一週間の命・・・
月曜日―。
また学校だ。
月曜日はいつも体がダルい。
一週間の中で土曜日の夜が一番ゆっくりしてて好きだ。
なんの面白味もない学校に行くのはとても辛い。
本当に役立つかどうかもわからない勉強。
全然頭に残らない。
ボーッとしたまま一日を過ごす。
放課後になったが、すぐには帰れない。
月曜日は病院に行く日だ。
数ヶ月前から体の調子が悪くなり、激しい運動ができなくなった。
それ以来、毎週通院している。
僕が病院に着くと、母さんはもう待合室に来ていた。
一人でも大丈夫だと言っているのに、いつもこうだ。
また今日もいつものようにたくさんの検査を受け、
薬をもらい、点滴をしてもらう。
僕がそうして治療を受けている間、母さんは別室で先生と話している。
だが、僕は聞いてしまった。
治療が終え、待合室に向かう途中で
先生と母さんが話しているのを。
僕の命はあと一週間。
◆
火曜日―。
一日中、家にいた。いや、部屋にいた、と言う方が正しいか。
ずっとベッドにもぐって布団をかぶっていた。
昨日からずっと眠れない。
僕が下に降りてこないので母さんが部屋まで呼びに来たが
僕は無視した。何も話さず何も食べなかった。
どうせあと6日しか生きられない。
学校がなんだと言うんだ。くだらない。
あと6日。
僕は机の引き出しを開けて電卓を取り出した。
24時間×6日、つまり残り144時間だ。
分に直せば8640分。
秒で言うと518400秒。
いや、こうして電卓を叩いている間も時間は経っているのだ。
今、計算した時間はもう残っていない。
ベッドの横に置いてある目覚し時計を見る。
長針が2と3の間、短針は8を少し回ったぐらいだ。
その上を赤くて長い秒針が「チッチッ」と音を立てて回っている。
ゆっくりゆっくり時を刻んでいる。
手を伸ばして時計を取り、それを耳を当ててみた。
カチカチと内部で歯車が回っている音が聞こえる。
時間が経っているのだ。
この針があと何回ぐらい回ったら僕は死ぬのだろう。
「わああああああ!!」
僕は突然恐くなって、時計を壁に投げつけた。
時計はガシャッと音を立てて、文字盤の部分のガラスにひびが入った。
背部の電池ボックスのふたも割れ、電池が外れて時計は止まった。
僕はただただ恐かった。
◆
水曜日―。
昨日、母さんに僕の体について問い詰めた。
最初はしらばっくれていたけど、最後には認めた。
やはり僕はあと少ししか生きられないらしい。
好きだったゲームをしても面白くない。
マンガを読んでもビデオを見ても全然面白くない。
ドラマなんて見る気もしない。
次の放送の時には僕はもういないのだから。
今日も一日、家で寝ていた。
ひどく息が苦しかった。
◆
木曜日―。
2年の時の修学旅行の写真。
机の一番上の引き出しにしまってる。
僕のクラスの写真じゃないけど
友達に頼んで譲ってもらった、あの子が写っている写真。
廊下ですれ違うたびにドキドキしていた。
話した事は一度もない。
向こうは僕の名前も知らないだろう。
こんな僕を好きになってはくれないだろう。
ふと鏡を見る。
以前よりもやつれている気がする。
風呂にも入っていないので髪がボサボサだ。
手ぐしを髪に通し、少し整える。
指を見て驚いた。髪の毛がごっそりと抜けている。
髪をつかんで少し引っ張ってみる。
また束になって髪が抜けた。
鏡を見る。
ホラー映画で見た怪物にそっくりだ。
「うわああああ!!」
僕が叫ぶと鏡の中の怪物も吠えた。
そしてみるみるうちに目玉がくぼみ、頬がこけていった。
自分の叫び声で、ふと気がつく。
嫌な夢を見た。
◆
金曜日―。
久しぶりに外へ出た。
以前の習慣からか、足が学校へと向かう。
少し歩いただけで呼吸が苦しくなる。
歩道橋の階段を上ると頭がクラクラする。
自分の体が弱っているのを感じる。
学校に着いた。
今頃は2時限目だろうか。
校門のあたりから自分の教室を見てみた。
グランド側の窓ガラス越しに教室の様子が見える。
もちろん僕がいなくても、ごく普通に授業が行われている。
以前と同じように。
スッと視線を動かし、あの子の教室を見る。
窓際、前から3番目。あの子の席だ。
ちゃんといる。黒板の文字をノートに写しているようだ。
しばらく見つめていると、向こうも気づいた。
こっちを見ている。
僕の胸が激しく高鳴るのがわかる。
しばらく見つめ合っていた。
突然、あの子が手を振った。
ほんの少し、周りの誰も気づかないほど軽いものだけど、
確かに僕に向かって手を振った。
胸がドキドキして緊張したけど
とても嬉しくて、僕はいつの間にか笑っていた。
そして僕も軽く手を振ると、あの子は少し微笑み、
またノートの続きを書き始めた。
僕は幸せな気分のまま家へと帰った。
◆
土曜日―。
海を見に来た。
一人になりたい時によく来る場所だ。
この辺は波が高いので、よく水がかかる。
だからほかに人がいないのだが、僕には体にかかる波しぶきが気持ちよかった。
いつ来ても海は変わらず波打っている。
海からの帰り、歩道の端のアスファルトのすきまから
花が生えているのを見つけた。
前からあったのだろうか。
今日、初めて気づいた。
白い花。
花に興味を持った事なんて今までなかったけど
意外といいものだ。
摘み取ろうかと思ったが、やめておいた。
せっかく生えているんだ。このままにしておこう。
◆
日曜日―。
僕の命も今日で終わりだ。
僕は家からすぐ近くの大通りに来ていた。
なんとなくフラフラと。
18年。
僕が生きてきた時間。
レールに乗った人生。
昔からそうだった。
母さんが買ってきた服を着て、
母さんが行けと言うから塾に行き、
母さんが選んだ高校に進んだ。
大学も母さんが気に入ったところを受けただろう。
何ひとつ自分で決めていない。
その方が楽だったから。
その方が平和だったから。
でも自分に嘘をついて生きてきた。
僕は歩道の横の植え込みをまたぎ、
向こうから勢いよく走ってくる車の前にふらりと飛び出した。
バン!!
やたらと大きな音が聞こえた。
体の右半分を大きな板でなぐられたような感覚。
地面に立っている感触がなくなり、重力が消えた。
空と地面が何度か交互に見えた後、
もう一度、強い衝撃があって
気がついた時には顔の横に地面があった。
女の人の悲鳴が聞こえる。
しかし、はねられた時に右の耳がおかしくなったようで
どこから聞こえてくるのかはわからない。
体を起こそうとしたが、うまく動かなくて
相変わらず道路に横たわっている。
声が出ない。
確実に死ぬだろう。
ずっと母さんの言いなりで生きてきた人生。
でも、今はちゃんと自分で決めた。
自分で決めた最期。
だんだん眠たくなってきた。
このまま寝て、もう一回起きたら
またダルい朝だったらいいのになぁ。
ああ、空が青い。