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君を喚ぶ声  作者: 佳月紫華
第2章 旅の支度
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41 飛鉱艇 11

 ひとりカーテンの中に閉じこもり、二段ベットの内側で息をひそめる。必死に優しさを拒絶する。

 本当は頼りたくてたまらないのに出来ない。守秘義務が課せられているから。ジンたちファミエール家の娘、クリステーヌの命運も懸かっている。

 中に籠っていても、部屋の中に漂う気まずい雰囲気は伝わってくる。

 低く響く足音がカーテン越しに聞こえる。息遣いまで聞こえそうな程に、大きな存在が感じられた。

 貴石を見つけるまでは辛い状況に耐えなくてはいけない。事情を知っているマークスやモーリーにも手伝いを頼みたいが、この共同生活の中で3人きりになる時間を作れるとは思えなかった。なにせいつもウィルが一緒なのだ。今のように。

 頼りになる人だが、この状況ではありがたみも半減してしまう。それだけエリカたち3人のことを見守ってくれているということなのだが、正直息が詰まってしまいそうだ。

 日本の男性とは違う扱いに、エリカの女の部分が反応してしまう。男装をして男として振舞いながらもドキッとさせられることがあった。そんな時程落ち着かなくなってしまう。

 この言いようのないイラつきは何なのか――?

 急に変わってしまった関係性に対するものかそれとも――?

 義理の父である騎士団長ヴィンセントの命令によって見守りの対象とされたことで、以前出会った時とは関係が変わってしまったように感じる。それが少しさみしい。

 ――何でそんなに優しいの?

 その優しさは命令だからなのではないか。そんなことが頭をよぎる。

 ――相当キテルかも……。

 弱気な考えが頭をよぎるのは、いつもこんな時だ。逆境の中にいる時こそ心を強く持たなければならないのに。以前、自分の中で消化できていたと思っていたウィルに対する信頼感が、些細なことでまた揺らいでしまう。ゆらゆらゆらゆら。そんな自分に腹が立つ。それでもネガティブな考えを追い払うことができなかった。普段の前向きな自分はどこに行ってしまったんだろう。

 ただ気の置けない友人としてモーリーやマルクスたちと同じように友情を育んでいきたい。命令だから、守る対象として見守られる。そんなことは望んで望んでいないのに――。

 それに――守られることに慣れていない。特にここ数年は――。

 幼い頃は……両親に大事にされてきて、大切に見守られてきた。それは覚えている……。

 大学を卒業してから今まで、ひとり暮らしをしながら自立した生活をしてきたからか――。今更、保護者がつくような生活に戻ることに慣れるのは難しい。

 一度手にした自由な生活は、手放せないものだ。自由に空を飛びまわった鳥は、篭に入りたがらないように。

 ズキンと頭に鈍痛が走る。こめかみ押さえ、揉みほぐす。

 朝から長い距離をみぃたんたち魔従キャロに乗って駈けてきて、飛鉱艇ではじめての仕事をして疲れたのかもしれない。

「エリック、大丈夫か?」

 その声に彷徨っていた意識は現実に呼び戻された。

 見えている訳がないのに、ちょうどよくかけられた気遣いの言葉に涙が滲む。

「だ……」

 本当はたくさんの言葉を伝えたいのに出来ないことがもどかしい。貴石さえあれば話せるのに。

 以前のエリカはペンダントがなければ理解できなかったが、今は逆にヴァレンティア語がわかるだけに余計歯がゆさが募る。

 しかも話せるのだ。訛りが酷いがために黙っているしかないだけで。簡易ベッドを遮るカーテン越しに立っているウィルの大きな存在に、エリカの心は揺さぶられる。

 秘密を守らなければならない立場でなければ真っ先に伝えたい人なのに。信じたい人なのに。

 無言でいることは堪える。

 それだけに早く貴石を見つけようという思いは募る。

 どこにあるのか――。

 それさえわからない今は、何から手をつけたらいいのかお手上げだ。そしてこの飛鉱艇での生活は、ひとりの時間を作るのにも苦労させられそうだった。

「大丈夫。俺はいつでもお前の味方だ。話したくないならいい。ただここに味方がいるってことを覚えていてくれ」

 一言々々紡がれた力強く温かい声に、エリカの心は震えを止めた。

『ありがとう』

 微かにささやく。決してウィルにはわからない母国の言葉で。

「え――?」

 カチカチと耳慣れない音を聞いたような気がして、ウィルは閉ざされた布の向こうをじっと見つめる。なぜだか放っておけない弟分のエリックが悲痛な心の声を上げているように感じたのだ。

 過保護な自分に苦笑する。兄のフレッドは弟の自分に対してこんなに心配などしないはずだ。二男坊の自分はこの通り、自由に生活をさせてもらっている。制約の多い貴族の子息としては恵まれている。

 なのに保護欲を刺激されてしまうのは、あの綺麗な顔が時折見せる悲しい表情のせいか。一瞬、忘れてしまう。あいつが自分に任された候補生だということを。それも自分の部下となる存在だ。甘やかしてどうする。上下の規律の厳しい男社会で通用するように、厳しく立派な騎士に育てなければならないのに。

 ――少し距離を置こう。

 冷静になれば、この不自然なほどの異様な執着が恐ろしく思えてくる。吸い寄せられるように目が追ってしまうのだ。一瞬よぎったありえない馬鹿な考えを一蹴し、ウィルは踵を返し部屋を後にした。

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