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第9話 大雨と涙

 パチッ、パチチッ……


 暖炉にくべた薪が乾いた音を出しながら、力強く燃えている。

 ダエルさんと俺はソファーに座り、暖炉の炎を眺め……

 リーアさんに用意してもらったスープを飲んでいる。


 無言で炎を見ているだけだが……こういう時間は好きだ。

 原始時代から、男たちは火を囲んで火を眺めるのが好きらしい。

 そんな話をどこかで聞いたことがあった。

 まさに今がそれなのだろう。

 長い沈黙のあと、ダエルさんは口を開く。


「なあ、マサユキ……。故郷に帰れなくて寂しくないのか?」

「……いいえ。今の俺には、家族がいますからね」

「そうか……」


 すべてを受け入れてくれた掛け替えのない家族が。

 さっきまで大泣きしていたのが不思議なくらい、今は安心感に包まれている。

 疑問に感じていたことを聞く。


「ダエルさん。メルディはその……俺と親密になることを望んでいて、ダエルさんとリーアさんにも承諾を得ていると聞いたのですが……」

「その話か……」


 ダエルさんは少し考え込む。


「マサユキはメルディの過去を知りたいか?」

「聞いて欲しくないことなら聞きません」

「まぁそう言うな。お前には聞いてもらいたんだ」

「…………」

「少し長い話になるが、大体6年ほど前の話だ……」


 メルディはある小さな村に家族と暮らしていた。

 しかしある日……目の前で両親と弟を殺された。殺したのは盗賊だ。

 たまたま居合わせた俺たちが奴らを倒したが……既に村の大半が焼かれ、荒らされ、残った者も怪我人ばかりだった」


 当時は小規模な戦争がいくつもあって、加えて不作続きで貧困に喘ぐ者も多かった……。

 そこら中で当たり前のように殺戮と略奪が横行していた。

 メルディは……家族の亡骸の前でずっと泣いていた……。

 幼かったメルディには厳しい現実しかなかった。

 生き残った者もメルディを受け入れられる程余裕はなかった。

 そこで街の孤児院に預けることにしたんだ。


 メルディは素直で利口な娘だった。

 俺の意見を聞いて、すぐに家族を弔う準備を始めた。

 俺たちも村人たちのために墓を掘った。メルディは泣き事一つ言わずに手伝った……。


 ようやくすべての者の弔いを終えた時、メルディは泣き崩れた……。

 俺たちはその晩は休み、明朝に出発することにした。

 朝起きるとメルディは支度を終え、馬たちの世話をしていた。

 昨日あれだけのことがあったのにも関わらず……気丈に振る舞っていた。

 そしてメルディを街の孤児院に届け、別れた。


 ダエルさんは大きく溜息を吐く。


 それから大体2年ほど経った。

 街で用事を済ませ帰る準備をしていた時、奴隷商の馬車が横を通り抜けた。

 その時、見覚えのある顔を見つけた。奴隷商を呼び止め確認すると……メルディだった。

 その時のメルディは……絶望し、憔悴しょうすいしきっていた……。


 奴隷商に話を聞くと、街で大きな戦闘があり、孤児院が焼かれて大半の孤児たちが死に、

 残った孤児たちのために自ら身を売ったそうだ。

 奴隷商と取引をし、メルディを引き取った。


 メルディは俺のことを覚えていてくれたよ。

 だが……あの時の気丈さがまるで感じられなかった。

 元気もなかった。ほとんど無表情だったよ……。

 絶望を2度も味わったんだ。奴隷になったことも関係しているだろう。

 不安と恐怖で縮こまってばかりだったよ。


 家に着くとリーアが出迎えてくれた。

 ミイティアはリーアの影に隠れていたなぁ。

 リーアに事情を話し、メルディは俺たちの家で侍女として働くことになった。

 本当は家族として迎え入れてやりたかったんだがなぁ……メルディが断固として拒否したんだ。


 ダエルさんは少し苦笑いを浮かべる。


「実はな……俺も何度かメルディに夜の誘いを受けたんだ」


 なんと……。


「メルディが言うには「私は旦那様の奴隷ですから当然です」だっけな?

 自分の娘に手を出すつもりはなかった。だから申し出を断り続けたよ。

 それにメルディには、好きな相手と幸せになって欲しかったからな」


 ……その通りだ。

 立場ではなく、人として、娘として、幸せを願うダエルさんはカッコイイ。

 俺もダエルさん。いや――父さんのようにカッコイイ男になりたい!


「メルディがお前を寝取ろうとしたと聞いて、それを思い出したよ。

 メルディからしてみれば、お前は主人の家族であって仕える対象だ。

 侍女であり奴隷という生い立ちもあって、慰み者として使われるのは当然という考えなのかもしれない……」


 合点がいった。

 俺にしてみれば、メルディは『俺たちの家族』という認識だ。

 しかし、彼女からしてみれば『仕える対象』に過ぎなかったのだ。


 それでも俺は……そんな状況に甘えたくない。

 血が繋がらない間柄とはいえ……俺にとっては姉であり、家族だ!


 メルディはそれで話の辻褄つじつまが合うとして……ミイティアはなんだったんだ?

 メルディに焚きつけられて行動したとは思うが……どうにも分からない。

 家族であっても、お互いさえ良ければ成立するものなのだろうか?


「あの……ダエルさん?」

「なんだ?」

「メルディのことは大体分かったのですが……。ミイティアがいた理由が分かりません。この世界では、家族の子供同士での交際は認められているのですか?」


 ダエルは考え込む。


「……そうだなぁ。お互いが納得してればいいとは思うが……あまり聞かない話だ。

 うちで言えば、血縁関係にはないのだから問題ないと思うぞ?」


 やはり判断に困ってしまう。

 ダエルさんはニヤッと笑う。


「マサユキ。お前さえ良ければ、ミイティアをくれてやっても構わないぞ!」


 な、なんてこと言い出すんだ!


「い、いやいやいやいや、待ってください!

 俺にとってミイティアは妹ですよ!? まだ子供だし!

 そんな現実離れした話は例え話であっても止めてください!

 ただでさえ……メルディの誘惑に勝てなかった俺です。変な気を起させないでくださいよ!」

「そうか? この世界では結婚してもよ。戦争やら盗賊やら魔獣やらで、いつ命を失うか分からねえ。

 貴族だって権力争いで簡単に死人が出る。安泰な時間なんて、この世界では希少なんだ。

 とやかく理由を付けて、断わる必要はないと思うがな?」


 やはり、この世界は過酷なようだ。


「それによ――」


 ダエルさんは、さっきよりニヤニヤ笑いながら言い放つ。


「ミイティアはあと4~5年もすれば美人になるぜ! メルディも美人だしよ! 美女に囲まれて羨ましい限りじゃねえか! ハッハッハッハッハ!」


 返す言葉が見つからない……。事実だからだろう。

 だが、2人も妻がいる状況が分からない。

 俺は今まで、1人の女性とさえうまく付き合えなかったからだ。


「あの、ダエルさん……。俺には……2人も妻を持つことを全く想像できないのですが……。前世でも女性とはあまりうまく行きませんでしたし……」

「フフフ。お前は考え過ぎだ」


 考え過ぎ?


「マサユキ。お前は、自分の立場に置き換えて相手を判断するだろ?」

「はい」

「それは間違いじゃないんだが……。誰かを好きになる。愛し合うということに――理屈はいらねえ! 分かるか?」

「はい、その通りだと思います。でも――」

「だから、考え過ぎなんだって! お前の場合、好きになった相手が振り向かなかっただけだろ?」

「…………」

「世の中には星の数ほど女はいる。だが、心の底から自分を好いてくれる奴はそうはいない。理由はあるだろうが、振り向かない奴は何をやっても振り向かない。……そう考えれば簡単だろ?」

「……はい」

「よし! 話は纏まったな! メルディと話し合ってこい!」

「…………」

「お前はメルディに手を出した! 最後までしてないとはいえ……責任はあるんじゃないのか?」

「うっ……」

「まぁ責任はこの際どうでもいい! だが、放置していいことじゃないだろ?」


 メルディはまだ1階に降りて来てない。

 きっと塞ぎ込んでいるのだろう。

 責任を取るかは別にして、彼女とはしっかり話をしなければならない。


「……分かりました」


 深呼吸をし、落ちついてから立ち上がる。

 階段に向かおうと体を向けた時、思い出す。

 言う必要はないかもだが……。

 ダエルさんの方を向く。


「ダエルさん。お願いがあります。――っと言っても、守れなくても構わないのですが」

「なんだ?」

「前世の話についてです。できれば……口外しないでもらえますか?」

「ああ。どんな覚悟で打ち明けたかくらいは分かるつもりだ」


 嬉しい言葉のはずだが、とても複雑な気分だ。

 俺の表情を見てダエルさんが立ち上がり、背中を「ドンッ!」と叩く。


「大丈夫だ! 家族を売るようなことは絶対にしない! ――そら! 行け!」


 ダエルさんに押し出されるように階段に向かう。

 さて……ここからが正念場だ。

 メルディもミイティアもどう思うか分からないが……やるだけやろう!

 そう心で決心し、階段に足を掛けた。



 ◇



 2階は静かだった。

 雨はまだ強く吹き付けている。

 1歩歩くごとに、床板が「ギシッ!」 と廊下に響く。

 メルディたちは……まだ俺の部屋にいるのだろうか?


 俺の部屋に着く。

 ドアはいつもより重そうな雰囲気を醸し出している。

 とりあえず、ノックをしてみる。


 ……しばらく間が開いて、中から返事が聞こえる。

 一呼吸置いて、ドアを開ける。

 そこにはメルディとミイティアがいた。


 ちゃんと服を着ており、いきなりドキドキする展開にならなくて済んだことを安堵あんどする。

 2人ともベットに座っており、メルディの目元は赤く腫れ上がっている。

 意を決して部屋に入り、小さな椅子に腰掛け2人に向き合う。

 メルディは目を伏せ、ミイティアは少しオロオロしている。


「メルディさん。俺の身勝手で振り回してしまって。それにあんな乱暴をしてしまって……。申し訳ありませんでした」


 そう言って、頭を深々と下げた。

 メルディは慌てて床に飛び出し、床に降りたかと思うと額を床にピッタリ付ける。


「申し訳ございません! マサユキ様が謝る必要はございません! どうか……どうかそのようなお言葉をわたくしめにお掛けにならないでください!」


 俺はメルティの前で床に正座し、メルディに声を掛ける。


「顔を上げてください。……そんなことをされたら俺が困ります。どうか落ち着いて顔を上げてください」


 メルディは渋々顔を上げる。

 額を床に付けて付いた泥を丁寧に布で拭う。

 ふっと視線を下に向けると、薄い寝巻から美しい裸体が透けて見えてしまっている。


 俺はクローゼットを開け、中からシャツを2着取り出す。

 そして、メルディの肩に掛ける。

 メルディは恥ずかしながらも、嬉しそうな表情をする。


 メルディをベットに座らせ、膝にもう1着を掛ける。

 ミイティアは不思議そうな顔をしているが、メルディは俺の意図を分かってくれているようだ。

 2人が落ち着いたのを見計らって、話を切り出す。


「メルディさん。申し訳ありませんでした」


 再度謝り直し、深々と頭を下げる。

 やはり、メルディは取り乱す。


「メルディさん。俺は酷い男です……最低の男です! 誘惑に負けてしまい、乱暴をしてしまいました……。許してくれと言える立場ではありませんが……。せめて、謝罪だけさせてください」

「お止めください! 私は……マサユキ様のお気持ちも考えず……卑怯で惨いことばかりを……。私めがお叱りを受ける立場でございます!」

「いいえ。メルディさんは悪くありません。押し倒したのは俺ですから。……それに訳も伝えず逃げ出してしまいました。謝るのは俺であって、メルディさんではありません」

「良いのでございます! 私は使用人でございます! それに……それに私は奴隷でございます! お気に召さなかったのであれば……当然でございます!」

「……失礼だと思いましたが、ダエルさんから事情を伺いました。でも、ダエルさんもリーアさんも、メルディさんを家族として扱っています。今さら……自分を奴隷だと言う必要はありません」


 ミイティアも声を掛ける。


「そうよ。メルディは私の家族よ」


 メルディは食い下がる。


「奴隷であることには変わりありません! 家族になるなどあり得ません! どうかお止めください!」


 ミイティアは悲しそうな顔をしている。

 俺は少し考え込んだ。

 ダエルさんから奴隷について詳しく聞いてないが、奴隷と一般人とで見分ける方法があるはずだ。

 憶測とも呼べないが……説得するにはちょっと強引な方法が必要かもしれない。


「奴隷には『烙印』と呼ばれる物が彫られるそうですが……。メルディさんにはないですよね?」


 メルディが固まる。

 反応から見るに『烙印』は存在するようだ。

 メルディの体に烙印があるかは確認していないが……、反応からしても付けられていないと思う。

 メルディはそれでも食い下がる。


「私は、奴隷商の競売を受ける前に旦那様に引き取られました。その時烙印を付けないように取引されたのだとは思いますが……。私が自ら身を売り、奴隷となった事実は変わりありません!」

「いえ、ダエルさんはメルディさんを家族として迎え入れるために、そんな取引をされたのだと思います。メルディさんが自らを奴隷として考えてしまう気持ちは、分からなくもないのですが……。それを言ってしまうと、ダエルさんの想いが踏みにじられてしまいます。……少しずつでいいので考えを改めてもらえませんか?」

「……私は……」


 そう言うと、メルディは泣き出した。

 憶測が的中して話を進めやすくなったが、受け入れてもらうまでには時間が掛かるだろう……。

 『奴隷』という単語を聞いて、ミイティアが動く。


「私……外に行くね」


 メルディの顔色を伺い、ミイティアを引き止める。


「ミイティアもここに居て欲しい。これは家族の問題だ。俺はミイティアが子供だからといって除け者にはしないよ。俺と一緒にメルディを支えてあげよう。ね」


 ミイティアは判ってくれたようだ。

 メルディの手を握って、ニッコリほほ笑む。

 メルディはうつむきながらも感謝をしているようだ。


「メルディさん。さっきも言ったけど……無理に改める必要はありません。時間を掛けてゆっくりやっていきましょう」


 メルディは号泣してしまった。

 俺もさっき似たようなことで大泣きしてしまった。

 だから……気持ちは分かるつもりだ。

 ミイティアに慰められながら、メルディはしばらく泣き崩れていた。



 ◇



 少し落ち着いてきたのだろうか。

 メルディは目元をさらに赤く染め上げていた。


「メルディお姉様。もうあなたは、俺たちの家族です!」


 少し場を和ませるつもりでおどけて見せた。


「お止めください! メルディとだけお呼びください!」

「お姉ちゃん!」


 ミイティアは嬉しそうにそう呼ぶ。

 メルディは困惑しているが……まぁ時間の問題だろう。


「そうですよ、お姉様! こんなに美人で! 働き屋で! 面倒見も良くて! 器量もある! 僕ら兄妹きょうだいにとって尊敬できる存在なんですよ!」

「ですが……」

「分かりました……。いえ、すみません。悪ふざけが過ぎました。俺はいつも通り「メルディさん」と呼ばせてもらいますが、お姉さんである事実は変えないつもりですよ」

「……はい」


 メルディは渋々ながら納得してくれた。

 さて、長いプロローグだったが……本題に入ろう!


「さて……メルディさん。それにミイティア。今朝、なぜ俺のベットに入っていたのか説明してもらえるかな?」


 2人の顔は真っ赤だ。


「それは……私めがお嬢様に夜這を勧めたからです」

「お姉ちゃん! 『お嬢様』じゃなくて、『ミイティア』って呼んでね!」

「ですが……」

「まぁまぁ、ミイティアも落ち着いてね。焦ったら駄目だよ」


 ミイティアはやや不満そうだ。

 今は耐えるんだ! ミイティア!


「それで……ミイティアは俺に夜這をしに来たわけだ?」

「そ、そうよ!」


 ミイティアは顔を赤くしながらも、そっぽを向くように返事をする。


「だから、裸だったか……」

「お兄ちゃんお姉ちゃん。夜這って……朝お姉ちゃんがしていたことなの?」


 はあっ!?

 ミイティアは赤くなりながらも、興味深そうに聞いてくる。


「え!? あ、あれ?」

「そ、それは……」

「私とお兄ちゃんは特別な関係になったのよね? 赤ちゃんとか生まれてくるのかしら?」


 うっ……。

 性教育なんてもっと先の話だろうから、知らないのは当然なのだろうが……。

 これは真面目に話すべきなのだろうか?


「お嬢様。裸で添い寝しただけでは赤ちゃんは生まれませんよ」

「ふーん……。どうすればいいの?」

「それはですね――」


 おいおい!

 ミイティアには、この話はまだ早すぎる気がする!

 でも、どうやって説明したものか?

 とりあえず、話を止めよう!


「待った! 待った待った! メルディさん。その話はまたにしません?」

「えーーー!!」

「そうでしょうか? いずれ必要になる知識でございますし、それにマサユキ様と親密になるには必要でございましょう」

「そうは言ってもなぁ……」


 考えろ、考えろ!

 保険体育の授業は中学校あたりでするはずだから、ミイティアにはあと2~3年ほどしてから話す内容だ。

 夜這を説明するためにも必要になる知識だが、俺の倫理観がそれを拒否する!

 当たり障りない話で誤魔化すしかないか……。


「えーっと。メルディさんはお嫁に行ける年齢……でしたよね? そのくらいの歳になると自然に覚える知識なんだ。ミイティアはあと……4年くらいしないとお嫁に行けないから、まだ覚えなくても大丈夫だよ」

「その言い方ですと、私は嫁げる歳なのに売れ残りのようですわ! これでも今年で15でございますよ!」


 15歳!? 見えない見えない!

 若く見積もっていたとはいえ、16~18歳くらい程度の認識だった。

 15歳でこれだけの教養を持ち合わせるとか……リーアさんはなんて優秀な教育者なのだろう。

 いや、メルディが努力家だからだろう。

 現世でもこれだけ出来た人物はそうそういない。

 将来はすごい先生か、ものすごくできる奥さんになるに違いない。

 そんな風に俺が密かに感心してると……ミイティアが話に突っ掛かって来る。


「私は11歳よ! お兄ちゃんは私より年上だと思うけど……ガルアより小さいから、1歳か2歳しか変わらないじゃない? なのにお兄ちゃんは知ってて、私が知らないとかズルイわ!」


 ミイティアは11歳だったか! ……まぁ予想の範疇だった。

 俺の風貌は12歳で、それを知っているというのは辻褄が合わないよなぁ……。


「ほ、本で読んだことがあるんだ。大人からは「まだ知るのは早い!」って叱られてしまったよ」

「んー……。私も知りたい!」


 どうしていいのやら。


「坊ちゃま。やはり、私めがお教えした方が良いのではないでしょうか?」

「う~ん……。普通何歳頃に覚える内容なのでしょうか?」

「そうですわね……。大抵、成人となる15歳で教えられるとは思いますが……。私の場合、奴隷商や他の奴隷の方から聞いていましたから、特別早いというわけではないと思います」

「ホントー!? お姉ちゃん教えて!」

「はい。そしたらそうですねぇ――」


 俺の倫理観が半鐘はんしょうを「ガンガン!」打ち鳴らす!

 強引にでも止めよう!


「待て!!」


 ちょっと大声過ぎた。

 ミイティアもメルディも驚いている。


「教えるのは禁止! まだ早い! 時期が来れば自然と判るようになるし、ここは兄の特権として教えるのは禁止!」


 ミイティアは固まり、愕然としている。

 メルディはクスクス笑っている。

 やはり……メルディはあなどれない……。

 ちゃんと釘を刺しておかないと、俺の知らないところで教えてしまいそうだ。


「メルディさん。時期が来るまで、絶対! 教えちゃダメですからね?」

「はい。心得ています」


 メルディの顔がニヤけてちょっと怖いが……本当に守ってくれるのだろうか?

 ここは彼女の忠誠心を信じるしかないか……。

 ともかく、その辺を避けながら進めなくては。


「話を戻しますが、夜這は当面止めてもらえますか?」

「坊ちゃまがそう仰るなら……仕方ないのですが……。お辛くございませんか?」

「いえ、大丈夫です!」


 大丈夫とは言うが……しばらくの間はメルディの裸体が頭から消えそうにない。

 メルディは俺の表情から何かを読み取ったようだ。

 もはや直感というより、解析や尋問と言った世界な気がする。

 やはり……あなどれない。


「と、ともかく! 俺も思春期を迎える男です! 強過ぎる誘惑は俺のためになりません! それにメルディさんにはちゃんと自分で幸せを掴んで欲しいので、恋人や夫となる人以外には軽々しく体を差し出さないようにしてください!」

「大丈夫でございます」


 メルディの目が怪しい……。

 俺の言いたいことの真意を的確に理解している顔をしている。

 普通の12歳だったら……間違いなく一線を通り越している……。

 それも別に悪いことではないのだが……。

 過去の経験から、それではうまく行かないパターンなのだ。


「それから、ミイティア!」


 ミイティアはピクッと反応し、警戒するように俺を見詰める。

 言動が強かったからかな? 警戒するのも分かる。


「えーっと……。今朝、裸で俺のベットに上がり込んでいたけど……あれもダメだよ」

「えー! なんでー!?」

「せめて服は着て欲しいかな。女の子がみだりに肌を男の人に見せてはいけません! そういうのは結婚してからにしようね」

「じゃあ……。お兄ちゃん、私と結婚してよ!」


 ここは華麗にスルーだ! スルー一択だ!


「ダーメ! 兄弟では結婚できません! 例えば、ガルアに妹ができて、ガルアが妹の下着を集めていたり、水浴びを覗いていたり、いやらしいことしてたらどう思う?」


 すまんガルア! マジですまない! お前を変態に仕上げてしまった!

 このことで殴られても……俺は応戦しない! し、しないぞ!


「気持ち悪いかも……」

「でしょ? 俺はそんな変態にはなりたくないんだ」

「うん……」


 やや不満気味のミイティア。

 話を切り上げよう!

 もう大体話せたし、メルディも落ち着いただろう。

 さっさと撤退しないと矛盾に気付かれてしまう!


「さて話は終わりです! 2人とも朝食取ってないでしょ? きっと下でリーアさんが準備してくれてるよ」


 メルディがあわてて準備を始めようと動き出す。

 それを引き止める。


「メルディさん。もう少しゆっくりしていてね。落ち着いてから食事にしましょう」


 俺はそう言って、さっさと部屋を出た。

 ドアにもたれ掛かり、大きく溜息を付く。

 中からは……嬉しそうなミイティアの声が聞こえてくる。

 良かった……。なんとか乗り切れた……。


 これからもたぶん――いや! 確実にメルディさんのアタックは掛かるだろうけど……。

 家族として、彼女の幸せを掴めるように俺も頑張ろう!

 そう心に決め、ダエルさんとリーアさんに報告するために1階へ向かった。


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