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Blood Queen  作者: 新矢 晋
15/24

15.宴のおわり

「なんだよ、コレ……!」


 紅家本邸、玄関から一歩足を踏み入れたその男……従僕ダークの第一声はそれだった。

 邸には従僕の中でも精鋭を選び出して配置した筈なのに、そこに居た、否、在ったのは、既に物言わぬ肉塊と化した従僕達だった。


「使徒か?

 ……糞ッ、マスター!」


 急いで邸の奥へと駆け出したダークは、気付いていなかった。

 床に転がる死体達は、あるものは頭を潰され、あるものは胸を斬り裂かれ、――鈍器と刃物の両方を使い熟す稀有な者が殺戮者でなければ、殺戮者は二人、存在するという事に。



 *  *  *



 ――鬱蒼と茂る木々。

 紅家本邸の周囲に茂る森の一角に、一人の少女が倒れていた。……桜色の髪をした、左腕の無い、少女。

 その身体はぴくりとも動かず、呼吸をしているのかさえ定かではない。地面には無造作に千切れた少女の左腕が転がり、土に紅が染み込んでいる。

 ――ずるり。そこへ、何かを引き摺る音。

 「それ」は、動かない少女へと近付いていく。もやもやとした闇、或いは赤黒い肉塊、……ひどく不吉な

「それ」。


「……死にたくないんだね」


 「それ」から響く、幼い少年の声。少女の身体に覆いかぶさりながら、囁く。


「君を助けてあげる。その代わり……」




 *  *  *



 その男は、円柱を斜めに切断したような形の金属塊に腰掛けていた。

 その男は、荒い呼吸を整えながら自らの右腕を抱え込んでいた。

 ――肉の焦げる匂い。ぶすぶすと燻る音。

 その男は、皮下組織にまで達した

「剣」の炎を思い、そして、鞘……つまりは自分の右腕の修復が始まったのを見て、顔をしかめた。

 その男は、改めて、自分がもう人間ではない事を思い知った。


「……何を、今更」


 その男――政臣――は、少しだけ泣いた。



 *  *  *



「この馬鹿げた茶番に、ようやく幕が下りるのか」


「馬鹿げてなどいない。この数百年、私は総てを捧げてきた。

 あの御方にお戻り頂く為なら、紅家も、貴女も、この国でさえ捧げましょう」


「それが、彼女の望みだと?」


「ええ」


「……哀れだな、お前も、彼女も」


 ――交わされた言葉は、虚ろな響き。

 鍔鳴りの音がして、冴々と光る一振りの刄が女の胸元へと突き付けられた。


「退場の時間です、御館様。

 ……『その場所』は、本来あの御方にこそ相応しい」


  ず

    ぐ  。


「……Good-bye and hello,my MASTER.」


 女の背から、刄の切っ先が生えていた。びく、と女の身体が震えて倒れ込むよりも先に、男がその身体を抱き抱える。

 一滴の血すら流さずに突き立てられた刄、女を抱き抱える隻腕の男、それはまるで何かの儀式を描いた宗教画。

 男がうっすらと唇を開き、何事か囁こうとした、その時。――きぃ、と妙に響く音をたてて、部屋の扉が開いた。

 部屋に足を踏み入れた男――政臣は、見てしまった。

 自分の愛しい女が、紅家の当主たる紅環希が……その従僕に、銀髪の吸血鬼カラスに抱きかかえられ、背中から刄の切っ先を生やしている、とても凄惨な、とても異常な、とても――うつくしい、その光景を。


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