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三つ葉テクノロジー株式会社  作者: 秘密結社苺牛乳
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第一章「夏休みに行われた葬儀」

 -2058年08月5日-


 小学生の”一也(かずや)”は6年生。


 小学校生活最後の夏休みを楽しんでいた。

 川遊びが大好きな一也は、友達と連日、暗くなるまで泳ぎまわっていた。


 「一也!そろそろ帰らないとお母さん心配するよ!」


 「姉ちゃーん!あと少しで帰るよ」


 一也の姉、”未香(みか)”中学2年生。

 面倒見も良く、周りからの評判も良い。おまけに可愛い事でも有名だ。


 美人な姉を持つ一也は、誰からも羨ましがられた。


 「お姉さん迎え来たから帰ろうぜ!なっ?一也」


 姉の発言には決して、友人達は逆らわない。

 一也は、友達と明日も一緒に遊ぶ約束をしてその場は解散となった。


 「お母さん。一也遅くない?まだ遊んでるのかな?」


 「未香、呼びに行ってくれたんでしょ?寄り道でしょ。男は手間が掛かるのよ」


 この日、一也が家に帰って来る事は無かった。


 翌日になり、直接警察に訪れたお母さんと未香。


 「昨晩、帰宅しない一也の件で連絡した”佳子(よしこ)”ですが、捜索などは始めて頂けたのでしょうか?」


 「一也君のお母さん、佳子さんですね?ただいま捜索の手配をしています。詳しいご事情の説明お願いします」

 佳子も未香も、気が動転していたが丁寧に事情を話した。


 一也と、未香には父親が居ない。

 四年前、旦那の虐待行為に耐え切れなくなり佳子は子供達を守る為にシングルマザーとなった。

 一也の背中と、未香の腕には今でもその時の傷が残っている。


 「未香?あなたが悪いんじゃないから!悪いのは馬鹿息子の一也だよ」


 佳子は、罪悪感に浸っている未香を笑い飛ばした。


 「うん……」


 本格的に捜索が始まって5日が経った。

 テレビニュースでも取り上げられ、佳子たちの元には、心配する電話、取材依頼の電話が連日鳴り響いた。


 佳子と未香は、精神的に参っていた。

 10日が経って、また慌ただしく電話が鳴った。


 「佳子さんですか?息子さんの一也君見つかりました。しかし……」


 察した佳子は、口を開いた。


 「亡くなってるんですね。捜索してくださってありがとうございました。これから向かわせて頂きます」


 隣で聞いていた未香から涙がこぼれた。

 一家の大黒柱、佳子は涙を堪え未香を連れて現場へ向かった。


 一也がいつも遊んでいた川の下流で、発見されたという。

 その場所では、食べられる葉が自然に生えている。


 とても裕福とは言えない佳子の家庭では、三つ葉や、ふきのとう。

 食べられる食材の知恵を学ばせている。

 家族みんな、それらで作る天ぷらが大好きだった。


 「お母さーん!今日もいっぱい採ってきたよ!」


 「あら、一也は良い子ね。今日も天ぷらにしよっか」


 一也は、小さいながらも家庭の事情をよく理解していたのかもしれない。


 「佳子さん。こちらは一也君のポケットに入っていた持ち物です」


 くしゃくしゃになった三つ葉を手渡され、佳子は我慢していた涙を堪える事が出来なかった。

 水死体は本当にむごい。


 3日後、小さく一也の葬儀が営まれた。

 佳子、未香、友人、先生達は小さな命にさようならを告げ、涙で溢れた葬儀は終わった。


 「お母さん。私、前向きに頑張るから、一也の分まで生きるから……頑張ろう?」


 腫れた目を大きく見開きながら未香は母親を励ました。


 「当たり前よ。未香には幸せな人生を歩んで欲しい」


 夏休みが静かに終わった。

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