかり考えないと危険な代物だと思う。

使い方を確立するまでは、当面封印しておこう。


気分を変えるために、何か話の方向性を変えねば………。




ウンウン唸っていると、ガルアとラミエールがやってきた。


「コイツ、また何か悪だくみしてやがるぜ」

「そうですわね。また悪魔の所業の品でも作ったのですわ」

「うっ……」

「ほら見なさい! やっぱりですわ!」

「ごめん。……今はそれに触れないでほしい」

「あら珍しい。マサユキさんのそういう顔は初めてですわ。もっと盛大に! 派手に! 悪魔のように!! やってくれても構いませんわよ」

「頼む! 別の話題を!」


ラミエールのサドチックな口撃こうげきをしばらく受けると事になる。




2人の会話を余所に、ガルアが俺の刀に興味を持ったように会話に入ってくる。


「おう! その剣、ちょっと見せてくれよ」

「あ、ああ!」


刀を手渡す。


「前にも見せてもらったが……何が違うんだ?」

「硬度と鋭利さだね。前のヤツは壱式改って言うんだけど、参式改は硬度が1.2倍、切れ味が1.3倍くらい強化されてるんだ」

「ふーん……。ミイティアの剣みたいなものか?」

「ミイティアのは……。いや、俺のはただの鉄さ。クズ鉄で作ったし、金貨1枚も掛かってないよ」

「……お前、嘘付いてないか?」

「付いてないよ。お金ないし、贅沢はできないでしょ?」

「そうか……。どうにも何か隠してそうなんだがなぁ……」

「製法の事?」

「いや、なんでミイティアの剣の話で黙り込んだんだ?」


ガルアに寄っていき、耳打ちする。


「(あれは上級ミスリル製なんだよ。それで俺の借金で作られてるんだ。たぶん、ミイティアもメルディも知らないから黙っておきたいんだ)」

「なんだよ? そうならそう言えよ」

「(大声出すなよ)」

「(そんな事なら、もう説明受けてるぞ? 値段は知らないが・・・)」

「(……すごく高いとだけ言っとく)」

「(だから教えろって!)」


しばらく問答しても、ガルアは引き下がらなかったので、離れてこっそり教えた。


「ごま……モゴモゴ」

「(馬鹿!バラすんじゃない!)」


驚いて叫び掛けたので、強引に口を押さえたが……みんなからの目が痛い。




ガルアが落ち着いたところで、メルディとラミエールの元に戻る。


「マサユキさん? ガルアと浮気ですの?」

「浮気?」

「黒髪の少年と金髪の少年の甘く切ない恋物語。ああ、マサユキ! ああ、ガルア! そして二人は――」

「おいコラ! 俺とコイツを一緒にするな!」

「まったくだ!」

「そうですの? 残念ですわ~(ニヤニヤ)」


相変わらずラミエールはサドチックだ。


「まぁそんなわけで、俺の刀は鉄は切れないと思うが、なかなかの切れ味なはずだ」

「ほー言うじゃねえか。試しに何か斬ってみろよ?」

「……ラミエールさんのお許しが出ないとねぇ」

「何だ? 言い訳か?」

「別にそういう訳ではないけど、斬れない物を斬らせるつもりじゃないだろうな!?」

「まあまあマサユキさん、ガルアも。一度落ち着きなさいませ」


ラミエールの口撃で、2人して興奮してたのに気付いた。


「この際、どっちが受けで、どっちが攻めなのかはいいとして――」

「もうその話、止めてくれない?」

「フフフ。マサユキさんの腕の治療はそろそろいいはずですわ。診てみましょうか?」

「……頼むよ」


ラミエールに包帯を巻いた腕を差し出す。

巻かれた包帯を外すと……傷は綺麗に消えていた。

特に黒く変色している事もない。


「さっすがマサユキさんの薬ですわ! 万能薬並の効き目がありそうですわね」

「へー、万能薬ってこれくらい効果があるのかぁ」

「私も実物を見た事がありませんが……傷をどころに治す万能薬と、万病に効く飲み薬の万能薬があるそうです」

「そしたら、今度は飲み薬も開発しないとね」

「そうですわね。腕の方は痛くありません?」


傷口のあった個所を強めに押し込んでみる。

両腕共に、特に痛くない。

手をブンブン振って確かめても大丈夫そうだ。

体の向きをマールに向き直し、両腕を見せ付ける。


「マール。この前は酷い事をしたね。見てごらん。ちゃんと治ったから気にしなくていいよ」


マールは腕をしばらく眺めた後、近寄ってきて頬擦りをしてくる。

くすぐったいが、マールなりの愛情表現だろう。




しばらくマールと戯れていると、ガルアが刀を突き出してくる。


「おう! 調子良さそうだな! さっそくこいつのすごい所を見せてくれよ!」

「……いいだろう。適当な的を用意してくれないか?」

「いいだろう」


ガルアは辺りをしばらく眺めた後、転がっていた倒木を担いで持って来た。

剣を地面に突き刺し、少し穴を開け、そこに木を突き立てる。


太さは5cmくらいの木だ。

しかし……


「ガルア。コレ斬れる太さじゃないぞ?」

「そうか? 俺なら斬れると思うけどな……」

「いや、お前の剣は……」


ガルアの剣は、合金製の鋼鉄仕様で2m以上ある。

重量も普通の剣の10倍近く重い。

ちなみに俺の剣の20倍は重い。


たった5cmと思うのは間違いだ。

並の使い手だと、丸めたゴザですら、斬るには相当な鍛錬が必要なのだ。


俺の予想では斬れない。

刃が刺さって止まると思う。


魔獣の血で切れ味を強化してるとはいえ、所詮は鉄だ。

基本となる刀身は親方さんに手伝ってもらったから、材質の強度としては限度いっぱいだろう。

ミスリルみたいな特殊金属ならまだ分かるが……。


とりあえず、調子を見るために腰から刀を抜き、ゆっくり剣舞をする。


剣舞と言っても、パフォーマンスのように派手な動きをするわけではない。

剣先で円を描くように、刀を振るう。


刀というのは、剣とは使い方が違う。

簡単に言うと、さしみ包丁だ。


よくさしみ包丁は、刃全体を使って切る事で、細胞をあまり崩さないで切れると言う。

その理由は、包丁の持つ切れ味を最大限に利用しているからである。

その現象を刀で再現するには、円運動が重要だ。


刀の扱いには慣れている。

伊達に20年以上、剣術を続けてきた訳ではない。


まぁ途中で辞めてしまったけど……そこそこ自信はある。

体の調子も良さそうだ。

思い通りに刀を振れているような気がする。




大体調子が分かったので、キンッと刀を鞘に納める。


周りを見ると、みんな俺に注目していた。

そんなに珍しい事はしていないのだが……剣舞に見惚れていたのかな?

なんか照れるな。


「さて……やっぱりコレ、絶対切れる気しねーんだけど?」

「フン! お前が適当なヤツって言ったんだろうが!」

「無理くさい気がするが……危ないと思うから、みんなは離れていてね」


みんなが十分離れるのを見守って、俺は木に向かい、精神統一をする。


斬るという動作に能力が有効かは分からないが、無理だと思えば刺さりもしないだろう。

だから、斜めに一刀両断のイメージだ。


左足を引き、ゆっくり刀を抜く。


両手で正眼に構え、目標を見据える。


上に振りかぶり、体を前に出すと同時に振り上げた刀を一気に、振り下ろす!


パキィィン……。


澄んだ音が響き渡る。


手に持った刀を見ると……真ん中から先が無い。

木を見ると……刃は木の半分まで斬り込んだ所で、折れてしまっていた。


ガルアが近付いてきて、木の切れた部分を注意深く観察している。


「お前……よく斬れたな……」


言ってる意味が分からない。

からかわれると思っていたから、余計にだ。


「この木は見た目に反して相当固いし、しなるからな」

「おい待て! 分かってて置いたのか!?」

「いやぁ、わりーわりー。出来心でついな。これくらいの奴をぶった切れるのかなぁ……とよ。フハハハハ」

「むううううぅ、くそおおおおおおおぉ!」

「……とは言ってもよ。俺でもここまで斬れるか分からねえな」


と言って、ガルアも剣を振るう。

ドゴーンと音がして、木が折れて倒れてしまう。


「あちゃー。うまく斬れなかったぜ」

「いやいやいやいや。真っ二つだろ! それに倒れてるぞ!」

「よく見ろ!」


木に視線を向ける。

俺の刀で斬った部分から、木が裂けている。


「俺の剣は、お前の剣で斬った部分から無理やり押し込んだだけだ。俺の斬った部分を見てみろ。お前の半分も斬れてないだろ?」


ガルアが斬った位置を確認する。

言っていた通り、俺の半分も斬れてはいないが……破壊力では圧倒的に負けている。

それよりも……


折れた刀を眺める。


「何いじけてるんだよ?いいじゃねえか、また作ればよ」

「作ればって……」

「それによ」


それに?


「俺の剣も、お前が作ってくれるんだろ? どうせならこんな木、イモみたいに斬れるくらいに頼むぜ!」

「いや……。そうだな。また作ればいいか……」


俺は折れた刃を拾い上げ、地面にそっと置き、

手に持っていた刀もその側に置く。

そして、手を合わせる。


「参式改。すまなかった。……俺の見誤りでお前をダメにしてしまった。今までありがとう」


俺の姿は、みんなには異様に思われたかもしれない。

だが、俺は刀鍛冶であり、剣術家だ。

だから、刀には人一倍思い入れがある。


試しに作ってみた物だが、それでも作った中で一番よく出来ていた。

大事にしようと思った。

だからせめて、手を合わせる。


腰から布を取り出し、丁寧に包み込む。

それを手に持ち、みんなを見ると不思議そうな顔をしている。


「みんなには分からないかもしれないけど……この刀には思い入れがあったんだ。折れてしまった物は仕方ない。だけど……この刀はマール達と俺を繋げてくれた大事な宝だったんだ。だから感謝を込めて、手を合わせていたんだ」

「……そうか。すまなかった」

「いいんだよ。お前も言っただろ? 作ればいいって。だから気にするな。みんなも自分の持っている剣は大事に手入れをしてあげるんだよ」


剣を持った子達は、自分の剣を確認し始める。

小さな汚れでも気になったのだろうか?

服の袖を使って磨いている。


周りのしんみりとした空気を変えるために、声を張り上げる。


「さあ、みんな! 剣を自由に使いこなすためにも、一振り一振り丹念に振るんだぞ!」

「「はい!」」


子供達が散らばり、木剣を振り始める。


ガルアがバツを悪くした顔をしているが、肩を叩き「気にするな」とだけ伝え、訓練に戻させる。

ミイティアも気持ちを入れ替え、みんなと共に剣を振るう。


刀は折れてしまったけど、みんなに新たな気持ちと気合いが入って、結果的に良かったのかもしれない。

俺はもう一度手に持った布に向かって、感謝の念を伝える。


そして声を出し、落ち込んだ気分を鼓舞する。


「よし!! 工房に行くかな!!」

「兄様、私も行きます!」

「いや俺が!」

「ハハハハ。2人とも落ち着けよ。嬉しいけど……今回はマールと行かせてくれ」

「俺に付いて行かせてくれ!」

「私ですって! ガルアは黙ってて!」

「なにを!」


俺は2人の間に入り、冷静に話し出す。


「2人とも頭を冷やせ。熱くなり過ぎだ。子供達の模範となる2人が、揃ってうろたえるなんて……カッコ悪くないか?」


2人は黙り込む。


「ガルア。お前がおかげで目標が出来たよ」


そう言って、ガルアの肩に手を乗せる。


「次もあの木を用意してくれ。今度はぶった斬ってやるよ!」

「分かった。だが……せめて武器の作り直しは手伝わせてくれ!」

「駄目駄目。これは俺の勝負だ。お前はお前のやるべき事をやれ。その剣……手入れしてないだろ? 刃こぼれしてるぞ?」


ガルアは剣を確認し始めた。

今度はミイティアの方に顔を向ける。


「ミイティアは、前の魔獣との戦いでよくやったと思う。でも、もっと楽に倒せる方法はなかったのかな?」

「……分かりません」

「俺に答えを言わせないでくれ。じゃないとミイティアは、ずーーと俺にオンブダッコでいるのかい?」

「そんな事は! ……ないです」


2人が落ち着いた所で、2人に語り出す。


「俺を含め、ガルアもミイティアも、もっと色々視点を変えてよく考えるべきだと思う。2人の武器は体や性格に合わせた良い武器だと思う。でも、それで満足してたら何も成長しない。お金がないからそれしか使えない。それは分かる。だが戦い方は1つじゃない。どうやったら有利な状況を生み出せるか? どうやったら生き延びられるか? どうやったら仲間のためになるか? ……こういうのを改めて考えてみる、いい機会なんじゃないかな?」


2人は黙りつつも剣を握り、何かを考え込んでいる。


「という訳で俺はマールと行くからね。マール!」


マールが駆け寄ってくる。

何も言えずに黙りこむ2人を置いて、俺とマールは工房に向かって走り出した。


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