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君を喚ぶ声  作者: 佳月紫華
第1章 はじまり
23/45

23 帰宅 3

 エリック・カスティリオーニが残したウィル宛の置手紙の紙片が、もしかしたら失われた古の術で作られたものかもしれないという可能性に、二人の兄弟は興奮を隠せない。

 エリックはそんなものを何処で手に入れたのだろうか? 

 それに今まで結婚など見向きもしなかった団長が、いきなり結婚もすっ飛ばして養子をとったということも、何か裏を感じさせる。

 確かカスティリオーニ家には団長の上に兄たちが居たはずだ。結婚もしており、息子もいる。跡取りが居ないから……ということではなさそうだ。

 熟々と思考を彷徨っていたウィルは、団長の命令であるエリックの面倒をみることに新たな楽しみを見い出した。彼が何者であるか探ろう、と。

 だが、エリック・カスティリオーニの顔を思い浮かべてみると、確かにカスティリオーニ家縁のものだと直感が告げる。

 澄みきったアメジストのような輝く瞳は、カスティリオーニ家のもの。団長の眼差しにそっくりだ。

 だとしたら、エリックは団長の不義の子か?

「あぁ、わかんねぇー!」

 ウィルは一人掛けソファの背もたれによしかかり、煌めくブロンドの髪を掻きむしる。

「ウィル? どうしたんだ」

 ひとり悶絶している弟に、フレッドは怪訝そうな表情を浮かべる。

 だが、ウィルはエリックのことをまだ兄に話すつもりはなかった。もう少し彼自身で調べてみたいと思ったからだ。

 何にしろ、エリック・カスティリオーニが鍵を握っているに違いない。

「なんか見たことがある気がするんだよ、この紙。……確か家の図書室で見たような気がしたんだけどな……。フレッド、何か知らないか?」

 ウィルは、何か言いたそうな兄の言葉を質問で封じる。

 それに、どこかで見たことがあるのも確かだった。この家の図書館だった気がする……いや、幼い頃のことだから、もしかしたら違うかもしれないが。

 あれはどこだったのだろう――?

 頭に靄がかかったみたいでまるで思い出せない。

「……いや、すまない。わからないよ」

 フレッドは目を伏せたまま、革のソファから席を立ち、部屋の奥にある本棚に手をのばす。

 何冊かの書籍を持って戻ったフレッドは、ローテーブルの上に置く。

「ウィル、役に立ちそうな本を選んでおいたよ。ゆっくり調べるといい。私はもう戻るよ」

 フレッドはそう言うとウィルを図書室のロフトに残し、いそいそと階段を降り図書室から出ていった。

「あ……!」

 ウィルは慌てて立ちあがり、先程フレッドが本を出していた本棚に向かう。

 何冊分か空白になっている場所を見つめ、また兄の残して行った本の数を確かめる。

「ちっ、一冊分足りない」

 やはりフレッドは何か知っているのか――?

 なぜウィルに隠す必要があるのか、当主を受け継ぐ者の務め?

 6年前の出来事が頭を過る。『――ウィルには秘密だぞ――?』

 家族を疑いたくはないが、どうしても父と兄に懐疑的にならざるを得ない。

「……どうして俺にだけ秘密なんだ」 


 ☆ ☆ ☆


「……良いのですか? フレッド様」

 図書室の前の廊下に控えていた執事のファーガスに顰めた声で問われ、フレッドは自嘲する。

「あぁ、かわいい弟の為なんだ。あいつには幸せになってもらいたい。これは私の我儘かもしれないな」

 後継ぎである子息フレッドの言葉に、ファーガスは苦しそうに顔を歪める。

「それでは、本末転倒です。この家を、ヘイフォード家を守ることこそ、ウィリアム様の為だとわたくしめは思うのです……だからっ――」

「いいんだ。なるようになるさ。ウィルは私たちの――」

 そこでフレッドたちの会話は、廊下から走って来る妹のリズ嬢によって遮られた。

「リズっ!はしたない。廊下を走るのはやめろ、といつも言っているだろう?」

 リズと呼ばれた少女は、ぺろっと小さなかわいい舌を出し、悪戯っぽい微笑みを浮かべ膝を少し曲げ、フレッドに礼の型をとる。

 そんな妹の様子にフレッドと老齢な執事ファーガスは、呆れた顔をしながらも、微笑まずにはいられない。

 大方どこかからウィルが帰宅したのを聞きつけて来たに違いない。

「ウィルお兄様はどこですか? あぁ、帰って来たならお知らせしてくれたらいいのにっ! フレッドお兄様知っているなら教えてくださいな」

 母親ゆずりのブロンドを左右にはためかせ、プクっと血色の好い薔薇色の頬を膨らませて、父親ゆずりの琥珀色の瞳に涙を浮かべ、可憐しく拗ねる様はとても可愛らしい。

「ウィルならこの中だよ、リズ」

 もうこの騒がしさで図書室の中にはウィルはいないかもしれないが……。

 リズのためにフレッドは扉を開くが、そこにウィルの姿はなかった。窓にカーテンが挟まっているところからみると、そこの窓から外に出ていったようだ。

 フレッドにべったりのリズの声を聞き、早々に退散することにしたのだろう。

「いやぁぁぁ! なんでウィルお兄様はわたくしにお会いしていってはくれないのっ! 折角久しぶりに帰宅なさったのに」

 

 ☆ ☆ ☆


 窓の外でウィルはひとりため息を吐く。

 妹のリズはかわいいが、捕まったら厄介だ。何時間もお茶を一緒におしゃべりに付き合わされることになるだろう。

 今は時間が少しでも惜しい。

 ウィルは、フレッドが出して寄こした本を鞄に詰め、自宅をあとにした。 

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