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黒の錬金術師 -黒の称号を冠する者-  作者: 辻ひろのり
第4章 特区構想計画編
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第107話 交渉カードを得るために

 唐突なぬえの提案に、皆息を呑む……。


 最終的な状況でいえば、ぬえはサルビアたちを取り押さえ有利な立場にあった。

 だが、今は全員開放し対等な共闘関係を結んでいる。

 ともなれば、ぬえの言う「組織を抜けろ」という話は、対等さを無視した暴言のようにも感じられるからだ。

 

「抜けろって……そんな事できないって事くらい分かってるよねぇ?」


 サルビアの目がギラリと光る。

 声色も少し低い。

 少し考えれば「その意味」に気付く物だが、ぬえは平然と返す。


「分かってますけど、なぜ出来ないのです?」


 ――ガシャーン!

 ティーカップと木箱が空中にぶち撒けられ、大きな音と共にぬえは喉元を掴まれた。

 力が込められ、ギリギリと首が締め付けられる。


「いい加減におし!! アタシらはアンタみたいに、仲間を裏切る下衆に成り下がるつもりはないよ!!」 

「…………」


 ぬえは掴み掛かる手を抑え、苦しい表情を浮かべ耐える。

 アイリス、ジギタリス、ヒヨスらも槍を構え、下手に抗えば貫く構えだ。


 だが……この状況に動かない者がいた。

 それはミイシャ。

 ミイシャは応戦の構えも取らず、ジッとサルビアを見詰めていた。


「何だってんだい!? アタシが間違ってるとでも言うのかい!?」

「……いいえ」

「じゃあ何だい!? 何で……何でそんな目で見るんだい!?」

「あなたは兄様を信用してなかったのですか?」

「信用? はっ! 昨日今日の付き合いで、アンタらの何を信じろって言うんだい?」

「そうかもしれないけど、兄様はあなたたちが暴れないと信じて拘束を解きました。「シルバースネーク」の発動も止めています。もし逆の立場だったなら……あなたは兄様と同じ事ができますか?」

「……できはしないさ。しもしないさ。交渉ってのは常に強い奴が主導権を取る。単に今そうなっただけの話さ」

「では、兄様がいなくても結果を出せると言うのですね?」

「……できるさ。最初からそのつもりで――」

「嘘です! さっき話してた作戦にしても、時間を掛けて相談していた事にしても、兄様なしには一つとして進みません!」

「黙りな!!」


 場がヒートアップしつつあるが、ぬえはサルビアの腕をトントンと叩く。

 手でジェスチャーをし、腕を緩めるよう伝える。

 サルビアは熱くなってた事に気付くと、少し葛藤した後に腕を緩めた。


「ゴホゴホ……言葉足らずだった事は認めます。ですが、いずれ決断を迫られる事柄です」

「アタシには分からないね。それはつまり、「一族を見捨てろ」って事だろ? 勝利のためにすべてを捨てて、その後に何が残るってのさ?」

「なるほど……その問いの答えは少し待ってください。ジギタリスさん、貴方は私の言いたい事を理解できますか?」

「……我らがやろうとしてる事は一族への裏切りに違いない。だが、一族への説得を続けるべきだとも考えている。抜けるのは簡単だが、今はその時ではないだろう」

「分かりました。どうやら私の配慮が足りなかったようです。作戦を組み直しますので、どうか落ち着いて座ってください」


 少し時間は掛かったが、皆が座ると説明を始める。


「まず、問題を洗い出します。一つ目は「貴女方の生存権を如何に勝ち取るか」という事。二つ目は、「離反者への対応」。三つ目は、「竜をどうやって討伐するか」という事です」

「全部同じ問題じゃないのかい?」

「いえ。これは「交渉相手」で問題を分けてあります。一つ目は「契約者」、二つ目は「赤槍せきそう」、三つ目は「アルテシア聖王国」となります。実質的には一つ目と三つ目は同じ意味ですし、交渉も同一の人物になると予想しています」

ぬえ。なぜ、三つ目の交渉相手がアルテシア聖王国になるのだ?」

「竜討伐を専門にしてきた貴女方なら分かるはずです。竜討伐を成功させる事が、如何に難しい所業なのかと。ならば、生存権を勝ち取るための強力な交渉カードにする事ができるはずです」

「随分豪胆な台詞だな? 私は呆れるばかりだ」

「ジギタリス。アンタだけ納得してないで説明しな」

「ああ。ぬえは「竜討伐」を交渉のカードとすると言う。つまり、「必ず勝利する確信がある」と言っている。我々からすれば、逆立ちしても出てこない台詞である事は分かるな?」

「そうだね。確かにアタシらの持ってる情報は教えたけど……それだけで勝てる算段が立つとは思えないねぇ」

「うむ。ぬえよ。貴様はどうやって討伐すると言うのだ?」


 問いを投げ掛けたのはジギタリスだが、皆それに関心がある顔付きをしている。

 ぬえは少し考え込むと、アッサリと結論を出した。


「そうですねぇ……分かりません」

「はぁ!? 意味分かんねーし!」

「お姉ちゃん……この人馬鹿なんじゃないの?」

「……言いたかないが、アタシもそう思ってきたよ」


 皆口々に暴言を吐き、期待を裏切られた事に顔を歪ませる。

 ジギタリスは状況を静観しながらも、真意を確認する。


ぬえ。それは交渉カードに成り得るのか?」

「はい、特に問題はないと思います。と言うのも、そもそも「竜を殺す事だけ」が竜討伐の目的ではありませんからね。結果として、被害を最小に収められれば良いのです」

「理屈は分かるけどねぇ。足止めだけなら可能だけど、それに何の意味があるって言うのさ?」

「それは「貴女方だけで竜に挑んだ場合」の話ですよね? 心強い協力者や十分な準備期間があれば、状況が変わるとは思いません?」

「……そいつは極論じゃないかい? アタシらの足を引っ張るだけじゃないかねぇ?」


 サルビアの疑念は最もである。

 いくら実力があろうとも、強力な武器を持っていようとも、実績がない者が集まっては意味がない。

 十分な準備期間を用意できたとしても、閉鎖的な方針を取ってきた赤槍せきそうたちが、複雑な手順と討伐に必要なコミュニケーションを取れるかは別問題だからである。


「とりあえず、貴女方の話ではしばらく竜は動かないようですし、情報不足の現状では対処可能かすら分かりません。なので、竜討伐の話は後回しにしましょう」

「分かったよ。という事は、二つ目の問題「離反者の対処」を先にするって事だね?」

「はい。離反者は「現状の赤槍せきそうのやり方に異を唱える者たち」という事なので、仮にその考えが貴女方に通ずる物であれば、味方に引き入れる事も可能でしょう」

「……さっきは勢いで話を進めちまったけど、アタシは望み薄だと思ってるよ。レックスは第1小隊を率いている。つまり、アタシらの中で一番強い部隊だ。アタシらの中で強いってのは、それだけ発言権が強いって意味になる。そんな奴が一族を裏切った。皆が感じる不満が原因だってんなら、アタシらに話が降りてきてても変じゃない。でも、それはなかった。なら、アタシらの考えも及ばない事が原因とも思えるのさ」

「ええ、考え方としては間違いないと思います。ですが、それは根拠がない想像に過ぎません」

「フフ……。アンタこそ、何から何まで根拠がないと思うけどねぇ?」

「ま、まぁ……それは置いときましょう。私は彼らこそが、状況を打破できる存在だと睨んでいます。本来は貴女方にも手伝って頂きたかったのですが……私の方で手を打とうと思います」

「アンタの方でって、アタシらは無視かい?」

「んー……形式はどうであれ、貴女方を参加させる訳にはいきません」

「どうしてだい? アタシらが居なければあの包囲網を突破できやしないし、話を取り付ける事すらできやしないよ?」


 ぬえは再び場が熱くならないよう少し間を挟み、ゆっくり話を進める。


「協力を仰ぎたいところですが、私たちを手引した時点で「裏切り」です。状況によっては戦闘も考えられます」

「じゃあ、この状況はなんだって言うんだい? 既に裏切ってるとも言えるんじゃないのかい?」

「では、なぜ私の提案に怒ったのです?」

「それは……里に残した弟たちも見捨てるって事にもなるからねぇ……。そもそも、アンタの言い方に問題があった事が大きいのさ!」

「……そうですね。申し訳ありません……」

ぬえよ」


 ジギタリスは立ち上がる。


「我らは我らのやれる事をすればいいのだな?」

「ええ。それで問題ありません」

「一つ確認だが、どうやって侵入するつもりだ? 簡単に突破できる包囲網ではないぞ?」

「そうですねぇ……」


 濃霧地帯の広さは1km四方と広い。

 一見隙がありそうな広さだが、その周囲をぐるりと赤槍せきそうたちが取り囲んでいるそうだ。

 戦力的、実力的に考えても正面突破は難しい。

 例え侵入ができたとしても、一寸先も見えない濃霧の中を移動する事は自殺行為でもある。

 となると……唯一の侵入手段として、「あの人」に助けを求めるしかないだろう。


 ぬえはサルビアを見据える。


「サルビアさん。貴女方にお願いがあります」

「抜けろってのはなしで頼むよ」

「いえ。貴女方には長老の説得をお願いします。どういう形でも結構です。私を長老に引き合わせてください」

「正直勝算はないけどねぇ……。やるだけやってみるさ!」

「頼みます」


 サルビアたちは準備を整えると、本隊の方へと移動を始めた。

 ぬえも、見送りもそこそこに準備を始める。


「兄様。侵入方法は想像が付くのだけど……勝算ってあるの?」

「そんなのないよ」

「ないって……また無茶な事をするつもりだったの!?」

「無茶かどうかは分からない。でも、サルビアさんたちの方が危険だと思うよ」

「え? でも……何で? サルビアさんたちは裏切ってないし、説得を試みるだけでしょ? 危険はないと思うのだけど?」

「いや……最悪の場合だけど、サルビアさんたちは殺される」


次回、水曜日2015/8/5/7時です。

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