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第15話 化学という怪物

 家に着くと、みんなが席に着いて食事をしていた。

 俺に気付いたメルディが駆け寄ってくる。


「おかえりなさいませ。マサユキ様」

「ただいま。遅くなってごめんなさい」

「大丈夫でございますよ。まだマサユキ様の分も残っていますわよ。フフフフ」


 苦笑いを浮かべつつ、席に着く。

 食べ物を口に頬張りながら、ミイティアが話し掛けてくる。


「お兄様。(モゴ)お帰りなさいま(モゴ)せ!」

「ただいま。ミイティア、ちゃんと口の物を食べてからでいいよ」


 俺も食事を取り始める。

 今日の昼のメインは魔獣の肉かな?

 結構大きい肉の塊だ。

 あの怖い外見からは想像もできない味である。


 なんというか……野性味あふれる味?

 牛とも豚ともいえない味と歯応えだ。

 味付けがいいのかもしれないが、なかなかうまい!


「ダエルさん。これって、昨日持ってきた魔獣の肉ですよね?」

「そうだ。あんな見てくれでも、なかなかイケるだろ?」

「ええ。これはおいしいですね」


 調理をしたであろうメルディが喜んでいる。


 案外魔獣狩りも悪くないなぁ。


 食事を取りながら、アンバーさん宅に石鹸を届けたことやガルアとの稽古の話をする。

 それと風呂の工事について、ダエルさんとリーアさんに許可を取った。


 リーアさんが俺の顔色を窺うように少しソワソワしながら、


「マサユキ。石鹸のことだけど……。もう予備がないの。また作ってくれないかしら?」

「お任せください。次出来るのは数日後ですが、今度は多めに作ってますよ」

「まぁ良かったわ! ご近所のみんなも喜んでくれると思うわ」

「……リーアさん、重要なことを言い忘れてました」


 リーアさんが何を言われるのかと心配そうにしている。

 みんなの顔を見た後、ゆっくり語り出す。


「石鹸の話なんですが、俺が作ったことは内緒にしてください」


 みんな不思議そうな顔をしている。

 ダエルさんが疑問を投げ掛けてきた。


「どういうことだ?」

「えーっと、使ってもらって分かったことですが、あの石鹸は高性能過ぎます。既存の石鹸が無意味になるくらいの化け物です。親方さんにも「既存の石鹸購入を止めて、これからはコレを使う」とまで言われてしまったくらいです。そんな石鹸にどれくらいの値段がつくか分かりません。それをここで作っていると分かったら、盗賊やからぬことを考える人たちが集まってきます。みんなにも危険が及ぶかもしれません」

「なるほど」

「それに……製法はかなり危険です。調合を誤れば、最悪死にます」

「そんなに危険なのか?」


 メルディが心配そうにしている。


「メルディ大丈夫だよ。俺はこの通り、ピンピンしてるでしょ?」

「ええ。でも……」

「ダエルさん。製法はあえて伏せさせてもらいますが、中途半端な知識や好奇心で作ろうとすると、かなり危険なんです。これだけの石鹸です。真似したいと思う人もたくさんいるでしょう。そういう人たちが危険を省みず、不完全品を作ったとします。原材料や配合率にも寄りますが、肌が赤く腫れたり、酷い場合はただれたりします。場合によっては、毒性が強く出て死人が出ることも考えられます。多くの人を巻き込んだ大惨事になります。それはどうしても避けたいんです。だから、製法も製造場所も知られたくないんです」

「なるほど……。だが、あの石鹸は大丈夫なのか?」

「はい。まったく問題いありません。体質によっては合わない人もいるかもしれませんが、口や目に入れない限り、ほとんど無害です。安心して使ってください」

「そうか……」

「まだお願いをしていませんが、工房で石鹸の販売を受け持ってもらおうと考えています。工房なら世間にも認められてますし、そういう物を作り始めたと言っても比較的不自然ではありません」

「そうだな。石鹸はとても高価だからな。うちで配るには不自然があるかもしれん。ゼアに掛けあって、奴の所で販売するようにさせよう。だがそうなると……村の者たちには気安く配れなくなるな。値段が高すぎると買うこともできないはずだ」


 ちょっと考え込む。


「提案なのですが、村人は安く買えるようにしましょう。もちろん、外に出荷する場合は市場価格にしますけどね」

「それなら買えるな。だが、それだと転売する輩が出ないか?」

「なら、一定量までの購入に限らせるとかどうです?」

「ふむ。それなら可能だな。だがいいのか? 石鹸は高価なんだろ?」

「ここだけの秘密ですよ」


 含み笑いをしながら、すこし得意げに打ち明ける。


「今回作った完成品と、試作で失敗した物全部合わせても、原価は金貨1枚もしません」

「……フ、フッハッハッハッハッハ! そりゃーすごいな! もうそれは錬金術だな!」

「ええ。だから安く配っても全然問題ないんですよ。むしろ儲け過ぎなんです」

「分かった! もし転売する輩が出たら、村から追い出してやる!」

「あーいや……そういうの止めませんか? 村人相手にガメ付いて稼ぐ気はありません。それぞれの家庭の事情がありますから、大事おおごとにならない範囲なら見過ごしてあげてください」

「ふむ……」

「俺も石鹸を売って儲けられたら、村に還元します。そのお金で計画してることもあるんです」

「ほー? それは何だ?」

「まだ妄想の段階なのですが、この村に浴場を作ろうと考えています。村人なら格安で使える湯船です。そこに石鹸を置いて自由に使ってもらったり、旅人がいればお土産として買ってもらうのもいいと思います。うまく行けば、宿や商店街も建てることになるかもしれませんね。もちろん予算次第でしょうが」

「浴場に宿に商店街か! それはすごい計画だな!」

「ええ。そのためにも石鹸は売りたいですし、村を危険にするわけにもいきません。材料の高騰とかも防ぎたいので、出来る限り製法は秘匿したいんです」

「分かった。そういうことなら俺たちだけの秘密としようか」


 ダエルさんがみんなの顔を見る。

 みんなも了解してくれた。

 これで、ひとまず大事おおごとにはならずに済みそうだ。

 思い出したかのように腰に下げた袋を思い出す。


「そうだメルディ。これを」


 メルディは袋を受け取り、中から洗濯バサミを取り出した。


「これは……洗濯バサミでしょうか?」

「さすがメルディ分かってるね! ガルアにお願いして作ってもらったんだ。いつも使ってるやつは使い勝手が悪そうだったから、依頼して作ってもらったんだ」

「ありがとうございます。マサユキ様」


 とても喜んでくれた。

 リーアさんも興味深そうに眺めながらも、2人で興奮しながら話している。


「あっ!!」


 大声を上げてしまった。

 みんなもその声にビックリしてしまった。


「洗濯板……持って帰るの忘れた……」

「洗濯板? ……ですか?」

「えーあー……。今朝洗濯をしてて、手で洗濯物をゴシゴシしてたでしょ? あれをもうちょっと楽にしたいなぁと思って、ガルアに道具を作ってもらったんだけど……持って帰るの忘れたんだ」

「大丈夫です! そんなに急がなくても困りませんわ」

「ごめんね。この後石鹸作りをしてから工房に行こうと思ってたんだけど……面倒だなぁ……」

「それなら俺が取ってこよう」


 ダエルさんが立ち上がる。


「あーいえいえ。俺が行きますよ。なんか悪いですし……」

「気にするなって! 俺もアンバーに用事があるんだ。魔獣の肉のこともある。ついでだ」

「……分かりました。よろしくお願いします」


 洗濯板について簡単に説明した後、ダエルさんは出掛けて行った。

 食事も終わり、ソファーで一息付く。

 ミイティアは相変わらずお昼寝タイムだ。

 メルディが対面のソファーに座り、さっき渡した洗濯バサミをテーブルに置く。


「マサユキ様。これは高価な物ではありませんか?」

「どうだろ? まだ清算してないし、分からないや」

「私には高価な物に見えてしまって、使うのには抵抗を感じてしまいます」

「いや、是非メルディに使ってもらいたいんだ。その代わり使い心地を教えて欲しい。その結果を元に調整したり、今後の課題するんだ」

「……分かりました。さっそく使わせて頂きます」


 席を立とうとしたメルディを引き留める。


「メルディ、ちょっと待って! お願いしたいことがあるんだ」

「はい? 何でございましょう?」


 メルディをソファーに座らせる。


「メルディに文字の先生をお願いしたいんだ。子供たちを集めて小さな教室を開きたい」

「先生……ですか? そ、そんな、私は多少文字の読み書きできる程度です。先生などとてもとても」

「俺からすれば、メルディはすごく物知りだよ。無理は言わない。是非俺たちに文字を教えて欲しいんだ。お願いできないかな?」

「……分かりました。精一杯頑張らせて頂きます」

「ありがとう。今アンバーさんに黒板の依頼をしていてね。それを使って文字を説明できるように考えているんだ」

「黒板とは、どういった物なのでしょうか?」

「言葉では説明しにくいなぁ……。出来てから教えるよ。俺も手伝うから、教室で教える準備をしておいて欲しい。……大丈夫そうかな?」

「ええ、大丈夫ですわ。洗濯がとても楽になりましたし、時間は空いています。出来ますわ」

「ありがとう。そういえば、メルディは算術もできる?」

「いえ……あまり得意ではありません」

「なら、俺が算術の授業を担当するよ。メルディは文字を教えて欲しい」

「分かりました。よろしくお願い致します」

「うん。こちらこそ」


 メルディは外に向かっていく。

 彼女に感謝しつつ、彼女の後ろ姿を見ながら思う。

 教鞭を振るう彼女は、きっと凛々しいのだろうと。


 席を立ち、ミイティアをベットに寝かせた後、小屋に向かって駆け出した。



 ◇



 風呂も、石鹸も、授業も、なんとか形になり始めている。

 ノンビリ休める時間は取れそうにもないが、そんなことは気にならない。

 今は大変さより、ドキドキワクワクする充実感でいっぱいだ。


 俺はいつものように壺をねくり回している。

 前に作った石鹸は予想とは違ったが、イメージ通りの出来だった。

 その原因を確かめるために、ちょっとした検証実験をしている。


 今回、壺を2つ用意した。

 1つは、前回の作業を再現するように丹念に作業し、なるべく完成した時のイメージをしながら作っている。

 もう1つは、なるべく何も考えないようにしている。


 特に根拠はないが、なんとなく『俺の能力』の片鱗が隠れている気がする。

 その理由は、妄想としてイメージしていたことが本当に実現してしまったからだ。

 多少性能がいい程度ならまだ理解が追いつくが、科学的観点からあの性能はまず考えられない。

 とはいえ、結果が変わらなくても構わない。

 単なる興味を兼ねた実験なのだ。


 片方をメルディにお願いすることも考えたが、まずは自分自身で結果を見てみたい。

 もし今回、結果に変わりがなかったらお願いするかもだけど、彼女には授業の準備もある。

 その時はミイティアにでもお願いしてみよう。


 棚に積まれた木枠を見る。

 これは、木製の石鹸の型枠だ。


 前回作った石鹸は、壺から取り出すのにかなり手間取った。

 取り出した石鹸は一定の大きさではなかったし、歪な形のものばかりになってしまった。

 それを踏まえ、最初から木枠で成形しようと作ってもらったものだ。


 だが、取り出すことまで想定してなかった。

 このまま型に流し込むと、取り出すときにまた苦労しそうだ。


 木枠は工房の帰りにでもガルアにお願いしにいこう。

 ついでに、販売用や贈答用の綺麗な木箱を作ってもらうのもいいだろう。

 桐箱じゃないが、見栄えの良い高級感漂う箱にしてみたい。

 石鹸の性能は折り紙つきだしね。


 壺を棚に戻し、剣を腰に差す。

 向かうのは工房だ。

 さすがにもう出来た。なーんて馬鹿げた話はないだろうが、進捗状況が知りたい。

 まぁ行ってみてのお楽しみだな。


 日が傾き、そろそろ夕暮れになりそうだ。

 あまり遅くなると、また魔獣が出る時間になるから急がねば。

 そう思い、駆け足で工房に向かう。



 ◇



 工房に着いた。

 距離があるのでかなり疲れたが、楽しみの方が大きくてあまり気にならない。

 工房に入って行く。


 夕方ということもあり、作業している人は少ないようだ。

 そんな現場を横目に奥の休憩所に向かう。


 休憩所には親方さんがいた。

 どうやら、設計図と睨めっこをしているようだ。


「親方さん。こんにちわ」

「おう坊主! 来たか」


 既に酒を飲んでいるようだ。

 酒の匂いがプンプンする。


「昨日の今日ですが、どんな具合ですか?」

「ああ。作業には取り掛かっているんだが、歯車の仕組みがなかなか決まらない。ちょっとばかし苦労しているところだ」

「分かります。それって難しそうですよね」

「うむ」


 そう言うと、酒を一気に飲み干す。

 そして、再び酒樽からなみなみと酒を注ぐ。


「親方さん。今日は別件のお願いに来ました」

「ほう……。まあ座れ」


 言われたままに席に着く。


「石鹸のことについてなのですが、こちらで販売を受け持ってもらえませんか?」

「構わねえが……どういうことだ?」

「使ってもらって分かると思いますが、性能はかなりいい物でした。これを家で配ったり販売すると、盗賊みたいな悪者が家に集まってきそうだからです」

「なるほどな。確かにそんなもん扱ってたら、危険そうだな」

「親方さんの工房は国でも有名だと聞きました。ここで作ったことにして販売も始めたと言うなら、不自然ではないと思うんです。勝手な都合で申し訳ないのですが、どうでしょうか?」

「(グビッグビッ)……ブハアア。分かった! そういう話ならワシたちに任せろ」

「ありがとうございます。俺が作ったことがバレないようにもしたいのですが」

「大丈夫だ。おい、ビッケル!」


 ビッケルさんが飛んでくる。

 紙とペンと定規を持っている。


「お待たせしました。どうぞ」

「おい! そうじゃねえよ。まったく……グフフフ」

「あれ? なんか違いました? てっきり、また大物の話かと思っちゃいましたよ」

「いや、坊主の石鹸についてだ。工房員全員に伝えろ。石鹸については『最重要機密』にする。そう伝令しろ」

「最重要ですか? 確かにそれくらいの大物ですけど、具体的に何を機密にすればいいのですか?」

「全部だ。坊主が作ったことは当然として、製法、材料。すべてだ」

「なるほど、ご家族への危険防止って意味ですね」

「そうだ!」

「分かりました。さっそく全員に伝えてきます」


 ビッケルさんは飛ぶようにまた走って行く。


「親方さん、ありがとうございます。何から何までご迷惑ばかりお掛けしてしまって」

「気にするな! こういうことは俺たちの世界ではよくあることだ。錬金術師だって大抵は王家の庇護下にあるしな。それを狙う輩も多いってわけだ。坊主が言わなければ、気付かず大事おおごとになってたかもしれねえ」

「親方さん。感謝します」


 親方さんは気分よさげにグイグイ酒を飲む。


「坊主。こっちの仕事はまだ時間が掛かりそうだ。依頼を後回しにして作っているが、まだしばらく掛かると思うぜ」

「なっ! ちょ、ちょっと何やってるんですか!? 俺のことは後回しでいいんですよ!」

「なーに、ワシの仕事はほとんどが特注だ。多少遅れたからといって文句言うなら、取り消せばいいだけの話だ」


 グビグビと酒を飲む。

 親方さん……それは依頼主にあんまりだよ。


「今は急ぎでの依頼はないからな。それにこっちの方が面白れえじゃねえか。見たこともない道具を作るってのは苦労も多いが、楽しくて仕方ねえんだ」

「分かります。俺は自分に技術がないばかりで皆さんに頼りっきりですが、物を作る楽しさは分かります」

「そうだろ? 物を作って誰かが喜ぶ。武器は人を殺す道具かもしれねえが、逆に護ることもできる。鍛冶仕事は生きていくための手段だ。だが、面白れえと思えないと続かねえからな」


 親方さんは思い出したかのように話を切り出す。


「そうだ。前に武器の作り方を教えるって話あったな。あれはしばらくできねえわ」

「分かりました。俺も最初は単なる興味でしたけど、頂いた剣が綺麗でしたからね。俺もいつかこういうのを作ってみたいなー。なんて思ってます」

「ああ。そいつはなかなかの一級品だぜ。なんせワシの特注品だからな」

「やっぱりそうでしたか。切れ味が半端ないですよ」

「うむ。材質は下級ミスリルなんだが、何度も炉に掛け叩くことで上級ミスリル並の硬度に仕上げた。同じ大きさのミスリルの剣より遥かに重くなっているが、その方が威力を出しやすいからな」

「ミスリル……」

「おう坊主! ミスリルは初めてだったか?」

「ええ、空想の聖遺物だと思っていました」

「そう多くは作れるものじゃねえが、下級から仕上げることで、上級に匹敵するってのが売りよ。うまくすれば魔法も弾けるしな。残念なのは意匠を彫れなかったことだ。魔法ってのは人によって固有の特性があるからな。同じ炎使いでも発動しない意匠だと無意味だしな。坊主が魔法を使えるようになったら彫ってやるぜ」


 なるほど! 魔法には個々に特性があるのか。

 というより、ミスリルなんて……ファンタジーだ。

 現世で言うカーボンファイバーも、こっちではファンタジーに感じられるのかもしれないが……。

 うん! 技術ってすごいな!


「質問なんですが、俺でも魔法が使えるものなんですか?」

「ああ。できなくもないはずだ。ただ発動の仕方は人それぞれだからな。魔力量にも影響するだろう。こればっかりは修業だろうな」

「いえ、希望が持てますよ。いつか親方さんに意匠を彫ってもらいたいです」

「おう! あんまり待たせるなよ! ガッハッハッハッハ!」


 親方さんはやっぱりすごい人だった。

 俺も風呂を完成させてみんなに喜んでもらいたい。頑張って恩を返したい。

 ああ、そうだ!

 早くアンバーさんに会わねば。


「親方さん。今日はもう帰りますね。石鹸が完成したらこちらに寄ります。その時は、よろしくお願いします」

「おう! 気い付けてな」


 急いで外に出て、アンバーさん宅に向かう。

 もう日が沈み、辺りは薄暗い。

 急ごう!

 走るペースを上げる。



 ◇



 アンバーさん宅に着くと、もう辺りは真っ暗になっていた。

 月明かりはあるが、すごく暗く感じる。

 戸を「トントン」と叩く。

 すると、奥さんが出てきた。


「あらマサユキ。いらっしゃい。ダエル様も居ますわよ」


 あれ?

 もうとっくに帰ったと思ってた。

 中を覗くと、ダエルさんとアンバーさんが酒を飲み交わしていた。


「さあ、お入り」


 奥さんに入室をうながされ、家に入る。

 ダエルさんは俺に気付いたようだ。

 手に持ったコップを軽く持ち上げ、声を掛けてくる。


「よお! マサユキ来たか」

「あれ? ダエルさんって……お昼頃に出掛けてませんでしたっけ?」

「用事があるって言っただろ? それに昼間は仕事を手伝ってたからな。仕事終わりに酒を飲みながら話してるって訳だ」

「分かりました。俺はアンバーさんに依頼をお願いしに来ました」

「おっ! また何か思いついたのかい?」


 アンバーさんが身を乗り出して聞いてくる。


「えーっと、依頼は2つあって。1つはアンバーさん。もう1つはガルアでもできると思ってます。」

「ふむ」

「1つ目は石鹸を入れる箱です。販売用の綺麗な箱を作ってほしいです。お渡しした石鹸みたいにいい品ができるとは限りませんが、また同じくらい良い物のが出来たら特級品として出荷したいんです」

「なるほどね。見栄えのいい箱なら売り値も跳ね上がるってものだ。贈答品としてもいいだろうね」

「あと品質が落ちた場合も考えて、少し高級度を落した箱も欲しいです。大まかに特級、上級、中級、下級の4種ですかね」

「特級品となると、宮廷や貴族様向けってことだね?」

「そうです。あれだけの性能です。何もしなくても噂は宮廷に届くと思います」

「分かったよ。作ってみるとするよ」

「あと、もう1つの依頼は、石鹸の木枠の改良です」

「前に渡した木枠だとダメだったのかい?」

「はい。石鹸を取り出す時に手間取りそうだと思いました。なんていうか、ツルンって抜ければいいのですが、今のままだと側面にへばり付いて完成品がデコボコになりそうなんです」

「そうだなぁ。あれは大分雑に作ったからね」

「量産するにしても木枠の数は必要ですし、同じ分量で作れるように仕切りを付けたいです。綺麗に取り出すことを考えて、木枠を分解できるようにして、簡単に石鹸を取り出せるようにしたいですね。それになるべく撥水性が高くて、いい香りがする木材で出来るともっと良いかな? と考えてみました」

「なるほどね。今のガルアにはちょっと荷が重いかもしれないが、教え込んでみるのも面白そうだ」

「ごめんなさい。まだお金の持ち合わせがないので支払いが先延ばしですが……。必ずお支払いしますのでお願いできますか?」

「ああ。任せなさい!」


 アンバーさんは大張り切りである。

 ダエルさんも話が纏まったことにホッとしているようだ。

 俺との話が終わり、ダエルさんたちとともにしばし談笑する。

 その後、家路についた。


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