第111話 シルバースネークの謎
「お主……笑ておるのか?」
そう問い掛けるのも当然だろう。
剣は折れ、鎧は壊れ、切り札の<シルバースネーク>も打ち破られた。
体には生傷が痛々しく残っており、技量においても大きく溝を開けている。
状況だけでも、満身創痍。
にも関わらず、この男は笑うのだ。
「これは「どちらかが死ぬまで終わらん決闘」じゃ。例え、装備を整え再び挑まれようとも結果は動かんじゃろうな……。このままではお主は死ぬ。そう分かって尚、なぜ笑えるのじゃ?」
「……私はこれまで、嘘を付き、虚を突き、非道と罵られるだけの行いをしてきました。つまらぬ意地で戦火を拡大し、無用な血も多く流してきました。時に思うのです。私はこの世界に不要ではないのかと……。すべてから目を反らし、殻に篭る事もできます。自ら命を断つ選択もあります。しかし私は、この命尽きるまでひたすら前に進む事を選択しました。分かりきった事ですが……果てに待ち受けるのは見るも無残な結末です。しかし、尊敬に値する強い意思を持ち、全力で挑んでも勝てない強者に敗れるのであれば、いくらか清々しい終わり方だとも思えるのです。だから……口元が緩んでしまったのでしょう」
「お主は紛うことなき戦士じゃな。それゆえに惜しい。今この時でなければ状況は違っていたかもしれん。無駄かもしれんが……引くという事はできんのか?」
「勝負に拘るだけならそれも手でしょう。しかし……ここで引けば、貴方方の未来が閉じます。我々にとっても苦難の道となります。ゆえに、退けません」
「やはりのぉ……戦わねばならぬのという事か……」
「そうとも限りません。私は「道を通してくれ」とお願いしているに過ぎません。掟についても後日に改めれば良いですし、実害がなければ問題にする必要もなくなるはずです」
「……この老骨には未来視はないからの。お主の話がどれ程の物かは分からん。じゃが、お主は死する事が分かっていても来る気がする。……いや、お主は嘘付きだったのじゃな? 適当に理由を付けて逃げ仰せてしまうかもしれんのぉ。ホッホ!」
「んーまぁ……そうかもしれませんね。フフ……」
またしても二人は笑い合った。
その姿に、状況を見守っている赤槍たちは呆然とするばかりである。
ただ、一人だけを除いて……。
「何をやっているんだい!! さっさとその小僧の息の根を止めないかい!!」
老婆が激しく老人を急き立てる。
だが、老婆までの距離はそれなりにあり、何を言っているのかは鵺には聞き取れない。
「分かっとるよ。だがの、ワシはこの者を殺すのが勿体ないと思うのじゃ」
「爺さんアンタ……この期に及んで裏切るのかい?」
「何を持って裏切るとするのじゃ?」
「何を? ……分かって物を言うんだよ! 「選長の儀」を持ち出しておいて途中で投げ出すってのは、一族の裏切りに相違ないって言ってるんだい!! 爺さんも裏切り者にされたくなきゃ、その小僧を殺すんだ!!」
聞き耳を立て、やっと断片的に話を聞けたが……なぜそこまで掟の在り方に固執するのかが分からない。
だが、少なくとも目の前にいる老人を含め、回りは敵だらけである事に変わりはない。
「老師、お話中失礼致します」
「すまぬのぉ。うちの者が喚き散らして」
「いえ。確認ですが、この決闘は邪魔立て禁止なのでしょうか?」
「うむ。じゃが、今のお主のようにあと一突きで終わる状況じゃと、儀式の意に粗ぐわぬと横槍が入るのも時間の問題じゃろうな」
「では……状況が拮抗していれば良いのですね?」
「……ワシに槍を捨てよと言うのじゃな?」
「いいえ……」
鵺は不敵に笑うと、叫ぶ!
「偽装解除! 集まれ<シルバースネーク>!!」
すると、硬質化し砕け散っていた<シルバースネーク>が再び液状化し、鵺の元へと集まり始めた。
そして、鵺の体を這うように登ると、一部は破壊された鎧の隙間を埋めるように一体化し、一部は再び剣へと姿を変える。
「そもそも私は何も失っていないのですよ。むしろ、以前より凶悪になっていると認識して頂いた方が懸命です」
「ホッホ! 道理で落ち着き払っておる訳じゃ。じゃが、それだけではまだ拮抗してるとは言えぬぞ?」
「そうですねぇ……。今更ですが、私は今まで「二人」で戦っていました」
「……ワシには分からぬ冗談じゃのぉ?」
「お気付きになりません? この<シルバースネーク>がなぜ、「私の意のままに動かせるか」と?」
老人の眼が赤く色彩を変えると、鵺の体を観察し始めた。
そして……老人の顔色は、突然歪む。
「いや……そんな……在り得ぬ! お主…………本当に人なのか!?」
「それは私も疑問ではありますが、私は異邦の者。別次元から来た者です。エル様に言わせると、使徒の可能性を持つ存在だと伺っています」
「異邦者? 使徒? 確かにそう言われれば納得もするが……。お主、よく「それで」生きていられるものじゃな?」
「なかなか良い眼をお持ちのようですね。エル様は「可能性」と言葉を濁すだけで結論までは見出だせなかったようですが、老師は「その正体」まで見分ける事ができるのですね」
「ワシの眼は「死霊の眼」と言っての、死した精霊まで見極める事ができるなの物じゃ。精霊とて生き物。生ある時は輝きを放つが、死すると輝きを失う。精霊の輝きが失われる時、その者は死す……。じゃがお主は……生ける精霊が居らぬ。むしろ、死した精霊で埋め尽くされておる。どうして生きているのかは分からぬが……そのエルと申す者の判断は正しいようじゃな」
「話は逸れましたが、この<シルバースネーク>は、私とは違った色合いを放っているはずです。つまり、私の属性ではないという事であり、私が操っている訳ではないのです」
「……では、誰が操っていると言うのじゃ?」
鵺は胸元を漁り、ネックレスを取り出した。
それは、あの葉っぱが付いたネックレス。
葉っぱはあの頃と変わらぬまま、生き生きと輝いている。
「そ、そんな……まさか……それは「神樹の葉」ではないのか!?」
「いえ。私もこの葉の正体は知りません。ただ言えるのは、この<シルバースネーク>は「彼女の意思」で動いているという事です」
「そんな……馬鹿な……」
老人は、力なくその場にへたり込んでしまった。
「神樹の葉」というのは初めて聞いた名ではあるが、特別な木である事に疑いはない。
勝手ながら「彼女」と言い換えているのは、母なる大地、母なる海というように、母なる木「マザーツリー」という名称を想像して付けただけである。
元々は、この葉っぱと会話できないかと始めた事が切っ掛けである。
無線装置を改良し、音声で会話できないかと試みた事もあった。
複写機を利用し、文字で会話できないかと試みた事もある。
だが、彼女は何も言葉を発しようとしなかった。
そこで、動きを与えられないかと試行錯誤し、<シルバースネーク>が誕生したのだ。
「今のところ、彼女は私の指示通り動いてくれています。ですが、行動が制限されている訳ではありません。独自の判断で行動も可能だという事です。そして特筆すべき点は、彼女の適応能力の高さにあります」
「もう分かった……。ワシを殺せ……」
「……老師。事情はお察ししますが、貴方は貴方の正義のために槍を振るわねばなりません。この場で私が倒れても、彼女はそれを受け入れてくれます。それが自然の摂理であって、誰にも咎められる事柄ではないのです」
「分かる。分かるのじゃが……ワシは……もう槍を振るえん……。まさかお主が聖者様だと分かっておれば……」
「老師。私は聖者ではありません。成りたいとも思いません。むしろ、悪の化身しとて畏れられる事を望みます」
「何を言うのじゃ? お主は……」
「私は「鵺」です。厄災を振り撒く獣なのです。闇のみが私の拠り所であり、光も誉れも必要ありません。それが、鵺なのです」
と言ったものの……ここからどうするか……。
老師は完全に戦意喪失している。
だが、それで決着が付いた訳ではない。
そういえば……
老師は何を考え、この儀式を持ち出したのだろうか?
それを認めた老婆の行動にも疑問が沸く。
それに……何だ? この嫌な感じは……。
直感のままに老婆へと目を向けると……老婆は片手を挙げていた。
そしてその腕は……振り下ろされた。
次回、水曜日2015/9/2/7時です。
※8/29
一応ページは書き進めましたが・・・この後の展開に手が止まっている状況です。
難しく考えすぎなのでしょうか・・・。




