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君を喚ぶ声  作者: 佳月紫華
第1章 はじまり
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09 魔従キャロ

「みぃたーん? みぃたん……がいっぱい?」


 甲冑さんに教えてもらったメリーさんの牧場に着いたエリカは、柵の中にいる生き物たちに目をまるくする。

 猫に翼がついたもふもふとした動物を探している――と甲冑さんに尋ねたら、この牧場を教えてもらったのだ。

『それってマジュウか?』と言って、それだったらこのメリーさんの牧場にいっぱいいる、と聞いて訪ねてみたのだが……確かにみぃたんはマジュウなるものなのだろう、目の前の柵に囲まれた広大な草原の中に、たくさんのみぃたんに似たモノ達がいる。


「うーん、みぃたんは……いない……かな?」


 確かに、みぃたんそっくりな動物はたくさんいるのだが、真っ白なもふもふは一匹もいないようだ。みなさん濃かったり、薄かったりのココア色をしていらっしゃる。


「少年、そんなに魔従がめずらしいかのう?」


 エリカが、みぃたんはいないかと、牧場を見つめていると、柵の中にいる好々爺に声をかけられる。


「あの、マジュウとこの動物はいうんですね……僕の友達になってくれた子も、この動物とそっくりなんです。ただ、色は真っ白なんだけど」


 あぁ、と頷いて、おじいさんはエリカに魔従のことを教えてくれた。


「こ奴らは魔従キャロと言うてだな、厳密には動物とは呼ばず、魔物の括りなんじゃ。ただ、人懐っこいかわいい奴らじゃろ? 魔物と違って人に従うもののこと達を、ワシ等は魔従と呼んでいるんじゃ」


 おぉ、なるほどと相槌を打ちながら、エリカはふと思った疑問を聞いてみる。


「おじいさん、魔従ってこのキャロの他にもいるんですか?」


 いい質問じゃ、といって好々爺は講義をしてくれる。


「この辺の者たちは、魔従キャロの牧場がある為か、魔従というとキャロを思い浮かべるみたいじゃが、魔従は色々と居ってな、キャロの他に、有名なところで言えば、ドラゴン――」

「ドラゴン?!」


 品の良いご老人は、ドラゴンという単語に反応して思わず遮ってしまったエリカを見て、笑って先を続ける。


「そう、ドラゴンじゃ。まぁ、ドラゴンはなかなか魔従化させるのは難しいからのう……なかなかお目にかかることはできないじゃろうが。確かにドラゴンを従わせておるものは居るのじゃよ。他にも――」

 好々爺は、急に真上を見上げ、にやりと笑う。


「……少年、あやつもお主を気に入ったらしいのう」

「……?」


 一体何を話しているのだと、怪訝な顔をしてると、キャロ達が急に小屋の方に走っていく。すると周りの草木が微かに揺れたかと思う間もなく、すごい風圧がエリカの体にかかってきた。たまらず足を踏みしめる。


「……!」


 目の前には、暗黒のドラゴン――? が好々爺の隣に降り立った。


「少年、こやつがワシの魔従ドラゴン――アキシオンじゃ」

「魔従ドラゴン……おじいさんってすごい人だったんだね……ドラゴンを魔従化させるのって難しいんだよね?」


 自ら魔従化させるのは難しいと説明しておきながら、まさか自身でそのドラゴンを披露するとは、この目の前の好々爺は何者なのだろうか――エリカはそんなことを考えながら、目の前の人物を見つめた。そういえば、まだ名前も聞いていないことに気づく。


「ただの隠居じゃよ」


 老人の賢人はそう言うが、唯者ではないことは、なんとなくエリカにもわかった。


「僕はエリック・カスティリオーニと申します。あの、おじいさんのお名前も教えていただけますか?」

 エリカは自分から名乗り、この方のことを知りたいという思いをぶつける。

 その名は、この世界で与えられたばかりの偽りの名前だったが……。


「……エリック、ワシは、ススと呼ばれておる。すまんが、時間じゃ。ワシはこれでもまだ少し忙しいのじゃよ。お主は面白い気配がしておるな。ワシはお主を気に入ったようじゃ、こやつもな」


 ススはアキシオンの方を向くと、こう繋げた。


「エリック、ワシのところに訪ねてくるがよい。色々ともっと話をしてみたいんじゃ」

「はい、もちろんです。あの、このメリーさんの牧場に来れば会えますか?」

 エリカはススに問う。


「ほう、ここはメリーさんの牧場と言うのじゃな。いいや、エリック、ワシはこの牧場とは所縁のないもの……お主にこれをやろう」


 エリカに差し出されたのは、漆黒の小石ほどの宝珠だった。


「え? こんな高価なもの頂けません!」


 エリカはいきなりほとんど何も知らない人から、宝石らしいものをもらい戸惑った。


「うーん、お主は貴石のことを知らないらしいな……お主の首からかかっているソレも貴石だろうに」


 エリカは思わずギュッと胸のあたりを掴む。紫水晶のペンダントは服の中に隠してかけているはずなのにこのススにはわかってしまっているのだろうか。


「この貴石の気配をたどってワシを訪ねておいで。その時は、また色々話をしよう。もう行かないと。じゃあな、エリック・カスティリオーニ」


 エリカはひらりと魔従ドラゴンのアキシオンに飛び乗り、颯爽と飛び立っていくススの背中を見送った。


「ありがとうございましたぁ!」


 エリカは大声で小さくなっていく背中に頭を下げる。


「かっこいい。何あのじいちゃん……」


(てっきりメリーさんかと思っていたら、なにも縁のない人らしい)


 キャロ達が入っていった小屋の方を見て、エリカはメリーさんはいないかと、キョロキョロあたりを見渡す。誰かが濃い茶色のキャロに乗って牧場の方に来るのが見える。メリーさんだろうか?


「こんにちは! あの、メリーさんですか?」


 エリカはこちらに走って来る女性に声をかけた。


「ごきげんよう。いいえ、わたくしはクリスティーヌですわ。あなたエリックね?」

「え? 何で……?」


 なんで見ず知らずの女性がエリカの名を知っているのか――それも新しいエリックという名を。


「探しにまいりましたのよ。父上と母上が待っていますわよ?」


 うーんと唸って、それはジンとエヴァのことだろうかと考える。ジンとエヴァには息子が一人いたはずだが……このクリスティーヌってもしかして……。

 エリカはそこで深く考えるのはやめようと思った。だって、この美しい女性が……だなんて考えたくもない。

「……それってジンとエヴァですか?」

「そうよ。早くもどりましょう。昼食の時間よ」


 引き攣る顔をなんとか笑顔にしてエリカは答えた。


「友達の真っ白な魔従キャロを探していて……見つけたら帰ります」


 クリスティーヌは美しい眉をあげて、こう言った。


「あのキャロなら家の飼育小屋にいるわよ?」

「へ?」  

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