表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の錬金術師 -黒の称号を冠する者-  作者: 辻ひろのり
第4章 特区構想計画編
111/117

第109話 赤槍の長との接触

「サルビアどういう事だ? それにジギタリス! 貴様が付いてながら何て体たらくだ!」

「とにかく話を聞いおくれ!」


 ぬえの悪い予感は的中し、サルビアたちは赤槍せきそう本隊に捕えられていた。

 だが、これは当然の結果でもある。


 サルビアたちは周辺の人払いを命じられ、早々にぬえたちを発見し排除行動に移った。

 だが、一晩経っても経過報告はなく、昼過ぎになって帰ってくると「離反者への制裁措置を止めろ」と言い出した。

 問い質した所、報告は耳を疑う物だった。

 たった二人を相手に返り討ちにされたと言うのである。

 しかも、相手は捕えたサルビアたちを開放し、無傷で帰らせたというのだ。


 よそ者に接触する事もそうだが、常勝を信条とする赤槍せきそうにあってはならない失態を演じ、更には赤槍せきそうのやり方に反抗的になっていれば、「密約があった」もしくは「洗脳された」とも取れる行動だからである。


 サルビアは取り押さえる者の手を払い退け、必死に訴えかける。

 

「この場で結論は求めません! どうか機会をお与えください!」


 サルビアの訴えかける先には白髪頭の老人がいた。

 老人は木で設えた椅子に深々と座り、煙管きせるを静かにふかしている。

 静かな雰囲気が流れる中……隣に座っていた老婆が喝を飛ばす。


「煙をこっちにやるんでないよ! 煙たいじゃないかい!」


 老婆に言われると、老人は渋々と煙管の火を始末を始めた。


「サルビア。よそ者に土を付けられたとは本当なのかえ?」

「はいおばば様。ですが重要なのは――」

「お黙り! 余計な事は答えるんでないよ!」

「……はい」


 老婆は従者を呼び付け、何やら密談を始める。

 そして、従者は数人の部下を集めると準備を始めた。


「おばば様……一体何を……」

「分かりきった事だえ。その者を殺すのさ」

「待ってください!! ぬえを殺してはなりません!! あの者こそ我らに光を与える者でございます!!」


 ――ピシャン!

 老婆の平手が命中し、サルビアの頬が赤く腫れ上がる。


「いい加減その口を閉じな! 孫だからと許される事とそうでない事くらい、赤子でも分かる事じゃ! お前の無知が一族を滅ぼす事になると自覚するんだね!」

「ですがおばば様――」


 ジギタリスが押さえ込み、サルビアの反論は捻じ伏せられた。


「何をするのさ、ジギタリス!」

「何を言ってるのか分かってるのか!?」

「分かっているさ! だけど、これじゃ約束が果たせないじゃないかい!」

「我らはぬえと約束を交わした訳ではない! 頼まれただけだ! ならば、その役目は十分果たされている!」

「ジギタリス、アンタは言ってたよね? 「我らは我らのやれる事をする」って。これがアンタのやれる事だって言うのかい?」

「そんな事が問題ではない! 同じ事を繰り返し、また仲間を危険に晒すと言うのか!?」

「…………」


 ジギタリスの言葉に何かが脳裏をよぎると……サルビアは急に静かになった。


「サルビア、ジギタリス」


 老人は二人の名を呼び、手招きしてくる。

 サルビアとジギタリスは老人の前まで行くと、静かにひざまづいた。

 一族の長の前で騒いでしまった事や、自身の誤りを咎められる事を覚悟していた……。

 だが、老人は二人の頭をゆっくりと撫で始める。


「サルビア、ジギタリス。お主らは一族のためにとよう頑張った。お主らの誇りは一族の誇りじゃ」

「おじじ様……私は……」

「サルビアは健気な娘じゃな。気にせずこの爺やに話しなさい」


 サルビアは事の次第を話し始めた。

 言葉足らずはジギタリスが捕捉を入れ、自身らが置かれた状況やぬえの示した解決策を話していく……。


「なるほどのぉ……。サルビアはそのぬえなる者を好いておるのじゃな?」

「ち、違う! 勘違いしないでおくれ! アタシは……一族のために必要な犠牲だと思って……」

「本当かのぉ? まぁ良いわい。……さて、出迎えをせねばな」

「……出迎え?」


 老人は遠くを見詰める。

 サルビアもその方向に目を向けるが……それらしき人物は見えない。

 ただ、何かがこちらに向かってきているという直感だけを感じる。


 飼い慣らした魔獣たちが尾を立て唸り始めた。

 森の茂みがガサガサと僅かに動く。

 それを見て、魔獣たちが一斉に走り出した。

 だが……魔獣たちは突然その足を止める。

 怯えている訳ではないようだが、何かの危険を察知した様子である。


「匂いじゃな」

「匂い?」

「これは大熊の糞尿の匂いじゃ。他にも匂いを感じるが、本能的に嫌がる匂いを漂わせているな……」


 森の茂みがまたざわつく。

 だが今度は、その範囲が広い。

 左右に50m程の広さにその存在を感じ、しかも、明らかに「人ではない気配」である。


 その気配は次第に強まり、茂みを掻き分け「それ」は姿を現した。

 現れたのは、ぬえ

 だが、現れたのはぬえだけではなかった。

 いくつもの「球状の黒い物体」と共に出現したのだ。


 黒い物体は、かぼちゃ大の大きさで表面はつるつるとしており、黒い光沢と異質な雰囲気を放っている。

 不用意に近づけば切り刻まれてしまうような、鋭利なナイフのような雰囲気である。


 ぬえは手に持つ装置のスイッチを入れると、黒い物体は形状を変えた。

 扇のように羽のような物を広げ、音を発し始めた。


「私の名はぬえ! 私の望みは唯一つ、「語らい」である! 私は無用な戦いを求めない! だが、貴様たちが耳を貸さず道を阻むのであれば、私は私の目的のために前進するのみである! 速やかな返答を求める!」

 

 赤槍せきそうたちは長老へと意識を向けた。

 判断を仰ぐためである。


 ぬえから見て、一族の長は二人いるように見える。

 老人と老婆である。

 おそらくは老人の方が一族の長だと思われていたが、老婆は老人と相談する事なく判断を下した。


 「殺せ」

 そう命令を受け、赤槍せきそうたちと魔獣たちは一斉に襲い掛か……

 

 ――ズズーン!

 突然、鈍く大きな音が響き渡る……。

 それは、老婆の隣に座っていた老人が側近たちに命じ、槍を地面に突き立てた音だった。

 

「爺さん、一体何のまねだえ?」

「ワシは奴と語らおうと思う」

耄碌もうろくしちまったのかい? あの猿は殺すよ。これは掟さ。そのくらい爺さんにも分かるだえ?」

「掟か……。ならば止めんな?」


 老人は椅子から立ち上がった。

 そして、ゆっくり歩を進める。


 老婆は不服ながらも、その意味を察した。

 だが、サルビアたちや他の赤槍せきそうたちは訳の分からないという顔である。


「おじじ様? 一体何を……」

「なーに、今は無き「古き掟」を掘り出しただけじゃ」

「古き掟って? おばば様。古き掟とはどういう物なのですか?」

「……遠い昔に封じられた忌まわしき掟さ。爺さん、死ぬつもりじゃないだろうね?」


 老人は手を振って応えるだけだ。

 老人はぬえの10mほど手前に来ると止まった。


「待たせたのぉ」

「いえ。この程度待ったとは言いません。それにまだ時間はあります」

「つまり、伏兵がいるのじゃな?」

「伏兵など綺麗な物ではありません。ただ……骨どころか灰すら残らない策でございます」

「策か。面白いのぉ。久しく戦いを離れていたこの老骨も、血のたぎりが抑えられんのぉ」

「素直には通して頂けないという事ですね」

「察しが良いのぉ。ワシがこうしてお主と相対できているのは、「古き掟」ゆえにだ。時間は幾刻いくこく残っておる?」

「少々お待ちください」

 

 ぬえは剣を抜き、地面に突き立てた。

 そして、方角を考えながら印を付けていく。

 剣の影を使った日時計である。


「およそ10分。600も数を数えれば時間となります」

「ふむ……。一つ聞くが、なぜ素直に答えるのじゃ?」

「先程申し上げた通り、定刻になれば一帯は火の海になります。私が死んでも策は起動します。それでは無意味な殺傷です。事前に退避できるなら時間を伝えるべきですし、私が勝利した場合でも他の者が納得するとは限りません。ゆえにお話しただけでございます」

「なるほどのぉ。サルビアが娶られたいというのも頷けるのぉ」

「私は彼女を娶るつもりはありませんがね」

「ホッホッホ! それは若人同士で決めれば良い話しじゃったな。他に伝えるべき事はあるのかのぉ?」

「では僭越ながら。ここより北東に2フィール程先になりますが、私の部下たちが貴方方の別働隊に攻撃されております。その攻撃を一時取り止めて頂けないでしょうか」

「ふむ……。無理じゃな。ワシらの意思を伝えるには時間が無さ過ぎるからのぉ」

「ご心配に及びません。この通信機で意思をお伝え下さい。これは遠く離れた地の者と話ができる装置でございます」


 ぬえはゆっくりと老人に近づき、通信機を渡す。

 老人に操作方法を教え、老人は通信機に話し掛けた。


「ゴホ! ワシの声が聞こえるかのぉ? 第11部隊だったと思うが、お主らは即刻撤退せよ。……これで良いかのぉ?」

「撤退で良かったのでしょうか?」

「お主の敬意に応えるには丁度いいと思うがのぉ?」

「……分かりました。ありがとうございます」

「うむ。そろそろ時間じゃ。ワシらも早く事を済ませんと命がないぞ」

「それも問題ありません」


 ぬえは通信機で本部に連絡を取り、作戦の変更を伝えた。


「さて、時間は十分にあります。存分にやりあいましょうか」

「うむ。存分にな」


次回、2015/8/19/7時です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ