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君を喚ぶ声  作者: 佳月紫華
第1章 はじまり
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02 二日酔いと遭難 

 エリカは先日送られてきた受信メールを見ていた。おとといのハロウィンパーティーのお誘いメールだ。

 パーティーから帰って来て目覚めたらこんな森の中にいたのだ。だからきっとこれはドッキリか何かなのだろうと手掛かりになるようなものはないだろうかと携帯の画面を見る。

「ドッキリなわけない……よね。あいつらならあり得るかも」

 そんなことも友人たちならやりかねない。だが、ネタばらしはすぐにするはずだ。そしてすぐ近くでこっそり見ているはず。

 彼らの気配がないということはこれはドッキリではなく現実問題、ここに横たわる困難の中にエリカが投げ込まれたということだ。


受信メール

差出人:有田 龍平

宛先:erika_a#####@i.softbank.jp


ハロウィンパーティーのお誘い

 

お疲れ様でございます!

キドラズハロウィンパーティーの

お誘いです(^◇^)

日程:10月30日(土)

場所:南4西8 56号線沿い

「THE DAY」

時間:20:00~23:00

会費:3500円

内容:書くと長いんで秘密ってこ

とで(笑)

(みんなと仲良くなれる企画やり

ます)


生粋の日本人なのでハロウィンっ

て何かをあんまりわかってないん

ですけど、楽しいことするきっか

けほしいんでこじつけました(笑)


あと、気まぐれで当日のドレスコ

ード決めちゃいます!


「ハロウィン的な要素を身につけ

て来てちょうだい(^◇^)」


これだけです(*^^)v

カボチャモチーフ、アクセ、何で

もオッケー!


もちろんガッツリ仮装(魔女の格

好とか)して来ても大歓迎!

入り口でチェックします(笑)


キドラズだけど、当日は気取って

来てください♡(笑)


参加したい人、してみたい人、し

たくない人(笑)連絡ください!


よろしく(*^^)v


 エリカは眉間に皺をよせながら受信メールを穴が開くほど見たが、何もおかしなところは見つからない。どっきりでなければ今のこの状況をどう説明したらよいのだろう。

 エリカは何も思い浮かばなかった。

「……さすがにここまではやらないよね。やってたら犯罪だし。じゃあこの状況はどう説明したらいいの?」

 エリカは不安な気持ちで携帯を覗きこみながら、パンパンに膨らんだ鞄を肩にかけ、獣道を歩く。

 道路とか人の気配とか全くないことにどんどんと不安感が募っていく。

 誰でもいいので人に会いたい。出てきてほしいと人気のない山の中、ひとり語りかけるがもちろん誰が答えるでもなくこだまは林の中へと消えていった。

 混乱と動揺と不安感いっぱいの気持ちとは裏腹に空元気を出して心を落ち着けようとする。

 歩いても歩いても獣道が人界に出ることはなく、エリカは疲労困憊と不安でげっそりしていた。ハロウィンパーティーでもらった飴やチョコを食べ、ペットボトルのお茶を飲む。

 もうあと一口ほどしか残っていない。

 水辺で水を確保しなければ脱水になってしまう。

 遭難と呼べる状況にしっかりと意識を保たなければと、逆にエリカの気持ちは少しづつ落ち着いてきた。

 水辺の確保。川を見つけること。それが今するべきことだ。飲み水も手に入るし、もしかしたら川を伝っていけば人里に出られるかもしれない。

 目的を得たエリカの足は自然と早まった。だが、もう体力の限界が来ていた。それもそのはず、目覚めてからずっと当てもなく歩き続け、空は陽が沈みかけていた。

 エリカは左腕の腕時計を見た。

 10時7分だ。今は夕方のはず。電源を入れ携帯も見てみるが同じく22時台。 

 だがどうみても空模様は夕方なのだ。

 エリカはオレンジ色に染まった空を見上げた。

 もう一度携帯をみる。何度も確かめた。画面は22:09。時計が狂ってるわけではないようだ。

「なんで? 夕方だよね、今」

 なぜか森の中にいることや今や遭難確実かというこのふざけた状況に考えること自体が大きなストレスになってくる。身体の疲れも眠気を訴えてくる。

 もう寝てしまおう。これはきっと夢だ。悪夢。きっと覚めるはず。

 大きな樹の下に草むらからススキのようなものを集め、樹の下に敷き詰め枯れ木や小枝、落ち葉を集めて寝床の準備を始める。

 ずっと山道を彷徨っていたのだ。もう体力は限界を当に超えていた。

 しばしばと降りてくる瞼と戦いながら、寝床と焚き火の準備をする。

 山林の中を歩き回っている時は感じなかった寒さが、汗が冷えたことで如実に表れてきていた。

 エリカは野宿などしたことはなかったが、幸運なことに幼少の頃は子供会のリーダー研修なるボーイ&ガールスカウトでキャンプのイロハは叩きこまれていた。そして毎年キャンプに行っていたり彼女自身もアウトドアが好きだったのもあり、基本的な知識はあった。

 まさか、それがこんな風に役に立つ時がくるなんて……。

 エリカはパチパチと音を立て始めた焚き火の傍に腰を下ろす。

 ライターがあってよかった。いらない煙草も一緒に入ってるけど、あいつもたまには役に立つ。鞄には幼馴染の龍平が『預かっといて』と入れた、煙草とライターが入っていた。

 この状況の中で火をつける道具があったのは、まさに天の助けとしか思えない。

 煙草は吸わないし、ライターがなかったら火つけるの大変だったはずだ。

「……眠い。お休みぃ」

 誰の返事もない。

 エリカはひとり夢の中に落ちていった。


 ◆ ◆ ◆

 

 タラリン タラリラ タラリラーン タラリン タラリラ タラリラーン

 

 この深遠の森の中に不釣り合いな音が響きわたる。無音の広がる空間に、ただ場違いなメロディーだけが音を奏でていた。

 草を敷きめできている寝床にまるまって眠る影がひとり。

 まだ真っ暗な暗闇の中でもぞもぞと音の方に手を伸ばす。

 音源の表面をシャッとなぞり、また深い眠りの中へ落ちていく。


 ……5分後。

 

 タラリン タラリラ タラリラーン タラリン タラリラ タラリラーン……


(携帯のアラームが聞こえる)

 エリカはそろそろ起きないと、と携帯に手をのばしシャッとアラームを解除する。

 しばしばと下りてこようとする瞼と戦いながら、起き上ると暗闇の中、目の前に広がる景色にため息を吐く。

「やっぱり夢じゃなかったんだ……」

 起きたら全て夢でいつもの日常がくることをどこかで期待していた。

 どこかもわからない場所でそれも森の中にひとりぼっちということに、思いのほかこたえていたのかもしれない。

 そんなに待ち望むほどの日々ではなかったとしても、普遍的な日常は安心感を与えてくれるものだった。

 寝ぼけてぼーっとした頭を押さえながら、エリカはホームボタンを押し画面を覗きこむ。


 6:08 11月2日(火)


 寝る時もずっと左手にしていた腕時計も、1~2分の誤差はあるが、同じ時間、日にちを示す。

 10月は31日まであるので、文字盤のカレンダーも正確なはずだ。

 さすがにこんなに日にちが経っているのは拙いだろう。

 まさかこんなにも深い森だとは思わなかった。昨日一日歩けば、さすがに道路に出ることができると簡単に考えていた。

 とりあえずコンタクトつける。  

 エリカは鞄に手を伸ばし、ポーチから紫色のカラーコンタクトと保存液をとり出す。

 サッと指先を保存液で清め、ティッシュで軽く拭う。

 コンタクトレンズを入れると、さっきまでぼやけていた視界がくっきりと浮かび上がった。

 ポーチの中にはワンデーの使い捨ての普通のコンタクトも入っているが、いつまで続くかわからない遭難にとっておくことにした。

 太陽はまだ出ていないみたいだ。真っ暗な周りの様子に昨日の夕暮れ時の時間があべこべだったことを思い出す。

 準備完了だ。まずは人里に出ないことには何も解決できない。

 エリカは鞄を引き寄せ、草を敷き詰めた寝床にと広げた荷物をしまう。

 燻っている焚き火に、継木と太い枝の先をくべる。松明にはならないかもしれないが、何もないよりはましだろう。

 エリカはケータイの電源を切り、最後に鞄に入れた。

 時間は6時42分。辺りはまだ夜の闇が支配しているが、そろそろ太陽が昇ってもいい頃だ。

 昨夜の夕方の時間が22時だったことといい、混乱してしまう。

「そろそろいいかな?」

 エリカは炎の中から枝をとり出し焚き火を消す。そうして手にした枝の先には、炎が灯っていた。 

「よし! 川を探しますか。ここはベースキャンプってことにしようかな」

 そう言い、眼前の森の中へ足を踏み入れた。

 肩掛けの鞄をリュックのように背負い、右手に松明を持って獣道を進む。

 暗闇の中でもなんとか歩けるような、なだらかな傾斜のあまりない下り坂がつづいている。

 まだ目覚めない森の中は無音が広がり、エリカの息遣いや足音だけが生者のしるしのように響いていた。

 この静けさなら水音も聞こえるはず。

 耳には自信がある。小さな頃から両親や弟の足音や家の車の音も聞き分けることができたし、今はもう別れた元彼の車の音も付き合っている当時は聞き分けることができた。

 エリカは耳をすましながら、山道の中を進む。

 時々足を休めながらも川を目指し耳を頼りに進んでいく。

 エリカは鬱蒼と茂る木々に隠れた空を見上げ、汗を拭った。

 見上げた空には、地球ではありえない二つの月が浮かんでいたが、木の葉に遮られ気付かない。

 どのくらい進んだだろうか。先程まで闇が満ちていた森に日が差し込む。白んできた空を確認し、エリカは手に持つ松明をおろし火を消した。

「日の出は9時48分かぁ……」腕時計をみて呟く。

 鞄からペットボトルのお茶を出し喉をうるおす。ハロウィンパーティーでもらった飴をひとつ口に放り込み再び歩き始めた。

「水の音だ」

 微かに聞こえてくる水が流れる音を聞き、エリカの足は自然と早まった。 

 流水の音は次第にくっきりとその存在を主張し始める。

 だんだんときっと川であろう水が流れる音が、近づいてくる……。


 ゴーーーッ


「……」

 妙に圧迫感がある力強い音が、聞こえる気がする。だが……気のせいだと信じたいエリカは、アレだって水音には変わりないのだし……だたちょっと水音が大きいだけで……と自分に言い聞かせて、音の方向に足を速める。

 草木の生い茂った林を分け進んでいくと、目の前に続く細くかろうじて歩みを進められるくらいだった獣道は、立派に山道と言えるものに様変わりしていた。

 密集するように生えていた木々は数を減らしていき、やがて姿を消し視界を遮るものはなくなった。

 目の前に開けたその景色に、エリカは目を見張った。

 そこには轟々と流れる2つの川が交わり、そして下方に続く……続くはずの流れは、眼下から消え去っていた。その激しい流れは滝となって、エリカの目からは確かめられない崖下へ続いているのだろう。

 そう。エリカがやっとたどり着いたのは激しい川が滝になり消える崖上、そんな場所だった。

 エリカは水辺を見つけほっとした気持ちと雄大な景色に圧倒され、言葉もなく立ちつくした。

 どのくらいそうしていただろうか。やっとエリカは激しく流れる河川に駆け寄り、鞄からペットボトルを取り出し水を汲み一息で飲み干す。

「生き返った!」

 水を飲んで元気を取り戻したエリカは、木々がまばらに残る山道に引き返し、その入り口から少しずれた所に小枝や枯れ木、草葉を集め寝床や焚き火の準備を始めた。

 ココを第2のベースキャンプに認定し、お昼休憩を決め込む。

 腕時計は12:19。昼休憩にはちょうど良い。

 口に放り込んだチョコがおいしい。ここを拠点にして食糧探索をすればいいかもしれない。少しだけ休憩しようと草を集めたそこに腰をおろす。

「疲れた」

 エリカは集めて来た草を敷き詰めた寝床に、ゴロンと横たわり空を見つめた。

 ぽかぽかと陽気が暖かい。

 はぁーと大きなため息をつき、こんな状況であるのに心の奥では忙しない日々から解放されてほっとしている自分自身がいることに気付いた。


 ――本当にこれはギフトだ。きっと神様が与えてくれた猶予期間。


 ――最近立て込みすぎだったスケジュールの合間に少しだけ落ち着きやっと羽を伸ばして遊び、自分らしさを取り戻したのが先のハロウィンパーティーだった。

 8月から9月にかけて1カ月の相談援助実習が終わり、やっと締め切りの迫るレポート、課題を提出し終わった、そんな時期だった。

 実習の間休みを頂いていた仕事に復帰し、大学の課題や国家試験の勉強をこなしながら日々の仕事に追われていた。正直、忙しさストレスでどうにかなりそうだった。

 それでも国家試験が終わるまで卒業まで来年の3月までだから、と自分に言い聞かせて仕事をこなしていた。

『それで卒業したらどうするの? やっぱり望月さんは、そっちの社会福祉の道に進むの?』今年の4月に行われたエリカの勤め先での面談で、病棟看護師長から問われたエリカは『はい、大学を卒業したら、転職しようと思っています。』と、答える。

 卒業と同時に転職するつもりでいた。それはこの仕事、介護の仕事をすると決めた時から、エリカ自身決めていたことの1つだった。

 6年前、大学を卒業し大手企業で営業を行っていたが、企業の不正がニュースを賑わせ、営業の仕事は難しいものになっていた。

 それでも頑張っている同期はたくさんいたが、エリカは早々に退職し、介護の道に進んだ。

 理由は奉仕の精神とかそんな立派のものではなかった。ただ手に職をつけたい、でも今からまた学校に行くような仕事はできない、そんな理由だったと思う。

 5年たったらケアマネジャーの資格をとって辞める、そう決めていた。

 手に職をつけることで、結婚して子供を産んでもまた働ける、そんな基盤を作りたいと思った。

 基盤があれば人生の保険になる、それを5年で手に入れようと思い決めた仕事だった。そうすれば、基盤を作ったあとはもう少し自由に生きれると思ったから……。

 3年目で介護福祉士を取得し、ケアマネの資格の受験資格を取るまでに2年あったので、通信の大学に4年次編入し、社会福祉士をとろうとして今に至る。

 介護の仕事はそれなりにやりがいもあったが、厳しい仕事のわりには、給与も少なく待遇も悪く、社会的地位も低く、エリカは5年、5年と言い聞かせていた。

 その5年目は実習もあり、多忙を極めていた。

 職場の回復期リハビリテーション病棟での高齢の認知症の患者さんたちとの関わりでも、ストレスがたまりなんとか仕事中だけは、笑顔の仮面を貼り付けていた。休憩中は愚痴しかでない。

 『残念ね、仕事はゆっくり探したら? 1年くらいゆっくり探してもうちょっと働いてほしいな。ソーシャルワークの仕事だったらここでもあるわよ』

『なるべく早く、新しい仕事に慣れたいので……ここでの仕事は本当に勉強になりました。違う環境に身を置いて頑張ってみようと思うんです。3月までよろしくお願いします』

 そうは言ったものの、このまま社会福祉の道に進むかは、まだ決めかねていた。

 これで基盤はなんとかできたと思うから、もう少し自由に生きたい。心からやりたいと思える仕事がしたい、そう考えながら仕事、学校、就職活動に忙殺されていた……。


 ◆ ◆ ◆


 見上げていた空の雲を追いながら物思いに耽っていたが、草を敷き詰めた寝床から起き上り意識を現実に戻す。このギフト――与えられた自由な時間――に感謝しよう。

 今この瞬間は自分らしく自由に生きよう、そう望月エリカは決心した。

読んでくださりありがとうございます。

3月25日、改稿中に3話が消えてしまったので新たに書き直しました。

内容は大きく変わってはいない……はずです。

4月12日、2話から4話までまとめ改稿しました。


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