第四章「宇宙開発の快進撃」
-2059年09月16日-
「去年の今頃は二人して落ち込んでたね」
未香が過去を振り返る。
一也が帰宅したこの家庭はいつからか、いつもの明るい家庭に戻っていた。
代表取締役社長の佳子。
一也と未香は、会社の組織に名前を入れる事は無かった。
『三つ葉テクノロジー株式会社』
快進撃が始まる。
佳子は、名ばかり社長となったが、息子の一也のお願いならと、社長を務めている。
「お母さん。新しいサービスを開始するね!これで貧しい人たちを救うんだ」
将来、人を救いたいという夢を持つ未香の原案を元に制作されたWebサービスだ。
『アースコネクト未来』
地球上の貧しい人たちに、金銭、物資を寄付出来るサービスで、寄付した額、量は全てWeb上に表示される。
Web上に公開される事で、寄付者は必然的に売名が行える仕組みだ。
表示される寄付者のプロフィール、PR情報は自由に変更が可能となっている。
また、送金、物資の配送状況などは提携先との連携が上手く実現出来たおかげでリアルタイムで確認が可能だ。
メディア企業の協力もあって、届けられた現場を動画、写真で見る事も。
『アースコネクト未来』利用者は2カ月で100万人を突破。
5カ国語対応Ver.もリリースされ、国内のみならず、外国でも広まり利用された。
届けられた金銭、物資の推定額は324億円。
Webサイトの評価価値も凄まじい額となっていた。
これらは、まだまだ伸びる事が予想されている。
「一也、いい加減休みなさい!」
あれから、一也は毎日20時間近くキーボードを叩いてる。
佳子も未香も心配していた。
『三つ葉テクノロジー株式会社』への取材依頼も多くなった。
佳子は、電話での取材には応じていたが、テレビ出演、自身が露出される依頼は全て断っていた。
-2059年10月4日-
これまでに数々のサービス、プログラムの開発を行ってきた一也。
気が付けば会社の資金は48億円になっていた。
「お母さん。会社と研究所を建てよう」
多額のお金を投資し、5階建ての会社、別の場所には研究所も作られる事が決まった。
社員、研究員を募集し、佳子は200人の部下を抱える事となった。
一也はそれら全てを考案し、仕切っているが、表に出る事は決して無かった。
-2063年01月05日-
『三つ葉テクノロジー株式会社』では、新年会が行われてた。
代表取締役社長の佳子。
取締役の未香。
社員、研究員たちと盛り上がっていた。
未香は、高校に進学せず、同社の取締役に就任した。
一也は相変わらず裏で全ての指示、開発を行っている。
一度死んだ一也との生活はもう4年が経っていた。
不思議な生活にも慣れ、安定した生活を送る。
-2063年5月19日-
『三つ葉テクノロジー株式会社』は世界を驚かせる開発技術を発表した。
『I am 宇宙人』
人類は自由に宇宙を旅する事が可能になった。
宇宙服のようなそのスーツは、超軽量設計で5kgとなっている。
背中にはエンジン、バッテリー、その他、制御装置などが搭載されている。
頭には酸素確保装置を被る。
操作は、頭脳感知システムが採用されており、頭で考えている通りに操作ができる。
エネルギーは、スーツへの抵抗によって作られるため、半永久的に飛行ができ、酸素にも変換してくれる。
バッテリーにも貯蓄されるので、1キロ飛行すれば、24時間は空中で止まる事も可能だ。
発表の場では、未香が月の石を持ち帰って見せた。
「発売はいつですか!?」
「価格は!?」
マスコミ各社から質問が投げかけられた。
「発売はしません。これは無料配布致します。」
社長佳子の一言に、発表会場は騒然となった。
「これは、おもちゃでもあり、これからの交通手段の一つとなります。政府からの許可も既に頂いており、この『I am 宇宙人』の所持は来年から義務化となります」
会場が湧いた。
誰でも、自由に何処へでも行ける未来を切り開いた。
同時に、交通手段で利益を出していた会社は衰退していくのである。
宇宙開発を行っていた企業たちも、衝撃を受けたに違いない。
しかし、『三つ葉テクノロジー株式会社』は、開発ノウハウを公開し、開発レベルの向上を呼びかけたのだった。
-2064年1月25日-
「未香!しっかりして!未香!」
未香が発作で倒れ、病院に担ぎ込まれた。
この発作は原因不明とされていた。
医療が進んだこの時代でも、原因を特定出来ない病気が多々存在する。
懸命の治療の結果、一命は取り留めたものの、原因不明の病は未香を蝕んでいた。
脳の細胞が一部死滅していたのである。
その死滅した細胞は、新たな物質を形成しようとしていた。
前例の無い難病。
-2064年1月28日-
今年も異常気象は加速。
窓の向こうでは桜が開花していた。