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黒の錬金術師 -黒の称号を冠する者-  作者: 辻ひろのり
第4章 特区構想計画編
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第110話 雌雄を決す死闘

 ぬえと老人は距離を取った。

 老人は静かに槍を構え、ぬえは地面に刺していた剣を拾うと構える。

 ここになって、サルビアはやっと状況を察した。


「おばば様。まさかおじじ様は……」

「そうさ。あれは「族長を決める決闘」。先々代まで行われていた野蛮で醜い争いなのさ。まったく爺さんときたら……」

「それじゃ、ぬえが勝ったら族長に成るという事でしょうか?」

「馬鹿言うんじゃないよ!! あの爺さんが負けるとでも言うのかい!?」

「それは……ないと思います」

「そうだよ。爺さんは負けない。いや! 負ける事は許されないのさ!」


 先に動いたのはぬえだった。

 ぬえは両手に力を込め、右から左へと剣で力一杯なぎ払う。


 ――ガ、ガギンッ!

 手が痺れ程の強打。

 だが、その攻撃は難なく防がれた。


 老人も黙っていない。

 受けた衝撃を槍を回転して分散させ、そこから踏み込み槍を振り抜く。

 ぬえもあえて一歩踏み込む。


 ――ギンッ!

 攻撃を剣で防ぎ、大きな衝撃音が走った。

 だが、ポイントをずらした事でダメージは軽微である。


 両者は睨み合った……。

 手が出せない訳ではない。

 互いに「これ以上踏み込む事はできない」超接近した状態のためだ。

 一歩間違えれば死が垣間見える緊張感の中……二人はニヤつく。


 二人は、更に踏み込んだ。

 引けば殺される。ならば前へと。

 直感的、本能的にそう感じたからではあるが、事実もう前に進む事はできない。

 剣と槍は激しくこすれ合い、無機質な音を立てる。

 体と体がぶつかり、体の熱と心臓の鼓動が伝わってくる程に押し合う。


 次の瞬間――二人は脱力した。

 老人は手を伸ばし、ぬえの肩を掴む。

 ぬえは体を沈み込ませ、体を捻る。

 老人は腕に力を入れ押し込み、ぬえは体を押し当てるように上方に押し上げる。


 すると……二人は互いに転んだ。

 前のめるように一回転し、再び武器を構える。



 ぬえは超接近状態から合気を極めようとしていた。

 だが、老人も同じだった。

 互いに同じタイミングで脱力し、同じタイミングで技を極めにいったためバランスを崩していた。

 そしてその事実に……またしても二人してニヤつく。


「よもや、お主も崩躰ほうていを使えるとはのぉ」 

「これは合気です。老師こそ見事な体捌きでした」

「ホッホ! 次はワシの番じゃな」


 老人の姿が一瞬霞み、体が小さくなったかと思うと……一気に踏み込んできた。

 頭から突っ込むように接近し、下からえぐり込むように槍を突き出す。


 ――ガ、ガリガリガリ!

 ぬえは上体を反らせ、間一髪老人の攻撃を躱した。

 だが、反応は間に合わず、胸元の鎧は斜めに大きく切り裂かれている。


 老人は息つく間もなく攻撃を繰り出す。

 右! 左! 足払いからの喉元への突き! 反転してからの左! 右! 左!

 辛うじて反応できているが、爆発的に加速する槍を躱し続けるのは……至難である。

 

「起動!! カウンター・アシストモード!!」


 ぬえが叫ぶと、<シルバースネーク>は起動した。

 <シルバースネーク>は鎧の隙間から飛び出してくると、先端を鋭利な刃物に変形させ、あらゆる方向から老人に襲い掛かる。

 今度は逆に老人が防御一辺倒になった。


「まるでビックリ箱じゃ。だがのぉ……」


 老人は攻撃を防ぎながら、隙を見て槍先で<シルバースネーク>を貫く。

 硬質化すれば鋼鉄の強度にもなる<シルバースネーク>が……いとも容易く斬り落とされていく……。


「何て切れ味の槍だ……」

「槍? 確かにこの槍は一級品じゃ。だがの……槍の良き悪きで判断するとは、お主もまだまだじゃのぉ」


 老人は槍の性能が<シルバースネーク>を斬り裂く理由ではないと言う。

 だが、どう考えても理屈に合わないのだ。


 老人の突きは、俊敏性、瞬発力、腕力。どれを取ってもサルビアたちには劣る。

 それは初撃のぶつかり合いで確認し、その後の攻防で確信に至っている。

 だが老人の槍は、そういった前提条件とは別次元の切れ味を発揮している。


 諸説、剣を極めれば鉄をも斬り裂くという。

 所謂「斬鉄剣」と呼ばれる技術である。

 だがそれは、人体工学と物理法則で証明できる技術でもあるのだ。


 ここは異世界。

 ついつい忘れてがちだが、この世界の人たちは認識を遥かに超えた力を発揮する。

 その一つが、腕力。

 片腕で巨木を持ち上げるアンバーさんが代表例だろう。

 だが、いくら腕力があろうと硬質化した鉄を切るのは難しい。


 ならば技術か?

 斬鉄剣の理論で言えば、目で捉えにくい「鉄の繊維」を狙って刀を差し込むという。

 人体工学でいえば、力を刀に伝えるには円運動が理想的であり、刀の特性を活かすために刃を大きく使う引き斬りの動作が重要になる。

 

 だが、目の前の老人が持つのは「槍」であり、「刀」ではない。

 槍は両刃ではあるが、基本は貫く武器だ。

 円運動もしてなければ、刃を有効に使う引き斬りも使えない。

 となると……「槍が特別であるか、特別な能力が付与されている」としか思えないのだ。

 

 ともかくこのままでは、いずれは手数で押し負ける……。

 この状況に、ぬえは暴挙とも言える台詞を吐いた。


「命令変更! 停止!」


 それは、<シルバースネーク>の活動を止める命令。

 <シルバースネーク>は命令を受け活動を止めると、地面にドロドロと流れ落ちていく……。


「……諦めた訳ではないようじゃな?」

「少々身軽になろうと思いましてね」

「ホッホ! さて、次はどんな奇策を魅せてくれるのかのぉ?」


 ぬえは軽くステップを踏むと、一気に飛び出した。

 そして、両手に力を込め、右から左へと剣でなぎ払う。


 その攻撃はあたかも「初撃と同じ」。

 僅かに剣速が早いというだけの差しかない。

 当然ながら、一度見た技を老人は同じようには対応しない。 

 攻撃を受け流し、初撃よりも速く確実に……


 ――だが、その考えは覆された。

 突然、「剣が液状化した」のだ。

 そして、槍に張り付いたかと思うと瞬時に硬質化する。


 老人は槍を動かし振り払おうと試みるが、槍と剣は完全に繋がって離れない。

 ハッと気付くと、足元に銀色の液体が足にへばり付いている。

 そしてそれは完全に硬質化した……。


たばかられた!! よもや槍だけでなく足まで封じに来るとは!!」

「これで貴方は武器と機動力を失いました。……さて、どうします?」

「……どうもせんよ」


 その台詞に、ぬえは戦慄を覚えた!

 だが、時は既に遅し。

 老人は槍から手を放すと、両手の拳を胸の辺りで合わせぬえの胸元目掛け、一気に突き出す!


 ――ガガッバリバリバリッ!

 胸元の鎧が勢いよく四散した。

 着ていた服も散り散りに破け散る。

 幸い老人の一撃は体に到達するギリギリの所で回避できたが、先の戦闘で治療した傷口が開き、包帯が赤く染まっていく……。


 この時、ぬえは困惑していた。

 何をされたか分からなかったためだ。


 槍を封じ、足を封じ、念の為に距離を取っていた。

 しかし、この老人は「手を伸ばしても届かないはずの距離」から強力な一撃で鎧を破壊した。


 鎧は特注の軽合金製である。

 物理攻撃に弱いという欠点はあるが、対魔術戦を想定した魔法耐性を強化した鎧である。

 しかも、体の中央「正中線」は念入りに装甲を厚くしてある。

 ヴァルカンの全力攻撃ならいざ知らず、魔術では簡単に破壊できない強度と耐久性を備えている。


 先の戦闘では背中側から体を貫かれた。

 槍の性能もそうだが、それは正中線を外れていたからと説明が付く。

 だからこそ、老人の槍で胴体の鎧を抉られたのも槍の性能に因る物が大きいと思っていた。

 だが……あの老人は素手でそれをやって退けた。

 しかも、攻撃は目視できなかった。

 それはつまり、老人の言う通り「槍の性能だけが理由ではない」という事だろう。



 ぬえは鞄を漁ると、左手で何かを放り投げた。

 それは、黒い玉。

 ミイティアとの試験でも使った、あの玉だ。


 導火線からは火花が飛び散り、計算しつくされた距離で炸裂の時間を待つ。

 だが、導火線は斬り落とされた……。

 老人の手刀と言うべきか、見えない攻撃によって導火線のみ切り落とされたのだ。

 黒い玉は地面に転がる……。


「危ない危ない。それは炸薬弾かのぉ?」

「さあ? どうでしょうね?」


 導火線が切られたはずの黒い玉が突然回転を始め、煙を撒き散らし始めた。

 モウモウと辺りは煙で埋め尽くされていく……。


「ふぐっ……目眩ましか!?」


 老人は煙を振り払うように右手を振るう。

 次瞬間、煙の中からキラリと光る物が飛び込んできた。

 ぬえの放ったナイフである。


 老人は余裕の対応でそれをはたき落とす。

 だが、次に飛び込んできた物に目を見開く。

 ぬえが飛び込んできたのだ。


 ぬえは篭手の射出機を放つ。

 だが、それも老人の見えない壁に防がれる。

 ――が、同時に突き出したナイフが老人の胸に突き立てられた……。

 

 ぬえは何かに気付くと、即座に飛び退いた。

 持っていたナイフは、中ほどで折れてしまっている。


 煙の中から「バリ、バリバリ!」 という嫌な音が聞こえてくる。

 そして、一気に煙が振り払われた……。


 煙から現れた老人の手には槍が握られている。

 足元を固めていた<シルバースネーク>の姿もない。

 そして、投剣、射出機、ナイフで攻撃したにも関わらず、その体には傷一つ見当たらない……。


「やるのぉ。なかなかの攻撃じゃったわ」

「老師……貴方は只者ではありませんね」

「ホッホ! この老骨にはこれが精一杯じゃぞ?」

「フフ、何を仰います。十二分に力を温存しているじゃないですか」

「はて、何の話かの?」

「貴方の纏うそれは、<絶対加護アブソリュートブレス>ですね? 幻想魔術に分類されるそうですが、武器に付与したり体を覆う鎧にもできる「攻防自在の闘気」と言いべきでしょうか?」

「……ホッホ! 一族ならいざ知らず、初見で看破するとはさすがじゃのぉ。……さて、それが分かったところでお主に打ち破る術はあるのかのぉ?」


 絶対的な実力差。攻防自在の特殊能力。

 勝ち目の見えてこないこの状況に……ぬえは静かにほくそ笑む。


次回、水曜日2015/8/26/7時です。

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