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アレテーの弁解  作者: イヲ
第零章【THE FOOL】
1/59

ザ・フール

愚者 THE FOOL/人の生の出立。




白い雪がちらついている。

降り積もりもせず、あいまいな速度で、徐々に徐々に降ってくる。


そのなかにひとり、公園でぼんやりとたちすくんでいる少年がいた。

頭が白い。

雪が降りつもったわけではない。

もともと白いのだ。少年は白子(アルビノ)なのだから。

その姿は今にも掻き消えそうで、まるで真冬の幽霊のようだった。


「……」


少年はひとつ、息を吐き出すと、公園の門を通り過ぎてゆく。


「大丈夫だよ」


そう、言い残して。







おなじ場所でおなじ時間を過ごして、どれだけ傍にいたとしても、時はひとしく訪れる。

それがたとえどのような思いで過ごしたのか、苦しかったのか、それとも幸せだったのか。

そんな些細なことは時間という概念には関係など、ない。

どこにも存在していて、決して逃れられないそれは、どんなものにも平等だ。


高齢者でも、青年でも、子供でも、赤子でも。


誰も逃れられないそれは、今も脈々と受け継がれている。

概念として。




雪はやがて雨になった。

みぞれまじりのそれは、ぬるい雨ながらも容赦なく体を冷やしてゆく。

(マガキ)はその冷たい雨にも負けぬほど、冷たい目をしていた。

傘を手に、雨水が靴下を湿らすも、関係ないといわんばかりに足を進めている。


黒く短い頭髪に、黒いながらも僅かに滲む紫の目。

傘を持つ手は、凍えそうに白い。それでも、電燈もまばらな暗闇、そうそう見えるものではない。


「……」


公園を横切ろうとしたとき、ちいさな影が、ふっ、と横切った。

真っ白な影は、幽霊かと見紛うほどの白さだった。

それでも、水音を鳴らしながら走る姿は、たぶん人間なのだろう。


籬はさして興味もなさそうにそこから視線を外し、おのれが住んでいるマンションへむかった。



時は、決して止まらない。

止まるのは、人間の足だけだ。

時間は流れ、人を愚弄するように打ち寄せてくる。

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